携わっている仕事について書きます。

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開発途上国における家事労働者の社会保障カバレッジ

6月16日は、国際家事労働者の日

今日は、国際家事労働者の日(International Domestic Workers’ Day)です。「です」と言い切ったものの、こういう仕事をしていなければ知ることのなかった「マイナーな記念日」だと思います。

多くの日本人にとっては、お手伝いさんを雇うことは「一部の富裕層の贅沢」であって、一般庶民にとっては遠い存在でしょう。一方、ヨーロッパや植民地時代に西欧文化が根付いたアジア・アフリカ諸国で仕事をしている方にとっては、お手伝いさんがもう少し身近かもしれません。私の経験的に言っても、働く女性が多い北米やヨーロッパ地域では、お手伝いさんを雇う家庭が比較的多い気がします。

今日は「国際家事労働者の日」ということで、お手伝いさんをトピックとしたいと思います。

 

お手伝いさんは社会保障に加入していますか?

突然ですが、開発途上国で開発援助に携わる皆さん。お宅のお手伝いさんは社会保障に加入していますか?

私はまだ経験はありませんが、開発援助に携わる実務家が途上国へ赴任すると掃除・洗濯をお手伝いさんにお願いすることは多いと思います(※)。

その際、社会保障はどうしていますか?恐らく、ほとんどの方が考えたことは無いのではないでしょうか。

 

世界の家事労働者の90%は社会保障に入っていない

ILO社会保障局が発表した報告書によれば、世界の家事労働者(Domestic Workers)の90%が社会保障の適用を受けていません。実に、6,700万人中、6,000万人が社会保障から除外されていることになります。ちなみに、家事労働者の80%が女性です。

原因はたくさんあります。社会保障でカバーされるためには、多くの場合、保険料を定期的に納めることが求められます。しかし、開発途上国の家事労働者の場合、高い離職率、現物払い、不規則な収入などを理由に、定期的に定額を納めることが難しい実態があります。こうしたことから、家事労働者の社会保障カバレッジを上げることは、大きな課題として認識されてきました。

同報告書では、「完璧な解決策はない」としつつも、適用の義務化だけでなく、奨励金や登録制度など、複数のアプローチを雇用者とともに模索する必要があるとしています。

 

まずは、ご家庭のお手伝いさんから

開発途上国のために働いている皆さん!まずは、お宅のお手伝いさんの社会保障をチェックしてみてはいかがでしょうか。

居住国によっては、法律によって「雇用者の義務」となっている場合もあるかもしれませんよ・・・?

 

※「雇うこと自体が贅沢だ!」と批判する方もいると思いますが、今日の論点からは除きます。

 

ガーナが国家社会保障政策を発表、めちゃくちゃ大事なのでわかりやすく解説します

国家社会保障政策抜きに、貧困削減は語れない時代の到来

6月13日、ガーナ政府は国家社会保障政策(National Social Protection Policy: NSPP)を発表した。これは、貧困削減と不平等の是正というガーナ政府が掲げる最大の国家目標達成へ向けて、包括的な社会保障システムを作るための試み。

簡単に言えば、NSPPが貧困削減政策の最も重要な国家戦略となったということ。「NSPPを知らずして、貧困削減を語る開発援助関係者は『モグリ』 かもしれない・・・」というくらい重要な政策なので、わかりやすく解説してみたいと思う。

 

それで、何がすごいの?

これまでは色々な省庁・開発パートナーが「貧困削減」を目指して、バラバラに社会保障プログラムを実施していた。こうした数あるプログラムを、NSPPの傘下で一括管理する体制を作ったことが、「すごい」。

たとえば、小学校無償化プログラムや学校給食プログラムは教育省の予算で教育省の管轄、生活保護は社会保障省、健康保険は保健省といった具合に、これまではバラバラの省庁が管轄していた。これだと、貧困削減と不平等是正を達成するために、政府内で足並みが揃わない。そこで、「省庁のシガラミを取っ払って、一本化しよう」というのがNSPPの試み。

