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モンゴルの社会保障-子供基金プログラム(Child Money Programme)

モンゴルの貧困削減を牽引した児童手当

モンゴルの社会保障システムの根幹を担っているプログラムを紹介します。子供基金プログラム(Child Money Programme: CMP)はモンゴルの社会保障プログラムの中でも最大規模で、18歳未満の全ての子供に受給資格を付与し、毎月MNT 20,000(USD 8)を振り込む制度です。受給者は振込先の銀行口座をどの民間銀行で開設しても良く、振込手数料は企業のCSRの一環で企業が負担する点に特徴があります。受給に関する受給者の負担を減らす配慮がなされています。

出生登録時に自動的に加入手続きがなされるため、受給対象者が追加手続きを行う必要はありません。受給資格が年齢のみで決まること、加入方法が極めてシンプルなことから、広く国民に認知されるプログラムとなりました。その結果、2015年末時点でユニバーサルカバレッジを達成。約103万人の児童全員がCMPでカバーされることとなりました。

財源は鉱物資源税を原資とする人間開発基金(Human Development Fund)。税金を原資とする社会扶助(Social Assistance)の一種と捉えることができます。

CMPは元々、2005年から条件付き現金給付プログラム(CCT)として始まりました。そのため、当初は貧困層に対象を限定(ターゲティング)した上で、児童の登校や定期健診を条件に給付するプログラムだったわけです。しかし、2007年に実施された国連児童基金(UNICEF)の調査の結果、CMPの貧困削減効果に疑問が呈されました。具体的には、ターゲティングに係るミーンズ・テスト(Means-Test)によって、運営コストが高止まりしているだけでなく、ターゲットとされるべき貧困層が正しく選定されていないこと(Exclusion Error)が指摘されました。結果的にモンゴル政府は、ターゲティングの廃止、給付条件の撤廃を決定し、2012年より現在のプログラムとなりました。

その後、資源価格下落の煽りを受け、モンゴルのマクロ経済環境が悪化。2016年6月にCMPの給付が一時停止され、ターゲティングを復活させる政府方針が示されました。これによって2019年までは、所得水準の低い世帯に暮らす児童60%へ給付が行われることとなっています。

ファクトシート(FACT SHEET):モンゴルの社会保障プログラム 

 

プログラム名(Programme Name)

子供基金プログラム(Child Money Programme: CMP)

実施期間(Implementation Period)

2012年から現在

カテゴリ(Category)

社会扶助(Social Assistance)

サブカテゴリ(Sub Category)

児童手当(Child Benefit)

受給資格(Eligibility Criteria)

0~17歳までの全ての子供(国外在住者含む、移民は除く)

加入方法(Enrolment)

出生登録時に自動的に加入(追加手続きは不要)

支給金額(Benefit Level)

MNT 20,000(USD 8)

カバレッジ(Coverage)

100%(2015年末時点で、受給資格者103万人全員をカバー)

支給方法(Delivery Mechanism)

全ての民間銀行口座で受給可能で、手数料は銀行側のCSRで負担(毎月自動入金)

財源(Financial Source)

鉱物資源税を原資とする人間開発基金(Human Development Fund)

プログラムコスト(Programme Cost)

CMP単独のプログラムコストは公表されていないが、社会保障費全体では対GDP比3.4%(2014年)。国民の49%が何らかの社会保障プログラムの対象となっており、CMPを除けば19%。これを踏まえれば、CMPは最大規模の社会保障プログラムと考えられる。

インパクト評価(Impact Evaluation)

貧困削減に効果があったとされるが、精緻な手法を用いたインパクト評価は実施されていない。

備考(Remarks)

2016年6月に給付が一時停止。ターゲティングを復活させ、2019年までは所得水準の低い世帯に暮らす児童60%へ給付。

参考資料(References)

南スーダンで国連が飢饉を宣言、食糧不足の原因は人為的要因

国連が飢饉宣言、人為的要因

2017年2月20日、国連食糧農業機関(FAO)は南スーダンで飢饉(Famine)が発生したことを宣言した。既に10万人が飢餓状態にあり、さらに100万人が飢餓に陥る危機的状況下にある。FAOのスポークスマンは今回の飢饉が人為的要因(Man-made)によるものであることを強調する。

「戦争、国内経済の崩壊、人道援助へのアクセスが確保できないことが主な要因であり、国際社会からの迅速な支援が実現しなければ、多くの死者が出ることは避けられない。」

かつては自然災害に起因して発生すると考えられていた食糧不足だが、現代では人為的要因によるところが大きい。今回の南スーダンは内戦状態にあり、人為的要因によって飢饉が発生する顕著な例と考えられる。国内紛争の勃発によって国内経済は崩壊し、開発援助機関も撤退せざるを得なくなったことからも明らかだろう。

