携わっている仕事について書きます。

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寄稿募集-イギリスのEU離脱、開発途上国への影響は?

イギリスのEU離脱は、開発途上国へどのような影響があるか?

国民投票の結果、イギリスのEU離脱が濃厚となりました。世代間ギャップや資本家・労働者階級のギャップなど、イギリスの国内問題が世界にさらけ出された歴史的な場面となりました。

イギリスやEUは開発援助の世界では一大勢力です。また、旧宗主国として開発途上国を支援している欧州諸国も多くあります。

イギリスがEUを離脱することで、開発途上国へはどのような影響が考えられるのでしょうか。

EUの足並みが乱れることで世界経済に影響が出るとする声もあり、巡り巡って開発途上国の経済への影響もあるでしょう。

開発援助資金への影響はどうでしょうか?民間資金の開発途上国への流入はどうでしょうか。開発援助の主導権は公的セクターから民間セクターへ移りつつありますが、どのような影響が考えられるでしょうか。

 

寄稿を募集します

イギリスのEU離脱が与える開発途上国への影響や、開発援助の潮流に与える影響について、寄稿を募集します。

分野は問いません。文字数は500文字以上を目安としてください。

こちらのフォーマットにタイトルと文案を入力の上送信ください。

ご寄稿お待ちしています。

WHO日本人職員に聞く、ヨーロッパへ移動する国外避難民と結核対策の今

急増する移民、受入国の行政サービスは追い付かず

中東から多くの国外避難民がヨーロッパを目指している。2011年1月に始まったシリア騒乱。シリア国内は内戦が激化し、いまだ収束の目途が立っていない。国連西アジア経済社会委員会(ESCWA)によれば、直近のシリアの貧困率は83.4%と見込まれ、2010年の28%から急速に悪化した。シリア国内の惨状が垣間見れる数字だ。

こうした状況から逃れるべく、多くの人々がシリアやその隣国を脱出してヨーロッパを目指している。ドイツが受け入れを表明して以来、想定をはるかに超える移民がヨーロッパ諸国へ雪崩れ込んだ。当然、受入国の行政サービスは飽和状態に陥り、行き場のない人々が普通の町にあふれかえっている。

カマル・マルホトラ国連常駐調整官兼UNDPトルコ事務所代表は、シリア難民の多くがトルコ国内の普通の町で生活していると指摘する。トルコ国内に流入した275万人のシリア難民のうち、難民キャンプで暮らすのはたった10%。他の人々はトルコ人と同じようにトルコの町に暮らしている。

こうした人々は、移住先の国で就労許可を得ることが難しく、社会サービスも満足に受けることができない。一時的な対応としてトルコは、支援を必要とするシリア人に対して保健・教育サービスを無償で提供した。しかし、こうした対応は小規模かつ短期的なものに過ぎず、移民の生活環境は厳しさを増すばかりだ。

ヨーロッパ国境を越えるもう一つの脅威

ヨーロッパ諸国が急増する移民への対応に頭を抱える中、新たな問題も噂されている。結核だ。ヨーロッパでは、結核は「過去の病気」だった。しかし、中東から流入する移民の間で結核が蔓延しているという噂がある。「過去の病気」だったはずの結核が移民とともに国境を越え、ヨーロッパの国内問題として再び表舞台に登場しようとしている。

今年3月、国際移住機関(IOM)は、欧州へ向かう難民・移民が結核の感染リスクに直面していることを発表した。不十分な保健サービスへのアクセス、越境による過酷な生活環境が原因として挙げられた。

結核の蔓延状況と、ヨーロッパ諸国の感染症対策はどうなっているのか。世界保健機関(WHO)で結核対策を専門とする濱田洋平さん(グローバル結核プログラム・アナリスト)に話を聞いた。

感染症に国境なし、根本的な対策を

 

ーー結核の蔓延状況はどれくらい深刻なのでしょうか?

