日本のODAを日本企業に受注させる仕組みが良くわかるグラフ

日本(JICA)のODAの現状がよくわかる資料を見つけたので、備忘録もかねてここで共有させていただきたいと思います。

まず、日本政府のODA実施方針である通称「ODA大綱」が2015年2月に改訂されました。そこで鮮明になったのは、日本の国益も重視するといった方向転換でした(参照:敦賀. 2014. 日本のODA-国益重視へ方向転換.(英語))。

そこで、どうやってそれが実践されているのかを具体的に示すのが今回の資料です。財務省「有償資金協力事業(JICA有償資金協力部門への出資)の概要等①」という資料で、こちらからダウンロードできます(2017年4月30日現在)。

基本的な部分のおさらいですが、日本のODAのほとんどをJICAが実施しており、金額ベースでは円借款の比率が大部分を占めます(詳細は、敦賀. 2016. UNDPとJICAの予算と職員数の比較が面白い.)。そして、円借款とはつまり、開発途上国に対する貸し付けです。お金が返ってくることが前提なので、無償資金協力に比べると大きな額を出すことができるメリットがあります。

さて、本題です。ODA大綱が改訂された翌年度(2015年度)の円借款貸し付け実績が倍増しています。そして、その内訳を見ると、「STEP案件」の急増が貢献していることが良くわかります。STEPとは、本邦技術活用条件(STEP:Special Terms for Economic Partnership)のことです。簡単に言えば、「日本企業に受注させるなら援助しますよ」というスキームで、優遇条件(低金利等)での貸し付けとなります。詳細はJICAホームページにあるのでご覧ください。

受注企業一覧については、JICAが発行している「年次報告書(年報)」からダウンロードできます。2015年前後で比較してみると面白いかもしれませんね。STEPが急増しているので、日本企業の受注が増えているはずです。

中国やインドなど新興国の台頭もあって、日本のODA事業の本体工事を日本企業が受注できていないことが長年の問題でした。一方、自国企業に受注させることを条件とする援助(タイド)に関しては、西側諸国から批判的な目で見られていた状況もあります。

ただ、先進国における経済低迷や国内問題の複雑化などが原因で、西側諸国も有償資金協力をはじめたり、国益を重視する方向に変わってきています(参照:敦賀. 2015. DFIDが新ODA戦略で国益重視へ方針転換.)。

ODAと国益の議論については、様々な意見があると思います。

実施機関で働く現場の人間としては常に途上国の人々のことを第一に考えなければなりません。しかし、国際政治は国益と国益のぶつかり合いなので、こうした現実的な大局を把握しておくことが大切だと感じます。

蛇足:ちなみに、途上国の人々よりも別の事を第一に考える方もいても、それはそれで良いと思います。ただ、ODAや国連といった枠組みで働くよりも、民間や他の枠組みで働く方が良いのではないかと感じます。ここでは深入りしませんが、開発資金に占めるODAの額は相対的に下がっており、民間資金が開発途上国の発展に寄与する度合いが大きくなってきています。そういう意味でも、イデオロギーが合わない中で、ODAの枠組みにこだわって仕事をする必要はない時代だと感じる次第です。