なお、飢饉が確認されたのは、2011年にソマリアで発生した旱魃以来初めてのことで6年ぶり。

JICAのビジョン「人間の安全保障の実現」の真価が問われる

日本国内では南スーダンで戦闘があったのかどうか、自衛隊のPKO撤退の是非などが日々議論されている。その矢先に南スーダンでは飢饉が発生し、国際社会からは先進国の役割が期待されているのが現状だ。

6年前のソマリアにおける飢饉の際、私はJICAの支援方針を考える立場にあった。その時の経験を踏まえれば、今後、西側諸国を中心に人道支援へのコミットメントが始まり、日本だけが沈黙を貫くことは難しくなる。

一方、内戦下で支援活動を行うには危険が伴うため、邦人職員を派遣して調査・事業を実施することは極めて困難となることが想定される。そのため、既に現地で活動を行っている国際機関やNGOとの連携が有効な選択肢となる。例えば、2011年のソマリアにおけるJICAの活動に関しては、国際移住機関(IOM)と連携し、首都モガディシュの国内避難民を対象とした給水・衛生分野の調査実施を行った。

ただ、前回のソマリア支援の状況と比較すると、今回は大きく状況が異なることも指摘しておきたい。現時点での日本の南スーダンにおけるプレゼンスだけを考えれば、少なくとも自衛隊および国際協力機構(JICA)(現地スタッフのみ)が現地で活動しており、活動実績や支援体制もある。

実務的には多くの困難が想定されるが、国際社会から日本が重要な役割を求められていることは間違いないだろう。そして、人間の安全保障をビジョン(社命)として掲げるJICAに託された期待は大きい。


参考資料

インドネシアが社会保障給付でイーウォレットを導入

インドネシア政府は既存の社会保障・補助金の給付方法を改善しようとしている。今回発表されたのは、E-Warungと呼ばれるイーウォレット(E-Wallet)で、ATMカードのようなもの。社会扶助(Social Assistance)プログラムの受給者はこのカード1枚で、9つある各種給付を自動的に受け取ることができるようになるという。

インドネシア政府が提供する条件付現金給付プログラム「希望ある家族プログラム(Program Keluarga Harapan: PKH)」をはじめ、燃料、食糧などの引換券(バウチャー)が、E-Warungへ自動的に登録されるようになることから、受給者の利便性は向上すると思われる。

現時点ではパイロット事業を通じて、制度の試行が行われており、全国展開にはまだ時間がかかりそうだ。


参考資料:Indonesia: From cash to vouchers-Piloting a new delivery mechanism for social assistance (E Warung) (ILO)

タンザニアの社会保障は障がい者のニーズに合っていない!?〜ロンドン大学の研究成果より〜

ザンビアの社会保障、現金給付プログラムを全国展開

ザンビア政府は現金給付プログラム(Social Cash Transfer: SCT)を新たに27県で展開する。これによって、2017年末までにSCTは全国展開され、50万世帯に現金給付が実施されることとなる。

SCTはザンビアにおける最大の社会保障プログラム。最も貧しい人々にターゲットを絞って現金を給付することで、貧困削減と世代を超えた貧困の連鎖を断ち切ることを目的としている。

2003年にドイツの支援で始まったカロモ地区でのパイロット事業を皮切りに、イギリスなどが継続的に支援を続けてきた。SCTは保険料を徴収する社会保険ではなく、税財源を貧困層に給付するプログラム(社会扶助:Social Assistanceの一種)。国家予算から中長期的に予算措置を行う必要がある。全国展開にあたって当面の財源はドナー諸国からの支援などで確保されていると考えられるが、国家予算へ引き継いでいくことが求められる。

また、現金の給付方法(Delivery)に課題が認められるため、今後は電子送金を検討するようだ。これまでは、現金を手渡しで給付していたが、給付にかかる給付側・受益者側の双方の手間と、事務的なミスが大きな課題だった。今後は、VISAカードを受益者へ発行し、給付日には銀行口座へ定額が送金されるようになり、受益者はいつでも好きな時に引き出すことができるようになる。

ザンビア政府はこの給付方法をまずは27県で試行する予定だ。

 


参考資料

ベトナムの社会保険の課題、社会保障財源の安定確保

ベトナムの社会保険(Social Insurance)財源に警鐘が鳴らされている。その理由は民間企業の社会保険料の支払いが未払いとなっているためだ。

2015年末の雇用者負担分の合計額は、440百万ドル(約500億円)の不足[1]。その内の12%は外国企業が負担すべき金額だった。

社会保険基金は、労働者の老齢年金、疾病手当、産休手当、育休手当などの財源となっているが、このままいけば2021年には赤字となり、2034年には財源が枯渇するとされる。

