社会保障 × ICT で開発途上国の貧困問題に立ち向かう

一見すると、ICTと社会保障は無縁のように思うかもしれません。しかし、開発途上国で社会保障制度を運用するために、ICTは欠かせないツールとなっています。

西洋のYesと日本のYesの違い

開発途上国の援助を生業としていると、否が応でも世界中のプロフェッショナルと仕事をともにすることとなる。その中で日々感じることは、西洋のYesと日本のYesはずいぶん異なるということだ。もちろん一概に西洋とひとくくりにするのは乱暴ではあるが、あくまで私が経験してきた中で感じた「平均」の話である。 さらに読む

前回の記事

公共財政管理の3つの柱

前回の記事で、「公共財政管理(Public Finance Management: PFM)が開発途上国を変える」と書いた。ここでは、公共財政管理のポイントをご紹介したい。公共財政管理とは、公共部門の財政計画、予算編成、予算執行、経理・調達、会計報告、監査の一連の流れを管理すること。

公共財政管理には3つの柱(財政規律、資源の戦略的配分、効率的なサービスデリバリー)があり、各ステージで適切な管理を実現できるかがポイントとなる。

財政規律

実力以上の歳入を求めると歳入計画が甘くなり、財政支出が膨らむ。結果的に財政赤字が発生することとなる。例えば、一時的な資源価格の上昇によって、中期的な歳入計画を見誤ってはいけないということだ。また、選挙間近に人気取りのために補正予算を連発するようなことがあれば、財政規律が保たれているとは言えないだろう。

資源の戦略的配分

開発途上国では、少ない元手をいかに効率的に投資するかが重要となる。つまり、中長期的な開発計画に基づいた資源の戦略的配分が重要なポイントとなる。こうした認識を共有する国においては、中期支出枠組み(Medium-Term Expenditure Framework: MTEF)と呼ばれる中期計画を策定しているところもある。MTEFで決められた重点分野へ予算が重点的に配分されているかモニタリングすることが大切だ。

効率的なサービスデリバリー

経理・調達は適切かつ迅速に進んでいるか。効率的に運用されていないとすれば、どこに原因があるか。

公共財政管理の流れを把握するための7つのポイント

公共財政管理のコンセプトである三本柱をご紹介したが、実務家にとっては実務の流れを把握することはより重要となる。具体的には次の流れを把握しておきたい。

予算編成プロセス

まず、予算編成のプロセスを把握する必要がある。担当する国の会計年度は、何月から何月だろうか。また、内閣、議会、省庁、実施機関の予算策定に関する作業日程はどのようになっているだろうか。最終的に予算が確定し、実施機関へ予算配賦されるのはいつだろうか。1年の大まかな流れを把握しておきたい。

予算編成の作業日程

大枠を把握したら、もう少し細かくスケジュールを確認しておきたい。次年度予算の検討を開始してから議会の承認まで、だいたい8ヶ月程度を要するところが多いようだ。当然、予算編成の作業日程は国ごとで異なるため、以下の日程はあくまで参考として考えてほしい。

マクロ経済状況を分析。今後の経済状況の予測を行い、歳入の予測を行う。それに基づき、各セクターで使うことができる予算の上限を内閣が承認する。その後、各省庁で予算計画を作成し、概算要求に基づいて財務省が査定を行う。最終的には議会が承認することで、次年度予算が確定することとなる。

  • 8ヶ月前 マクロ経済枠組み策定
  • 7ヶ月前 セクター別予算上限確定、内閣が予算方針とシーリングの承認
  • 6ヶ月前 予算編成開始
  • 5ヶ月前 執行省庁 概算要求提出
  • 4ヶ月前 財務省による査定
  • 2ヶ月前 政府予算化案策定 議会へ提出
  • 0ヶ月前 予算が議会で承認

予算編成手法

予算編成のアプローチは大きく分けて2通りある。インプット・コントロールは、予算を項目ごとに積み上げで合計を予算計上する手法で、日本が採用している。歳出項目を積算することから項目予算とも呼ばれる。一方、アウトプットコントロールは、成果に応じて予算配賦するアプローチで、アメリカが採用している。業績予算とも呼ばれる。

中期支出枠組み(Medium-Term Expenditure Framework: MTEF)

