外部メディアに掲載された記事の一覧です。

アフリカで続く世界銀行の現金給付!ブルンジの貧困層をターゲットにした社会保障に追加支援!

ミャンマーが老齢年金を開始、90歳以上へ社会保障拡充

ミャンマー政府が老齢年金の運用を4月から開始した。2014年12月、ミャンマー政府は国家社会保障戦略[1]を策定した。これは社会福祉・救済再復興省が中心となって作成したもので、8つの社会保障プログラム[2]が含まれる。公的年金はそのうちの一つで、2024年までにカバレッジを380万人(事業規模は対GDP比1.16%)[3]へ増加させる計画だ。

今回実施される老齢年金(National Universal Social Pension Scheme)は、90歳以上の全ての老人を対象に毎月10,000ミャンマーチャット(約800円)の給付を行うもの[4]。ミャンマー第二の都市マンダレーでは4月下旬の時点で4,600人が申請し、行政側で受給資格の確認作業が行われている[5]。老齢年金の申請にあたっては、国民登録証の提出と世帯構成の証明が必要。年金の支払いは3か月に1度実施されることから、最初の支払いは6月となる。

今回のスキームの最大の特徴は、所得水準による受給者選定を行わないことと、税財源を原資とする点である。政治への信頼が薄く、かつ、年金の概念を持たない開発途上国の人々にとって、長期的に保険料を納めることは極めて難しい。したがって、今回のケースのように税財源を原資とする老齢年金スキームから導入を開始することは一般的である。

また、現時点では90歳以上を対象とすることで、受給者を絞っている。今後、スキームの運用と国の発展に伴い、受給開始年齢を引き下げていくことが期待される。なお、ミャンマー政府は老齢年金のパイロット事業を繰り返し実施してきたが、今回は初めてのフルスケールでの実施となる。


[1] 敦賀一平. 2017. 国家社会保障戦略計画(NSPSP)の策定.
[2] 敦賀一平. 2017. 8つの社会保障フラッグシッププログラム.
[3] 敦賀一平. 2017. 公的年金(Social Pensions).
[4] HelpAge. 2017. Myanmar’s national forum on universal social pension held in Pyidaungsu Hluttaw.
[5] Myanmar Times. 2017. Social pensions for the elderly in Mandalay.

ミャンマーが老齢年金を開始、90歳以上へ社会保障拡充

ミャンマー政府が老齢年金の運用を4月から開始した。2014年12月、ミャンマー政府は国家社会保障戦略 を策定した。これは社会福祉・救済再復興省が中心となって作成したもので、8つの社会保障プログラム が含まれる。

ブルンジの貧困層へ社会保障、アフリカで続く世界銀行の現金給付

世界銀行がブルンジの貧困削減戦略を支援

アフリカの小国ブルンジの貧困削減へ世界銀行が40百万ドル(約45億円)を追加投入する[1]。この事業は、最貧困層にターゲットを絞って現金給付を実施する社会扶助(Social Assistance)[2]。世界銀行が推進するソーシャル・セーフティ・ネット(Social Safety Nets: SSN)の枠組みで実施される社会保障スキームの一つ[3]

パイロット地区に居住する4.8万世帯が毎月20,000ブルンジフラン(約1,300円)を受給する[4]。対象世帯の女性が実際の受給者となり、給付期間は30ヶ月。

事業の目的は、絶対的貧困状態にある世帯のうち、子育てを実施している世帯へ定期的に現金給付を実施すること。また、今回のパイロット事業を通じて社会保障給付メカニズムの強化も目指す。

事業のコンポーネントは主に3つある。

  1. メランカバンディ(Merankabandi)現金給付プログラムの設計と実施。現金給付の実施と、人的資本への行動変容を促すことが主目的。
  2. 給付メカニズムの構築。登録データベースおよび受益者情報の管理情報システム(MIS)の試行。モニタリング評価の実施。国家社会保障戦略(NSPS)の実施へ向けた能力強化と分析。
  3. 人権社会問題ジェンダー省(MDPHASG)傘下の実施機関に対する案件管理支援。

