今、戦場に立っている

この記事はThe Povertistに投稿されたものです。

今、戦場に立っている。

戦の狼煙があがれば、政府、労働者、使用者が四方八方から一気に攻め込む。国際労働機関(ILO)は政策論争と政治の駆け引きが入り乱れる戦場のど真ん中に陣を構える。その役割は喧嘩の仲裁ではなく、全員が勝つための戦略を一緒に練ること。

開発援助というと異次元の話と捉える人が多い。私もそうだった。国際協力機構(JICA)で開発援助に携わった6年間。あくまでも部外者として開発途上国の政府を支援する立場。農民や受益者に想いを巡らせることはあれど、最終的には政府と仕事をする。

ILOは部外者であることに変わりはないものの、政府、労働者、使用者と仕事をする。たとえば、私が携わる社会保障政策。保険料は政府だけではなく、労働者や使用者も支払う。国民生活に直結する政策。そのため、重要政策の議論をする場合は、政府、労働組合、経済界の会合で3回同じプレゼンを行うことが多い。生活や利益に直結する政策が多いことから、立場の異なる意見や罵声に近いコメントがいつも寄せられる。国際会議にありがちな雲をつかむような議論はそこにはない。

戦場のど真ん中に立っている。

2019年4月に大統領選を控えるインドネシアでは、雇用保険制度の新設が選挙の争点となっている。ベトナムでは公的年金制度改革が進んでおり、国民皆年金へ向けた政策議論が展開されている。ILOは政労使と政策協議を重ね、制度設計だけでなく妥協点の模索も行う。新しい制度ができればすべての人が負担を被り、すべての人が利益を得る。見たこともない、聞いたこともない新しい制度を作るために、喧々諤々の議論が飛び交う国内政治のど真ん中に居座っている。

地域事務所のプロジェクトマネージャーとしての仕事はやりがいに満ちている。平穏で休暇中心だったジュネーブの生活に比べ、東南アジアの一日は長い。それでいて、時計の針は2倍も3倍も速く回っている。ILOアジア太平洋地域総局に異動して以来、バンコク、ハノイ、ジャカルタでノマドライフを送る日々。バンコクの自宅へ帰るたびにアパートの何階で降りるべきか思い出すまでに時間がかかる。もはや拠点がどこかわからない。私の拠点は、戦場のど真ん中。そういうことなのだろう。