外部メディアに掲載された記事の一覧です。

カンボジアのマイクロファイナンス経営はちょっと特殊かも?

他のアジア諸国では見られない傾向

先日掲載した記事「マイクロファイナンスは貧困削減に効果なし?カンボジア調査結果(6月15日掲載)」についてコメントを頂いた。これがとても興味深いので、ここで改めてご紹介したい。前回の記事では、「マイクロファイナンスが、貧困削減に効果がない」という調査結果を紹介した。

これに対し、いただいたコメントがこちら。

「カンボジア金融機関の支店の財務諸表分析やインタービューの結果、カンボジアのマイクロファイナンス経営はバングラデシュやフィリピンで行われているようなマイクロファイナンス運営とかなり違う。グループレンディングの比重がかなり低く、担保を取っての貸し出しが中心のようだ。」

これは記事中で有識者も指摘している点だ。「担保として土地の登記証明を提示できない低所得者層が優遇金利で借り入れることは難しく、相対的に不利な条件で借り入れざるを得ない。」

カンボジアでは、内戦によって多くの人が強制的に移住させられた。その影響で、土地の権利が誰に既存するのかがわからない状況で、現在大きな問題となっている(土地問題)。

自助グループに対する貸し付けが少ないのはなぜか?

マイクロファイナンスが活発な南アジア地域では、村人が自助グループ(Self Help Group)を組成して連帯責任を取ることで、融資を受けている例が多い(参考:外部リンク)。金融機関も結局はビジネスなので、単独で無担保融資は難しい。資金力も担保もなければ優遇金利を受けることができないか、断られるのが常識だろう。

では、なぜカンボジアでは自助グループに対する融資が少ないのだろうか。私はこれに対する回答を持ち合わせていない。

何かアイデアがあれば、是非、コメント欄かメールで意見を寄せていただければ嬉しい。

もしもイギリスEU離脱で世界経済危機が起きたら

イギリスのEU離脱で世界経済危機は訪れるのか?

開発途上国にはどのような影響があるだろうか。

国民投票の結果、イギリスが欧州連合(EU)を離脱することが濃厚となった。残留派を多く抱えるロンドンやスコットランドでは独立の機運が高まっており、ドミノ倒しのように離脱する国が増えていく懸念が広まっている。

開発援助との関連でいえば、ドナー諸国が多いヨーロッパで歩調が揃わないことは、持続可能な開発目標(SDGs)のスタートとしては最悪の事態だ。完全に冷や水をかけられたこととなる。

ただ、最大の懸念は、ヨーロッパにおける危機が世界規模の経済危機の原因となることだ。世界屈指の経済圏を有するヨーロッパ。そこで混乱が混乱を呼べば、世界的な経済危機は避けられない。一部では、リーマンショック以来の世界恐慌がやってくるともささやかれている。

 

もし、世界経済危機が起きたら、開発途上国への影響は?

世界的経済危機が訪れた場合、開発途上国では何が起こるのだろうか。週明けにかけて、世界中の専門家がブログや大手メディアへ寄稿しており、議論が過熱している。

実際のところ、どれほど著名なエコノミストが集まって議論をしても、未来は誰にもわからないのが現実。だからこそ、経済危機が何度も起きてきたわけで、「経済危機は起こるのか?」という問いが如何に不毛かは歴史が証明している。

私たちが唯一できることは、過去から学び、有事に備えることだ。ここでは2015年に出版された論文『経済調整の10年(The Decade of Adjustment)』を参考に、リーマンショックによる世界経済の停滞以降、各国がどのような政策を実施してきたのかを振り返ってみたい。

この論文は、国際通貨基金(IMF)による187ヶ国の政府支出予測(2005-20年)をもとに、その場しのぎの経済調整・緊縮財政がいかに公正な経済・社会秩序を乱すかを論じている。つまり、IMFの経済政策によって政府が緊縮財政を求められ、貧困層・中間層にとって公正でない経済・社会秩序が生まれる可能性を指摘したもの。

 

フェーズ1 - 経済危機発生・支出拡大(2008-09年)

2008-09年、ほとんどの国が政府支出を拡大し、景気刺激策を講じる。一時的に経済は立ち直るものの、政府支出増大の反動が訪れる。脆弱層(貧困層+α)は公的支援を必要としているが、政府は予算削減を開始。

