今年中に世界の貧困がゼロとなることが判明

The Povertistは、途上国の開発と貧困問題の専門誌としてビジョンとミッションを掲げて発信してきましたが、今年中に世界の貧困がゼロになることが判明したので今日でサイト閉鎖します。

本当にそう宣言することができる世界がやってくることを祈って、2016年4月1日のエイプリールフールネタとしたいと思います。今日からから15年。開発途上国の仕事に携わる私たちとしては、節目の4月1日です。

ネタにつられてクリックしてしまった皆様、ご愛嬌ということでお許しください。フォローをやめてしまった皆様、是非フォローしなおしてください。

The Povertistは明日からも引き続き発信していきますので、引き続きよろしくお願いします。

 

参考: 国際機関が「貧困撲滅を達成した」と発表(2014年4月1日エイプリールフール投稿記事)

4月1日早朝、国連貧困撲滅委員会(United Nations Poverty Eradication Committee: UNPEC)が「貧困撲滅が達成された」ことを驚きとともに発表した。同委員会高官はジュネーブでのインタビューで、貧困撲滅が大きく前倒しで実現した理由を次のように語った。

「経済成長と所得再分配に関する政策が想定を上回るスピードで貧困削減を推進した。ただし、それらの要素よりも、我々が行った事業の効果が大きい。」

同委員会は昨年の世界的な好景気に乗じて、金融市場での余剰資産運用によって1,250億ドルの利益を計上した。これを原資として『Cash fro All the Poor (CFAP)』と呼ばれる現金給付プログラムを展開していた。同プログラムは、1.25ドル以下で暮らす世界中の貧困層を対象に均等に現金給付を行うもので、条件などは一切付さない。上述の高官によれば、「このプログラムの効果によって、足元の貧困率は0パーセントになった」と言う。

The Povertistのケニア特派員は現地の様子を次のように伝えた。

「ウフル・パークには、この素晴らしい瞬間を祝うために、1万人の群集が詰め掛けています。ここにいる全ての人々が笑顔で、この瞬間を祝い、未来の繁栄を願っています。」

不都合な真実

同委員会は同時に不都合な真実も伝えた。

「我々は貧困撲滅を受け、120万人の貧困削減専門家の契約を延長しないことを決定した。貧困が無くなった今、専門家を雇用する意義が無くなった。」また、開発学で有名な大学では修士課程のプログラムを閉鎖が相次ぎ、貧困削減分野で有名な研究機関の閉鎖も伝えられた。

貧困削減専門家はこれまで世界の貧困削減に真摯に取り組んできたが、彼らは今皮肉にも新しい職を探さねばならない。若手貧困削減専門家のジョー・クドウは複雑な気持ちを語っている。「貧困の撲滅は僕の小さい頃からの夢でした。ですから、今回の発表には喜ぶべきかもしれません。しかし、僕はこれからどうやって自分の家族を養っていくべきか悩んでいます。」

南からの支援

アフリカや東南アジアのリーダーは、こうした貧困削減専門家の苦難に応えようとしている。途上国の政府高官で構成される使節団は2時間前次のように語った。

「職を失った専門家のために、プールファンドを設置する用意がある。これはこれまで我々の国の人々に尽くしてくれた彼らの努力への恩返しだ。ファンドは明日、彼らの個人口座に退職金を振り込むこととなる。」

同使節団は次のように続けた。

「この退職金は条件付現金給付であり、条件を付ける。受給者はこの条件に見合った結果を示す必要があり、それを満たされなければ今後の支払いは行われないだろう。」

スウェットショップが開発途上国の貧困削減に寄与?

労働者を搾取して生産された衣類を買うことで貧困削減に貢献する?

大手アパレル企業が開発途上国のスウェットショップ(Sweatshop)を通じて利益を上げていると批判される一方、スウェットショップを擁護する人々も多い。スウェットショップとは、劣悪な環境・条件で労働者を働かせ、貧困層を搾取する工場のこと。

2月24日、英国のシンクタンクであるアダム・スミス研究所(The Adam Smith Institute)がスウェットショップを正当化するビデオを公開し、大きな波紋を呼んでいる。ジョアン・ノーバーグ(Johan Norberg)は、「私たちがスウェットショップで作られた衣類を買うことで、開発途上国の貧困削減に寄与することができる」と主張する。

アパレル産業の集積地として注目を集めているバングラデシュやカンボジアで劇的な貧困削減が進んだことを引き合いに、同氏はこの主張を正当化している。一方、投稿された記事のコメント欄には多くの批判が寄せられている。

ディーセント・ワークの推進と取り組みが開発途上国の課題

ジョアン・バーグ氏の主張は、ある意味で正しいが、いくつかの欠陥がある。

たしかに、発展段階を考えたとき、経済の発展を通じて賃金上昇が起こるものであり、開発途上国において低賃金であることは当然のことだ。だからこそ、「現時点で低賃金であることのみを取り上げてスウェットショップを批判するのは妥当ではなく、不買運動をすることで低所得者層を対象とした雇用創出を阻害することになる」という主張はある意味で合理的な回答かもしれない。

しかし、「スウェットショップがカンボジアの貧困削減に貢献した」とする主張にエビデンスはない。コメント欄でThe Povertistの記事も引用されているが、カンボジアの貧困削減に最も寄与したのは、農村部における所得改善であり、アパレル産業が貧困の半減に寄与したとする主張は説得力に欠ける。

何が貧困を半減させたのか?

