外部メディアに掲載された記事の一覧です。

JICAがベトナムの経済インフラ・環境整備へ1,661億円支援

ベトナムの順調な経済成長と貧困削減、中長期的な課題は?

高度経済成長を続けるベトナム。1990年代以降、順調に経済成長を続け、低中所得国入りも達成した。社会指標の改善も著しく、1998年から2014年の間に、貧困率は37.4%から8.4%まで改善した。

今後、持続可能な経済成長を実現するためには、経済インフラ整備や投資環境整備と、貧困率の高い農村部への梃入れが必要とされているようだ。

 

ベトナム経済の底上げと脆弱性の克服へJICAが支援

5月28日、国際協力機構(JICA)がベトナム政府と3事業、1,661億2,400万円を限度額とする円借款貸付契約を調印した。支援事業は、鉄道、電力、下水道整備の3事業。経済成長の加速と脆弱な都市環境の整備の両面で支援を行う。

ホーチミン市都市鉄道建設事業(約902億円)

都市鉄道の整備によって、交通渋滞と大気汚染の緩和を見込む。ベトナム随一の経済都市ホーチミン(旧:サイゴン)の経済インフラを整備することで地方経済の発展を促す狙いもある。日本の技術活用(日本企業の受注)を条件とすることで、譲許性の高い貸付条件となっている(本邦技術活用条件:STEP)。

タイビン火力発電所及び送電線建設事業(約550億円)

経済成長著しいベトナムにおいて、電力供給能力の強化は喫緊の課題となっている。同事業では、ベトナム産石炭で運用する発電所を整備する。資源輸入に依存しない電力供給を実現することで、ベトナムの経済成長を一層後押しする狙いがある。

ホーチミン市水環境改善事業(約210億円)

ホーチミン市の下水道・排水システムを整備することで、汚水処理能力の向上と浸水被害の軽減を図る。経済インフラだけでなく、脆弱な都市機能を強化することで市民の生活の安定と環境にやさしい経済成長を実現する。環境・気候変動関連事業に適用される譲許性の高い貸付条件での融資。

 

日本が援助したチリの鮭養殖産業で環境問題?経済・社会的な貢献も忘れてはいけない

ハフィンポスト掲載記事がチリ鮭養殖産業を批判

5月27日付でハフィンポストに掲載された記事が話題を集めている。「日本のスーパーで売られているチリ産の鮭を地元の人が食べない理由」と題した記事は、チリの養殖産業の闇に問題提起を行う内容だ。著者の主張は大まかに言えば、以下のとおり。

  • 鮭のエサが原因で、海が富栄養化されて赤潮の原因となっている。
  • 鮭の寄生虫対策に使われる殺虫剤で、他の海洋生物が死んでいる。
  • 鮭の病気対策に多量の抗生物質が使われている。養殖場の鮭の密集度が高すぎて多くの鮭が死んでいる。
  • 鮭の養殖産業で収入を得る人が増えるかもしれないが、他の海洋生物(魚介類)を採って生活している人は職を失っているおり、何より環境破壊が深刻だ。

上記の記事は、精緻な調査をした上で書かれた報告ではないことに留意する必要がある。知人の話などが議論の根幹を支えている点でどこまで信頼できる話かは疑わしい。また、別の報告では、養殖産業については触れず、気候変動の影響を指摘するものもある。

これらを鑑みれば、海洋生物の大量死と鮭の養殖産業の因果関係を認めるだけのエビデンスは揃っていないと思われる。国や地域レベルの政策的な議論を行うためには精緻な調査結果を待ちたいところだ。

日本の技術協力から世界第2位の一大産業へ成長

チリ鮭の養殖産業がもたらした経済・社会的なインパクトを無視して、こうした政策的な議論を行ってはならないだろう。

もともと、チリの鮭養殖産業は、JICAの技術協力によって生まれた経緯がある。つまり、日本の技術によって新しい産業が生まれたのである。1970年代に技術協力が開始されて以来、「鮭産業の奇跡」と形容されるまでに産業が成長した。今では、ノルウェーに次ぐ世界第二位の巨大産業だ。チリ産の鮭は、世界の供給量の3分の1を占める。