 

フェーズ2 - 財政縮小(2010-20年)

財政縮小による経済調整によって、2016年以降、132ヶ国で経済成長が停滞することが予測される。特に、開発途上国で影響が強く、81ヶ国が公的支出を削減。全体の約3割の国が、経済危機前(2005-07年)の水準以下の緊縮財政を実施すると予測される。これらを踏まえれば、2020年までに3分の2以上の国で緊縮財政が実施され、全世界の人口の約80%が、緊縮財政の影響を被ることとなる。

 

経済危機後に政府が行う8つの政策

小さな政府(財政縮小)が意味することは何か。先の論文は、IMFのカントリーレポートから、IMFの経済政策(緊縮財政政策)の「助言」に共通点を指摘している。

  1. 補助金の削減(石油・農業・食糧等)(132ヶ国)
  2. 公的セクターの賃金カット(教育・保健従事者等)(130ヶ国)
  3. 狭義の貧困層にターゲットを絞った社会保障プログラムの実施(107ヶ国)
  4. 年金改革(105ヶ国)
  5. 労働市場改革(89ヶ国)
  6. 保健制度改革(56ヶ国)
  7. 消費税の増税(138ヶ国)
  8. 公共サービスの民営化(55ヶ国)

 

経済危機をきっかけに小さな政府へ

これらの政策を端的にまとめると、公的部門を縮小し、全国民に満遍なく負担を強いる経済構造への転換策と言えるだろう。

生活必需品に対する補助金は、財政を圧迫する最大の原因とみなされることが多い。言い換えれば、全国民が恩恵を受ける政策であるため、補助金の削減は全国民へ負担が生じることとなる。

補助金の代わりに、政府は貧困層にターゲットを絞った社会保障プログラムを拡大する傾向にある。現金給付プログラム(CCT等)に代表されるように、最貧層にターゲットを絞って定額支給することで、より効率的(経済的)に貧困削減を達成することができるという発想が根底にある。

年金や保健制度改革も同じロジックが適用される傾向がある。保険料や受診料の値上げや、年金受給開始時期・金額の下方修正などがこれに含まれる。

 

中間層のリスク拡大

こうした制度改革は、国際的な合意に反する。つまり、「誰も取り残さない(No one will be left behind)」をスローガンに掲げる持続可能な開発目標(SDGs)に反する可能性がある。

経済危機をきっかけに小さな政府を目指すことで生まれる被害者は誰か。中間層に他ならない。

貧困ラインより少し上にいる中間層は、極めて低い所得水準で生活している。ある意味で恣意的に定められた貧困ラインによって貧困層とみなされないがために、社会保障プログラムや公的サービスの補助対象者となることができない。一方で、生活必需品に対する補助金の削減、消費税の増税など、日常の支出は増えるばかりだ。

一連の分析が正しいとすれば、「中間層のクビを絞めると同時に、貧困層へターゲットを絞ることで「ガス抜き政策」を実施する政府が多い」ということになる。

過去の経済危機の対応から見られる教訓は、「小さな政府の模索」と「脆弱な中間層を見捨てること」にあるのかもしれない。

もしも、経済危機がやってきたら、私たちは長期的な視点で政策を立案・注視すべきだろう。

 

※The Povertistでは寄稿を募集しています。イギリスのEU離脱にともなう開発途上国への影響について、投稿をお待ちしています。

 

外部リンク 

Ortiz, I. 2015. The Decade of Adjustment: A Review of Austerity Trends 2010-2020 in 187 Countries. ESS Working Paper No. 53

寄稿募集-イギリスのEU離脱、開発途上国への影響は?

イギリスのEU離脱は、開発途上国へどのような影響があるか?

