持続可能な開発目標(SDGs)実施指針の骨子に関する意見書

外務省が2016年10月に実施した「持続可能な開発目標(SDGs)実施指針の骨子についての意見募集(パブリックコメント)」に対して、意見書を提出しました。意見書の詳細はこちらからご覧ください。

UHCと社会保障・不平等是正の関連性、SDGs実施指針へパブコメ提出

外務省が実施中の「持続可能な開発目標(SDGs)実施指針の骨子に関するパブリックコメントの募集」に対し、意見書を提出しました。ここでは要点を絞って、ご紹介したいと思います。

今回提出した意見は、国外の取り組みに係るもの。これらは新しい事業形成を促すものではなく、日本がこれまで実施してきた取り組みや現在実施中の取り組みの「見せ方(発信の仕方)」を工夫することで、日本のSDGsへの貢献をより効果的に国際社会へ発信することを念頭に置いています。

ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)を社会保障と不平等是正と関連付ける
総論として、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)を通じた日本の取り組みを、UHC(SDG 3.8)だけでなく、社会保障(SDG 1.3)や不平等是正(SDG 10.4)とも関連付けて指針を検討し、より多くのチャンネルで国際的に発信をしていくことを提案します。

ミレニアム開発目標(MDGs)からSDGsへの移行で最も大きな変化は、貧困の削減から撲滅へと舵を切ったことにあります。つまり、貧困撲滅を念頭に置いた場合、貧困状態から脱出した低所得者層・中間層が再び貧困状態に陥らないための政策・制度設計が重要となるわけです。

開発途上国の低所得者層・中間層は、病気・災害・高齢化など、ライフサイクルで誰にでも起き得るショックによって貧困へ陥るリスクをはらんでいます。したがって、貧困撲滅を掲げるSDG 1の重要なアプローチとして、社会保障システム(健康保険、老齢年金、失業保険、生活保護等)の包括的な整備が、2030年までの喫緊の課題として国際的に認知されている(SDG 1.3)のは必然といえるでしょう。

日本が推進するUHCのコンポーネントには既に、貧困層に対する健康保険(医療保険)の拡充が入っています(参照:ケニア国「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの達成のための保健セクター政策借款(JICA)」)。その点で、社会保障の拡充を促すSDG 1.3とは深い関連性があると言えます。

また、UHCと社会保障を関連付けるのであれば、不平等是正(SDG 10.4)への貢献も関連付けることが可能となります。UHCのコンポーネントにある貧困層に対する健康保険の拡充に関する政府予算は、開発途上国では税財源となることが多いです。開発途上国の低所得者層は保険料を免除(減額)されることが多く、社会保障制度が所得再分配(不平等是正)の役目を果たすことが期待されています。

以上を踏まえれば、日本政府が既に行っているUHCに関する開発援助を、UHC(SDG 3.8)だけでなく社会保障(SDG 1.3)や不平等是正(SDG 10.4)と関連付けることは大きな可能性を秘めています。これによって、社会保障や不平等といった保健以外のチャンネルで日本の貢献を国際的に発信することが可能となると考えられます。

関連記事
日本政府がSDGs実施指針の骨子に関するパブリックコメントを募集(2016年10月21日掲載)
持続可能な開発目標(SDGs)実施指針の骨子に関する意見書(全文)

最も読まれた記事 TOP 10(2016年10月)

1ヶ月で最も読まれた記事TOP10
9月に公開した記事の中で、最もアクセスの多かった記事を紹介します。まだ、読んでいない記事があれば、この機会に是非「一気読み」してください!

1位 インドの「待てば待つほど安くなる」病院
医者不足、設備不足、長い待ち時間、高い診察料金、病院に行く電車賃、、インドの農村部には、数多くの課題があり、死亡率が下がりません。The Lancetによると、インドでは、医者不在の医療施設が2千以上あり、5千以上の施設に薬剤師がいません。

2位 アフリカ南部マラウイ農村での収入向上の課題
現在、青年海外協力隊としてマラウイに住み始めて10か月。「任地コタコタ県の農民の収入向上」について、マラウイ人と向き合いながら考えてきた。どうやったら農民の収入は向上するのか。マラウイ農村部に実際に住んだ経験を通じ、「何でマラウイの農民は貧しいのか」について纏めてみたいと思う。