濱田 現在、イギリス、スイスなどの結核対策が進んだ国では結核患者の約70%を移民が占めています。これは結核発生率が高い母国で結核に感染した人々が、数ヶ月から数年、ときにはそれ以上経ってから移住先で発症するためです。一方で、一口に移民といってもすべてが結核の高蔓延国から来ているわけではなく、例えばシリアなどでの結核の発生率はEU諸国と比べてもそこまで高くはありません。また、結核自体の感染力も高くなく、一般的に移民から地元民への感染リスクは少ないとされています。したがって、結核のリスクを理由とした入国制限などの過度な対応は不要であり、科学的根拠と人権に基づいた適切な対応が求められます。

ーーどのような対策が必要でしょうか?

結核の伝播を防ぐためには早期診断、治療が極めて重要です。そのためには、難民、移民に対しても自国民と同じように結核診断・治療を含めた必要な医療サービスへのアクセスを容易にする必要があります。また、受診をしやすいような社会的環境の整備も重要で、結核と診断された移民を国外に退去させるような政策は、病院受診をためらわせ、結果として診断の遅れに繋がる可能性があります。特に、治療半ばでの国外退去は不完全な治療、耐性結核の出現に至るリスクがあり、避けなければなりません。

ーー受入国での対策以外に、国際社会ができることはありますか?

濱田 根本的な対策として、途上国での結核対策を一層進めていく事も不可欠です。結核をはじめ感染症に国境はありません。国際社会の共通の問題として、継続して対策を支援していく事が重要です。先進国での結核の制圧は、途上国での結核対策の進展なしにはありえません。

 

今回お話をうかがった専門家

濱田 洋平(はまだ ようへい)世界保健機関(WHO)グローバル結核プログラム・アナリスト。長崎大学医学部卒業後、国立国際医療研究センターで勤務。ジョンズホプキンス大学公衆衛生大学院修士号取得。

この記事はジュネーブ国際機関日本人職員会(JSAG)と共同執筆しています。
掲載されている見解は全て著者のものであり、特定の団体による見解を示すものではありません。

ジュネーブ国際機関日本人職員会(JSAG)と連携

ジュネーブ国際機関日本人職員会

The Povertist編集長の敦賀です。先日のAfrica Quest.comとの提携に続き、ジュネーブ国際機関日本人職員会(JSAG)と連携することとなりましたのでお知らせします。

多くの国際機関が欧州本部を構えるスイス・ジュネーブでは、多くの日本人が活躍しています。

JSAGは、ジュネーブに存在する国連諸機関や国際NGO等で働く日本人職員と学生・研究者を主なメンバーとして、会員間の交流・ネットワーキング・情報交換・共有などを行う団体です。

 

国際機関の最前線を伝える

最近では、国際機関職員の仕事はメディアなどで時々取り上げられるようになってきました。しかし、切り取りやすい部分や一般ウケする部分のみ取り上げられることがほとんどで、他の多くの国際機関職員がどのような仕事をしているのか伝えるメディアはとても少ないように思います。

The Povertistでは今後、JSAGと協力して国際機関職員の日々の仕事を様々な角度で伝えていきたいと思います。

開発援助に関心のある方、国際機関で働きたい方、開発の最前線のトピックを知りたい方。お楽しみに!

 

提携パートナーとライターを募集しています

The Povertistでは、提携パートナーとライターを募集しています。一緒に盛り上げていきたい皆さんからのご連絡お待ちしております。

急成長中のアフリカ情報メディアAfrica Quest.comと提携

アフリカに挑戦する日本人のためのWEBメディア

The Povertist編集長の敦賀です。Africa Quest.comと提携することとなりましたのでお知らせします。

Africa Quest.comは、4月27日掲載の編集長コラム「Africa Quest.com-アフリカに挑戦する日本人の為のニュースメディアを知っていますか?」でご紹介させていただいた現在話題沸騰中のWEBメディアです。