国民投票の結果、イギリスのEU離脱が濃厚となりました。世代間ギャップや資本家・労働者階級のギャップなど、イギリスの国内問題が世界にさらけ出された歴史的な場面となりました。

イギリスやEUは開発援助の世界では一大勢力です。また、旧宗主国として開発途上国を支援している欧州諸国も多くあります。

イギリスがEUを離脱することで、開発途上国へはどのような影響が考えられるのでしょうか。

EUの足並みが乱れることで世界経済に影響が出るとする声もあり、巡り巡って開発途上国の経済への影響もあるでしょう。

開発援助資金への影響はどうでしょうか?民間資金の開発途上国への流入はどうでしょうか。開発援助の主導権は公的セクターから民間セクターへ移りつつありますが、どのような影響が考えられるでしょうか。

 

寄稿を募集します

イギリスのEU離脱が与える開発途上国への影響や、開発援助の潮流に与える影響について、寄稿を募集します。

分野は問いません。文字数は500文字以上を目安としてください。

こちらのフォーマットにタイトルと文案を入力の上送信ください。

ご寄稿お待ちしています。

WHO日本人職員に聞く、ヨーロッパへ移動する国外避難民と結核対策の今

急増する移民、受入国の行政サービスは追い付かず

中東から多くの国外避難民がヨーロッパを目指している。2011年1月に始まったシリア騒乱。シリア国内は内戦が激化し、いまだ収束の目途が立っていない。国連西アジア経済社会委員会(ESCWA)によれば、直近のシリアの貧困率は83.4%と見込まれ、2010年の28%から急速に悪化した。シリア国内の惨状が垣間見れる数字だ。

こうした状況から逃れるべく、多くの人々がシリアやその隣国を脱出してヨーロッパを目指している。ドイツが受け入れを表明して以来、想定をはるかに超える移民がヨーロッパ諸国へ雪崩れ込んだ。当然、受入国の行政サービスは飽和状態に陥り、行き場のない人々が普通の町にあふれかえっている。

カマル・マルホトラ国連常駐調整官兼UNDPトルコ事務所代表は、シリア難民の多くがトルコ国内の普通の町で生活していると指摘する。トルコ国内に流入した275万人のシリア難民のうち、難民キャンプで暮らすのはたった10%。他の人々はトルコ人と同じようにトルコの町に暮らしている。

こうした人々は、移住先の国で就労許可を得ることが難しく、社会サービスも満足に受けることができない。一時的な対応としてトルコは、支援を必要とするシリア人に対して保健・教育サービスを無償で提供した。しかし、こうした対応は小規模かつ短期的なものに過ぎず、移民の生活環境は厳しさを増すばかりだ。

ヨーロッパ国境を越えるもう一つの脅威

ヨーロッパ諸国が急増する移民への対応に頭を抱える中、新たな問題も噂されている。結核だ。ヨーロッパでは、結核は「過去の病気」だった。しかし、中東から流入する移民の間で結核が蔓延しているという噂がある。「過去の病気」だったはずの結核が移民とともに国境を越え、ヨーロッパの国内問題として再び表舞台に登場しようとしている。

今年3月、国際移住機関(IOM)は、欧州へ向かう難民・移民が結核の感染リスクに直面していることを発表した。不十分な保健サービスへのアクセス、越境による過酷な生活環境が原因として挙げられた。

結核の蔓延状況と、ヨーロッパ諸国の感染症対策はどうなっているのか。世界保健機関(WHO)で結核対策を専門とする濱田洋平さん(グローバル結核プログラム・アナリスト)に話を聞いた。

感染症に国境なし、根本的な対策を

 

ーー結核の蔓延状況はどれくらい深刻なのでしょうか?

濱田 現在、イギリス、スイスなどの結核対策が進んだ国では結核患者の約70%を移民が占めています。これは結核発生率が高い母国で結核に感染した人々が、数ヶ月から数年、ときにはそれ以上経ってから移住先で発症するためです。一方で、一口に移民といってもすべてが結核の高蔓延国から来ているわけではなく、例えばシリアなどでの結核の発生率はEU諸国と比べてもそこまで高くはありません。また、結核自体の感染力も高くなく、一般的に移民から地元民への感染リスクは少ないとされています。したがって、結核のリスクを理由とした入国制限などの過度な対応は不要であり、科学的根拠と人権に基づいた適切な対応が求められます。

ーーどのような対策が必要でしょうか?