日本でもそうだが、既得権益のシガラミを取っ払うのは極めて難しい課題。そう考えれば、国家目標に向かってガーナ政府が一丸となって取り組む体制が整ったことの「すごさ」をおわかりいただけるだろうか。

 

ガーナ政府の社会保障政策のポイントをわかりやすく解説

ガーナ政府の公式ホームページ上ではまだNSPP本文を確認することはできないが、プレスリリースや現地報道を総合すれば全体像が見えてくる。ここでは、現時点でわかっている情報に私なりの説明を加えながら紹介したい。

その前に・・・。「開発途上国の社会保障」は、日本人が考えるよりずっと広い概念だということを念頭に置いて解説をお読みいただきたい(参照:開発途上国の社会保障と国際協力の潮流をわかりやすく解説)。

 

ガーナ政府の社会保障政策の3本柱とは?

NSPPの目標は大きく3つある。

  • 社会扶助(Social Assistance)を通じて、2030年までに貧困削減を達成すること。
  • 人間らしい労働(ディーセントワーク)を通じて、家庭と社会の持続的な繁栄を促すこと。
  • 社会保障システムにすべてのガーナ人が加入すること。

この説明だと、開発途上国の社会保障を専門としない方にはわかりにくいかもしれない。噛み砕いてかなり大雑把に説明すると次のとおり。

  • 明日の食べ物も無いような厳しい生活をしている貧困層向けには生活保護給付で貧困から脱出してもらう。
  • 働くことができる人には仕事を提供するので、自力で貧困状態から脱出してもらう。
  • 公的な社会保障プログラムへ加入することで、所得に応じて保険料を払ってもらう。その対価として、何か不測の事態が起こったときには社会保障で面倒を見てあげる。

 

3本柱にぶら下がる5つの社会保障プログラム

現金給付(Livelihood Empowerment Against Poverty: LEAP)

社会扶助(Social Assistance)の一環で、貧困層を対象に現金給付を行うプログラム(Cash Transfers)。受益者は1,600世帯(2008年)から14.7万世帯(2016)へ拡大しており、同国最大の社会保障プログラムの一つ。ガーナには貧困層220万人、35万世帯が暮らしているとされ、LEAPで貧困層全員をカバーすることを目標としていると考えられる。なお、LEAPは社会扶助の一環なので、財源は税金及び海外からの援助資金。

国民健康保険(National Health Insurance Scheme: NHIS)

社会保険(Social Insurance)の一環で、65歳以上の高齢者は無料で健康保険に加入できる。保険料を徴収できる世帯からは保険料を徴収し、貧困層に対しては政府が補助金を出すことで加入率を上げていくようだ。

公共工事(Labour Intensive Public Works)

農業のオフシーズンに、地方自治体が公共工事を通じて雇用を創出するプログラム。貧しい農家を対象に就労機会を提供することで、貧困リスクを低減する試み。

学校給食(School Feeding Programme)

公立小学校向けに、ガーナ政府が2005年に開始した学校給食プログラム。就学適齢期の子供たちの就学率と栄養状態の向上を狙うもの。現状ではすでに150万人の子供たちが同プログラムの対象となっているが、2016年末までに300万人まで拡大する見込み。

初等教育無償化(Capitation Grant)

初等教育の無償化プログラム。教育水準の向上は、長期的な貧困削減にとって不可欠。それにもかかわらず、低所得者層の家計支出の大部分を授業料などにとられていた。そこで政府が実施したのが初等教育無償化。貧しい家庭の子供たちにも平等に教育機会の提供を目指すのがこのプログラムの趣旨だ。

 

このように、包括的な社会保障政策の大枠を作ったことが、NSPPのすごいところ。ただ、政策ができたからといって、実施に繋がらないのが開発途上国の「アルアル」でもある。ガーナの社会保障は今、ようやくスタートラインに立ったといえる。

 

 

