外部メディアに掲載された記事の一覧です。

途上国・国際協力ブログを盛り上げるための運営方針、アクセス数(PV)を公表するが重視しない理由

アクセス数(PV)を公表する理由、今後の運営方針

2013年の創刊からもうすぐ3年です。多くの方に支えられ、お蔭様で認知度も少しずつ上がってきました。ありがたいことに、最近では多くの個人・法人の方々から執筆希望や提携の打診を頂く機会が増えてきました。同時に、アクセス数についても質問を受けることが多くなりました。

基本的には、情報は公開して損はないと考えているので、今後はページビュー(PV)などを極力公開していこうと思います。メディアとして胸を張るには、アクセス数はまだまだ少ないと思います。ただ、情報を大っぴらに公開すること公開で、新しいパートナーシップが生まれることを祈っています。

PVの公開に先立って、当面の運営方針をまとめておきたいと思います。

 

PVは重視しない、大衆紙ではなく専門誌として

結論から言えば、The Povertistの運営に関してはPVをあまり意識していません。もちろん、たくさんの方へ読んで頂くことはありがたいことです。しかし、アクセス数よりも、「誰に読んでもらっているか」のほうが大切だと考えています。

広告料を得ることが最終目的なのであれば、大衆ウケのよい「面白ネタ」を幅広く扱うのが良いでしょう。しかし、The Povertistが目指しているのは大衆ウケすることではありません。開発途上国で実務に携わる人へ有益な情報を提供し、情報を発信してもらう。開発途上国の援助やビジネスに携わる人が情報提供の受け手となり、発信の担い手となる。そのような場を提供することがThe Povertistの目指すメディア像です。

開発途上国における活動という閉じられた世界に新しい情報の流れを作ることで、開発途上国の実務へ良い影響を与えることを追求していきたいと思います。実際、掲載記事からお問い合わせ頂き、調査・報告書・論文作成の参考、案件立案の参考にしていただいている例もあります。

PVは一つの指標として参考としつつも、あくまで大衆紙ではなく専門誌として今後も運営を強化していきたい次第です(※PVを否定しているわけではありません)。

 

非営利目的か営利目的か?マネタイズはしないのか?

メディアによって非営利か営利に分かれると思います。The Povertistの目的はご説明の通り、非営利です。専門誌として果たすべき役割を達成することを第一に考えています。関心はあくまでもPVに連動する広告料の獲得ではなく、誰に読んでもらい、どう情報を使ってもらうかです。

一方、「収益を上げることを考えているか」という点については、どこかのタイミングでマネタイズしていくのが現実的な路線だと思います。理由は2つあります。

1つ目は、運営・維持です。現在に至るまで、The Povertistではウェブサイトを積極的にマネタイズしておらず、運営にかかるほぼ全ての費用は編集部が負担しています。もちろん将来的には、より有益なコンテンツ作成へ投資したり、持続的に運営していくための維持費を確保する必要があるでしょう。本来果たすべき目的を貫いた上で、収益が上がるのであれば、その収益を社会へ還元する方法を考えればよいと思います。専門誌としての形を維持したまま広告料で運転資金を賄うことができるのであれば、それを否定する理由はないと思います。

2つ目は、開発援助の新しいビジネスモデルです。個人的にはそもそも、「非営利か営利かという問い」がもはや現在のビジネスモデルに合わない「時代遅れの問い」だと思っています。世界の開発援助資金の分布を考えると、民間資金の比率が公的資金よりも大きくなってきています。たとえば、マイクロソフトのビル・ゲイツさんが設立したゲイツ財団は日本の政府開発援助(ODA)と協力してパキスタンやナイジェリアへポリオ撲滅支援を行っています。フェイスブックのマーク・ザッカーバーグさんが財団を設立したことも記憶に新しいと思います。つまり、営利目的の経済活動で得た資金を開発援助へ活用する流れが、開発援助の主流となりつつあります。何が言いたいかというと、収益を上げること自体を否定する必要はないということです。稼げるのであれば稼げばよいし、稼いだら社会に還元すればよいと思います。

とはいえ、The Povertistの目的はあくまで非営利であり、本格的にマネタイズを検討するとしても、まだまだ先のことだと思います。

 