国家開発計画の中期的な支出計画。3~5年ごとに進捗や予算執行状況を見直すことで、国家戦略に基づいた事業展開がされているかモニタリングすることを目的としている。内部・外部環境によってマクロ経済や歳入は常に変動するため、多年度にわたる中期的な見通しを立てたうえで見直していくことが重要。また、行き当たりばったりの予算計画ではなく、国家戦略に基づく予算配賦がなされているかを確認する目安ともなる。ただし、単年度予算の策定を代替するものではなく、あくまで目安。各年度の予算はMTEFの有無にかかわらず議会承認を必要とするのが一般的。

国庫管理(Treasury)

国庫管理は、現預金の管理(政府公金口座の管理)、資金配賦、債務管理からなる実際のお金の管理のこと。

予算執行サイクル

歳出権限、支出権限、支出負担行為、債務認識、支出など、予算執行の一連の流れを把握することが重要。個別案件の実施に際し、予算の未達が原因で事業が滞る場合は、どこで予算執行サイクルが目詰まりを起こしているのかを検証する必要がある。

監査

コンプライアンス監査、財務監査、業績監査など。内部監査と外部監査がそれぞれ牽制機能を果たしているか確認したい。

公共財政管理の実務への応用

PFMの視点は、大きく2つある。プロジェクト実施中のリスクにどう対処すべきか。実施中の案件のボトルネック(阻害要因)のうち、PFMが原因となっているものがないか確認する。この2点に合致する場合、予算計画から執行までの一連の流れの中で、どこで目詰まりを起こしているのかを検討する必要がある。

PFMのサイクルにおいて、問題の所在はどこにあり、どのような対処が可能なのかを考えることが重要。開発途上国政府のサイクルの中で、プロジェクトの業務フローがどこに位置付けられるか考えることが、問題解決の第一歩となる。

また、各国の弱みを把握するための便利なツールがある。世界銀行が開発したPFM診断ツール(Public Expenditure and Financial Accountability: PEFA)を使えば、国ごとのスコアを見ることができる。公共財政管理のサイクル項目ごとにスコア付けされており、ボトルネックがよくわかる。サイクルのどの部分で目詰まりを起こしやすいか、クセをあらかじめ把握しておくために効果的だ。

JICAの技術協力プロジェクトでは、全国展開の前に小規模なパイロット事業を行うことが多い。PDCAサイクル(Plan-Do-Check-Act)を通じて、問題の所在の確認と改善を繰り返すことで、目詰まりの起きない事業モデルが完成する。こうした地道な確認作業を経て、全国展開することが多い。

パイロット事業がうまく回るかPDCAサイクルで試行錯誤しながらモデルを作り上げる作業は、公共財政管理の実務への応用として良い例だろう。

※この記事は、2月10日に開催されたワシントンDC開発フォーラムで議論された内容をまとめたもので、文責は著者にあります。

ワシントンDC開発フォーラム

開発途上国の援助に携わる日本人関係者からよく聞く「ボヤキ」がある。「途上国政府が予算を確保すると約束したのに、パイロット案件が終わる頃になって予算がないと言われた。」小規模にテストケースとして実施していた事業が終わり、「よし、これから全国展開」というときに、開発途上国政府が予算を確保していない。こんな経験はないだろうか。梯子を外されたと怒る職員や専門家を幾度となく目にしてきた。

立ち止まって考えてほしい。公共財政管理を頭の隅において事業を実施してきたか?開発途上国の予算年度を意識した事業計画を行ってきたか?予算が確保されない原因を調査したか?

例えば、農業分野の取り組みは農業省をカウンターパートとしてやっていればよかった。しかし、公共財政管理を考慮せずに案件計画を行うと、プロジェクトの持続性が担保されない冒頭の状況に直面することとなる。

開発途上国の政府にとっては、農業へ投資をするか、教育へ投資をするかは、財源をどちらへ振り向けることが効果的なのかが焦点となる。一方、パイロット案件の専門家は、自分の案件を第一に考える。ここに意識のズレがある。担当案件をスケールアップして欲しいことはよくわかるが、政府にとっては他のセクターや案件との横並びで予算配分を考えることが重要なのは言うまでもない。

今、公共財政管理(Public Financial Management: PFM)に注目が集まっている。開発途上国の援助のプロフェッショナルには、公共部門全体を俯瞰し、財政計画から会計報告までの流れを大まかに把握しておくことが求められている。それぞれの開発途上国の公共部門に合わせた予算規模と業務フローで事業を計画し、実施・モニタリングしていくことの重要性が認識されつつある。

次回は、2月10日に開催されたワシントンDC開発フォーラムで議論された公共財政管理のポイントを振り返ることとしたい。

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