USAIDだけではない、国際機関へのアメリカの影響

TBSラジオの「週刊ワシントン」エピソード73「USAIDの解体」で、国際協力機構(JICA)田中所長がゲスト出演した内容に刺激を受け、国際機関の現場から見たアメリカ政府の対外援助政策変更の影響について考察したい。

私は2014年5月から2016年3月まで、JICAアメリカ事務所に勤務していた。当時はオバマ政権末期で、ヒラリー・クリントンとドナルド・トランプが大統領選挙を戦っていた時期である。主な業務は国際機関対応、同僚との連携によるモニタリング、そしてアメリカ政府との窓口業務だった。国務省やUSAIDとも密接に連携して業務を行っていた。

今回、共和党政権が国際援助に後ろ向きな姿勢を取ることは予想できていたが、USAIDがほぼ解体され、その機能の大部分が国務省に吸収されるという事態は、昨年末に現実的には受け止められていなかった。日本で例えるなら、JICAが外務省に統合されるようなものである。

USAIDとJICAの状況の違いについては、先述のTBSポッドキャストで田中所長が詳しく説明しているため、そちらを参照していただきたい。今回は、アメリカ政府のこうした対応が国際機関にどのような影響を与えているかを、現場から見える範囲で述べたい。

なお、USAIDの支援方式は、相手国政府に資金を提供してその国が事業を発注するのではなく、NGOや現地の市民社会組織に直接資金を提供して事業運営させるパターンが多い。そのため、USAIDが契約している国際協力団体に突然資金が支払われなくなり、契約は存在するが振り込みが停止される事態が発生している。これにより資金繰りが悪化し、職員が解雇される状況が生まれている。

こうした団体は黒字であっても倒産するという事態に直面している。キャッシュフローの問題による黒字倒産があちこちで発生しているのだ。アメリカ国内では、USAIDが訴えられて支払い要求や裁判が起きているが、現地の国際協力団体にとっては現実的な解決策にはならない。資金繰りが悪化した時点で、ほぼ倒産企業と同じ状況になるからだ。

アメリカ政府が対外援助を削減すると発表した際、USAID関連の報道ばかりが注目されたが、国際機関への拠出金にも大きな影響が出ている。国際労働機関(International Labour Organization: ILO)の場合、予算の約20%がアメリカから拠出されており、アメリカ政府が直接事業内容を指定して追加拠出している資金もある。

他の国際機関と比較すると、ILOのアメリカ資金への依存度はそれほど高くない。これは、アメリカが主に人道支援に資金を集中している一方で、ILOの強みは人道支援以外の分野にあるためである。それでも、20%の予算削減は深刻な問題だ。単純計算すれば、全世界で現地スタッフとインターナショナルスタッフ合わせて約1500人のうち、300人程度が影響を受けることになる。

実際に、アメリカ政府の決定により突然中止されたプロジェクトが数多く存在する。ILOの場合は、国務省と労働省の拠出金による事業が多くあった。

国際機関の場合、USAIDの事業実施団体のケースとは異なり、国内法に基づいて裁判所に訴えることがほとんどできないため、資金が支払われなければそれで終了となることが多い。政権が変わって再び支払われるようになる可能性はあるが、一度資金繰りの影響で事業が停止すれば、再開は困難である。事業は完全に黒字倒産し、スタッフは即日解雇という状況になる。

実際に、すでにILOでも解雇された職員が多数存在する。アメリカが突然、全世界の国際機関に対して事業資金の使用を禁止し、事業を中止するよう指示を出したためである。現場では、スタッフへ給料を支払う現金がなくなり、継続雇用ができずに即時解雇、人員削減を続けるしかない状況だ。

この影響により、国際機関ではジュネーブからの撤退や、より安価な国へのスタッフの転出といった話も出ている。ILOに関しては、国際機関では珍しく労働組合が存在する。他の国際機関にも職員団体があるかもしれないが、それらは団体であり、組合ではない。団体交渉やストライキはできない。私は参加していないが、ILOの職員組合には多くの職員が加入していて、抜本的な改革やリストラに対する反対が予想される。

本部移転となると、すでに家を購入して定住を考えている職員や、ジュネーブの学校に子どもを通わせている職員など、安定したポジションでジュネーブでの生活を前提としている人々の人生が狂ってしまう。組合としても、こうした抜本的で構造的なILO改革には反対していくと思われる。そのため、ILOの改革やリストラを含む改革は、他の機関と比較してかなり遅れる可能性がある。


※この記事は、AIが筆者のポッドキャストを文字起こし・執筆し、筆者が編集したものです。