ストック型とフロー型、記事のタイプに関する考え方

The Povertistで掲載している記事には大きく2つのタイプがあります。ストック型とフロー型の記事です。ストック型は、長く読まれる作りこまれた記事のことで、オピニオン解説記事などが含まれます。一方、フロー型は速報性の高い記事で、ニュース記事などがこれにあたります。

今後の方針としては中長期的には、ストック型の記事を増やしていくことを目標としています。例えるならば、新聞ではなく週刊誌です。これは、The Povertistの目指すメディア像が、「実務家が情報や意見(オピニオン)を共有し合う場」にあるからです。

一方、現在、フロー型のニュース記事(海外メディアの要約・キュレーション)も発信しています。本来であれば、速報性の高いニュースについては、大手の新聞社などが強みを持つ分野であり、私たちのような小規模メディアには活躍の場がありません。しかし、現状では開発途上国のニュースをカバーするメディアは日本にはほとんどありません。他のメディアがカバレッジを拡大するまでは、The Povertistで速報性の高いニュース記事を掲載していくことも一定の価値があると感じています。ただ、独自の取材能力は有していないため、現地メディアが報じたニュースの要約となることがほとんどです。記事の正確性などについては、ソース元でご確認いただく必要があります。

 

国際協力ブログ界を盛り上げるために

開発途上国へ関心を持つきっかけとなるブログやオンラインマガジン・メディアは随分増えてきました。しかし、そこから一歩踏み込んだ情報に触れるメディアは多くありません。開発途上国で開発援助やビジネスを生業とする実務家や研究者にとって有益なメディアを目指すことで、日本の国際協力ブログ界を一層盛り上げていければと思います。国際協力・開発援助に関して、「もっと踏み込んで考えたい」、「議論したい」と思う方の受け皿となるべく、今後も続けていきたいと思います。

 

以上、今後の方針、PVを公開する理由、PVを重視しない理由を説明させていただきました。

面白いコラボを心待ちにしています!是非、こちらからご連絡ください。

フィリピン貧困率が改善、主観的貧困の社会調査結果

フィリピンで主観的貧困率が改善

フィリピンで実施された社会調査(Social Weather Stations Survey: SWS)によれば、主観的貧困率と食糧貧困率の両方で改善が見られるようだ。

3月30日から4月2日にかけて実施されたこの調査は、対象世帯に「貧困と感じているか」回答してもらうアプローチをとっている。サンプル数は1,500世帯。

その結果、主観的貧困率は46%(1,150万世帯)だった。昨年12月の50%(1,120万世帯)と比べると改善傾向にある。70万人が貧困から脱出した計算だ。

 

主観的貧困率と貧困率の両方が改善

5月19日に掲載した記事で、フィリピン統計機構(PSA)が実施した2015年の世帯調査結果を報告した。PSAの調査によれば、貧困率の全国平均は27.9%から26.3%へ改善というものだった。

一般的に、政策判断を行う際には、貧困の計測方法は複数採用すべきとされている。これは、貧困が経済だけでなく、複合的な原因から定義されるとの理解に基づくもの。

したがって、客観的に消費・所得で計測するPSA調査のパターンと、SWSの主観的貧困(貧困層の自覚を聞く)の両方をあわせて貧困分析することは非常に良い事案といえる。

今回の場合、経済的尺度で計測した貧困率と、貧困層の感覚的な貧困率(主観的貧困率)の両方が改善傾向にあるという結果だ。調査期間が若干異なるため、一概には言えないが、フィリピンの貧困削減は順調に進んでいると見ることができるだろう。

ただし、地域間格差が広がっているとの数値が出ているため、全国平均だけで社会経済状況を把握することはできないことに留意したい。

 

 

チャドで食糧危機、200万人が飢餓に直面、サブサハラアフリカの天候不順が原因

サブサハラアフリカの中央に位置するチャド。同国サヘル地域に居住する200万人が飢餓の危機に直面している。これはチャドの人口の約半数にあたる規模だ。

これは世界食糧計画(WFP)が発表したもので、必要最低限の食糧需要を満たすためには、国際的な援助が不可欠な状況のようだ。

こうした食糧安全保障の危機的状況は、2015-16年に起こった不規則な降雨に大きな原因がある。その結果、食糧生産高は昨年比11%減となった。また、治安維持を目的としてナイジェリア国境を封鎖したことで食糧貿易が減少したことも原因として考えられるようだ。