当然、新しい産業が生まれたことによって多くの雇用が創出され、貧困層の所得が向上したという報告もある。

チリの鮭養殖産業の歴史や経済・社会的インパクトの検証については、JICA研究所が実施した研究が詳しい。今月Springer社から出版された『Chile’s Salmon Industry: Policy Challenges in Managing Public Goods』や、2010年に纏められたプロジェクトヒストリー『南米チリをサケ輸出大国に変えた日本人たち~ゼロから産業を創出した国際協力の記録~』も参照されたい。

上記のハフィンポストの記事がどれ程の規模の話なのか、全容が報告されていないので判断が難しいところだが、政策的な議論を行う場合は同産業の貢献度についても冷静かつ正しく評価する必要があるかもしれない。その上で、チリ政府はガイドラインの整備や業務改善に関する政策を立案するかもしれない、日本や他国の技術協力を求めるかもしれない。精緻な調査報告とエビデンスに基づく議論を待ちたい。


 

ベトナムの貧困層向け社会保障案件が始動、世界銀行とUNICEFが支援

世界銀行とUNICEFはベトナムで大規模な社会保障プログラムのパイロットを実施している(Social Assistance System Strengthening Project)。2014年1月に世界銀行が融資を決定した案件で、2019年まで実施される予定だ。案件予算総額は62.5百万ドル(約70億円)。

案件対象地域は、ハザン省、クアンナム省、ラムドン省、チャーヴィン省の4省で、貧困層29.2万人へ現金給付が実施される。

パイロットフェーズでは、実施にかかる全ての流れを作る。対象世帯の選定、ターゲティング、現金給付方法の整備、モニタリング、評価など。

トライアルを経て、いずれはベトナムの貧困削減政策と社会保障制度の主軸となっていくことが期待される。

 

アジア開発銀行、ミャンマー観光業へ300万ドル、貧困削減日本基金より拠出

アジア開発銀行(ADB)がミャンマーの観光業へてこ入れを行う。日本政府がADBに設置している「貧困削減日本基金(Japan Fund for Poverty Reduction: JFPR)」を通じ、300万ドル(約3.3億円)を無償で資金提供する。

案件の支援対象となるのは、伝統工芸や食品などを扱う零細企業。低所得者層が多い小規模ビジネスを支援することで、貧困削減と持続可能な経済成長を目指す。

日本企業の進出が著しいミャンマー。今後、政情の安定が続けば、観光客も一層増えると見られる。

 

参照:ADB, Gov’t inject $3 million into Mon State tourism industry

ザンビア、地方都市で社会保障プロジェクトを開始

リヴィングストンで現金給付事業がスタート

ザンビア南部のジンバブエとの国境の町リヴィングストン。この田舎町に暮らす750世帯が今年、現金給付を受け取る(Social Cash Transfer Programme)。

今後、2ヶ月に1度、世帯あたりZMW280(約3,000円)を受給することとなる。今年の終わりまでに同地区の社会福祉局(Department of Social Welfare in Livingstone)は、2,200世帯を対象とする見込み。

プログラム関係者によれば、現金給付の受給世帯のほとんどは、給付金を収益性のある事業へ投資しているようだ。

なお、プログラムの対象世帯の選定要件や、条件の有無などについては、報道されていない。

 

参照:750 families get cash transfer

ルワンダがアフリカのIDカードのデジタル化について会合開催

ルワンダ政府がデジタル化に関する国際会議を開催した。アフリカ全土から36カ国、域外から29カ国の外交団が首都キガリに集まった。

会合の正式名称は『Second Annual Government Meeting of the ID4Africa Movement』。

アフリカでは、社会保障制度の整備とあわせて国民認証カード(IDカード)の普及が進んでいる。多くの場合、紙媒体での登録と認証ではなく、電子データによる登録が一般的となりつつある。

アフリカ随一のデジタル産業国ルワンダが、今回の会合を開催することは自然なことと感じる。それ以上に、同国だけでなくアフリカ全土でIDカードのデジタル化が急速に進みつつあることに注目したい。