マイクロファイナンスは貧困削減に効果なし?カンボジア調査結果

マイクロファイナンスは貧困層の所得水準の引き上げに効果なし

カンボジアの現地紙プノンペンポストが、研究機関による「ショッキング」な調査結果を伝えた。これは、国際的な研究者ネットワーク「経済政策パートナーシップ(Partnership for Economic Policy: PEF)」が実施した調査で、カンボジア国内の11村を対象にマイクロファイナンス金融機関(MFI)から融資を受けた世帯と、受けなかった世帯の所得を比較したもの。その結果、両グループの所得にほとんど差が認められなかったようだ。

具体的には、農外自営業収入(農業以外の自営業を営む人々の収入)に関しては、低所得者層は借り入れによるメリットを生かすことができなかった。これは、低所得者層がMFIから小額融資を受け、農業以外のビジネスをスタートすることがいかに難しいかを示しているようだ。

さらに同紙が有識者のコメントとして伝えたところによると、「担保として土地の登記証明を提示できない低所得者層が優遇金利で借り入れることは難しく、相対的に不利な条件で借り入れざるを得ない」ようだ。

マイクロファイナンスが貧困削減政策の全てではない

PEFのホームページを探してみたが、該当する調査結果はまだダウンロードできないようだ。詳細はレポートの公開を待つ必要があるが、その際にいくつか確認したいポイントがある。

まず、この記事だけではサンプル対象地域がわからないため、調査結果がどの地域に対する政策提言なのか。もし、カンボジア国内全域を網羅する政策提言なのであれば、サンプル方法が理にかなっているか。

また、記事中の有識者も指摘しているように、マイクロファイナンスが全ての貧困層にとって良いものではなく、必ずしも利益を享受できない者もいるだろう。担保にするアセットが無い人が優遇金利で借り入れることは、マイクロファイナンスの仕組みからして難しく、借り入れて起業したところで全員がうまくいくわけでもない。マーケットメカニズムの中で、成功する人もいれば失敗する人もいる。

マイクロファイナンスを根拠もなく擁護するわけではないが、大切なことは金融セクターがマイクロファイナンスというツールを使って貧困層に「一つの選択肢」を提供しているということだ。一方、社会保障や雇用政策を通じた貧困リスクの低減は、政府の役割として重要であることは疑う余地もない。

マイクロファイナンスが貧困層にとって効果がないのであれば、貧困層に対する政府の役割は相対的に大きくなり、融資を有効活用できる低・中所得層をマイクロファイナンスが後押しすればよい。今回のレポートの提言を受けてMFIは落胆も憤慨もする必要はない。むしろ、どの所得階層・地域をターゲットにするのが最も効果的なのかを検討する材料として有効利用できればよいと思う。

ベトナムの貧困分析をエクセルでやってみた

ベトナムの経済・社会・貧困状況をエクセルで簡単に分析してみた

仕事の関係で、ベトナムの経済・社会状況を勉強する必要が出てきた。そこで、今回はベトナムの貧困分析をやってみようと思う。開発援助に携わる実務家にとっては、一度はやったことがある作業かもしれない。最近では、JICA職員も担当国の経済・社会・貧困状況を分析し、そのうえで援助戦略を立てることとなっている。実際に、私もカンボジア、ケニア、ナイジェリアの貧困分析をやったことがある。ただ、ベトナムは全く未知の国だ。

ベトナムについてはすでに多くのレポートが出ているので、分析後の答え合わせに使いたいと思う。また、貧困指標などの用語の説明は、「貧困の定義と計測方法」で簡単にまとめているので参照いただきたい。

また、私の場合は仕事でベトナムの社会政策に携わるため、ベトナムの経済・社会の状況を把握する必要があった。ただ、旅行でベトナムを訪れる方も多いと思うので、ベトナムの歴史や文化だけでなく、経済状況も簡単に把握しておくとより有意義な旅行になるかもしれない。そういう意味で、今回の記事は開発援助の実務家だけでなく、ベトナム旅行を考えている方にも有益なものとなることを祈っている。

