英インディペンデント紙

によれば、スイスが月額2,500フラン(約30万円)の給付を全国民(成人)に対して行うことを検討していると報じた。

ベーシック・インカム(Basic Income)と呼ばれる社会保障制度の一環で、老若男女、働いているか否かを問わず、全国民に最低限の所得を補償するものだ。

フィンランドが同様の制度の導入を検討していると報じられたが、実際に国民投票を実施するのはスイスが初となる。2016年6月に実施される国民投票には世界中の注目が集まる。

また、成人に対するベーシック・インカムとは別に、子供一人当たり月額625フラン(約7万円)の子供給付制度の導入も検討されているようだ。

予算規模は年間2,080億スイスフラン(約25兆円)で、税金のほか、社会保険(Social Insurance)や公的扶助(Social Assistance)に充てられている予算を組み替えて捻出される見込み。

ヨーロッパ諸国でベーシック・インカムの検討が進んでおり、どの程度成果が表れるか、注目が集まる。これから社会保障制度整備をはじめる開発途上国にとって、新しい先例ができることになるかもしれない。

GLOBAL GO TO THINK TANK INDEX REPORTS

ペンシルベニア大学が毎年発表している世界のシンクタンクランキングが今年も発表された(GLOBAL GO TO THINK TANK INDEX REPORTS)。総合ランキングのトップはブルッキングス研究所で、国際開発分野のトップも同研究所だった。

注目すべきは、韓国開発研究院(KDI)の躍進だ。昨年は13位だったが、今年はチャタムハウスに次ぐ3位の大躍進を遂げた。アメリカの戦略国際問題研究所(CSIS)、イギリスの海外開発研究所(ODI)、開発学研究所(IDS)を差し置いての上位入選は注目に値するだろう。

アジア勢では、中国社会科学院(CASS)が26位、インドの研究機関が続いた。日本の研究機関は、JICA研究所の48位にとどまった。

 

総合ランキング

  1. ブルッキングス研究所(Brookings Institutions: US)
  2. チャタムハウス(Chatham House: UK)
  3. カーネギー国際平和財団(Carnegie Endowment for International Peace: US)
  4. 戦略国際問題研究所(Center for Strategic and International Studies: US)
  5. ブリューゲル研究所(Bruegel: Belgium)

国際開発ランキング

  1. ブルッキングス研究所(Brookings Institutions: US)
  2. チャタムハウス(Chatham House: UK)
  3. 韓国開発研究院(Korea Development Institute: Korea)
  4. ウィルソンセンター(Woodrow Wilson International Center for Scholars: US)
  5. ハーバード大学国際開発センター(Center for International Development: US)

 

※記事執筆時点で、ペンシルベニア大学の公式ページには報告書が掲載されておらず、外部ソースから一部引用している。正確な情報は、同大学の公式ページへアップロードされるのを待っていただきたい。

記事

プロジェクトリーダーを務めたハフェズ・ガネム世銀副総裁は、「中東情勢の議論が政治問題に終始し、経済的観点から分析・議論が行われることは少なかった」と語った。

前回の記事に続き、ブルッキングス研究所と国際協力機構(JICA)が行ったアラブの春に関するパネルディスカッションを振り返りたい。

プロジェクトリーダーを務めたハフェズ・ガネム世銀副総裁は、「中東情勢の議論が政治問題に終始し、経済的観点から分析・議論が行われることは少なかった」と語った。こうした背景を踏まえれば、今回の書籍が経済分析に重きを置いたことは、画期的な取り組みであり、大きな付加価値を生んだといえる。ここではガネム氏の分析をもとに、要点をまとめる。

経済成長が順調でも人々の不満が爆発した理由とは?

ガネム氏によれば、経済成長の恩恵を多くの人が受け取っていなかったことが大きな理由のようだ。

アラブの春以前、中東・北アフリカ諸国の経済成長は順調だった。過去20年間で経済は順調に右肩上がり。しかし、他の地域に比べて、人々の日常生活に対する満足度はとても低い傾向にあった。汚職やガバナンスの問題が影響したと考えることもできる。しかし、直接の原因はただ一つの問いに集約できるだろう。

「経済成長で誰が得をしたのか?」

チュニジアのケースを考えてみよう。国民の満足度を調べた調査結果がある。「不満」と答えた人の大多数が、「経済成長が不十分」という理由をあげた。なぜだろうか。チュニジア経済は順風満帆だったはず。

ガネム氏の仮説は、「多くの人々が経済成長の恩恵を受けていなかったため」というもの。つまり、経済成長は順調だったが、インクルーシブ成長ではなかったというわけだ。

経済成長の恩恵を受けていなかったのは誰?