世界銀行がホストコミュニティ支援に175百万ドル、アフリカの角難民

「世界の関心が中東地域の難民問題に集まっているが、アフリカで長期化している難民問題にもっと目を向けなければならない」世界銀行キム総裁は語気を強めた。

アフリカの角と呼ばれる東部アフリカ諸国で、世界銀行がホストコミュニティ支援を開始する。1990年代初頭から続くソマリアからの国外避難民問題が隣国の国内問題化しつつある。実際、ケニア政府は世界最大のダダブ難民キャンプを閉鎖すると発表し、国際社会のケニアに対する支援が不足していることを訴えてきた。

世界銀行はこうした状況に対応するために、周辺のホスト国に対して大規模な資金援助を実施する。エチオピアへ100百万ドル(約110億円)、ウガンダへ50百万ドル(約55億ドル)、ジブチへ20百万ドル(約22億円)を、最貧国向け優遇条件での貸付枠組み(IDA)を通じて融資する。また、アフリカの角地域の干ばつ対策などに強みを持つ地域国際機関(Intergovernmental Authority on Development: IGAD)に対しては5百万ドル(約6億円)を無償提供する。案件名は、「The Development Response to Displacement Impacts Project (DRDIP)」。

アフリカの角地域では、950万人が移動を余儀なくされている。この内、650万人は国内避難民(IDPs)、300万人が国外避難民と見られ、地域が一丸となった対応が求められている。

こうした国際機関によるホスト国に対する支援は、難民受入国の負担を軽減するだけでなく、地域経済・社会に対しても好影響を与えることが期待される。

 

 

協力隊ブログを探すにはここで決まり!

協力隊ブログを探すにはJICA.INFOで決まり!

国際協力を志す人の多くが、青年海外協力隊(JOCV)への参加を検討したことがあるのではないでしょうか。前回の記事で、協力隊公式ブログの存在をお伝えした。記事のタイトルが、「青年海外協力隊の公式ブログはAKB48のビジネスモデルなのか?」と、センセーショナルだったためか、多くの反響を頂いてありがたい限りだ。

さて今回は、公式ブログとは別に、協力隊ブログを検索する方法があったのでお伝えしたいと思う。実は、JICA.INFOというサイトが存在する。URLはJICAの公式ページのように見えるが、オフィシャルメディア一覧表にないことから考えれば、JICA.INFOは公式ページではなさそうだ。

ただ、ここであえて紹介したいのは、そのカバレッジ。なんと、1,000名近くの協力隊の個人ブログが集約されており、年次、分野別に検索が可能だ。また、新着記事もリスト化されており、気になる地域、分野、年次の協力隊の活動を知るには最も使いやすい検索システムかもしれない。

ウェブサイトが若干重いのが玉に瑕だが、それを差し引いても利用価値の高いサイトだ。是非、トライしてみてほしい。

インドHIV感染拡大、輸血で2,200人以上が感染

輸血が原因で2,234名の感染が確認されたことを、インドの現地メディアが報道した。これはインド政府が実施した調査結果で、過去17ヶ月間だけでこれだけの被害が報告されたとのこと。

今回の事故は広く分布しており、ウッタルプラデシュ州(361件)、西部グジャラート州(292件)、西部マハラシュトラ州(276件)、ニューデリー(264件)だった。

1980年代に日本国内で発生した薬害エイズ事件では1,800名の感染が報告されて社会問題となったが、今回のインドのケースはそれをはるかに凌ぐ規模。

こうした深刻な状況にもかかわらず、病院や血液バンクなどに対して具体的な指導や規制が行われていないことに、現地のアクティビストなどが声を上げている。

 

 

編集長が独断と偏見で選ぶ厳選記事5本(2016年5月)

編集長が独断と偏見で選ぶ厳選記事5本

5月に公開した記事の中から、独断と偏見で5本選びました。アクセスランキングだと、月初に公開したものがどうしても有利となってしまい、月末の良質な記事が埋もれてしまいます。それをここで掘り起こしたいと思います。それでは行ってみましょう。まだ、読んでいない記事があれば、この機会に是非「一気読み」してください!