3位 フィリピンにおけるユニバーサル・ヘルス・カバレッジと保健所
フィリピンの首都マニラには、回避可能な疾病から身を守る術をもたない都市貧困層が存在しており、都市内部において健康格差が存在する。彼らは収入のほとんどを食費に費やしており、保健・医療にあてる費用はほとんどない。

4位 途上国の魅力を美味しく楽しくエシカルに、国際協力カフェ
「国際協力」というと、一般的には難しいものだという印象や、自分とは関係のない遠い世界のことだと思う人が多いのではないでしょうか。今世界で国際協力を専門の仕事にしている人の数は、圧倒的にそうでない人より少ないはずです。2015年までの達成を目指したミレニアム開発目標(MDGs)を達成することができなかった今、本当に国際協力は、国際協力に携わる人だけが取り組めば良いものなのでしょうか?

5位 ザンビアの藻「スピルリナ」がアフリカから栄養革命を起こす
フィリピンの首都マニラには、回避可能な疾病から身を守る術をもたない都市貧困層が存在しており、都市内部において健康格差が存在する。彼らは収入のほとんどを食費に費やしており、保健・医療にあてる費用はほとんどない。

6位 フィリピン大統領とJICA理事長が面会へ、鉄道などインフラ案件への資金協力を議論
フィリピンのドゥテルテ大統領が日本を公式訪問している。26日には安倍首相と会談する予定。また、27日には国際協力機構(JICA)の北岡理事長がドゥテルテ氏を表敬訪問すると地元紙が伝えている。同紙によれば、鉄道を含む、複数の案件に対する資金協力について話し合う見込み。

7位 ミャンマーでコメ価格下落、カンボジアに続き
カンボジアでコメ価格の下落が深刻な水準にあると報じられたが、ミャンマーでも同様のトレンドがあるようだ。首都ネピドーの市場価格は過去一ヶ月で約30%の下落を記録している。

8位 スリランカで戦略的都市開発プロジェクト、世界銀行
世界銀行がスリランカの戦略的都市開発プロジェクトを支援する。融資総額は202百万ドルで、案件計画額は257.08百万ドル。差額はスリランカ政府の自己資金で賄う。

9位 ミャンマーで大規模灌漑事業、アジア開発銀行が農業セクター支援
アジア開発銀行(ADB)がミャンマーで大規模な灌漑設備の改修事業を計画している。地元紙の取材に対してADBミャンマー事務所長は、「事業は2017年第一四半期を目処に開始される」と話した。

10位 ベトナムの最低賃金と税制改革、巨大なインフォーマル経済の影
ベトナム政府は2017年の最低賃金を7.3%引き上げることを発表した。これによって最低賃金は月375万ドン(約1.65万円)となる。労働者側の11%と企業側の5%の賃上げ要望に対し、妥協点がその中間に落ち着いた形だ。

ベトナム政府が持続可能な貧困削減に関する新たなプログラムを策定

ベトナム政府が持続可能な貧困削減に関する新たなプログラムを策定した。これは貧困削減に関する国家目標を達成するためのプログラムであり、2016~2020年の五ヶ年計画となる。

プログラムは、国全体で年1%~1.5%、貧しい地域では4%、少数民族の多い地域では3%~4%の貧困世帯数の削減を目標に掲げている。

この目標を達成するために、個別世帯の所得と生活の質の向上をプログラムを通じて目指しており、貧困世帯の一人あたり所得を2020年までに1.5倍とする計画(貧困層の多い地域では2倍)。

地元紙の報道によれば、同プログラムは2.2億円規模。ベトナム政府は既に、このほか21プログラム(約29億円規模)を採択済みであり、同プログラムは政府の貧困削減計画の一部と考えられる。

なお、プログラムの具体的な詳細計画は報道されていない。

参照元:Poverty reduction plan for 2016-2020 announced

国際協力キャリアフォーラム-大学院進学・就職相談のプラットフォーム

開発途上国で国際協力を仕事として考えている方のために、「国際協力キャリアフォーラム」を開設しました。国際協力をキャリアとして考えている方からの質問に、私がお答えするフォーラムです。キャリア相談にはできる限り応えていきたいと思いますので、遠慮なくトピックを立ててください。 さらに読む