「アフリカに挑戦する日本人の為のニュースメディア」という名のとおり、アフリカ在住ライターを中心としたアフリカ発のコラムが盛りだくさん。

今年1月に創刊して以来、ほぼ一日三本のペースで質の高い記事を掲載し続けています。編集長コラムでも記載のとおり、もはやその勢いは留まることを知らない急成長中のメディアです。

 

なぜ提携することになったの?異なる読者層と共通の思い

The PovertistとAfrica Quest.comは、開発途上国(アフリカ)に貢献したい、開発途上国(アフリカ)で活躍する日本人を後押ししたいという点で、共通した思いを持っています。

一方で、全く異なる読者層へ発信しています。

The Povertistは、途上国の貧困や開発課題に何らかの形で取り組む(取り組もうとしている)方に読んでいただいています。そして、Africa Quest.comは、アフリカをまずは知ってもらうことを目的に、ビジネスやエンタメ情報を多く配信しています。

こうした状況を踏まえて、Africa Quest.comで「アフリカに関心を持った方」が「もっとアフリカを深掘りしたい」と思ったとき、The Povertistが貢献できる要素が大きいと思いました。

そういうわけで、今後、Africa Quest.comでThe Povertistの記事を、The PovertistでAfrica Quest.comの記事を相互配信していくことになりました。

一部の記事については、双方の媒体でご覧いただけるようになります。

 

提携パートナーとライターを募集しています

The Povertistでは、提携パートナーとライターを募集しています。一緒に盛り上げていきたい皆さんからのご連絡お待ちしております!

英国国際開発省(DFID)が4月の「家計簿」を公表、7万円以上の全データ1,500項目

イギリス政府が税金の使途をオープンに

英国政府で開発途上国援助を担当する国際開発省(DFID)が、「家計簿」のデータを公開した。500ポンド(約7万円)以上の全ての支出項目が対象。

今回公表されたのは4月分のデータ1,500項目。実は、こうした試みは今に始まったことではなく、毎月行われている。公式ウェブサイトへアクセスすると、エクセルシートでデータのダウンロードが可能だ。

英国では、開発援助にかかる多額の予算が使途不明となった過去があり、国民の援助資金に対する目が厳しくなっていた。世論の後押しもあって、このような先駆的な試みが始まったのかもしれない。

ちなみに、オリジナルデータをそのままダウンロードさせる試みは他の開発パートナー・ドナー諸国ではまだ行われていない。

 

4月の最も安い買い物は「ホテル代」、最も高い買い物は300億円

データをダウンロードしてソートしてみると面白い。まず、数万円程度の雑誌の購読料から、数百億円の契約金まで全て公開されていることに驚く。

一番少ない支出は、4月25日のホテル代503.03ポンドで、使った部署は政策課(Policy Division)。支払先は非公表となっていることから、個人の立替払いと考えられる(取引先の法人名は全て公表されている)。

一方、最も大きな支払いは、4月28日のGAVIワクチンアライアンスに対するもので、200百万ポンド(約300億円)だった。

透明性の観点からは、こうした試みは歓迎されるべきことであり、今後同様の試みを求める声は各国で大きくなるだろう。その際、留意すべきことは、公開にかかる作業にも行政コストがかかるということ。公表する項目や形式をよく検討したうえで、意味のあるデータを公表することが真の透明性担保となるのだろう。

 

開発途上国における家事労働者の社会保障カバレッジ

6月16日は、国際家事労働者の日

今日は、国際家事労働者の日(International Domestic Workers’ Day)です。「です」と言い切ったものの、こういう仕事をしていなければ知ることのなかった「マイナーな記念日」だと思います。

多くの日本人にとっては、お手伝いさんを雇うことは「一部の富裕層の贅沢」であって、一般庶民にとっては遠い存在でしょう。一方、ヨーロッパや植民地時代に西欧文化が根付いたアジア・アフリカ諸国で仕事をしている方にとっては、お手伝いさんがもう少し身近かもしれません。私の経験的に言っても、働く女性が多い北米やヨーロッパ地域では、お手伝いさんを雇う家庭が比較的多い気がします。

今日は「国際家事労働者の日」ということで、お手伝いさんをトピックとしたいと思います。

 

お手伝いさんは社会保障に加入していますか?