結核の伝播を防ぐためには早期診断、治療が極めて重要です。そのためには、難民、移民に対しても自国民と同じように結核診断・治療を含めた必要な医療サービスへのアクセスを容易にする必要があります。また、受診をしやすいような社会的環境の整備も重要で、結核と診断された移民を国外に退去させるような政策は、病院受診をためらわせ、結果として診断の遅れに繋がる可能性があります。特に、治療半ばでの国外退去は不完全な治療、耐性結核の出現に至るリスクがあり、避けなければなりません。

ーー受入国での対策以外に、国際社会ができることはありますか?

濱田 根本的な対策として、途上国での結核対策を一層進めていく事も不可欠です。結核をはじめ感染症に国境はありません。国際社会の共通の問題として、継続して対策を支援していく事が重要です。先進国での結核の制圧は、途上国での結核対策の進展なしにはありえません。

 

今回お話をうかがった専門家

濱田 洋平(はまだ ようへい)世界保健機関(WHO)グローバル結核プログラム・アナリスト。長崎大学医学部卒業後、国立国際医療研究センターで勤務。ジョンズホプキンス大学公衆衛生大学院修士号取得。

この記事はジュネーブ国際機関日本人職員会(JSAG)と共同執筆しています。
掲載されている見解は全て著者のものであり、特定の団体による見解を示すものではありません。

ジュネーブ国際機関日本人職員会(JSAG)と連携

ジュネーブ国際機関日本人職員会

The Povertist編集長の敦賀です。先日のAfrica Quest.comとの提携に続き、ジュネーブ国際機関日本人職員会(JSAG)と連携することとなりましたのでお知らせします。

多くの国際機関が欧州本部を構えるスイス・ジュネーブでは、多くの日本人が活躍しています。

JSAGは、ジュネーブに存在する国連諸機関や国際NGO等で働く日本人職員と学生・研究者を主なメンバーとして、会員間の交流・ネットワーキング・情報交換・共有などを行う団体です。

 

国際機関の最前線を伝える

最近では、国際機関職員の仕事はメディアなどで時々取り上げられるようになってきました。しかし、切り取りやすい部分や一般ウケする部分のみ取り上げられることがほとんどで、他の多くの国際機関職員がどのような仕事をしているのか伝えるメディアはとても少ないように思います。

The Povertistでは今後、JSAGと協力して国際機関職員の日々の仕事を様々な角度で伝えていきたいと思います。

開発援助に関心のある方、国際機関で働きたい方、開発の最前線のトピックを知りたい方。お楽しみに!

 

提携パートナーとライターを募集しています

The Povertistでは、提携パートナーとライターを募集しています。一緒に盛り上げていきたい皆さんからのご連絡お待ちしております。

急成長中のアフリカ情報メディアAfrica Quest.comと提携

アフリカに挑戦する日本人のためのWEBメディア

The Povertist編集長の敦賀です。Africa Quest.comと提携することとなりましたのでお知らせします。

Africa Quest.comは、4月27日掲載の編集長コラム「Africa Quest.com-アフリカに挑戦する日本人の為のニュースメディアを知っていますか?」でご紹介させていただいた現在話題沸騰中のWEBメディアです。

「アフリカに挑戦する日本人の為のニュースメディア」という名のとおり、アフリカ在住ライターを中心としたアフリカ発のコラムが盛りだくさん。

今年1月に創刊して以来、ほぼ一日三本のペースで質の高い記事を掲載し続けています。編集長コラムでも記載のとおり、もはやその勢いは留まることを知らない急成長中のメディアです。

 

なぜ提携することになったの?異なる読者層と共通の思い

The PovertistとAfrica Quest.comは、開発途上国(アフリカ)に貢献したい、開発途上国(アフリカ)で活躍する日本人を後押ししたいという点で、共通した思いを持っています。

一方で、全く異なる読者層へ発信しています。

The Povertistは、途上国の貧困や開発課題に何らかの形で取り組む(取り組もうとしている)方に読んでいただいています。そして、Africa Quest.comは、アフリカをまずは知ってもらうことを目的に、ビジネスやエンタメ情報を多く配信しています。

こうした状況を踏まえて、Africa Quest.comで「アフリカに関心を持った方」が「もっとアフリカを深掘りしたい」と思ったとき、The Povertistが貢献できる要素が大きいと思いました。

そういうわけで、今後、Africa Quest.comでThe Povertistの記事を、The PovertistでAfrica Quest.comの記事を相互配信していくことになりました。

一部の記事については、双方の媒体でご覧いただけるようになります。

 

提携パートナーとライターを募集しています

The Povertistでは、提携パートナーとライターを募集しています。一緒に盛り上げていきたい皆さんからのご連絡お待ちしております!

