こうした状況を踏まえ、世界銀行は貧困層と脆弱層(貧困に陥るリスクがある人々)の保護を目的に社会保障制度整備を実施する(Identity and Targeting for Social Protection Project)[2]。セーフティーネットを整備することによって、貧困の撲滅に寄与する考えだ。融資額は100百万ドル(約100億円)。貸付期間は25年で、据置期間は5年の大型案件だ。
具体的な使途は、国民登録システム(National Population Register: NPR)の開発とシステム運用の能力強化である。このシステムを通じて、全国民がID番号(Unique Identifying Number: UIN)を付与され、社会保障プログラムの受益者選定(ターゲティング)等に活用されることが見込まれる。
EISの法的な枠組みとしては、「自営業者のための社会保障法(Self Employment Social Security Bill 2017)」が近日中に施行される見込み。これは国際労働機関(ILO)の「社会保障条約(第102号)」および「社会的な保護の土台勧告(第202号)」に基づく法改正の一環。タクシードライバーは新法施行から2か月間の猶予期間として与えられ、その間に手続きを済ませることが求められる。
先日、JICAのホームページを眺めていて、あるページにたどり着いた。第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)のページである。偶然見つけたそのページには、「JICAスタッフディスカッションペーパーシリーズ on アフリカ」という記載。書いているのは吉澤さんというJICA職員だ。アフリカ援助のベテランで、私もご縁があって、アフリカ関係の研究・発信では足掛け4年間くらい一緒に仕事をさせていただいたことがある。
ミャンマーにおける社会保障改革の議論は、2012年に開催された政府会合で幕を開けた。社会福祉・救済再復興省(MSWRR)と労働・雇用・社会保障省が主催した「社会保障に関する会合(Conference on Social Protection: A Call to Action)」である。テイン・セイン大統領が開会宣言を行った同会合は、ミャンマー政府が社会保障改革に取り組むターニングポイントとなった。
同会合では貧困削減に取り組む上で社会保障が果たす役割は極めて重要であることと、「社会保障に関するハイレベル委員会(High Level Committee on Social Protection)」の設立を通じ、技術的な議論を深めることの必要性が確認された。
社会保障に関する国民対話(ABND)
社会保障改革に関するより具体的な議論がされ始めたのは2013年である。2013~2015年にかけて実施された「社会保障に関する国民対話(Assessment Based national Dialogue: ABND)」は、国際労働機関(ILO)の支援を受けて始まった制度改革プロセス。ミャンマー政府関連省庁を筆頭に、社会保障関連事業に関係する全ての団体・機関が集まり、どのように制度改革すべきか参加型の議論が行われた。
2014年12月に承認されたNSPSPには4つの柱がある。これらは開発途上国で策定される国家社会保障戦略(政策)と類似しており、オーソドックスなものとなっている。英国開発学研究所(IDS)が提唱した「変革的社会保障(Transformative Social Protection)」という概念枠組みに強い影響を受けたためと考えられる。