限定的な社会保障カバレッジとアプローチの非効率性

受益者選定(ターゲティング)について触れておきたい。世界銀行が実施する他の現金給付プログラムと同様に、この事業でも受益者選定には複数のターゲティング手法を併用される見込み[5]。具体的には地域を選定する手法(Geographical Targeting)、コミュニティが受益者選定する手法(Community-based Targeting)、年齢等のカテゴリーで選定する手法(Categorical Targeting)、プロキシ・ミーンズ・テスト(Proxy-Means Test: PMT)。

これらのターゲティング手法の中で世界銀行が推進しているのがPMTである。しかし、最近ではPMTの非効率性についてはエビデンスが少しずつ揃いつつある。PMTは経済水準が低い貧困層をターゲティングするための手法。理論的には、貧しい人へターゲットを絞ることで限られた予算で貧困削減効果を最大化することができる。しかし、過去に行われたPMTを用いた現金給付プログラムをレビューしたいくつかの論文では、貧しいにもかかわらず受益していない人々の割合が極めて高いことが指摘されている(Exclusion Error)。また、貧困世帯か否かは机上の計算で行われるため、住民にとっては受益者選定プロセスがわかりにくく、「クジ引きと同じ感覚」と揶揄されることもある[6]

このような論調でPMTの非効率性[7]を指摘しているのは、全ての人が受益する社会保障システムの構築を推進する国際労働機関(ILO)だけでなく、世界銀行自らの研究成果でも指摘され始めている[8]。それにもかかわらずPMTが採用されている点は疑問が残る。世界銀行の内部で実務と研究が直結していないことの表れなのかもしれない。

社会保障システムの基礎造り

今回のパイロット事業で注目したいのは、社会保障システムへの登録や情報管理システムの構築が支援されることである。現金給付の短期的な貧困削減インパクトよりも、中長期的な社会保障システム構築へ向けた政府機関の実施能力強化が最大の利益だろう。

アフリカで社会保障システム構築に巨額の支援を実施している世界銀行。これらの投資が中長期的なシステム構築にどのように活用されていくのか。今後の展開に注目したい。


[1] World Bank. 2016. Burundi – Social safety nets project (Merankabandi).
[2] 敦賀一平. 2016. 社会扶助(Social Assistance).
[3] 敦賀一平. 2016. ソーシャル・セーフティ・ネット(Social Safety Net).
[4] East African Monitor. 2017. Burundi: IDA provides USD40 million for poorest households.
[5] 敦賀一平. 2016. 現金給付(Cash Transfers).
[6] Stephen Kidd et al. 2017. Exclusion by design: An assessment of the effectiveness of the proxy means test poverty targeting mechanism.
[7] 行政能力不足で計画通りにターゲティングできないことが多く、それにもかかわらず高い行政コストが発生すること。また、多額の予算を投じるにもかかわらず、PMTは少人数のみをターゲットとすることを目的としており、カバレッジが極めて限定的であることも批判される点。
[8] Caitlin Brown et al. 2016. A poor means test?: Econometric targeting in Africa.

ブルンジの貧困層へ社会保障、アフリカで続く世界銀行の現金給付

アフリカの小国ブルンジの貧困削減へ世界銀行が40百万ドル(約45億円)を追加投入する。この事業は、最貧困層にターゲットを絞って現金給付を実施する社会扶助(Social Assistance)。

ジュネーブの春、インターネット時代の情報アクセス

この記事はワシントンDC開発フォーラムに投稿されたものです。

小鳥の囀りと新芽の香りが、真っ白なキャンパスを春の芸術に変えていきます。6年間務めたJICAから国際労働機関(ILO)へ移籍して一年が経過しました。プロ野球選手はフリーエージェント宣言をして、移籍後の一年はどういう気持ちで過ごすのだろう。その答えが少しわかったような気がします。 さらに読む

ベトナムがラオスで交通インフラ建設支援、南南協力

ベトナムのグエン・スアン・フック首相がラオスに対する開発援助の実施を約束したと、ベトナムの地元紙Viet Nam Newsが報じた[1]。具体的な計画については報じられていないが、交通インフラ建設をベトナムが支援するとみられる。