英国国際開発省(DFID)が4月の「家計簿」を公表、7万円以上の全データ1,500項目

イギリス政府が税金の使途をオープンに

英国政府で開発途上国援助を担当する国際開発省(DFID)が、「家計簿」のデータを公開した。500ポンド(約7万円)以上の全ての支出項目が対象。

今回公表されたのは4月分のデータ1,500項目。実は、こうした試みは今に始まったことではなく、毎月行われている。公式ウェブサイトへアクセスすると、エクセルシートでデータのダウンロードが可能だ。

英国では、開発援助にかかる多額の予算が使途不明となった過去があり、国民の援助資金に対する目が厳しくなっていた。世論の後押しもあって、このような先駆的な試みが始まったのかもしれない。

ちなみに、オリジナルデータをそのままダウンロードさせる試みは他の開発パートナー・ドナー諸国ではまだ行われていない。

 

4月の最も安い買い物は「ホテル代」、最も高い買い物は300億円

データをダウンロードしてソートしてみると面白い。まず、数万円程度の雑誌の購読料から、数百億円の契約金まで全て公開されていることに驚く。

一番少ない支出は、4月25日のホテル代503.03ポンドで、使った部署は政策課(Policy Division)。支払先は非公表となっていることから、個人の立替払いと考えられる(取引先の法人名は全て公表されている)。

一方、最も大きな支払いは、4月28日のGAVIワクチンアライアンスに対するもので、200百万ポンド(約300億円)だった。

透明性の観点からは、こうした試みは歓迎されるべきことであり、今後同様の試みを求める声は各国で大きくなるだろう。その際、留意すべきことは、公開にかかる作業にも行政コストがかかるということ。公表する項目や形式をよく検討したうえで、意味のあるデータを公表することが真の透明性担保となるのだろう。

 

開発途上国における家事労働者の社会保障カバレッジ

6月16日は、国際家事労働者の日

今日は、国際家事労働者の日(International Domestic Workers’ Day)です。「です」と言い切ったものの、こういう仕事をしていなければ知ることのなかった「マイナーな記念日」だと思います。

多くの日本人にとっては、お手伝いさんを雇うことは「一部の富裕層の贅沢」であって、一般庶民にとっては遠い存在でしょう。一方、ヨーロッパや植民地時代に西欧文化が根付いたアジア・アフリカ諸国で仕事をしている方にとっては、お手伝いさんがもう少し身近かもしれません。私の経験的に言っても、働く女性が多い北米やヨーロッパ地域では、お手伝いさんを雇う家庭が比較的多い気がします。

今日は「国際家事労働者の日」ということで、お手伝いさんをトピックとしたいと思います。

 

お手伝いさんは社会保障に加入していますか?

突然ですが、開発途上国で開発援助に携わる皆さん。お宅のお手伝いさんは社会保障に加入していますか?

私はまだ経験はありませんが、開発援助に携わる実務家が途上国へ赴任すると掃除・洗濯をお手伝いさんにお願いすることは多いと思います(※)。

その際、社会保障はどうしていますか?恐らく、ほとんどの方が考えたことは無いのではないでしょうか。

 

世界の家事労働者の90%は社会保障に入っていない

ILO社会保障局が発表した報告書によれば、世界の家事労働者(Domestic Workers)の90%が社会保障の適用を受けていません。実に、6,700万人中、6,000万人が社会保障から除外されていることになります。ちなみに、家事労働者の80%が女性です。

原因はたくさんあります。社会保障でカバーされるためには、多くの場合、保険料を定期的に納めることが求められます。しかし、開発途上国の家事労働者の場合、高い離職率、現物払い、不規則な収入などを理由に、定期的に定額を納めることが難しい実態があります。こうしたことから、家事労働者の社会保障カバレッジを上げることは、大きな課題として認識されてきました。

同報告書では、「完璧な解決策はない」としつつも、適用の義務化だけでなく、奨励金や登録制度など、複数のアプローチを雇用者とともに模索する必要があるとしています。

 

まずは、ご家庭のお手伝いさんから

開発途上国のために働いている皆さん!まずは、お宅のお手伝いさんの社会保障をチェックしてみてはいかがでしょうか。

居住国によっては、法律によって「雇用者の義務」となっている場合もあるかもしれませんよ・・・?