それでは、試合開始。

貧困分析に用いるデータ

今回使うのは世界銀行のホームページからダウンロードすることができる2つのデータベース。1つ目は、PovcalNet。世帯調査まとめデータ(平均)がダウンロードできる。名前から明らかなように、貧困(貧困率・貧困ギャップ、二乗貧困ギャップなど)、消費、不平等に関するデータが含まれている。世界銀行が毎年公表する貧困指標の元データだ。2つ目は、開発途上国の実務に携わる人にはおなじみ、WDIだ。マクロ経済指標を中心にデータがまとめられていて使いやすい。これらのデータをエクセルにまとめ、視覚的にもわかりやすくしたうえで分析してみたい。

※データを触ってみて驚いたのが、「データがきれい」であること。そして、欠けることなく毎年データがある。JICAで勤務していたころは、欠損値だらけのアフリカのデータを扱うことが多かったので、「データがちゃんとある」ことに驚いた。

ベトナム経済は好調

まずは、マクロ経済。ベトナム経済は好調そのものだ。かつては現地通貨(ドン)の不安定さに問題があり、過去十数年間は消費者物価指数(CPI)が大きく上下することが多かった。世界経済の好調を背景に、足元の経済成長は安定感を増している。1990年から2014年までに、一人当たりGDPは3倍以上の水準まで改善した。実に、300ドルから1000ドルまでの飛躍だ。経済成長率も一貫してプラスを維持。マクロ経済環境はさほど悪くないようだ。

 

ベトナムの貧困指標は改善傾向、不平等は改善せず

ベトナムの貧困率、貧困ギャップ、二乗貧困ギャップは改善

結論から言うと、ベトナムの貧困指標は大幅な改善傾向にある。1992年から2012年にかけて、貧困率(P0)は49.21%から3.23%まで改善した。ここで使っている貧困ラインは1.9ドル。つまり、2012年に一日あたり1.9ドル以下で生活するベトナム人は3.23%しかいないことになる。20年前は全国民の半分が1.9ドル以下の暮らしを営んでいたことを考えれば、類を見ない素晴らしい進捗といえる。

貧困ギャップ(P1)、二乗貧困ギャップ(P2)についても、過去20年間で、ほぼ例外なく改善傾向にある。貧困率だけでなく、貧困ギャップも改善していることから、貧困層全体の経済水準の底上げが達成されたと捉えてよい。また、貧困二乗ギャップも改善していることから、貧困層間の経済的格差も縮小傾向にある。

これらの貧困指標すべてで改善傾向が表れていることから、ベトナムの貧困世帯の経済状況は急速に改善していると考えてよいだろう。

 

ベトナムの農村の貧困と都市の貧困、農村部に貧困層は集中

次に、地域別に貧困指標を見る。地域別の貧困指標は、国内貧困ライン(ベトナム政府が設定)に基づくデータであり、上記の国際貧困ライン1.9ドルを基準とする貧困指標とは異なる。ただ、改善傾向に変わりはない。

グラフを見ると、ほかの開発途上国と同様、ベトナムでも農村部に貧困層が集中していることがわかる。2012年の貧困率は全国で13.5%。地域別にみると、農村部で18.6%、都市部で3.8%となっている。トレンドは下降傾向にあるが、都市と農村の経済水準が大きいことがポイントだ。特に、人口の多い農村部で高い貧困率が確認されていることも注意しておきたい。

 

ベトナムのジニ係数、ローレンツ曲線、不平等は変化なし

先ほどのグラフからもわかるように、経済的な不平等はほとんど改善していない。不平等を表すジニ係数(Gini Index)は、1992年の35.65から2012年の38.7へ微増した。その間も、不気味なほどほとんど動きが見られない。つまり、貧困層の経済状況の改善は圧倒的なスピードで実現してきたが、貧困層以外の中間層や富裕層も負けないくらい経済水準を向上させてきたと推測することができる。

参考までにローレンツ曲線も見てみる。世界経済危機後の2010年に、中間層以上で少しだけ不平等が拡大した。2012年には再び1992年の水準に戻っているので、これが定位置なのだろう。過去20年間で、所得階層別に見ても富の配分状況に変わりがないことから推測するに、富裕層から貧困層への所得再配分メカニズムがこの20年でほとんど改善していないのだろう。