カンボジアの貧困問題、現在の状況と見通し

※この記事は2016年に書かれたものです。カンボジアの貧困と開発に関する最新の記事一覧をこちらからご覧いただくことができますので、あわせてご覧ください。
世界銀行が2016年7月1日、カンボジアのマクロ経済見通し(Economic Outlook)を公開した。新しい世帯調査の結果を反映したものではいため、貧困指標(貧困率、貧困ギャップ率など)のアップデートは行われていないが、最新のマクロ経済状況を元に貧困を分析している点については参考になる。ここでは、世界銀行の報告書から貧困問題に関するポイントをまとめてみた。

カンボジアは低所得国から卒業
2015年の一人当たり国民総所得(GNI)は$1,070だった。これは低所得国の基準値$1,025を上回る水準。世界銀行は2017年からカンボジアを中低所得として扱うこととなる。なお、一人当たりGNIによるカテゴリ分けは、世界銀行を含む国際金融機関の貸し付け条件の目安となることが多い。

貧困削減の主役が農業から縫製業と建設業へ
カンボジアは農村部の農業の成長によって、貧困削減を進めてきた。しかし、最近では貧困削減の主役は縫製業と建設業に移りつつある。近年は天候不順によって農業の成長が芳しくなく、今年はエルニーニョ現象で干ばつの被害もあった。こうしたことから、世界銀行は貧困削減の担い手が農業から縫製業や建設業へと移っていると分析している。

都市部と農村部で異なる貧困削減の要因
都市部と農村部では貧困削減のドライバー(主役)が異なる見方もある。都市部では縫製業、建設業、サービス業が主役。農村部では農業収入の家計に占める割合が急速に縮小している。農村部の低所得者層40%の収入の内、農業収入は25%に留まる。収入源の多様化は食糧価格の下落による負の影響を軽減したと捉えることもできるが、同時に、農業収入の低下という側面も無視できない。

絶対的貧困は減少したが、脆弱層は減らず
絶対的貧困層は減少傾向にある。しかし、貧困線を少しだけ超えたところに多くの人々が留まっている。中間層への厚い壁を打破するためには、低所得者層の人間開発(教育、保健、衛生等)を改善する必要があるとの見方を世界銀行は示している。

poverty-and-vulnerability-cambodia-2016
結論
貧困削減は引き続き継続されるも、そのペースはこれまでより緩やかなものになる見通し。

関連記事
Ly, S. et al 2016. Cambodia economic update : enhancing export competitiveness the key to Cambodia’s future economic success.
カンボジアの貧困問題の現状と見通し(2016年10月30日公開)

カンボジア、気候変動が稲作へ影響、2030年までにコメ価格が倍増の見込み

カンボジアで気候変動の影響が顕在化しつつある。最近の調査によれば、カンボジアの稲作セクターは政府が気候変動に対応しない限り、最も悪影響を受けるセクターのようだ。

Hong/Furuyaが実施した調査によれば、コメ価格は2030年までに倍増する可能性がある。最悪のケースでは、1トンあたり1.52百万リエル(370ドル)の上昇が見込まれる。これは、昨年12月の価格水準(1トンあたり420ドル)の88%増にあたる。

カンボジア国民の主食はコメであることから、このようなコメ価格の急なインフレが生じると貧困層への影響が懸念される。

「貧困世帯は所得の60~80%を食費に費やしている。もしコメ価格が上昇すれば、貧困層の保健サービスや教育へのアクセスに悪影響が生じることは避けられない。対策としては、コメ価格の急上昇を予防する対策を政府がとること。」とHongは指摘する。

参照元:Climate change could cause rice prices to nearly double by 2030

国際協力キャリア、学生時代にやっておくべきことは?

(この記事は、2012年に実施したアイパル香川での高校生向けの講演会の質疑応答を元にしています)

日本以外の世界へ目を向けてください。僕は北海道の田舎町の出身で町民の大多数はその町で生まれ、外国のことなどはあまり知りません。 さらに読む

途上国で働いたり、生活したりする中で大変だったことは?

(この記事は、2012年に実施したアイパル香川での高校生向けの講演会の質疑応答を元にしています)

僕の場合は、行く国が治安の悪い地域が多く、出張先で徒歩での外出禁止がほとんどでしたので、趣味や体を動かす機会をどう確保するかがいつも課題です。 さらに読む

国際協力に携わる中で、難しいと感じることは?

(この記事は、2012年に実施したアイパル香川での高校生向けの講演会の質疑応答を元にしています)

国際協力には色々な立場と利害関係を持った人が関わっており、それぞれの立場を理解しなければ何事も上手く進まないことが多々あります。それが難しい点です。 さらに読む