外部メディアに掲載された記事の一覧です。

インドネシア労働省に呼び出しを受けた話

金曜日。労働省から来週の面談依頼が入った。社会保障を管轄する局長からの連絡で、国際労働機関(International Labour Organization:ILO)の雇用保険改革に関する分析と提言について聞きたいとのことだった。 さらに読む

急速な高齢化に直面するインドネシア―年金制度改革の課題と展望

インドネシアの人口は現在2億7,000万人。今後30年で3億3,000万人まで増加する見込みだ。労働年齢人口は1億5,000万から1億7,000万人ほどで、政府は「人口ボーナス」を経済成長の機会と捉えている。 さらに読む

産休制度改正によるインドネシアの日系企業への影響について解説

インドネシアで女性と子供の福祉に関する新しい法案(通称KAI法)が可決されただ。この法案は2、3年前に国会に提出されたもので、女性省を中心に関係省庁や労使団体とのパブリックコンサルテーションを重ねてきた。 さらに読む

インドネシアの社会保障改革が実施機関に与える影響

私はインドネシアにおける社会保険制度の実施について学ぶため、BPJS雇用(BPJS-TK)事務所のひとつを訪問した。BPJS-TKには様々な機能を持つオフィスがある。このオフィスは第一種事務所で、本社に次いで大きな支店である。このオフィスには約30人のスタッフがおり、そのうち20人がメンバーシップ課で、10人がサービス課で働いている。サービス課のスタッフは2つのグループに分かれており、3人の職員がフロントエンドサービスを提供し、残りはバックオフィス業務を行う。 さらに読む

ジャカルタのタクシー運転手に社会保障を

ブルーバードタクシーはジャカルタで最も信頼され、最も有名な最大手のタクシー会社だ。何百万台と走るブルーバードタクシーを避けることはできず、ジャカルタを訪れた外国人は必ず一度はブルーバードに乗るはずだ。国際機関や現地事務所としてジャカルタに駐在している私たちの間でもブルーバードは日常的な乗り物になっていて、街中を少し移動する時は必ずタクシーに乗る。

しかし、意外にも私たちはブルーバードタクシーの運転手がどういう契約でブルーバードのタクシーを運転しているのかということを知らない。そこで、私は英語を話すことができるドライバーと出会った時には雇用環境などを聞くことにしている。今日の会合の帰りに乗ったタクシーの運転手は2017年からブルーバードのタクシーを運転し始め、今年で7年目、51歳だという。専業主婦の妻と1人の娘、それから3人の息子を持つ、お父さんの顔も持っている。聞くところによると、56歳の誕生日を迎える時点でブルーバードタクシーとの契約が切れるとのことだった。

ブルーバードの運転手はパートナーシップ契約を結んでいて、従業員としての扱いではない。もちろん事務方の作業をしているスタッフは従業員としての職員契約のようだが、タクシー運転手はあくまでも個人事業主の扱いだそうだ。社会保険の加入状況を聞いてみると、ブルーバードは使用者としての義務は当然果たしていない。つまり、従業員であれば労災保険(JKK)、死亡保険(JKm)、確定拠出年金(JHT)、厚生年金(JP)、雇用保険(JKP)、健康保険(JKN)からなる6つの社会保険制度に対して保険料を払わなければならない。この保険料負担義務が課されていないわけだ。

今回であった運転手に関しては、健康保険を個人事業主として自分で加入しているほか、ブルーバードが経営する自社のクリニックを無料で使うことができる制度がパートナー運転手にはあるらしい。また、8年勤めると退職金を支払う制度もあり、それがブルーバードで長く働くための大きなインセンティブになっているようだ。毎年のラマダン明けの休暇前に支払われる1ヶ月分の給料相当のボーナスも支払われるらしい。グラブタクシーやGoJek(ゴーカー)などのオンラインプラットフォームを使った配車サービスでは、このインセンティブを提供していない。

法制度の関係で言えば、委託先に退職金を支払う義務はブルーバードにはないはずなので、企業努力でこのインセンティブに関してはまかなわれているのだろう。もちろん運転手から徴収する乗車賃から差し引いて積み立ててはいるのだろう。