世界銀行の推計によると、米の価格上昇(24%)、米の生産性上昇(23%)、農村部の賃金上昇(16%)、農業以外の収入(19%)、都市部の賃金上昇(4%)が影響しているとのこと。米の価格は37.1%上昇し、これが農民の収入を向上させ、生産を増加させるモチベーションにつながったとの分析だ。

また、そもそも劣悪な労働環境と契約条件で大きな利益を上げる外国企業を肯定している点にも批判が集まっている。国際労働機関(ILO)が提唱する働きがいのある人間らしい仕事(Decent Work)や持続可能な開発目標(SDGs)の目標8にあるとおり、労働環境の改善はすべての国における喫緊の課題として国際的に合意されている。

貧困層を対象とした雇用の創出だけでなく、労働環境や労働条件の改善も同時に推進することが、開発途上国に課せられた課題であることに疑いの余地はない。


参考記事

国際労働機関(ILO)との契約締結について

敦賀一平は、国際労働機関(International Labour Organization: ILO)と契約締結しましたので、その旨お知らせいたします。

契約期間は2016年4月初旬から1年間となります。ジュネーブ本部、社会的保護局(Social Protection Department)で開発途上国の社会保障制度設計に研究と事業の両面から携わることとなります。

ILOは2016年から21ヶ国の社会保障政策・制度設計の技術協力を展開します。私の役割は、貧困・経済・社会政策分析と各国の制度設計に関する技術協力案件のオペレーション担当となる予定です。貧困層の社会保障プログラムへのアクセス向上が主な狙いで、この中には医療保険、年金、生活保護、セーフティネット等、あらゆる社会政策が所掌に含まれます。また、この分野は、日本が展開しているユニバーサルヘルスカバレッジ、母子保健、教育支援など、幅広い分野と関連する事業となります。

今後、中所得者層が増え貧困に舞い戻らないためのセーフティネットとして社会保障分野の専門家・研究者は今後必要とされる時代が来ます。数少ない日本人専門家として、貢献していきたい所存です。

今回の合意に至るまでご尽力いただきました皆様へは、この場をお借りして厚く御礼申し上げます。

今後とも、ご支援の程宜しくお願い申し上げます。

2016年3月 吉日
敦 賀 一 平

UNDPとJICAの予算と職員数の比較が面白い

予算規模はJICAの方がUNDPより大きい

国連の開発援助の中枢を担っているのが国連開発計画(UNDP)。日本の開発援助を担っているのが国際協力機構(JICA)。ここまでは多くの方がご存知のことだろう。しかし、組織体系や活動がどう異なるのか考えてみたことはあるだろうか。今回は予算と職員数の観点から、多国間援助(マルチ)と二国間援助(バイ)を担う両組織の特性に迫ってみたい。

まずは予算規模。「国連のほうが日本より多額の援助をしている」と漠然と思ってはいないだろうか。実は、年間予算を見ると、JICAが1兆円に対し、UNDPは4,500億円。JICAのほうが2倍以上の予算を運用していることになる。この違いは主に、JICAが資金協力と技術協力を行っているのに対し、UNDPは技術協力のみを実施していることによるものだ。

JICAの事業予算の内訳を見れば一目瞭然で、円借款:技術協力:無償資金協力=7,500億円:1,800億円:1,200億円と、円借款の事業規模が大きく、その大半はインフラ事業へ融資される。円借款は開発途上国への貸付であり、返済が前提となっている。そのため、無償で提供される資金協力や技術協力と比べて、大きな事業規模で支援を行うことができる。これにより、予算規模だけで見れば、JICAの方がUNDPを圧倒しているわけだ。

気を付けたいのは、予算の多少は事業の優劣に直結しないことだ。UNDPが技術協力に注力し、JICAが資金協力を軸に技術協力も併用しているといった特性について、むしろ注目いただきたいところだ。

職員の数はUNDPの方がJICAより多い

職員の数はどうだろうか。JICA:UNDP=1,800人:7,500人と、UNDPの方が多くの職員を抱えている。一方、契約ベースの専門家の数を見ると、9,000人:2,600人と、JICAの方が圧倒的に多い。JICAが少数の職員で事業展開の実施や方向性の決定を行い、各分野のスペシャリストは契約ベースで調達している点に特徴があり、UNDPはスペシャリストまで内部人材として確保している点に特徴がある。