突然ですが、開発途上国で開発援助に携わる皆さん。お宅のお手伝いさんは社会保障に加入していますか?

私はまだ経験はありませんが、開発援助に携わる実務家が途上国へ赴任すると掃除・洗濯をお手伝いさんにお願いすることは多いと思います(※)。

その際、社会保障はどうしていますか?恐らく、ほとんどの方が考えたことは無いのではないでしょうか。

 

世界の家事労働者の90%は社会保障に入っていない

ILO社会保障局が発表した報告書によれば、世界の家事労働者(Domestic Workers)の90%が社会保障の適用を受けていません。実に、6,700万人中、6,000万人が社会保障から除外されていることになります。ちなみに、家事労働者の80%が女性です。

原因はたくさんあります。社会保障でカバーされるためには、多くの場合、保険料を定期的に納めることが求められます。しかし、開発途上国の家事労働者の場合、高い離職率、現物払い、不規則な収入などを理由に、定期的に定額を納めることが難しい実態があります。こうしたことから、家事労働者の社会保障カバレッジを上げることは、大きな課題として認識されてきました。

同報告書では、「完璧な解決策はない」としつつも、適用の義務化だけでなく、奨励金や登録制度など、複数のアプローチを雇用者とともに模索する必要があるとしています。

 

まずは、ご家庭のお手伝いさんから

開発途上国のために働いている皆さん!まずは、お宅のお手伝いさんの社会保障をチェックしてみてはいかがでしょうか。

居住国によっては、法律によって「雇用者の義務」となっている場合もあるかもしれませんよ・・・?

 

※「雇うこと自体が贅沢だ!」と批判する方もいると思いますが、今日の論点からは除きます。

 

ガーナが国家社会保障政策を発表、めちゃくちゃ大事なのでわかりやすく解説します

国家社会保障政策抜きに、貧困削減は語れない時代の到来

6月13日、ガーナ政府は国家社会保障政策(National Social Protection Policy: NSPP)を発表した。これは、貧困削減と不平等の是正というガーナ政府が掲げる最大の国家目標達成へ向けて、包括的な社会保障システムを作るための試み。

簡単に言えば、NSPPが貧困削減政策の最も重要な国家戦略となったということ。「NSPPを知らずして、貧困削減を語る開発援助関係者は『モグリ』 かもしれない・・・」というくらい重要な政策なので、わかりやすく解説してみたいと思う。

 

それで、何がすごいの?

これまでは色々な省庁・開発パートナーが「貧困削減」を目指して、バラバラに社会保障プログラムを実施していた。こうした数あるプログラムを、NSPPの傘下で一括管理する体制を作ったことが、「すごい」。

たとえば、小学校無償化プログラムや学校給食プログラムは教育省の予算で教育省の管轄、生活保護は社会保障省、健康保険は保健省といった具合に、これまではバラバラの省庁が管轄していた。これだと、貧困削減と不平等是正を達成するために、政府内で足並みが揃わない。そこで、「省庁のシガラミを取っ払って、一本化しよう」というのがNSPPの試み。

日本でもそうだが、既得権益のシガラミを取っ払うのは極めて難しい課題。そう考えれば、国家目標に向かってガーナ政府が一丸となって取り組む体制が整ったことの「すごさ」をおわかりいただけるだろうか。

 

ガーナ政府の社会保障政策のポイントをわかりやすく解説

ガーナ政府の公式ホームページ上ではまだNSPP本文を確認することはできないが、プレスリリースや現地報道を総合すれば全体像が見えてくる。ここでは、現時点でわかっている情報に私なりの説明を加えながら紹介したい。

その前に・・・。「開発途上国の社会保障」は、日本人が考えるよりずっと広い概念だということを念頭に置いて解説をお読みいただきたい(参照:開発途上国の社会保障と国際協力の潮流をわかりやすく解説)。

 

ガーナ政府の社会保障政策の3本柱とは?