これが実現すれば、ASEAN域内の南南協力の具体的な事例の一つとなる。東南アジア諸国は域内協力を推進しており、今後更にこうした南南協力は加速していくとみられる。

近年では、中高所得国の仲間入りを果たした新興国ドナーの台頭が目立っている。国際協力機構(JICA)もタイの援助実施機関との協力を強化しており、これまで援助対象国だった国々が、援助する側となって活躍する素地ができつつある[2]

日本が政府開発援助(ODA)を通じて提供してきた技術や知見が、新興国ドナーを通じて南南協力として波及していく。開発援助はそのようなフェーズに入りつつある。


[1] Viet Nam News. 2017. PM pledges aid for Laos.
[2] JICA. 2011. すべての人々が恩恵を受ける、ダイナミックな開発を目指して.

ベトナムがラオスで交通インフラ建設支援、南南協力

ベトナムのグエン・スアン・フック首相がラオスに対する開発援助の実施を約束したと、ベトナムの地元紙Viet Nam Newsが報じた。

ケニアの社会保障、老齢年金で70歳以上の全ての高齢者へ所得保障

ケニア初となる老齢年金プログラムが2018年1月から始まる。3月30日にケニア政府が発表した2017/18年度予算で明らかになったもので、所得水準にかかわらず、70歳以上の全ての高齢者を対象に現金給付(Universal/Social Pension)が実施されることとなる[1]。また、国民医療保険基金(National Hospital Insurance Fund: NHIF)の保険料を政府が肩代わりすることも今回の予算措置に含まれている。これによって、ケニアの高齢者は所得保障だけでなく、保健サービスへのアクセスも保障されることとなる。

事業モデルの転換

Source: Povertist Bulletin Issue 7

プログラムの詳細は明示されていないが、2007年から実施されてきたパイロット事業(Older Persons Cash Transfer: OPCT)が参考になる。OPCTでは、65歳以上の低所得者層(Poor and Vulnerable)を対象に、世帯当たり月額2,000ケニアシリング(約20ドル)の給付を実施[2]。実際の給付は、エクイティ銀行(Equity Bank)とケニア商業銀行(Kenya Commercial Bank: KCB)を通じて、2ヶ月に一度の頻度で給付される事業モデルを採用していた。

しかし、低所得者層へ限定することによって、その他の脆弱層(貧困に陥りやすい中間層など)の貧困リスクが見過ごされる課題もあった[3]。今回の老齢年金プログラムの最大のポイントは、所得水準ではなく、年齢でターゲットを絞ったことにある(カテゴリカル・ターゲティング)。最近の研究では、所得水準でターゲットを絞るミーンズ・テストやプロキシ・ミーンズテストは行政コストが極めて高く、それでいて多くの貧困層をターゲティングできていないことが明らかになってきている[4][5]

ケニア政府が選択したカテゴリカル・ターゲティングへの転換は、少数の受益者への高コストな給付モデルから、多数の受益者への低コストな給付モデルへの転換と言える。ケニア政府はパイロット事業を通じて得られたエビデンスを検討した上で事業モデルの転換を選択しており、研究成果が政策に反映される好事例となりそうだ。

受益者数と事業予算

事業モデルの転換によって、受益者数は飛躍的に向上することとなる。OPCTの受益者数は高齢者を要する20.3万世帯(2015/16年度)であったのに対し、新プログラムでは70歳以上の人口74.7万人(2015年時点)全員が給付対象となる[6]

当然、受益者数の増加に伴って事業規模も急拡大することとなる。ケニアでは老齢年金プログラムは保険料ではなく、税財源を原資とする社会扶助(Social Assistance)[7]の一環であり、いわゆる無拠出制年金。今回の予算措置は240億ケニアシリング(約260億円)となっている。これはナイロビ(140億ケニアシリング)とトゥルカナ(113億ケニアシリング)の年間予算と同じ規模の財政負担であり、事業の持続性に疑問を呈する声もある[8]

しかし、その一方で、予算規模は相対的に小さいとする見方もある[9]。給付額を2,000ケニアシリングに据え置いた場合、事業規模は対GDP比0.27%に留まる。この水準は、他国における同様の老齢年金プログラム(Universal Pension)との比較で見ても、最も低い部類に入る。また、70歳以上の国民の35%は既に何らかの形で年金給付を受けている。これらを鑑みると、ケニア政府が行う年金プログラムに対する財政支出240億ケニアシリングのうち、新たに追加支出される額は85億シリングに留まるという見方もある[10]