職員一人当たりの予算規模は単純計算で、5.6億円: 0.6億円。私の経験からしても、JICAは新人職員が数十億~数百億円規模の事業管理を担当することも多い。国際機関や開発途上国の政府関係者と面会する際も、相手が自分よりも数十歳上の人であることがほとんどで、新人が大臣室でケニアの保健政策について大臣と直接議論する場面もしばしばある。若手職員の裁量や権限の大きさは、JICAが圧倒的に大きく、多額の予算を扱うことが多い。

予算規模と職員の数の違いから考える得意分野の違い

予算規模の違いは事業の違いにも表れる。インフラ事業の場合、案件あたりの予算額は大きくなる。一方、予算規模の小さい技術協力でも、調整や手続きにかかる業務量は同程度であることが多い。一概には言えないが感覚的には、案件あたりの事業規模を大きくすれば、予算総額は大きくなる一方、案件計画から実施までの「手間」はさほど変わらない。

JICAが少人数で大きな予算規模を運用できているのはインフラ事業を主軸としているためであり、技術協力を増やそうとすればもっと多くの職員が必要となるだろう。

このように、予算規模と職員数からマルチとバイの比較をしてみると、それぞれの強味が見えてくるかもしれない。

※この記事は1月15日に開催された開発フォーラム二瓶直樹氏による発表を参考に、執筆者の見解を加えて再構成しています。内容の責任は執筆者にあります。

国際協力機構(JICA)退団について

敦賀一平は、2016年3月31日付で国際協力機構(JICA)を退団することで合意しましたのでお知らせします。この間、多方面でご指導、ご協力頂いた皆様、キャリアのスタートを切るきっかけを与えてくれたJICAには大変感謝しております。深く御礼申し上げます。

2010年から6年間、JICA職員として開発援助の実務・研究に従事してきました。日本の開発援助の最前線で、ケニア・ソマリア・ナイジェリアを担当したこと、事業の成果や開発課題に関する研究と発信に携わることができたことは、キャリアのスタートとしては十分すぎるほどの経験となりました。

10年、20年後の自分を考えたときに、日本の開発援助を一旦離れることで、一回り大きく成長できるのではないかと考えました。今般の退団についても、多くの方々からご助言をいただきましたこと御礼申し上げます。

今後も引き続き、貧困削減スペシャリストとして開発途上国のためにできることを追求していきたいと考えています。

今後の具体的な活動については、時期を見て発表させていただきますが、今後とも、ご支援の程宜しくお願い申し上げます。

2016年3月吉日
敦 賀 一 平

プノンペンの街角に咲くパラソルの花

風の音。バイクの音。ハサミの音。

午前十時のプノンペン。

太陽がジリジリと照らす路地裏に、申し訳程度に咲くパラソルの花がある。

地元民の生活の源。カンダル市場にほど近いこの場所は、観光客の多い地区にもかかわらず、観光客の立ち寄らない時間と空間がある。

パラソルの花は、カンダル市場から少し離れたお寺の裏にチラホラと咲いている。

パラソルの下をのぞき込むと、笑顔で迎える若者2人。

座って行けと誘う言葉は、英語だった。

5年前にここへ通っていたときは、中年の油まみれのおじさんが1人。

常連と話すときも、外国人と話すときも、片言の英語すら話さない、生粋のプノンペンっ子だった。

あれから月日が流れ、洒落た装いの若者2人が切り盛りするパラソルの花。

時代が変わっても、そこには変わらぬ日影があり、ゆったり流れる時間がある。

先客のカンナム・スタイルのTシャツの男の子が、横のビール箱の上にちょこんと座らされる。

「ごめん」と一言、目で伝え、座席に座る。

注文は特にない。

「思うようにやってくれ」

一言だけ伝える。

バリカンは今も昔も手動で動かすタイプ。なんとも風情があって良い。

5年前のおじさんと違って、この若者2人は英語ができる。

プノンペンの大学で法律を勉強する熱心な学生だった。

授業料を払うために、床屋をやっているそうだ。

なぜ、床屋なのか聞いてみる。

答えは単純。手先が器用で、これなら稼げると思ったそうだ。

若い世代が、自分の手と足でこの国を支えようとしている。

値段を聞かずに1ドル札を渡すと、2,000リエル(0.5ドル)が戻ってきた。

誠実に、懸命に、前へ向かって歩いている。

風の音。バイクの音。ハサミの音。

パラソルの花を見つけたら、立ち寄ってみてはどうだろうか。

この国の明るい未来が、そこにはある気がする。

 

国際協力機構(JICA)本部への完全移籍について

敦賀一平は、2014年6月から国際協力機構(JICA)アメリカ合衆国事務所駐在員として援助協調及び研究事業に従事しておりましたが、今般3月1日をもってJICA本部へ完全移籍することで合意しましたので、その旨お知らせいたします。

JICAアメリカ合衆国事務所スタッフ、在米政府機関、国際機関の皆様には、この間多大なご支援・ご協力を賜りましたこと、深く御礼申し上げます。

今後も引き続き、貧困削減スペシャリストとして開発途上国のためにできることを追求していきたいと考えています。

今後とも、ご支援の程宜しくお願い申し上げます。

2016年3月 吉日
敦 賀 一 平