では、誰が成長の恩恵を受けなかったのだろうか。チュニジアのケースでは、若年層、女性、小規模農家だ。

若年層の失業問題はどうだろうか。チュニジアの場合は、他の地域と比べても低水準だったが、若年女性の失業率は高かった。また、若年男性についても、雇用されていたが、不安定なインフォーマルセクターでの雇用が多くを占めていた。

貧困指標からも富の分配に差がある状況が伺える。アラブ諸国の貧困率を地域別にみてみると、農村部の数値が都市部よりもはるかに高い。

中東地域での開発アプローチのあり方

国際社会は、中東地域での開発協力をどのように考えるべきだろうか。まず、長期的視点でインクルーシブ成長と社会正義を考え、中東地域の安定に貢献することを忘れてはならない。紛争問題や秩序回復は、経済的な視点なしには達成できない課題だ。

また、パネリストからは、「実施(Implementation)」が次の課題となるという声が上がった。制度や政策づくりで方針が明確になることは結構なことだが、実施機関がついてこなければ何も実現しない。地に足の着いた事業展開を実現するための組織づくり、能力強化が不可欠となるだろう。

さらに、農村開発と不平等の問題を本書が指摘している点も重要なポイントだ。右肩上がりのマクロ経済指標のみに注目すると、順風満帆と勘違いしてしまう。遅れがちな農村開発や、成長によって悪化してしまった不平等の問題へ目を向けることこそが、アラブの春の不満が爆発した原因と向き合うこととなる。

今回の研究プロジェクトのメッセージは、政治や安全保障の観点からのみ中東情勢を分析することは不十分であり、経済のダイナミックスや要因を分析し、抜本的な公共セクター改革を通じて長期的に達成する必要があることを示しているのかもしれない。

開催

中東・北アフリカで起こったアラブの春に関するパネルディスカッションが、1月15日に開催された。ブルッキングス研究所と国際協力機構(JICA)が行った共同研究「The Arab Spring Five Years Later」の成果発表を兼ねたイベントで、ハフェズ・ガネム世銀副総裁、シャンタ・デバラジャン世銀チーフエコノミスト、山中JICA中東欧州部長など有識者が登壇し、200名以上を集める大盛況となった。ここではJICAの支援方針に関する議論の一部を振り返りたい。

研究成果をJICA事業へ活用-4つの優先分野とは?

山中氏は共同研究の価値を「開発課題を政治・経済の両面から検証し、実務的なアプローチを提案している点」と説明した。今回のプロジェクトでは研究者と実務家の垣根を超え議論を重ね、実務家が主体となって成し遂げたものだ。そういったプロセスを経ることで、研究成果はJICAの支援に直接反映することができるといった趣旨だ。

研究成果を踏まえて、山中氏はJICAが取り組む4つの優先課題を示した。

公共セクター改革

経済・社会システムの整っていない開発途上国では政府の役割が重要となる。開発途上国の限られたリソースを有効活用し、インクルーシブ成長を達成するための制度・組織改革を支援する。

中小企業のためのビジネス環境整備

ビジネス環境の整っていない開発途上国では、市場だけでなく経済活動に関する包括的な行政システムや法司法整備が不可欠だ。アラブ諸国の経済は、巨大なインフォーマルセクターが担っており、国民のほとんどがインフォーマルセクターで生計を立てている。インフォーマルセクターの担い手は中小企業が主体となっていることから、中小企業のビジネス活動を活性化させるような政策が望まれる。そうすることで、雇用を創出し、膨大な若年労働者を吸収することができるようになる。

農村開発と小農支援

都市部と農村部の所得格差が顕在化している中、農村開発を支援する妥当性は高い。灌漑や農業技術革新を支援することで、農村開発を包括的に推進することは重要な要素となる。

教育の質向上

初等教育へのアクセスは比較的高い数値を示しているが、最大の課題は教育の質にある。質の高い教育を提供することで、中長期的には労働市場へ優秀な人材を供給することが可能となる。教育政策やガイドラインの改革を通じて支援する。

前回

本部を小さく地域局を大きく

前回は開発援助の潮流を国連機関への拠出金を通じて考えてみました。では、具体的には拠出金の変動がどのように国連機関へ影響を与えているのでしょうか。

国連開発計画(UNDP)は数ある国連機関の中でも名実ともに中心的な存在です。コア予算の削減傾向はUNDPに関しても例外ではなく、組織改革を迫ることとなりました。

2014年に実施された改革では大規模な配置転換によって、結果的に大幅な人員削減が行われました。元々、UNDPは7,500名の職員を抱え、6割がニューヨーク本部、4割が地域局に配置されていました。今回の改革ではこの割合が6:4から4:6へ変更されました。

国連職員の給与体系と懐事情は?