NSPPの目標は大きく3つある。

  • 社会扶助(Social Assistance)を通じて、2030年までに貧困削減を達成すること。
  • 人間らしい労働(ディーセントワーク)を通じて、家庭と社会の持続的な繁栄を促すこと。
  • 社会保障システムにすべてのガーナ人が加入すること。

この説明だと、開発途上国の社会保障を専門としない方にはわかりにくいかもしれない。噛み砕いてかなり大雑把に説明すると次のとおり。

  • 明日の食べ物も無いような厳しい生活をしている貧困層向けには生活保護給付で貧困から脱出してもらう。
  • 働くことができる人には仕事を提供するので、自力で貧困状態から脱出してもらう。
  • 公的な社会保障プログラムへ加入することで、所得に応じて保険料を払ってもらう。その対価として、何か不測の事態が起こったときには社会保障で面倒を見てあげる。

 

3本柱にぶら下がる5つの社会保障プログラム

現金給付(Livelihood Empowerment Against Poverty: LEAP)

社会扶助(Social Assistance)の一環で、貧困層を対象に現金給付を行うプログラム(Cash Transfers)。受益者は1,600世帯(2008年)から14.7万世帯(2016)へ拡大しており、同国最大の社会保障プログラムの一つ。ガーナには貧困層220万人、35万世帯が暮らしているとされ、LEAPで貧困層全員をカバーすることを目標としていると考えられる。なお、LEAPは社会扶助の一環なので、財源は税金及び海外からの援助資金。

国民健康保険(National Health Insurance Scheme: NHIS)

社会保険(Social Insurance)の一環で、65歳以上の高齢者は無料で健康保険に加入できる。保険料を徴収できる世帯からは保険料を徴収し、貧困層に対しては政府が補助金を出すことで加入率を上げていくようだ。

公共工事(Labour Intensive Public Works)

農業のオフシーズンに、地方自治体が公共工事を通じて雇用を創出するプログラム。貧しい農家を対象に就労機会を提供することで、貧困リスクを低減する試み。

学校給食(School Feeding Programme)

公立小学校向けに、ガーナ政府が2005年に開始した学校給食プログラム。就学適齢期の子供たちの就学率と栄養状態の向上を狙うもの。現状ではすでに150万人の子供たちが同プログラムの対象となっているが、2016年末までに300万人まで拡大する見込み。

初等教育無償化(Capitation Grant)

初等教育の無償化プログラム。教育水準の向上は、長期的な貧困削減にとって不可欠。それにもかかわらず、低所得者層の家計支出の大部分を授業料などにとられていた。そこで政府が実施したのが初等教育無償化。貧しい家庭の子供たちにも平等に教育機会の提供を目指すのがこのプログラムの趣旨だ。

 

このように、包括的な社会保障政策の大枠を作ったことが、NSPPのすごいところ。ただ、政策ができたからといって、実施に繋がらないのが開発途上国の「アルアル」でもある。ガーナの社会保障は今、ようやくスタートラインに立ったといえる。

 

 

マイクロファイナンスは貧困削減に効果なし?カンボジア調査結果

マイクロファイナンスは貧困層の所得水準の引き上げに効果なし

カンボジアの現地紙プノンペンポストが、研究機関による「ショッキング」な調査結果を伝えた。これは、国際的な研究者ネットワーク「経済政策パートナーシップ(Partnership for Economic Policy: PEF)」が実施した調査で、カンボジア国内の11村を対象にマイクロファイナンス金融機関(MFI)から融資を受けた世帯と、受けなかった世帯の所得を比較したもの。その結果、両グループの所得にほとんど差が認められなかったようだ。

具体的には、農外自営業収入(農業以外の自営業を営む人々の収入)に関しては、低所得者層は借り入れによるメリットを生かすことができなかった。これは、低所得者層がMFIから小額融資を受け、農業以外のビジネスをスタートすることがいかに難しいかを示しているようだ。