 

送金しない送金サービスTransferWise

TransferWiseという新しい送金サービスの紹介記事です。IT技術を使った新しい送金システムが面白いです。

 

世界銀行がカンボジアへ5年ぶりに融資再開、4案件130百万ドルを承認

世界銀行がカンボジアで新規案件を5年ぶりに開始します。経済成長著しいカンボジアに、さらに心強い助っ人が現れました。

 

中国、南スーダンへ200万ドル相当の非食料物資援助

オンラインメディアが未発達な南スーダンから生の声です。南スーダンでの中国の動きがよくわかる記事です。

 

ケニア政府がダダーブ難民キャンプ閉鎖、ホスト国支援の必要性を考える

世界最大の難民キャンプ閉鎖に伴い、国際社会はホスト国支援の在り方を考え直す必要があるかもしれません。

 

開発途上国の経済成長の影、伝統と発展のジレンマ

開発途上国が経済発展していくことは嬉しい反面寂しさも伴います。この気持ちを開発事業へどのように生かしていくべきでしょうか。

最も読まれた記事 TOP 10(2016年5月)

1ヶ月で最も読まれた記事TOP10

5月に公開した記事の中で、最もアクセスの多かった記事を紹介します。まだ、読んでいない記事があれば、この機会に是非「一気読み」してください!

 

1位 カンボジアで数十年に一度の旱魃発生

カンボジアで数十年に一度の干ばつが発生し、地方部を中心に被害が報告されました。エルニーニョの影響が世界中で報告される中、カンボジア経済にも打撃を与えているようです。

 

2位 世界銀行が「開発途上国」カテゴリをデータベースから削除

世界銀行が公開したデータベースから、「開発途上国」と「先進国」の区分けがなくなりました。SDGsが全世界を対象とした目標であることから、世界を二分する意味が薄れてきたことが問題意識のようです。

 

3位 青年海外協力隊の公式ブログはAKB48のビジネスモデルなのか?

国際協力機構(JICA)が派遣している青年海外協力隊の公式ブログについてコミカルにまとめた記事です。タイトルがセンセーショナルなためか、人気を集めた記事です。

 

4位 サセックス大学開発学研究所(IDS)、開発業界のこれまでと今後の展望

これまで開発業界を牽引してきた世界的研究機関が、今後の展望を発表しました。開発業界で働く方々の関心が高いようです。

 

5位 自由の橋へのアクセス道路開通-南スーダン

JICAの支援によって南スーダンに道路が開通しました。オンラインメディアが未発達な南スーダンから、現地駐在員が直々のレポートです。

 

6位 途上国ブログマガジンがいま一つパッとしない理由

月末に公開された記事ですが、ランクイン。挑発的なタイトルに反感を持って訪れた読者の皆様が多いのか、あるいは共感を呼んだのかは定かではありません。

 

7位 開発途上国の貧困の定義と計測方法のまとめ

開発途上国の貧困の定義と計測方法について、イメージで理解することを目標にまとめた記事です。こうした「お役立ち」系の記事も増やしていければと思います。他のセクターのまとめ記事を書いてくれる方、大募集です。

 

8位 持続可能な開発目標(SDGs)推進本部長に安倍首相、日本政府

この記事も月末公開ですが、ランクイン。首相が本部長に就任することが珍しいため、注目を集めたようです。

 

9位 UNDP東ティモール事務所 岡田絵美さん

UNDP東ティモール事務所でJPOとして勤務中の岡田さんのインタビュー動画です。現役国連職員のインタビューということで注目を集めたようです。

 

10位 国際協力の資質、開発途上国の援助に必要な専門性とは?

意見が割れそうなトピックだけに、注目を集めたようです。これといった答えはありませんが、一つの方向性を示そうとした記事です。

JICAがベトナムの経済インフラ・環境整備へ1,661億円支援

ベトナムの順調な経済成長と貧困削減、中長期的な課題は?