ちなみに、ジニ係数の目安は決まったものはないが、個人的には30を一つの基準にしている。30以下になれば不平等はある程度許容でき、30以上になると所得再分配のメカニズムが機能していないと考えるようにしている(大きな政府、小さな政府、宗教、民族、文化的など、各国の状況が異なるので一概には言えない)。一つ言えることは、国家間の比較ではなく、ベトナムだったらベトナムを時系列を追って比較することには意味があると思う。

 

経済成長パターン分析、成長発生曲線(Growth Incidence Curve)

成長発生曲線(Growth Incidence Curve: GIC)を描いてみると、これまでの分析結果が正しかったかがわかる。GICは、縦軸に消費・所得の年平均成長率、横軸に所得順に世帯を並べたもの。つまり、どの所得階層が最も成長したかがわかる。経済成長パターンが、富裕層に有利なのか、低所得者層に有利なのかが一目瞭然となる。

今回は短期(2010-12)、中期(2002-12、2008-12)、長期(1992-2012)の4つの期間に分けて、低所得者層が恩恵を受けることができたか確認してみる。

総論としては、すべての期間で、すべての階層の人々が経済水準の向上を経験していることがわかる。期間別にみると、直近の数年間の成長が著しいことがわかる。世界経済危機後の2010-12年は例外的に、富裕層で消費水準の低下がみられた。

まとめると、過去20年間一貫して、すべての階層でほぼ等しく経済水準の向上が見られた。一方で、階層間の成長率に差がないことから、格差是正は見込めなかったとわかる。

 

ベトナムの経済構造と雇用・産業の変化

貧困や不平等の総論はわかった。ここからは、貧困層が何で「飯を食っている」のかをもう少し検証したい。1996年から2013年までに、産業構造が徐々に変わってきた。かつては、労働者の70%が農業従事者だったが、直近のデータでは、50%以下となっている。一方、サービス産業は20%あったシェアを30%程度まで伸ばしている。開発経済学のセオリー通りの発展を遂げているとおり、一次産業が衰退し、二次、三次産業へ移行する時期にあるのかもしれない。

 

GDPへの貢献度を産業別にみると、農業が縮小傾向、サービス・工業で拡大傾向と読める。産業別の経済成長率を見ると、各産業ともプラスの成長を遂げており、優等生といった印象を受ける。強いて書くのであれば、低所得者層の多くが生計を立てている農業セクターの伸びが弱く、絶対的貧困の削減は可能だが、インクルーシブ開発を達成するための経済構造転換や不平等・格差是正については効果があまり見られない。

 

 

まとめ

ベトナムは過去20年間で目覚ましい経済成長を遂げた。産業別の成長率を見ても、低所得者層が多いセクターも十分成長しており、絶対的貧困の削減に大きく貢献しているように見える。

一方、所得階層間の格差是正については、マクロ・ミクロ経済指標ともに構造的な変化は見られず、所得再配分メカニズムの機能強化が大切となるかもしれない。

実際に手を動かしてデータからグラフを作る過程で、学ぶことはとても多い。たしかに、既存のレポートや論文を読むことで、こうした煩雑なプロセスを飛ばすことは可能だが、自分で一からデータを扱うことで理解も深まる。

今回は、社会政策に関するデータ(社会保障、ガバナンス、公共財政支出、人間開発など)に関する分析は行わなかった。また別の機会に、これらのトピックで分析を行ってみたい。乞うご期待。

※PDFはこちら。データおよびグラフについてはこちら

 

ラオス貧困率の改善と経済成長が好調

アジアの最貧国と呼ばれたラオスに明るいニュースが届いている。アジア開発銀行(ADB)が公開した経済見通し(ADB’s Asian Development Outlook 2016)によれば、好調な経済成長と貧困率の大幅な改善が見られる。

貧困率は2003年から2013年にかけて、33.5%から23.2%まで改善し、一人当たり国内総生産(GDP)も1,000ドル以上上乗せされた。これは、世界銀行が新たに導入した所得によるカテゴリでは、低所得国(Low-income)から低中所得(Lower-income)へ格上げされたことを意味する。