先進国では人権保護を理由に、生体認証や個人情報を国が管理することに否定的な意見が多い。アフリカにおけるデジタル化の流れは、こまで先進国が経験したことの無い開発プロセスを予期させる。

 

参照:Rwanda hosts conference on digitalising African identity cards

途上国ブログを産休・育休中の開発援助のプロに書いてほしい

「産休・育休中にキャリアに取り残されることが怖い」

JICAに勤めていたころ、同僚の何人かにママさん・パパさんになる人がいた。そして、産休・育休に入って数ヶ月したころ、こんな話を本人から聞くことができた。逆に、「忙しすぎて仕事のことなんて考えられない」という人も多く、親や配偶者のサポートがどの程度得られるかによるのだと思う。

しかし、同期が開発途上国で活躍する姿を数ヶ月から一年、遠いところで眺めているのは「焦る」と感じる人も多いようだ。

独身、子供なしの私としては、働くママさん・パパさんたちの事情や苦労なんて10分の1もわかっていないかもしれないけれど、何ができるか考えてみた。

一日15分、グーグルニュースで最新ニュース記事を追う

最新のニュースを追うことは割と容易に始められることかもしれない。私も最近始めたのだが、今のところ1ヶ月以上は続いている。Google Newsで、お気に入りの国やキーワードを検索する。検索結果が表示されたら、「検索ツール」から時間指定を行う。私はここで、「24時間以内」に公開された記事を表示させるオプションを選んでいる。

以下の例では、PovertyとAfricaというキーワードで24時間いないに公開された全世界のニュース記事を表示させている。インドネシアの教育が好きな人であれば、Indonesia Educationといった感じだ。そして、検索結果が表示されたページをお気に入りに登録しておく。

私は昼食後の15分間、私は登録ページを開いて、コーヒーを飲みながら、検索結果を眺めるのを日課としている。

ニュース記事を読んだら、数行でメモとして残す

私の場合、ただ読むだけだと、なかなかモチベーションが上がらないと感じた。そこで、読んだ記事はポイントだけ数行でMicrosoft Wordにメモすることとした。記事に対する所感も加えるとなおよい。

「メモを手元に置いておくだけではもったいない。The Povertistで公開しよう。」そう思って始めたのが、新企画「開発途上国に関するニュース」。

私は、アジアとアフリカの貧困問題と社会保障に関するニュースをフォローしているが、他の方はカンボジアや南スーダンに特化して開発全般をフォローしている。

自分の関心分野のニュースを読み、数行であっても発信することを念頭に置いておくと、驚くほど日課として続けるモチベーションとなる。そして、自分の専門としている国や分野の事情を常にアップデートできるので、キャリアに穴が開くという感覚に襲われずに済むのではないだろうか。

また、需要の観点から補足すると、日本語で読むことができる途上国のニュース記事は極めて少ない。日本語で要約してコメントをつけて発信することで、その分野の日本の第一人者ともなることができる。

ママさん・パパさんからのご連絡お待ちしています。

ジェンダーと社会保障、開発途上国の非正規労働者へ社会保険を届けるためには?

社会保険を非正規労働者へ

開発途上国の非正規労働者(Informal Workers)へ社会保険(Social Insurance)を届けるにはどうすべきだろうか。

開発途上国における貧困削減政策の中心に、社会保障がある。一般的に、社会保障制度のうち、受益者から保険料を徴収するスキームのことを社会保険と言う。

この社会保険制度を非正規労働者へ拡充するにはどうすべきだろう。開発途上国では非正規労働者の割合が7-8割を占めることが一般的。一方、多くの場合、社会保障制度は企業勤めのサラリーマン、いわゆる正規労働者のカバレッジがほとんどで、非正規労働者はカバーされないことが多い。

こうした議論が今、ホットな話題となっている。

 

ジェンダーと社会保険、女性の非正規労働者に注目

英国のシンクタンクODIが今回発表した論文は、スコープをさらにジェンダーに焦点を絞ったもの。女性の非正規労働者は男性に比べ、多くのリスクに直面し、それでいて、社会保険でカバーされないことが多い。