さらに同紙が有識者のコメントとして伝えたところによると、「担保として土地の登記証明を提示できない低所得者層が優遇金利で借り入れることは難しく、相対的に不利な条件で借り入れざるを得ない」ようだ。

マイクロファイナンスが貧困削減政策の全てではない

PEFのホームページを探してみたが、該当する調査結果はまだダウンロードできないようだ。詳細はレポートの公開を待つ必要があるが、その際にいくつか確認したいポイントがある。

まず、この記事だけではサンプル対象地域がわからないため、調査結果がどの地域に対する政策提言なのか。もし、カンボジア国内全域を網羅する政策提言なのであれば、サンプル方法が理にかなっているか。

また、記事中の有識者も指摘しているように、マイクロファイナンスが全ての貧困層にとって良いものではなく、必ずしも利益を享受できない者もいるだろう。担保にするアセットが無い人が優遇金利で借り入れることは、マイクロファイナンスの仕組みからして難しく、借り入れて起業したところで全員がうまくいくわけでもない。マーケットメカニズムの中で、成功する人もいれば失敗する人もいる。

マイクロファイナンスを根拠もなく擁護するわけではないが、大切なことは金融セクターがマイクロファイナンスというツールを使って貧困層に「一つの選択肢」を提供しているということだ。一方、社会保障や雇用政策を通じた貧困リスクの低減は、政府の役割として重要であることは疑う余地もない。

マイクロファイナンスが貧困層にとって効果がないのであれば、貧困層に対する政府の役割は相対的に大きくなり、融資を有効活用できる低・中所得層をマイクロファイナンスが後押しすればよい。今回のレポートの提言を受けてMFIは落胆も憤慨もする必要はない。むしろ、どの所得階層・地域をターゲットにするのが最も効果的なのかを検討する材料として有効利用できればよいと思う。

ベトナムの貧困分析をエクセルでやってみた

ベトナムの経済・社会・貧困状況をエクセルで簡単に分析してみた

仕事の関係で、ベトナムの経済・社会状況を勉強する必要が出てきた。そこで、今回はベトナムの貧困分析をやってみようと思う。開発援助に携わる実務家にとっては、一度はやったことがある作業かもしれない。最近では、JICA職員も担当国の経済・社会・貧困状況を分析し、そのうえで援助戦略を立てることとなっている。実際に、私もカンボジア、ケニア、ナイジェリアの貧困分析をやったことがある。ただ、ベトナムは全く未知の国だ。

ベトナムについてはすでに多くのレポートが出ているので、分析後の答え合わせに使いたいと思う。また、貧困指標などの用語の説明は、「貧困の定義と計測方法」で簡単にまとめているので参照いただきたい。

また、私の場合は仕事でベトナムの社会政策に携わるため、ベトナムの経済・社会の状況を把握する必要があった。ただ、旅行でベトナムを訪れる方も多いと思うので、ベトナムの歴史や文化だけでなく、経済状況も簡単に把握しておくとより有意義な旅行になるかもしれない。そういう意味で、今回の記事は開発援助の実務家だけでなく、ベトナム旅行を考えている方にも有益なものとなることを祈っている。

それでは、試合開始。

貧困分析に用いるデータ

今回使うのは世界銀行のホームページからダウンロードすることができる2つのデータベース。1つ目は、PovcalNet。世帯調査まとめデータ(平均)がダウンロードできる。名前から明らかなように、貧困(貧困率・貧困ギャップ、二乗貧困ギャップなど)、消費、不平等に関するデータが含まれている。世界銀行が毎年公表する貧困指標の元データだ。2つ目は、開発途上国の実務に携わる人にはおなじみ、WDIだ。マクロ経済指標を中心にデータがまとめられていて使いやすい。これらのデータをエクセルにまとめ、視覚的にもわかりやすくしたうえで分析してみたい。