社会保険料の適切な徴収は、開発途上国の社会保障システム構築を支える重要な課題。今後、巨大なインフォーマル経済をフォーマル経済へと移行する過程で、これは避けて通ることのできない問題となる。


[1] Vietnamese businesses owe $440 mln to social insurance fund (VN EXPRESS)

ミャンマー議会がJICA円借款を承認、水力発電所改修計画

ミャンマー議会が国際協力機構(JICA)による円借款107.87億円の借り入れを承認した。これはミャンマーの地元紙ELEVENが伝えたもので、水力発電所改修計画に活用される[1]

この事業は、セダウジ水力発電所とバルーチャン第一水力発電所の発電機器の改修等を行うもので、昨年11月2日の首脳会談で日本政府がミャンマー政府へ事前通報を行っていたもの[2]

供与条件は以下のとおり。

(1)  金利:年0.01%

(2)  償還期間:40年(10年の据置期間を含む。)

(3)  調達条件:一般アンタイド


[1] Parliament approves to take out JICA’s loan (Eleven)
[2] ミャンマーに対する円借款の供与(事前通報)(外務省)

インド政府がベーシックインカム導入に関心、財源に課題

インド政府が貧困削減対策として、ユニバーサルベーシックインカム(UBI)に関するプロポーザルに関心を示している。このプロポーザルは、インド政府の主席経済顧問が実施した経済調査によって提言されたもの。

同報告書は、年間一人当たり7,620ルピー(約113ドル)のベーシックインカムを給付を実施することで、ほぼ全ての貧困層を貧困ライン(893ルピー)より上の所得水準へ引き上げることができるとしている。コストに関しては、人口の75%をカバーすることを想定した場合、GDPの4.9%程度の支出で運用できるとしている。

インドでは中間層や低所得者層を対象とした社会保障プログラムが複数存在しているが、事業の実施過程に課題があるとされる。ターゲットとなるべき対象世帯へ正しく給付できていないことや、汚職の蔓延などがあげられる。

また、インドではベーシックインカムに関するパイロット事業のインパクト評価が過去に行われており、貧困削減に一定の効果があったとされる。

インドでベーシックインカムを議論する場合、財源が大きな課題となる。「13億人へベーシックインカムを給付することが難しいのであれば、上記のように75%へ給付すればよい」という意見も聞こえてきそうだ。しかし、それでは現行の貧困層を対象とした給付プログラムと同様に、ターゲティングの制度設計や実施体制を整備しなければならず、ベーシックインカム最大のメリット(行政コストの削減)を実現できない。

現状で3億人が貧困世帯とされている中、全ての人々へ同額を給付することがどれほど効果的なのか。検討は始まったばかりだ。

政府関係者はベーシックインカムの制度化に関する具体的な議論は無いことを強調し、あくまで可能性の一つとして議題になっていることを示唆した。

パキスタンのポリオ撲滅へドナー会合、JICAも出席

2月9日にパキスタンの首都イスラマバードで開催されたドナー会合に、国際機関や二国間援助機関の関係者が出席。「ポリオ撲滅へ向けた支援継続で一致」と、地元紙『The News International』が報じた。

具体的な支援金額やファイナンス方法については報道されていないことから、全体方針の確認に留まったものとみられる。

一般的にポリオ対策は、一定期間に集中的にリソースを投入し、一気に撲滅することが有効とされている。

日本の支援状況については、国際協力機構(JICA)が「ポリオ撲滅事業」に関する円借款供与を2011年(49億9,300万円)と2016年(62億9,000万円)に実施している。これはゲイツ財団との連携案件で、前者については一定の事業成果があったことからゲイツ財団から返済が決定済み。後者については今後成果の確認を経て、同様に返済手続きが進むとみられる。

会合では今後の日本政府の支援方針については触れられていないが、日本からも政府およびJICAの代表がそれぞれ出席したと報じられている。


参考資料

フィリピン産休制度改革、100日間へ改善

産休制度改革が議論されていたフィリピンで、産前産後休暇を100日間へ延長する法案が上院議会で可決され、下院での審議が始まった。

現行法では、政府機関は60日間、民間企業は60~78日間の産休を認めなければならない。一方、この水準は国際労働機関(ILO)が求める98日間(14週間)には満たないこともあり、同法案が提出されていた(ILO母性保護条約第183号)。

フィリピンは同条約を批准していないため国内法の改正義務は無いが、国内で活躍する女性が多いことも後押しし、制度改革に着手していた。


参考資料