携わっている仕事について書きます。

タグ アーカイブ: 業務日誌

開発援助資金の途上国離れが深刻、エチオピアよりドイツで多くのODA予算が使われた?

ヨーロッパで消費されるODA予算

開発途上国に対する援助予算の『全体像』が大きく変わろうとしている。ONE Campaignの話としてロイター通信が伝えたところによると、2015年だけで14兆円(139億ドル)の政府開発援助(ODA)がドナー諸国で支出された。

中東諸国から流入する国外避難民への対応に関する支出で、主にヨーロッパ諸国で実施された支援と見られる。ONEによれば、エチオピアに対するODAよりも、ドイツ国内向けの支援が2015年は多かったようだ。

 

先進国はお金が無い、開発援助資金は限られている

「難民支援に多くの予算が使われている」と聞くと、好意的に捉える人もいるかもしれない。ただ、記事中でも指摘されているように、開発援助資金は無限ではないことに留意する必要がある。

そもそも、「先進国はお金が無い」のが、昨今の開発援助業界の常識だ。国際機関もNGOもシンクタンクも、伝統的なドナー諸国(先進国)は見限って、新興国や民間資金にターゲットを絞ってファンドレイジングを行っているのが最近のトレンドと言える。

このような『ODA予算のジリ貧状態』を踏まえれば、限りあるODA予算のパイが今後大きくなることは考えにくく、今ある資金規模の中で「パイの奪い合い」を行っているのが現状だ。先進国に逃れた国外避難民に対する支援の拡大は、途上国に対する中長期的な支援の削減に繋がる。

こうした状況を踏まえてONEは、「ヨーロッパの先進諸国はODA予算で難民対策を行うのではなく、別予算を計上すべき」といった趣旨のコメントを出しているようだ。

ただ、「先進国はお金が無い」という事情もあるため、中東情勢が落ち着かない限り、現実的には「開発援助資金の途上国離れ」はしばらく続くと思われる。


参照記事:Aid budgets under pressure as funds stretched to cope with refugees, say campaigners

都市の貧困と社会保障に課題、バングラデシュ

バングラデシュの貧困問題は、都市部で深刻さを増している。世界銀行のシニアエコノミストによれば、南アジアの社会保障カバレッジは、農村部の貧困層の31%が受益している一方、都市部ではたったの2%しかカバーされていない。

バングラデシュでは、雇用や豊かな生活を求めて農村部から都市部への移住が進んでいる。2012年の統計によれば、バングラデシュで暮らす人々の60%が首都ダッカなど主要4都市に集中している。

都市の貧困問題は持続可能な開発目標(SDGs)の中でも重要視される課題。都市の貧困にどう対処するかもさることながら、農村部から都市部へ移動する貧困層を社会保障制度でいかに捕捉するかが、極めて難しい課題となっている。

動くターゲットをいかにターゲティングしていくか。貧困削減政策は新しい時代へ入ったのかもしれない。

参考記事
Urban poverty on the rise

ジェンダー平等がつまらない理由

国際協力に携わっていると、ジェンダー平等(Gender Equality)に関する講義やセミナーを腐るほど聞くことになる。国際会議、社内研修など、あらゆるセミナーでジェンダー平等はトピックとして扱われることとなる。 さらに読む

JICAがサウジ開発基金と中東支援で協力、サウジアラビアがJICAとJETROへライセンス発給

9月4日、サウジアラビアの地元紙が伝えたところによると、サウジアラビア政府は国際協力機構(JICA)と日本貿易振興機構(JETRO)に対して国内での活動を認めるライセンスを発給した。

同紙によれば、同ライセンスに基づきJICAとJETROは経済協力や投資に関するリエゾンオフィスを設置することができる。

サウジアラビアには国際金融機関、イスラム開発銀行(Islamic Development Bank: IsDB)があり、世界銀行やJBICは協力を深めているが、今回はサウジ開発基金(Saudi Fund for Development: SFD)との協力案件のようだ。JICAが後日発表したプレスリリースによれば、SFDとの間で協力覚書(MOC: Memorandum of Cooperation)を締結したとのこと。