 

※「雇うこと自体が贅沢だ!」と批判する方もいると思いますが、今日の論点からは除きます。

 

ガーナが国家社会保障政策を発表、めちゃくちゃ大事なのでわかりやすく解説します

国家社会保障政策抜きに、貧困削減は語れない時代の到来

6月13日、ガーナ政府は国家社会保障政策(National Social Protection Policy: NSPP)を発表した。これは、貧困削減と不平等の是正というガーナ政府が掲げる最大の国家目標達成へ向けて、包括的な社会保障システムを作るための試み。

簡単に言えば、NSPPが貧困削減政策の最も重要な国家戦略となったということ。「NSPPを知らずして、貧困削減を語る開発援助関係者は『モグリ』 かもしれない・・・」というくらい重要な政策なので、わかりやすく解説してみたいと思う。

 

それで、何がすごいの?

これまでは色々な省庁・開発パートナーが「貧困削減」を目指して、バラバラに社会保障プログラムを実施していた。こうした数あるプログラムを、NSPPの傘下で一括管理する体制を作ったことが、「すごい」。

たとえば、小学校無償化プログラムや学校給食プログラムは教育省の予算で教育省の管轄、生活保護は社会保障省、健康保険は保健省といった具合に、これまではバラバラの省庁が管轄していた。これだと、貧困削減と不平等是正を達成するために、政府内で足並みが揃わない。そこで、「省庁のシガラミを取っ払って、一本化しよう」というのがNSPPの試み。

日本でもそうだが、既得権益のシガラミを取っ払うのは極めて難しい課題。そう考えれば、国家目標に向かってガーナ政府が一丸となって取り組む体制が整ったことの「すごさ」をおわかりいただけるだろうか。

 

ガーナ政府の社会保障政策のポイントをわかりやすく解説

ガーナ政府の公式ホームページ上ではまだNSPP本文を確認することはできないが、プレスリリースや現地報道を総合すれば全体像が見えてくる。ここでは、現時点でわかっている情報に私なりの説明を加えながら紹介したい。

その前に・・・。「開発途上国の社会保障」は、日本人が考えるよりずっと広い概念だということを念頭に置いて解説をお読みいただきたい(参照:開発途上国の社会保障と国際協力の潮流をわかりやすく解説)。

 

ガーナ政府の社会保障政策の3本柱とは?

NSPPの目標は大きく3つある。

  • 社会扶助(Social Assistance)を通じて、2030年までに貧困削減を達成すること。
  • 人間らしい労働(ディーセントワーク)を通じて、家庭と社会の持続的な繁栄を促すこと。
  • 社会保障システムにすべてのガーナ人が加入すること。

この説明だと、開発途上国の社会保障を専門としない方にはわかりにくいかもしれない。噛み砕いてかなり大雑把に説明すると次のとおり。

  • 明日の食べ物も無いような厳しい生活をしている貧困層向けには生活保護給付で貧困から脱出してもらう。
  • 働くことができる人には仕事を提供するので、自力で貧困状態から脱出してもらう。
  • 公的な社会保障プログラムへ加入することで、所得に応じて保険料を払ってもらう。その対価として、何か不測の事態が起こったときには社会保障で面倒を見てあげる。

 

3本柱にぶら下がる5つの社会保障プログラム

現金給付(Livelihood Empowerment Against Poverty: LEAP)

社会扶助(Social Assistance)の一環で、貧困層を対象に現金給付を行うプログラム(Cash Transfers)。受益者は1,600世帯(2008年)から14.7万世帯(2016)へ拡大しており、同国最大の社会保障プログラムの一つ。ガーナには貧困層220万人、35万世帯が暮らしているとされ、LEAPで貧困層全員をカバーすることを目標としていると考えられる。なお、LEAPは社会扶助の一環なので、財源は税金及び海外からの援助資金。