契約が切れる56歳というのは、インドネシアの商社会における実質的な定年退職年齢であり、職員契約の人たちは人事規定に基づいて退職させられることが多い。この定年制度は法令で決まっているわけではないので、会社が決めれば年齢で首切りすることが可能となっている。パートナードライバーに関しても、56歳以上は判断力の低下から運転技術も下がるとの説明で、ブルーバードタクシーを運転することが規定で認められていないそうだ。

失業した後はどうするのかと聞いたところ、グラブタクシーやGoJekなどの配車サービスを使って自分の車を運転しながらタクシー業を続けるそうだ。これらのプラットフォームはブルーバードよりも手数料を低く設定しているようで、手取りは多くなるそうだ。しかし、退職金やボーナス、クリニックの無料利用など、ブルーバードが企業努力で行っている部分に関しては提供されていない。つまり、今回話した運転手の感覚では、長くブルーバードタクシーを運転している方が、現役のうちはメリットが多く、退職したらプラットフォームタクシーを運転すればいいといった感覚のようだ。

ちなみにブルーバードタクシーの運転手が負担しなければならないのは燃料代だそうだ。車はブルーバードタクシーから提供されているようで、自宅には自分の車もあるようである。

私の仕事との関係では、実質的に従業員の職務形態なのであれば明確に大企業としての社会保険や労働法上の義務をタクシー会社は果たすべきだと考える。一方、個人事業主であっても、社会保障制度で十分に保護されるべきである。これに関して言えば、現行法では個人事業主は、雇用保険や年金制度へ加入する権利がない。雇用保険制度の適用はともかく、急速な高齢化を鑑みれば、年金制度へ加入する権利と義務を早々に整備する必要がある。

Agodaの二重払いへのずさんな対応

Agodaはかつては良い会社だったが、利用をやめようと思う。2005年にタイで創業され、いまや言わずと知れた会社となった。2010年に利用をはじめ、今日に至るまで相当使わせてもらった。出張手配、私的な旅行。日本国内外問わず多用してきた。メールボックスに残る最初の予約は、2010年1月下旬のシエムリアップ(カンボジア)のAngkor Palace Resort & Spa。プノンペンのILO事務所でインターンをしていた時、訪ねてきた母をアンコール遺跡へ連れて行った際のものだった。2007年に登場したスマートフォンがまだ一般的ではなかった時代、旅人はグーグルマップではなく、印刷した地図とLonely Planetの文字だけの住所を頼りにアジアを歩いた。同様に、インターネットを利用したホテルや航空券の予約はまだ新しいサービスで、特に東南アジアではAgodaは草分け的存在だった。

ただ、そろそろお別れの時が来たのかもしれない。

ここ数年、Agodaのサービスの質の低下が著しいと感じてきた。予約を入れて確認メールが届かず、自動メッセージで何度も「お待ちください」と連絡が来るのみだったこともあった。ホテルに直接問い合わせると、「Agodaからは連絡も来ていない」との回答で、慌てて直接ホテルのウェブサイトで予約を入れたのは記憶に新しい。

他にも色々な面で目に付くことが増えてきた。電話番号の変更一つとってもウェブサイトで完結せず、カスタマーサービスとやり取りをしなければならない。また、Agodaで予約を入れる際に入力した情報がホテル側にわたっておらず、チェックイン時に再度個人情報などを書かなければ、何のためにAgodaに個人情報を提供するのかがわからなくなる。問題が起きても誠意をもって迅速に対応する体制にあればよいのだが、カスタマーサービスは煩雑なやり取りを生むだけで問題を解決してくれないことが多い。

極め付きは今回の出来事。二重払いは泣き寝入りとなる覚悟が必要のようだ。12月上旬の宿泊に際し、Agodaで予約と決済を行ったが、チェックイン時に未払いということで支払いを求められた。ホテルのフロントで支払いを済ましたものの、Agodaもクレジットカードから引き落としていた。Agodaのカスタマーサービスへ二重払いを報告したのが12月13日。入れ替わり立ち代わり、別の担当者から英語と日本語でやり取りが続き、領収書など提出済みの書類を何度も別の担当者から求められることが続いた。その間、二日に一回、自動メッセージで「48時間以内に対応するのでしばらくお待ちください」と届き続けるが、数週間たっても解決には至らず。もはや、人間とやり取りしているのか、機械とやり取りしているのかもわからない状態となった。