SFDは、開発途上国における開発プロジェクトへの協調融資や、財政問題対応に必要な技術援助等のほか、サウジアラビア国内の非石油製品輸出業者の新市場開拓や市場シェア拡大のための資金支援や保証を目的として1974年に設立された基金。現在、中東・北アフリカ地域やイスラム諸国を中心に88ヶ国で事業を展開している。

JICAによれば、SFDとの協力はサウジアラビアに対する協力を目的とするものではなく、周辺の中東湾岸諸国に対するインフラ整備や技術協力で協力していくことを目的としたもの。

参照記事
Japanese International Cooperation Agency to work in Saudi Arabia
サウジ開発基金と協力覚書に署名:中東・北アフリカ地域やイスラム諸国の経済安定化への協力促進

ジンバブエの貧困率、改善の兆しも絶対的貧困は深刻な水準

ジンバブエの貧困率は70%。国民の10人に7人が貧困に苦しんでいる。ジンバブエの財務大臣によれば、絶対的貧困(恐らく食糧貧困線で計測)は44%(1995年)から22%(2012年)へ半減したが、国内貧困線(Total Consumption Poverty Line)以下で生活する人々の割合は70%と高止まりしているようだ。

ジンバブエ政府は貧困削減戦略(Poverty Reduction Strategy)の中期計画を発表し、今後2年間で27億ドル(約2,700億円)が対策経費として必要と試算。一方、現時点で確保されている予算は8億ドル(約800億円)に留まっている。

世界経済危機後、ジンバブエは経済制裁下にも関わらず、5%を超える高い経済成長率を達成してきた。また、教育や保健へのアクセスに関する人間開発指数(HDI)も堅調に改善しているとされる。

マクロレベルの経済成長をミクロレベルの所得向上に繋げることができるかが、今後の課題となりそうだ。

参照記事
70% of Zimbabweans live in poverty
ジンバブエの人間開発指数が大幅改善、経済制裁にも負けず(2016年5月22日掲載)

カンボジアの地方分権化をアジア開発銀行が支援

アジア開発銀行(ADB)がカンボジアの地方分権化へ約35億円を投じる。これは公共サービスの改善を支援する既往案件の第二フェーズ。

第一フェーズでは2012年に約37.5億円が融資され、地方行政のアカウンタビリティ向上などを支援していた。

今回の新しいフェーズでは同様の試みを全国展開し、地方分権化の政策や制度枠組みを強化していく予定だ。

参照元:ADB Boosts Decentralization

国際機関で働いていて越えられない壁がある

色やデザインの感覚。

国際機関で仕事をしていると、文書、スライド、出版物を作成する機会が多い。

そのとき、多国籍のチームで働くわけだけれども、絶対に超えられない壁が一つある。 さらに読む

ベトナムが農業へてこ入れ、農民所得倍増で貧困削減

ベトナム政府が貧しい農家の消費倍増に照準を絞った。2020年までに農家の平均所得を倍増させる計画だ(年間2,020ドルまで増加)。この計画が功を奏すれば、北部山岳地帯や中央部の最貧層の年間所得も1,600ドルまで向上する計算になる。また、比較的裕福な地域で生計を営む農家は年間2,245ドルまで所得を向上させることとなる。

ベトナムの労働者人口は5,400万人。このうち70%が地方で農業に従事している。ベトナム政府は今年の下半期に貧困ラインを374ドルへ改定する予定。これによって貧困率は10%上昇することとなる。

