年金保険料3%のインドネシアで労働組合と経済界から猛反対を受けること
日本で社会保障が真剣に議論されることも少ないので、連日、私も東南アジアの経験を投稿しています。よい機会なので、インドネシアの年金制度改革でどういう仕事をしているのか、少し紹介します。 さらに読む
携わっている仕事について書きます。
日本で社会保障が真剣に議論されることも少ないので、連日、私も東南アジアの経験を投稿しています。よい機会なので、インドネシアの年金制度改革でどういう仕事をしているのか、少し紹介します。 さらに読む
国民民主党玉木議員が、わかりやすく社会保障財政の論点をまとめています。私の東南アジアでの仕事もこういう話をしているので、国際協力に関心のある方も見てみてください。 さらに読む
日本では社会保障の話題が盛り上がっています。その中で、「日本の社会保障の事例を外国にもっと紹介した方が良いですよね」というコメントが目に入りました。とても良い観点だったので、これについて少し書こうと思います。 さらに読む
私は国民民主党の玉木さんの「たまきチャンネル」で日本の課題について勉強させてもらっています。昨日の配信で、社会保障財源の仕組みを説明したものがあり、「これはよく説明されている」と感じました。そのため、自分のSNSでも共有しようと思い、ツイッターを開いたわけですが、あろうことか、たまきチャンネルの投稿が炎上しています。
そういうわけで、東南アジアで同じような仕事をしている私としては、少し議論に参加しようと思いました。改めて説明すると、私は日常的に東南アジアの労働者や使用者のリーダー、財務省や労働省の官僚と社会保障制度改革について喧々諤々の議論をしています。年間百回くらいプレゼンをして、のべ数千人と対話しています。今回炎上の対象となった話も、実は私が日常的に経験している議論です。
「賃上げが実現しないと現役世代の社会保険料負担はもっと重くなります。増税も必要になってきます。理論的には、医療費の伸び率と賃金(総雇用者報酬)の伸びが同じになれば、社会保険料率の引き上げをストップさせることができます。(玉木雄一郎 @tamakiyuichiro)」
玉木さんの言うように、賃金を上げれば、社会保険料の上昇を抑えることができます。逆に、賃金が上がらなければ、社会保険料を上げるか、給付を低下させることが社会保障制度の持続性にとって解決策となります。
社会保険の財源は、保険料と国庫です。つまり、保険料収入=賃金 x 保険料率(%)で計算されるので、賃金が上がれば財源の絶対額は増えます。賃金が上がらなければ、保険料率(%)を上げるしかありません。
「では、国庫負担を上げればよい」と、私もインドネシアやベトナムの労働者・使用者から言われます。国庫負担を上げるということは、政府は税率を上げなければならなくなります。つまり、給付水準を変えず、賃金も上がらずに社会保障制度を維持しようとすると、保険料か税率を上げなければならなくなります。
みんなが幸せになれる解決策は、この方程式の中でいけば、賃金を上げることです。この観点からいけば、玉木さんの説明は至極全うで、とてもよく説明されたものです。これ以上、わかりやすく説明することは不可能だと思います。
ただ、「社会保障制度を維持する必要がない」という観点から議論する人とは、相容れないと思います。これはヨーロッパに倣った福祉国家を目指すか、アメリカのような自己責任社会を目指すか、国家のあり方に関する議論になります。日本の社会保障制度は素晴らしいです。現役世代の負担を抑制しつつ、制度を維持していくことは、当然の方向性だと思います。
私はインドネシア、ベトナム、ミャンマー、そして東南アジア諸国連合と社会保障の仕事をしてきました。この経験から言えることは、東南アジア諸国は例外なく、日本の社会保障を目指しているということです。これは誇るべきことで、日本人はこの事実をよく知っておくべきだと思います。
最後に、社会保障制度の財務持続性と負担の話を、ベトナムの経験を交えて紹介します。2018年にベトナムの年金制度改革が佳境に入ったとき、私は火中の栗を拾うこととなりました。私のベトナムにおける最初の仕事は、ベトナム労働組合のリーダーたちに、「なぜ、年金支給年齢を上げなければならないのか」を説明することでした。怒号にさらされる中、丁寧に説明したのを覚えています。
年金制度改革の本丸は、制度の財務持続性を担保することでした。給付水準が極めて高く、給付開始年齢も低かったため、年金財源が向こう何十年かで枯渇するという状況でした。意外かもしれませんが、ベトナムは東南アジアで最も少子高齢化が進んでいる国です。賃金水準や年金制度が成熟する前に、高齢化を迎えた世界初、史上初の事例です。
この状況で、年金保険料はすでに22%(労働者8%:使用者14%)という高水準でした。それにもかかわらず、年金財源の枯渇が危惧されていたわけです。原因は明らかで、給付水準が高く、支給開始年齢が早すぎたことです。