事業効果の波及と貧困指標への影響

老齢年金プログラムの裨益効果は高齢者に留まらない。これまでは限られた家計を消費するだけで家計に貢献することができなかった高齢者が、定期的な収入を家計にもたらすこととなる。食糧・生活必需品(Basic Needs)はもちろん、孫の教育へのアクセス、家族の保健へのアクセス、家業の運転資金の増加など、家計に間接的に与える影響は計り知れない。

また、国際機関が支援して行われたシミュレーションによれば、貧困指標の大きな改善効果が見込まれている[11]。高齢者(70歳以上)を要する世帯の貧困率[12]は16%以上、貧困ギャップ率[13]は29%以上低下することが見込まれている。

アフリカ諸国で広がる無拠出制年金の波及

アフリカ諸国で社会保障改革が波及しつつある。老齢年金に限定しても、今回のケースは東部アフリカでは2例目。昨年、70歳以上の全ての高齢者へ老齢年金給付を開始したザンジバルが最初のケースだった[14]

ザンジバルのプログラムもケニアと同様に無拠出制年金(保険料の支払いは不要)であり、全ての高齢者が月額9タンザニアシリング(約1,000円)を受給する。ザンジバルでは60歳以上の高齢者が約6万人居住しており、2005年との比較では1.1万人の増加となっている。高齢化に対応した社会保障改革の一環である。

アジアだけでなく、アフリカでも今後高齢化が進んでいくことが見込まれる。一方、多くの人々はインフォーマル経済[15]で生計を立てており、社会保険料の積み立てを行っていない。所得保障の無い高齢者はもちろん、高齢者を要する世帯への負の影響の緩和策としても、開発途上国が社会保障改革を早急に進める意義は理解できる。

このような開発途上国特有の事情もあり、保険料を財源としない無拠出制年金の導入が進んでいると考えられる。そして、高齢化が進む開発途上国において、税財源を原資とする老齢年金の導入は今後益々加速していくと考えられる。

本稿の電子データは、The Povertistが発行するオンラインジャーナル「ポバティストブリテン(Povertist Bulletin Issue 7)」よりダウンロードすることができます[16]。Povertist Bulletinは、開発途上国における開発と貧困に関する最新の議論や解説をタイムリーに発信することを目的としています。

[1] KTN. 2017. Kenya budget 2017/18 on social protection.
[2] Kenya National Social Protection Secretariat. Older Persons Cash Transfer (OPCT).
[3] HelpAge International. 2017. Kenya to launch universal pension scheme in January 2018.
[4] 敦賀一平. 2016. 現金給付(Cash Transfers).
[5] Stephen Kidd. et al. 2017. Exclusion by design: the proxy means test.
[6] John Ngirachu. 2017. Sh24bn needed for medicare, elderly.
[7] 敦賀一平. 2017. 社会扶助(Social Assistance).
[8] John Ngirachu. 2017. Sh24bn needed for medicare, elderly.
[9] Krystle Kabare. 2017. Building the Social Protection Floor for Older Persons in Kenya.
[10] Krystle Kabare. 2017. Building the Social Protection Floor for Older Persons in Kenya.
[11] Krystle Kabare. 2017. Building the Social Protection Floor for Older Persons in Kenya.
[12] 敦賀一平. 2016. 貧困率の計算方法.
[13] 敦賀一平. 2016. 貧困ギャップ率の計算方法.
[14] 敦賀一平. 2016. ザンジバルで全ての高齢者に老齢年金を給付、東部アフリカで初.
[15] 敦賀一平. 2017. インフォーマル経済の定義.
[16] 敦賀一平. 2017. ケニアにおける老齢年金とアフリカの高齢化.

ケニアの社会保障、老齢年金で70歳以上の全ての高齢者へ所得保障

ケニア初となる老齢年金プログラムが2018年1月から始まる。所得水準にかかわらず、70歳以上の全ての高齢者が年金受給対象となり、国民医療保険基金の保険料も政府が肩代わりする。