ベトナム政府は貧困撲滅へ向けてより厳しい目標を課し、貧困削減の本丸である農業セクターに照準を絞って取り組んでいく姿勢だ。

参照元:Vietnam aims to double farmers’ income by 2020 in ambitious plan

関連記事
ベトナム首都ハノイ市の貧困率を削減計画(2016年10月18日掲載)
ベトナムの貧困分析をエクセルでやってみた(2016年6月12日掲載)

パキスタン・シンド州、子供の90%が未登録

パキスタン南部シンド州では、子供の90%が行政機関の帳簿に登録されていないようだ。同州高官がアジア開発銀行(ADB)の専門家に明かした話を地元紙が明らかにした。

パキスタンの子供たちは、国家データベース登録局(National Database and Registration Authority: NADRA)が発行する児童登録証明書(Child Registration Certificate: CRC)を受け取ることとなっているが、シンド州では90%の子供たちしかCRCを有していないようだ。そのため、教育関連の政策や事業計画の際に、ベースラインデータを取得することが極めて困難な状況だと言う。

参照元:90% children not registered in Sindh

UHCと社会保障・不平等是正の関連性、SDGs実施指針へパブコメ提出

外務省が実施中の「持続可能な開発目標(SDGs)実施指針の骨子に関するパブリックコメントの募集」に対し、意見書を提出しました。ここでは要点を絞って、ご紹介したいと思います。

今回提出した意見は、国外の取り組みに係るもの。これらは新しい事業形成を促すものではなく、日本がこれまで実施してきた取り組みや現在実施中の取り組みの「見せ方(発信の仕方)」を工夫することで、日本のSDGsへの貢献をより効果的に国際社会へ発信することを念頭に置いています。

ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)を社会保障と不平等是正と関連付ける
総論として、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)を通じた日本の取り組みを、UHC(SDG 3.8)だけでなく、社会保障(SDG 1.3)や不平等是正(SDG 10.4)とも関連付けて指針を検討し、より多くのチャンネルで国際的に発信をしていくことを提案します。

ミレニアム開発目標(MDGs)からSDGsへの移行で最も大きな変化は、貧困の削減から撲滅へと舵を切ったことにあります。つまり、貧困撲滅を念頭に置いた場合、貧困状態から脱出した低所得者層・中間層が再び貧困状態に陥らないための政策・制度設計が重要となるわけです。

開発途上国の低所得者層・中間層は、病気・災害・高齢化など、ライフサイクルで誰にでも起き得るショックによって貧困へ陥るリスクをはらんでいます。したがって、貧困撲滅を掲げるSDG 1の重要なアプローチとして、社会保障システム(健康保険、老齢年金、失業保険、生活保護等)の包括的な整備が、2030年までの喫緊の課題として国際的に認知されている(SDG 1.3)のは必然といえるでしょう。

日本が推進するUHCのコンポーネントには既に、貧困層に対する健康保険(医療保険)の拡充が入っています(参照:ケニア国「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの達成のための保健セクター政策借款(JICA)」)。その点で、社会保障の拡充を促すSDG 1.3とは深い関連性があると言えます。

また、UHCと社会保障を関連付けるのであれば、不平等是正(SDG 10.4)への貢献も関連付けることが可能となります。UHCのコンポーネントにある貧困層に対する健康保険の拡充に関する政府予算は、開発途上国では税財源となることが多いです。開発途上国の低所得者層は保険料を免除(減額)されることが多く、社会保障制度が所得再分配(不平等是正)の役目を果たすことが期待されています。

以上を踏まえれば、日本政府が既に行っているUHCに関する開発援助を、UHC(SDG 3.8)だけでなく社会保障(SDG 1.3)や不平等是正(SDG 10.4)と関連付けることは大きな可能性を秘めています。これによって、社会保障や不平等といった保健以外のチャンネルで日本の貢献を国際的に発信することが可能となると考えられます。

関連記事
日本政府がSDGs実施指針の骨子に関するパブリックコメントを募集(2016年10月21日掲載)
持続可能な開発目標(SDGs)実施指針の骨子に関する意見書(全文)