高度経済成長を続けるベトナム。1990年代以降、順調に経済成長を続け、低中所得国入りも達成した。社会指標の改善も著しく、1998年から2014年の間に、貧困率は37.4%から8.4%まで改善した。

今後、持続可能な経済成長を実現するためには、経済インフラ整備や投資環境整備と、貧困率の高い農村部への梃入れが必要とされているようだ。

 

ベトナム経済の底上げと脆弱性の克服へJICAが支援

5月28日、国際協力機構(JICA)がベトナム政府と3事業、1,661億2,400万円を限度額とする円借款貸付契約を調印した。支援事業は、鉄道、電力、下水道整備の3事業。経済成長の加速と脆弱な都市環境の整備の両面で支援を行う。

ホーチミン市都市鉄道建設事業(約902億円)

都市鉄道の整備によって、交通渋滞と大気汚染の緩和を見込む。ベトナム随一の経済都市ホーチミン(旧:サイゴン)の経済インフラを整備することで地方経済の発展を促す狙いもある。日本の技術活用(日本企業の受注)を条件とすることで、譲許性の高い貸付条件となっている(本邦技術活用条件:STEP)。

タイビン火力発電所及び送電線建設事業(約550億円)

経済成長著しいベトナムにおいて、電力供給能力の強化は喫緊の課題となっている。同事業では、ベトナム産石炭で運用する発電所を整備する。資源輸入に依存しない電力供給を実現することで、ベトナムの経済成長を一層後押しする狙いがある。

ホーチミン市水環境改善事業(約210億円)

ホーチミン市の下水道・排水システムを整備することで、汚水処理能力の向上と浸水被害の軽減を図る。経済インフラだけでなく、脆弱な都市機能を強化することで市民の生活の安定と環境にやさしい経済成長を実現する。環境・気候変動関連事業に適用される譲許性の高い貸付条件での融資。

 

日本が援助したチリの鮭養殖産業で環境問題?経済・社会的な貢献も忘れてはいけない

ハフィンポスト掲載記事がチリ鮭養殖産業を批判

5月27日付でハフィンポストに掲載された記事が話題を集めている。「日本のスーパーで売られているチリ産の鮭を地元の人が食べない理由」と題した記事は、チリの養殖産業の闇に問題提起を行う内容だ。著者の主張は大まかに言えば、以下のとおり。

  • 鮭のエサが原因で、海が富栄養化されて赤潮の原因となっている。
  • 鮭の寄生虫対策に使われる殺虫剤で、他の海洋生物が死んでいる。
  • 鮭の病気対策に多量の抗生物質が使われている。養殖場の鮭の密集度が高すぎて多くの鮭が死んでいる。
  • 鮭の養殖産業で収入を得る人が増えるかもしれないが、他の海洋生物(魚介類)を採って生活している人は職を失っているおり、何より環境破壊が深刻だ。

上記の記事は、精緻な調査をした上で書かれた報告ではないことに留意する必要がある。知人の話などが議論の根幹を支えている点でどこまで信頼できる話かは疑わしい。また、別の報告では、養殖産業については触れず、気候変動の影響を指摘するものもある。

これらを鑑みれば、海洋生物の大量死と鮭の養殖産業の因果関係を認めるだけのエビデンスは揃っていないと思われる。国や地域レベルの政策的な議論を行うためには精緻な調査結果を待ちたいところだ。

日本の技術協力から世界第2位の一大産業へ成長

チリ鮭の養殖産業がもたらした経済・社会的なインパクトを無視して、こうした政策的な議論を行ってはならないだろう。

もともと、チリの鮭養殖産業は、JICAの技術協力によって生まれた経緯がある。つまり、日本の技術によって新しい産業が生まれたのである。1970年代に技術協力が開始されて以来、「鮭産業の奇跡」と形容されるまでに産業が成長した。今では、ノルウェーに次ぐ世界第二位の巨大産業だ。チリ産の鮭は、世界の供給量の3分の1を占める。

当然、新しい産業が生まれたことによって多くの雇用が創出され、貧困層の所得が向上したという報告もある。

チリの鮭養殖産業の歴史や経済・社会的インパクトの検証については、JICA研究所が実施した研究が詳しい。今月Springer社から出版された『Chile’s Salmon Industry: Policy Challenges in Managing Public Goods』や、2010年に纏められたプロジェクトヒストリー『南米チリをサケ輸出大国に変えた日本人たち~ゼロから産業を創出した国際協力の記録~』も参照されたい。

上記のハフィンポストの記事がどれ程の規模の話なのか、全容が報告されていないので判断が難しいところだが、政策的な議論を行う場合は同産業の貢献度についても冷静かつ正しく評価する必要があるかもしれない。その上で、チリ政府はガイドラインの整備や業務改善に関する政策を立案するかもしれない、日本や他国の技術協力を求めるかもしれない。精緻な調査報告とエビデンスに基づく議論を待ちたい。