この変更の意味を理解するためには、国連の給与体系を理解する必要があります。

国連職員の給与は、大雑把に言うと基本給+地域調整給から成り立っています。基本給が全世界同じ基準(職位によって変動)で運用されるのに対し、地域調整給は主に勤務地の物価によって変動する手当のことです。

ニューヨークは物価が非常に高いため、地域調整給も高額となります。つまり、ニューヨーク本部勤務の職員数を減らし、開発途上国へ多くの人員を配置することで地域調整給の予算を削減することができます。これが今回の配置転換の裏にあるカラクリのようです。

怪我の功名なるか、人件費を切り詰めて現場主義へ?

UNDPには5つの地域局(所在地はアンマン、イスタンブール、バンコク、パナマ、アジスアベバ)があり、中東、欧州、アジア、中南米、アフリカを管轄しています。地域局の下には各国の事務所があり、地域局と一丸となって支援を展開する体制です。

今回の組織改革では、現場により近い地域局の人員強化が行われた形となりました。「予算の制約から改革やむなし」という側面はあったものの、現場主義に大きく一歩前進したことは支援展開にとってプラスに働く要素かもしれません。

突然の改革に戸惑うスタッフも?

最後に、UNDPで勤務してきた職員の立場に立って少し考えてみたいと思います。

ニューヨーク本部勤務者の中には、ニューヨークで自宅を購入し、子育て、人生設計をしている人も少なくありません。人事異動で開発途上国へ引っ越さねばならない状況は、当然、人生設計を大きく変更せざるを得ない状況を生みます。

日本国内の人事異動ならまだしも、生活環境・衛生状況の良くない開発途上国への人事異動となれば全く別次元の人生設計の変更となります。子供の教育についても、ニューヨークで進学を検討していたのに、教育水準の低い開発途上国での教育を検討しなければならないとなれば、子供の将来へも暗雲が立ち込めるかもしれません。

また、ニューヨーク近郊の住居費や生活費は日本人の想像を絶するほど高く(アパート一室の家賃20~30万円/月程度はザラ)、ローンで住居を購入している職員にとっては地域調整給の低い開発途上国への転勤はローンを支払えない状況に陥るリスクをはらんでいます。

「ハイエンドの暮らしを謳歌していたのだから文句を言うな」という声もありそうですが、組織の事情で人生計画を大きく変更しなければならない状況は万人共通の悩みかもしれません。現実的な問題として、家庭の事情でニューヨークに残らなければならない職員は、今回の組織改革で退職せざるを得ない状況となったことでしょう。

このように、先進国経済の停滞が国連機関への拠出金を減らし、国連機関は予算の制約から人員配置転換を行わざるを得なくなり、職員の人生設計までも影響をあたえる。そういった状況が世界の援助潮流の荒波の中、目まぐるしく動いていると感じます。

※この記事は1月15日に開催された開発フォーラム二瓶直樹氏による発表を参考に、執筆者の見解を加えて再構成しています。内容の責任は執筆者にあります。

The Arab Spring Five Years Later

中東・北アフリカで起こったアラブの春から5年。1月15日、ブルッキングス研究所と国際協力機構(JICA)がアラブの春に関する書籍「The Arab Spring Five Years Later」を発表した。書籍は、5年前のアラブの春から何を学び、どのような開発課題があったか整理し、中東諸国がどこへ向かうべきかを検証する構成となっている。

今回発表された書籍の大きな特徴の一つは、中東諸国が抱える問題やアラブの春の原因を経済的側面から分析した点だ。中東を取り巻く環境は今なお混沌を極めているが、話題の中心は常に政治や紛争に関することばかりだった。問題の根源には経済・社会構造があり、問題の根底にある開発課題を一つずつ解決しなければならない。シンプルだが、地に足の着いた議論が展開されていて面白い。