※データを触ってみて驚いたのが、「データがきれい」であること。そして、欠けることなく毎年データがある。JICAで勤務していたころは、欠損値だらけのアフリカのデータを扱うことが多かったので、「データがちゃんとある」ことに驚いた。

ベトナム経済は好調

まずは、マクロ経済。ベトナム経済は好調そのものだ。かつては現地通貨(ドン)の不安定さに問題があり、過去十数年間は消費者物価指数(CPI)が大きく上下することが多かった。世界経済の好調を背景に、足元の経済成長は安定感を増している。1990年から2014年までに、一人当たりGDPは3倍以上の水準まで改善した。実に、300ドルから1000ドルまでの飛躍だ。経済成長率も一貫してプラスを維持。マクロ経済環境はさほど悪くないようだ。

 

ベトナムの貧困指標は改善傾向、不平等は改善せず

ベトナムの貧困率、貧困ギャップ、二乗貧困ギャップは改善

結論から言うと、ベトナムの貧困指標は大幅な改善傾向にある。1992年から2012年にかけて、貧困率(P0)は49.21%から3.23%まで改善した。ここで使っている貧困ラインは1.9ドル。つまり、2012年に一日あたり1.9ドル以下で生活するベトナム人は3.23%しかいないことになる。20年前は全国民の半分が1.9ドル以下の暮らしを営んでいたことを考えれば、類を見ない素晴らしい進捗といえる。

貧困ギャップ(P1)、二乗貧困ギャップ(P2)についても、過去20年間で、ほぼ例外なく改善傾向にある。貧困率だけでなく、貧困ギャップも改善していることから、貧困層全体の経済水準の底上げが達成されたと捉えてよい。また、貧困二乗ギャップも改善していることから、貧困層間の経済的格差も縮小傾向にある。

これらの貧困指標すべてで改善傾向が表れていることから、ベトナムの貧困世帯の経済状況は急速に改善していると考えてよいだろう。

 

ベトナムの農村の貧困と都市の貧困、農村部に貧困層は集中

次に、地域別に貧困指標を見る。地域別の貧困指標は、国内貧困ライン(ベトナム政府が設定)に基づくデータであり、上記の国際貧困ライン1.9ドルを基準とする貧困指標とは異なる。ただ、改善傾向に変わりはない。

グラフを見ると、ほかの開発途上国と同様、ベトナムでも農村部に貧困層が集中していることがわかる。2012年の貧困率は全国で13.5%。地域別にみると、農村部で18.6%、都市部で3.8%となっている。トレンドは下降傾向にあるが、都市と農村の経済水準が大きいことがポイントだ。特に、人口の多い農村部で高い貧困率が確認されていることも注意しておきたい。

 

ベトナムのジニ係数、ローレンツ曲線、不平等は変化なし

先ほどのグラフからもわかるように、経済的な不平等はほとんど改善していない。不平等を表すジニ係数(Gini Index)は、1992年の35.65から2012年の38.7へ微増した。その間も、不気味なほどほとんど動きが見られない。つまり、貧困層の経済状況の改善は圧倒的なスピードで実現してきたが、貧困層以外の中間層や富裕層も負けないくらい経済水準を向上させてきたと推測することができる。

参考までにローレンツ曲線も見てみる。世界経済危機後の2010年に、中間層以上で少しだけ不平等が拡大した。2012年には再び1992年の水準に戻っているので、これが定位置なのだろう。過去20年間で、所得階層別に見ても富の配分状況に変わりがないことから推測するに、富裕層から貧困層への所得再配分メカニズムがこの20年でほとんど改善していないのだろう。

ちなみに、ジニ係数の目安は決まったものはないが、個人的には30を一つの基準にしている。30以下になれば不平等はある程度許容でき、30以上になると所得再分配のメカニズムが機能していないと考えるようにしている(大きな政府、小さな政府、宗教、民族、文化的など、各国の状況が異なるので一概には言えない)。一つ言えることは、国家間の比較ではなく、ベトナムだったらベトナムを時系列を追って比較することには意味があると思う。