ADBはラオスの今後の経済状況を楽観視している。2016年は6.8%、2017年は7.0%の成長を見込む。これは成長著しいほかのアジア諸国を凌ぐ高いレベルに位置する。

ラオス政府は2020年までに後発開発途上国(Least Developed Country: LDC)を卒業することを目指している。


開発途上国の社会保障と国際協力の潮流をわかりやすく解説

開発援助の実務をイメージで理解する - 第二回「社会保障の用語と援助潮流」

不定期連載コラム「開発援助の実務をイメージで理解する」。第二回は、「社会保障の用語と潮流」。持続可能な開発目標(SDGs)が採択され、今もっとも注目されているセクターがあります。『Social Protection』というセクターです。

ここで敢えてアルファベットで表現したのには理由があります。実はまだ、日本語でしっくりくる翻訳がありません。今もっとも「アツイ」分野として注目されているにもかかわらず、日本で認知度が低いのが原因です。実際、国際的な注目度が高いにもかかわらず、日本では知名度が低いために、「Social Protectionって何?」と聞かれることが最近多くなってきました。今回は、Social Protectionをわかりやすく解説したいと思います。

このコラムでは、開発途上国の実務の現場で使われる専門用語や援助潮流をわかりやすく、イメージで理解していただくことを目指しています。

Social Protectionとは?

Social Protectionと英和辞典を引くと、「社会保障」「社会保護」「社会的保護」と出てくると思います。このうち、社会保障はSocial Securityが語源です。あとの2つはSocial Protectionの直訳です。

社会保障、社会保護、社会的保護の違い

では、社会保障(Social Security)と社会保護・社会的保護(Social Protection)の違いはどこにあるのでしょうか。結論から言います。違いはありません。研究論文や実務的な報告書でSocial Security/Protectionを目にした場合、同じ意味ととらえていただいて問題ありません。「Social Securityの方が大昔から使われている呼び名で、最近はSocial Protectionという用語が流行っている」くらいのイメージです。

開発途上国の「社会保障」は日本人のイメージよりもずっと大きな分野

ただ、現在では、Social SecurityよりSocial Protectionの方が広く使われており、日本人が感覚的に持っている「社会保障」のイメージよりもずっと広い分野を指すことに留意する必要があります。

社会保障と聞いたときに、何を思い浮かべるでしょうか。医療保険、国民年金、失業保険などを思い浮かべる方が多いと思います。では、学校教育の無償化、学校給食、ワクチンの無料接種、無料検診、雇用創出のための公共事業はどうでしょうか。実は、これらも社会保障の議論の一環で扱われることが多いです。

イメージとしては、①お金やモノ(食糧・ワクチン等)の提供を通じて、②貧困削減に寄与する全ての社会政策、のことを「社会保障」と呼ぶようになっています。

医療保険や年金などの伝統的な社会保障のことをSocial Securityと狭義の意味で使い、最近出てきたSocial Protectionをより広義の意味で使う人もいます。このあたりは「趣味」の問題で、基本的には両方とも同じ意味で使われることが多いと考えて問題ないかと思います。

社会保障は財源によってカテゴリ(呼び名)が変わる

社会保障には2つの財源があります。加入者からの保険料(Contribution)と税金(Tax)です。保険料を徴収するスキームのことを、一般的に社会保険(Social Insurance)と言います。一方、税財源を使った社会保障スキームのことを社会扶助(Social Assistance)と言います。また、開発途上国では公共工事を通じた雇用創出を行うことで貧困削減を狙う政策もあります。これをPublic Workと呼び、同じく税財源で賄われるスキームとなります。他にも分け方はあるかもしれませんが、大分類するとこのような理解で問題ないでしょう。

 

社会保険(Social Insurance)

社会保険の基本的な考え方は、事前に保険料を支払っておいて、不測の事態に備えるということです。つまり、何かあったときのためにあらかじめリスク軽減策を講じておき、何かあったらお金(保険金)が支払われるという仕組みです。

社会保険制度(プログラム)の具体例をあげましょう。老齢年金(Old-age Pension)、医療保険(Health Insurance)、失業保険(Unemployment Benefit)などが一般的な例です。