国民健康保険(National Health Insurance Scheme: NHIS)

社会保険(Social Insurance)の一環で、65歳以上の高齢者は無料で健康保険に加入できる。保険料を徴収できる世帯からは保険料を徴収し、貧困層に対しては政府が補助金を出すことで加入率を上げていくようだ。

公共工事(Labour Intensive Public Works)

農業のオフシーズンに、地方自治体が公共工事を通じて雇用を創出するプログラム。貧しい農家を対象に就労機会を提供することで、貧困リスクを低減する試み。

学校給食(School Feeding Programme)

公立小学校向けに、ガーナ政府が2005年に開始した学校給食プログラム。就学適齢期の子供たちの就学率と栄養状態の向上を狙うもの。現状ではすでに150万人の子供たちが同プログラムの対象となっているが、2016年末までに300万人まで拡大する見込み。

初等教育無償化(Capitation Grant)

初等教育の無償化プログラム。教育水準の向上は、長期的な貧困削減にとって不可欠。それにもかかわらず、低所得者層の家計支出の大部分を授業料などにとられていた。そこで政府が実施したのが初等教育無償化。貧しい家庭の子供たちにも平等に教育機会の提供を目指すのがこのプログラムの趣旨だ。

 

このように、包括的な社会保障政策の大枠を作ったことが、NSPPのすごいところ。ただ、政策ができたからといって、実施に繋がらないのが開発途上国の「アルアル」でもある。ガーナの社会保障は今、ようやくスタートラインに立ったといえる。

 

 

マイクロファイナンスは貧困削減に効果なし?カンボジア調査結果

マイクロファイナンスは貧困層の所得水準の引き上げに効果なし

カンボジアの現地紙プノンペンポストが、研究機関による「ショッキング」な調査結果を伝えた。これは、国際的な研究者ネットワーク「経済政策パートナーシップ(Partnership for Economic Policy: PEF)」が実施した調査で、カンボジア国内の11村を対象にマイクロファイナンス金融機関(MFI)から融資を受けた世帯と、受けなかった世帯の所得を比較したもの。その結果、両グループの所得にほとんど差が認められなかったようだ。

具体的には、農外自営業収入(農業以外の自営業を営む人々の収入)に関しては、低所得者層は借り入れによるメリットを生かすことができなかった。これは、低所得者層がMFIから小額融資を受け、農業以外のビジネスをスタートすることがいかに難しいかを示しているようだ。

さらに同紙が有識者のコメントとして伝えたところによると、「担保として土地の登記証明を提示できない低所得者層が優遇金利で借り入れることは難しく、相対的に不利な条件で借り入れざるを得ない」ようだ。

マイクロファイナンスが貧困削減政策の全てではない

PEFのホームページを探してみたが、該当する調査結果はまだダウンロードできないようだ。詳細はレポートの公開を待つ必要があるが、その際にいくつか確認したいポイントがある。

まず、この記事だけではサンプル対象地域がわからないため、調査結果がどの地域に対する政策提言なのか。もし、カンボジア国内全域を網羅する政策提言なのであれば、サンプル方法が理にかなっているか。

また、記事中の有識者も指摘しているように、マイクロファイナンスが全ての貧困層にとって良いものではなく、必ずしも利益を享受できない者もいるだろう。担保にするアセットが無い人が優遇金利で借り入れることは、マイクロファイナンスの仕組みからして難しく、借り入れて起業したところで全員がうまくいくわけでもない。マーケットメカニズムの中で、成功する人もいれば失敗する人もいる。

マイクロファイナンスを根拠もなく擁護するわけではないが、大切なことは金融セクターがマイクロファイナンスというツールを使って貧困層に「一つの選択肢」を提供しているということだ。一方、社会保障や雇用政策を通じた貧困リスクの低減は、政府の役割として重要であることは疑う余地もない。

マイクロファイナンスが貧困層にとって効果がないのであれば、貧困層に対する政府の役割は相対的に大きくなり、融資を有効活用できる低・中所得層をマイクロファイナンスが後押しすればよい。今回のレポートの提言を受けてMFIは落胆も憤慨もする必要はない。むしろ、どの所得階層・地域をターゲットにするのが最も効果的なのかを検討する材料として有効利用できればよいと思う。