ベトナムの国民(労働者代表と使用者代表)には3つの選択肢しかありませんでした。年金制度を廃止する。保険料を上げる。給付を改悪する。私たちが提示したのは、当然、給付の改悪です。保険料は上げる余地がないほど、高水準でした。給付水準を下げ、支給開始年齢を遅らせることが現実的な解決策だったわけです。支給開始年齢を遅らせ、もう少し長く働いてもらう。そうすることで、政府は年金保険料を多く徴収することができます。
私も常々、労働組合幹部に話すのは、「解決策を議論するために、制度や仕組みを理解することも労働者の責任」ということです。インドネシアでは落ち着いて論理的な議論ができる環境がまだ整っていませんが、「いつまでも路上でデモしていても支持は得られないよ。会議室で話そう。」ということを私はいつも説いています。
文末をどうするか決めかねてだらだらと書いてしまいました。私は直球勝負なので、日々炎上しています。この国の未来を良くするには、どうすべきか。国民でもない私が、インドネシア人に説いています。「お前ら真剣になれよ!」と率直に声を上げることもあります。
インドネシアで雇用保険制度を作るために赴任した2020年当時、同僚からはボディーガードをつけた方が良いと言われました。法律で定められた解雇時の退職金を労働者に諦めさせ、雇用保険制度に置き換えること。それが私の任務だったためです。結局、私たちの支援もあり、政府はこれを押し切り、2022年に失業手当の給付を開始しました。退職金削減に関し、インドネシア全国で大規模デモが多発し、憲法裁判所で法律の制定過程は違憲と判断されました。それでも政府は再度法律を制定し、雇用保険制度を継続させています。この過程で、私たちに対して労働組合から(退職金を減らそうとしていると)ILOにクレームも多々あったわけで、同僚からはボディーガードをつけた方が良いと言われたわけです。
振り返ってみれば、この国の未来のために、やってよかった仕事だったと思います。社会保障の仕事は批判はあれど評価されにくく、将来振り返ったときに感謝されるものだと思います。
先日、「国際機関で働く人には、従業員マインドと経営者マインドの人がいる」という話をした。思いのほか反響があったので、生々しい例を一つ紹介したい。私の周辺で最近起こっていることである。 さらに読む
ジャカルタ郊外ブカシには日系企業が投資する工業団地がある。現在、工業団地には370社あり、210社(57%)が日系企業。130,000 従業員が働いている。インドネシア人を教育し、卒業後は工業団地内の日系企業で活躍してもらう。そう考えた経営者たちが長年かけて作り上げた職業専門高校がある。今回、職業専門高校「ミトラ・インダストリMM2100(SMK Mitra Industri MM2100)」を訪問させていただく機会を得て、設立経緯や優秀な人材を育てるために心がけていることなどを教えていただいたので、感謝も込めて書き留めておきたい。 さらに読む
日本の雇用サービスにおいて、ハローワークのみならず、キャリアコンサルタントという国家資格を持つ専門家も重要な役割を果たしています。この国家資格は2015年に設立され、キャリアコンサルティング技能士1級から3級までが設けられています。2023年3月時点で、65,879人がこの国家資格を取得しており、そのうち約15%がハローワークなどの公的機関で活動しています。 さらに読む
ILOインドネシア事務所は新しい所長を先週迎え、順次着任後のブリーフィングと表敬訪問を行っている。私もようやく今日時間を合わせることができて、二時間じっくりと社会保障政策の課題や方向性、ILOがどうあるべきか、そのために所長はどうすべきか、広報や人事の改善点など、いつも通り生意気かつストレートに具申させてもらった。 さらに読む
インドネシアでは女性省の副大臣の舵取りで、ケアエコノミーロードマップを策定中です。レニさんという人で、長年開発省で幹部を務めていた方です。 さらに読む
「社会保障法の成立から20周年を記念して、系譜をまとめた本を書いている」。もう七十台とは思えないほど大きく艶のある声を響かせ、目の前の老人は言葉を進める。2004年に成立した社会保障法は今でも根拠法となっていて、全ての社会保険制度の基礎となっている。当然、私は仕事でこの法律を夢にも出てくるほどすらすらと引用するわけだが、20周年といわれてハッとした。2004年に成立したというのは私の中では本の中の出来事で会って、「そこから20年」という感覚はなかった。目の前の老人の目には遠い日の記憶がにじみ、国民皆保険を実現した今日の健康保険制度の進化と歩んできた人生の年輪が額に現れる。この老人は、本当は老人と言っては怒られる偉い先生で、インドネシアの社会保障業界で知らぬ人はいない。ハズブラ・タブラニという人で、インドネシア大学で教鞭をとる傍ら、社会保障政策にずっとかかわってきた。 さらに読む