もう一つの特徴は、執筆者のほとんどを実務家が占めていることかもしれない。それゆえ、取り組むべき分野に対し、実務的な政策提言が導き出されている。研究者が主体となって執筆された書籍や論文の多くが、実務家にとって当たり前のことだったり、政策決定の役に立たないものだったりする感覚を覚えたことはないだろうか。本書は、実務家が実務の視点から問題のとっかかりを見つけ、研究者のアドバイスのもとで分析を行っている点が興味深い。

今なお混沌とする中東情勢の引き金となったアラブの春。そうした時流もあいまって、多くの人々の関心を集める一冊となりそうだ。

※本書は2部構成で、第1部が編集長による全体総括の位置づけとなっている。

開発フォーラム

開発援助のアクターが多様化しています。国連はこれまでもこれからも開発援助の主要なアクターであり続けると考えられるものの、その役割は変わりつつあるのかもしれません。今回はUNDPの組織改革や国連予算から開発援助の潮流を紐解いてみたいと思います。

コア予算とノンコア予算とは?

国連開発計画(UNDP)などの国連機関の予算の大部分は、OECD-DAC諸国(先進国)からの拠出金によって賄われています。拠出金はコア予算(別名:コア基金、通常予算)とノンコア予算に分類されます。

コア予算とは、ドナー諸国から使途を特定されずUNDPが自由に使うことのできる予算です。職員給与、在外事務所運営費、基幹プロジェクト経費など、組織運営に不可欠な予算がここから支出されます。ノンコア予算は、特定のプロジェクトに使われることを前提としてドナー諸国が拠出する予算のことです。UNDPが使途を自由に決めることのできない予算であり、コア予算をより多く確保することが、独自性・中立性を担保する上で重要とされています。

国連予算は先進国の国内問題?

しかし、国連機関が直面している昨今の課題は、コア予算が減少傾向にあることです。なぜこのような状況が生まれたのでしょうか。拠出金を負担するドナー諸国にとって頭の痛い問題は、国連へ多額の税金を投入することによる見返りが見えにくいことです。コア予算は一旦拠出してしまうと、他ドナーの予算と「混ぜこぜ」にされてしまうため、せっかく拠出しているのに自国のプレゼンスが見えにくい問題が指摘されています。先進国経済が停滞する中、厳しい国民生活をよそに国連機関へ拠出する意義はどこにあるのか。税金の使途に関する国民の視線が年々厳しさを増しています。こうした先進国の国内事情から、国民への説明責任を果たしにくい(拠出することの正当性を明確に示しにくい)コア予算は敬遠される傾向にあるのが現状です。

他方で、国際社会は対GDP比0.7%の政府開発援助(ODA)を先進国へ求めています。当然、世界のリーダーであり続けたい先進国はこの期待を無視することはできません。国際社会の要請と納税者の厳しい視線の中、先進国政府が下した苦渋の決断は、次の2点でした。

  • コア予算は減らすこと。
  • ノンコア予算を増やし、拠出金の水準は維持すること。

つまり、拠出金の割合をノンコア予算へ多く振り分けることで、「国連が実施する日本のプロジェクト」と説明しやすくし、国際社会における責任を継続して担っていくこととしたのです。

コア予算とノンコア予算。マニアックな用語に聞こえるかもしれませんが、世界の開発援助の潮流を直に感じることができる生々しい現状がそこにあります。


※この記事は1月15日に開催された開発フォーラム二瓶直樹氏による発表を参考に、執筆者の見解を加えて再構成したものです。

ポバティスト英語版

にセーブ・ザ・チルドレンからの寄稿記事を掲載しましたのでお知らせします。

セーブ・ザ・チルドレンは本日、子供の貧困(Child Poverty)に関するフラッグシップレポートを発表しました。2030年の持続可能な開発目標(SDGs)へ向けて、子供の貧困は今すぐ取り組まなければならない喫緊の課題とされています。

今回のレポートでは子供の貧困の定義や計測方法から始まり、原因と解決方法などに迫る構成となっています。

特筆すべきは、全世界のネットワークを活用して実施された子供へのインタビューが掲載されていることかもしれません。国際NGOならではのレポートに仕上がっており、開発援助関係者にとっては有益な情報が含まれていると思います。

貧困削減、教育、保健、社会保障など、さまざまな分野における示唆が含まれているようですので、ご一読ください。

参考記事

セーブ・ザ・チルドレンとの連携について

ポバティストは、セーブ・ザ・チルドレン(Save the Children)の情報発信に協力していくこととしましたのでお知らせします。