カスタマーサービスへ連絡を開始したのが、12月13日。これを書いているのが、1月14日。一か月以上たったが、約一万円の二重払いの返金はない。この間、36通のメールをAgodaの人間か機械から受け取っている。

大まかに時系列順に並べると以下のようなやり取りとなった。

12月13日 Agodaへ二重払いについて報告。支払い証明等求められ、送付。英語の翻訳を添付するよう求められ、こちらでグーグル翻訳を使い、返信。

12月18日 「ホテルのミスだったので、7営業日以内にホテルが返金します」とAgodaから連絡あり。

12月26日 続報がないので連絡すると、「もう少し待て」と言われる。

12月30日 「7営業日を当に過ぎたが返金がない」と連絡すると、「再度ホテルへ依頼した」と返答。

1月14日 続報がないので連絡すると「あなたのほうからホテルへ連絡したり、書面で請求することを勧めます」と返答あり、カスタマーサービス終了のメール(満足度調査)が届く。「責任をもって対応するように」要求すると、「支払い証明等をお送りください」と再び最初のやり取りが始まる。「これ以上時間をかけることができないので、ここでやり取りを止める」と通告すると、「支払い証明等をお送りください」と再び自動メッセージが届く。

これが、一流の会社、一流の職業人であれば、Agodaが即時返金し、ホテル側からAgodaが回収するものだ。残念ながら、Agodaはそういう対応をすることはできず、結局、私は一万円を詐取されたような感覚にある。カスタマーサービスの対応も、36通もの大量のメールを受領したにも関わらず、問題解決には至らず。その多くが別のスタッフや機械から送られてきたもので、同じことの繰り返しで時間の無駄だった。

たらい回しにされた挙句、問題が解決せず、消費者側が諦める。こうした経験は実はアメリカ在住時に頻繁に経験した。こういう会社とのやり取りは往々にして時間の無駄となり、会社側も消費者側が折れるのを狙っている。結論としては、こういう会社とは付き合わない方が良いということだ。

十数年間、Agoda創業期から利用してきた身としては非常に残念だが、Agodaの利用は減っていくだろう。

ジャカルタのコーヒー文化のシングルとダブル

近所にできた小さなコーヒースタンド。

スタンドと表現するのが適切かわからないが、カフェ文化が隆盛を極めるジャカルタにおいて、コーヒー屋は大きく三つに分かれる。欧州や日本で一般的な店舗型のカフェを頂点に、キオスクの様に持ち帰りコーヒーのスタンド、路上で粉末コーヒーにお湯を注いで提供する移動販売店。大雑把な価格帯で表現すれば、30,000-50,000ルピア、15,000-20,000ルピア、5,000-10,000ルピアといった具体である。

コーヒースタンドの向こうには、家庭用を少し大きくした真っ赤なエスプレッソマシーンとコーヒーミル。

「これはアラビカですか?」

まだ真新しいエプロンを身にまとった若旦那に拙いインドネシア語で問いかける。

「アラビカです。」

自信に満ちた光が眼鏡の奥に輝く。コンデンスミルクで飲むベトナム式コーヒーを除き、ストレートで飲むコーヒーはアラビカに限る。

食後にミルクはいらない。アメリカーノ12,000ルピア。ジャカルタではエスプレッソをお湯で割ったコーヒーをアメリカーノと言ったり、ロングブラックと言ったりする。

「支払方法は?」

「現金でもQR決済でも大丈夫です。」

コーヒー豆を挽き、エスプレッソマシーンにセットする。手際よくタブレットでQRコードを示す。ジャカルタでは日常のやり取りで、言葉がわからなくても何を言っているのかはわかる。