論文の中では、労働市場における法整備、ケアエコノミー、革新的な制度設計、女性がアクセスしやすい制度設計などを扱っている。

ジェンダーと社会保障の専門家の方にとっては、興味深い文献となりそうだ。

 

参考文献 

Holmes and Scott. 2016. Extending social insurance to informal workers: a gender analysis. ODI Working and Discussion Papers

中国農業発展銀行が貧困削減に50兆円の融資計画

中国農業発展銀行(Agricultural Development Bank of China)が、2020年までに3兆元(約50兆円)の貸付を計画していると報じられた。中国政府が進める貧困削減イニシアティブの一環と見られている。

資金の使途は、農村部のインフラ建設、穀物生産、貧しい人々の住民移転、観光、環境、教育など、多岐に渡るとされる。

昨年10月に、中国は7,000万人の貧困層全員を貧困ラインから上へ押し上げることを目標に掲げることを発表した。

今回の大規模なファイナンス計画は、その一環と捉えてよいだろう。

 

参考資料

開発途上国の経済成長の影、伝統と発展のジレンマ

カンダール市場移転計画?カンボジアの首都プノンペンで騒動

カンボジアの首都プノンペンで、経済発展の歪みが生まれている。市内を流れるトンレサップ川にほど近いカンダール市場。ここはプノンペンの地元民の台所だ。王宮にも近く、クメール絵画の画廊、フランス植民地時代の建築物、プノンペン陥落を伝えた外国人記者クラブ跡など、伝統・歴史・文化が数多く残る場所でもある。斯く言う私にとっても、2009~10年にプノンペンに滞在していたときに毎週通っていた思い出の場所でもある。

そんな伝統ある場所が、経済発展の影に隠れようとしている。カンダール市場の周辺では、ここ数年、マンションの建設が着々と進んでおり、カンダール市場のの所在地にも高層ビルの建設計画が噂されているようだ。

行政側は、再開発計画の検討段階にあることは認めたものの、カンダール市場の撤去や移転については具体化していないと否定した。

開発途上国の経済成長と景観や文化の保存

開発援助に携わる者が常に抱えるジレンマがある。開発と景観の両立だ。仕事上は多くの場合、経済合理性を追求することを求められることが多い。一方、開発途上国を訪れて「いいな」と思い、写真を撮るのはローカルの暮らしだったり、伝統だったりする。

例えば、カンボジアの国担当は、仕事上は都市のマスタープラン(開発計画)を作成し、経済発展や貧困削減に寄与する最も合理的な開発計画をカンボジア政府に示す必要がある。それに基づいて、JICAなどの開発援助機関が、道路・交通インフラの整備を支援することとなる。

その過程では住民移転も当然行われるため、アクティビストによる批判に晒されることも多い。当然、開発援助機関は環境社会配慮(セーフガードポリシー)に基づいて、開発途上国政府とともに費用弁済を行い、住民との立ち退き交渉をまとめていくこととなる。

バンコクから物価の安さを奪ったら、東京と同じでは?

このように、すべてが経済的合理性に基づいて進められていくのが、多くの開発事業だ。しかし、その国の個性が失われることに、開発援助従事者としてはジレンマを感じざるを得ない。独自の景観や文化を失った街は、本当に魅力的なのだろうか。

例えば、タイの首都バンコク。多くの日本人観光客がいたり、開発援助やビジネスを展開する会社や国際機関の職員の拠点となっている。私も数回バンコクを訪れたことがある。そこで感じたことは、東京となんら変わりない景観ということだった。空港、地下鉄、市内の道路、建築物。すべてが日本の大都市、東京に酷似していて、面白みを感じなかった。そのためバンコクにはほとんど滞在せず、タイを「感じる」ために地方都市へ行くことが多かった。

物価が安いことから、マッサージやグルメを目的に訪れる観光客が後を絶たないバンコク。しかし、物価が東京都同じくらい高くなったとしたら、タダのありきたりの街になってしまうのではないだろうか。

開発途上国の経済発展と「ローカルっぽさ」の両立。経済的な尺度だけで開発を進めてよいのか。私たちはもっと真面目に考えなければならないのかもしれない。