 

経済成長パターン分析、成長発生曲線(Growth Incidence Curve)

成長発生曲線(Growth Incidence Curve: GIC)を描いてみると、これまでの分析結果が正しかったかがわかる。GICは、縦軸に消費・所得の年平均成長率、横軸に所得順に世帯を並べたもの。つまり、どの所得階層が最も成長したかがわかる。経済成長パターンが、富裕層に有利なのか、低所得者層に有利なのかが一目瞭然となる。

今回は短期(2010-12)、中期(2002-12、2008-12)、長期(1992-2012)の4つの期間に分けて、低所得者層が恩恵を受けることができたか確認してみる。

総論としては、すべての期間で、すべての階層の人々が経済水準の向上を経験していることがわかる。期間別にみると、直近の数年間の成長が著しいことがわかる。世界経済危機後の2010-12年は例外的に、富裕層で消費水準の低下がみられた。

まとめると、過去20年間一貫して、すべての階層でほぼ等しく経済水準の向上が見られた。一方で、階層間の成長率に差がないことから、格差是正は見込めなかったとわかる。

 

ベトナムの経済構造と雇用・産業の変化

貧困や不平等の総論はわかった。ここからは、貧困層が何で「飯を食っている」のかをもう少し検証したい。1996年から2013年までに、産業構造が徐々に変わってきた。かつては、労働者の70%が農業従事者だったが、直近のデータでは、50%以下となっている。一方、サービス産業は20%あったシェアを30%程度まで伸ばしている。開発経済学のセオリー通りの発展を遂げているとおり、一次産業が衰退し、二次、三次産業へ移行する時期にあるのかもしれない。

 

GDPへの貢献度を産業別にみると、農業が縮小傾向、サービス・工業で拡大傾向と読める。産業別の経済成長率を見ると、各産業ともプラスの成長を遂げており、優等生といった印象を受ける。強いて書くのであれば、低所得者層の多くが生計を立てている農業セクターの伸びが弱く、絶対的貧困の削減は可能だが、インクルーシブ開発を達成するための経済構造転換や不平等・格差是正については効果があまり見られない。

 

 

まとめ

ベトナムは過去20年間で目覚ましい経済成長を遂げた。産業別の成長率を見ても、低所得者層が多いセクターも十分成長しており、絶対的貧困の削減に大きく貢献しているように見える。

一方、所得階層間の格差是正については、マクロ・ミクロ経済指標ともに構造的な変化は見られず、所得再配分メカニズムの機能強化が大切となるかもしれない。

実際に手を動かしてデータからグラフを作る過程で、学ぶことはとても多い。たしかに、既存のレポートや論文を読むことで、こうした煩雑なプロセスを飛ばすことは可能だが、自分で一からデータを扱うことで理解も深まる。

今回は、社会政策に関するデータ(社会保障、ガバナンス、公共財政支出、人間開発など)に関する分析は行わなかった。また別の機会に、これらのトピックで分析を行ってみたい。乞うご期待。

※PDFはこちら。データおよびグラフについてはこちら

 

ラオス貧困率の改善と経済成長が好調

アジアの最貧国と呼ばれたラオスに明るいニュースが届いている。アジア開発銀行(ADB)が公開した経済見通し(ADB’s Asian Development Outlook 2016)によれば、好調な経済成長と貧困率の大幅な改善が見られる。

貧困率は2003年から2013年にかけて、33.5%から23.2%まで改善し、一人当たり国内総生産(GDP)も1,000ドル以上上乗せされた。これは、世界銀行が新たに導入した所得によるカテゴリでは、低所得国(Low-income)から低中所得(Lower-income)へ格上げされたことを意味する。

ADBはラオスの今後の経済状況を楽観視している。2016年は6.8%、2017年は7.0%の成長を見込む。これは成長著しいほかのアジア諸国を凌ぐ高いレベルに位置する。

ラオス政府は2020年までに後発開発途上国(Least Developed Country: LDC)を卒業することを目指している。