「ダブルにしますか?シングルにしますか?」

「じゃあ、ダブルで。値段は?」

「同じですよ。」

支払いが終わってからダブルにするか尋ねられて困惑気味の私に、手際よく出来立てのコーヒーを渡す。立ち込める香り。間違いなくアラビカだ。

トボトボと帰路に着く道すがら、ふと思い出す。ダブルと言った時点でエスプレッソの抽出は始まっていた。コーヒーを二倍にはしていない。つまり、一般的なダブル・エスプレッソとは異なる。この場合、シングルと言えば、エスプレッソ一杯分で抽出を止め、お湯を注ぐ。ダブルと言えば、お湯を注ぐ代わりにエスプレッソ一杯分を抽出した後もそのままカップの上まで抽出し続ける。

ジャカルタでは店にもよるが、シングルとダブルで値段が同じところがある。値段が異なる場合は、一般的なダブル・エスプレッソのようにコーヒーの量が二倍。値段が同じ場合は、おそらく今回のパターン。

ジャカルタのコーヒー文化は独自の発展を遂げていて、飽きない。この価格。この味。日本の「コンビニコーヒー」の質の向上が著しいが、ジャカルタに五万とあるコーヒースタンドは多様性に満ちていて面白い。

マカッサルの香り

スラウェシ島マカッサル。

空港の匂いは地域の匂い。マカッサルの空港印象は、煙草と中国語と涼しさ。

マカッサルは大航海時代に香辛料の集積地として発展した貿易港で、インドネシアの他の地域と同様に三百年以上オランダの植民地だった。

植民地時代にオランダ王室御用達だった香り高いコーヒー豆トラジャ。コーヒー好きであればピンとくる品種で、スラウェシ島が産地。インドネシア独立後、オランダが支配を止め、農園も荒廃した。日本のキーコーヒーが1970年代後半に復活させ、生産と輸出を開始。

マカッサルの名物料理は牛肉を煮込んだものが多い。特筆すべきは、スープは一様に素材の味を活かした調理法で、塩味は極めて薄い。辛い、塩辛い、甘いジャワ島の料理とは一線を画す。薄味で繊細な香りや旨味を好む日本人の舌には合う。

また、鮮魚の水揚げが有名で、インドネシアで一番魚介類が美味しいと言われている。

金融に関しては、キャッシュレス化が急速に進むジャカルタと異なり、多くの商店では現金決済が中心。交通に関しては、交通規則を守らないジャカルタ市民に比べ、信号待ちをする人が多数であることに驚く。

移動手段はGrabとGojekを簡単に呼べる。空港には専用デスクが設けられ、担当が仲介してくれるほど便利で安心な移動手段となっている。ジャカルタはインド型トゥクトゥクが多いが、マカッサルでは目にしない。むしろ、バイクで押すタイプの力車をよく目にする。

ジャカルタの床屋

旅人には庶民の床屋を試してみて欲しい。

ジャカルタの床屋は価格とサービスもピンキリで、高価格帯選べば必ず良いサービスを受けられるかと言えばそうでもない。ショッピングモールに入居している床屋はカットのみで200,000ルピア前後のだが、日本の田舎の床屋の質には到底届かない。ジャカルタの一般的な暮らしをしている庶民は2席前後の小さな床屋へ通っていて、価格は30,000ルピア前後。路上で営む床屋にいたっては20,000ルピアが相場となっている。価格はどれも2023年時点のものだが、場所による価格差が縮まることは今後もないだろう。

庶民の暮らしに触れたい旅人には小さな床屋や路上の床屋を勧める。「同じタオル、はさみ、ハケ、櫛の使い回しはけしからん」という人は、こだわりを捨てなければならない。ショッピングモールに入居する高価格帯でさえ、衛生面は気になるだろう。あくまでジャカルタ庶民の暮らしに溶け込むことで幸せを感じる旅人へ向けたメッセージだ。

プラカノン市場の外にある屋台

市場外の麵屋は庶民の朝食場。

週末の朝市は托鉢の僧侶と朝食の買い出しに忙しい人々でごった返している。路上にプラスチック椅子とテーブルが並べられ、即席の屋台が朝だけ開店する。何年も通い続けている常連老婆が友人と向かい合い、お気に入りの麺をすすっている。40バーツの幸せは麺の美味しさだけではなく、朝の涼しさや賑やかさ、市場を出入りする人々と柔らかな朝日、全ての要素の価値としては安すぎる贅沢な時間。