社会扶助(Social Assistance)

社会扶助の基本的な考え方は、貧困層に最低限の生活を保障するということです。開発途上国では、貧困の定義拡大に伴い、所得だけでなく教育・保健サービスへのアクセスを保障することも、社会扶助の役割と認識されています。つまり、税財源で貧困層の最低限の所得と社会サービスへのアクセスを保障するスキームのことを社会扶助と言います。

開発途上国の社会扶助プログラムを支援している機関は主に、世界銀行、UNICEF、ILO、WHO、GIZ、DFIDです。これらの援助機関は、社会扶助のことを別々の用語やコンセプトで説明しているので、以下で少し捕捉します。ただ、結論から言えば、「すべて同じことを別の表現で言っているに過ぎない」と考え、「社会扶助のこと」を言っているとイメージすればよいでしょう。

※さらに細かく言えば、たとえ社会保険であっても、所得水準によって政府が掛け金を肩代わり(Subsidy)することもあります。特に、掛け金ゼロで65歳以上の老人全員へ定額給付する年金制度の場合、税源からの支出となるために社会扶助の一環とみなすこともあります。

現物支給(In-kind Transfers)

現金ではなく、現物を支給するプログラムの総称です。紛争や災害時の対応として食糧や生活必需品を給付するプログラムがあります。

現金給付(Cash Transfers)

現金支給プログラム(Cash Transfer)は、貧困層のターゲティング(Targeting)をミーンズ・テスト(Means Test)で行い、現金給付するプログラムです。簡単に言えば、家計調査データなどをもとに最も支援を必要としている人を対象に現金を支給するプログラムです。日本で言う生活保護などは、このカテゴリに近いのではないでしょうか。

一般的に、現金給付プログラムは貧困層にターゲットを絞って直接現金を給付するため、貧困削減に対する効果があるとされています。一方、精緻なターゲティングを実施することは、多額の行政コストを伴うことを意味します。特に、開発途上国の行政機関の実施能力では、適切にターゲティングを行うことが難しいのが現状です。実際に、開発途上国で実施されている現金給付プログラムのほとんどが、多くの貧困層をターゲティングできていないことも明らかとなってきています。つまり、高い行政コストと、受給者となるべき人々が実際には受給できていないこと(Exclusion Error)が、現金給付プログラムの最大の課題と言えそうです。

条件付き現金給付(Conditional Cash Transfers: CCT)

現金給付プログラムの中でも、給付にあたって受給者に義務を課すプログラムがあります。多くの場合、受給者は数ヶ月に一度のペースでモニタリングされることとなり、給付条件を満たしていない場合には給付が停止される仕組みです。条件によく用いられるのは、教育や保健の指標です。たとえば、現金給付を行う代わりに、子供に学校に行かせるように促したり(出席率)、妊産婦の定期健診や乳幼児のワクチン接種などを条件とすることが一般的です。CCTについては別の記事でも詳しくまとめていますのでご覧ください。

無条件現金給付(Unconditional Cash Transfers: UCT)

条件付き現金給付とは別に、条件を課さない現金給付プログラムもあります。ミーンズ・テスト(Means Test)を通じて貧困層をターゲティング(Targeting)し、現金支給をするところまではCCTと同じですが、給付に対してクリアしなければならない条件は課されません。

ベーシックインカム(Basic Income)

ターゲティング(Targeting)を行わず、全ての人々に現金を給付するプログラムをベーシックインカムと呼びます。ミーンズ・テスト(Means Test)をはじめ、ターゲティングに伴う行政コストが発生しないことが最大のメリットです。

社会保障の援助潮流の2つのアプローチとSDGs

開発途上国における社会保障分野をイメージでとらえるとき、2つのアプローチを考えれば良いと思います。世界銀行が掲げる「ソーシャル・セーフティ・ネット」と、ILOが掲げる「社会的保護の床」です。この2つのアプローチは似て非なるもので、経済合理性を追求する世界銀行と、社会保障は基本的人権と主張するILOのイデオロギーが真っ向からぶつかる部分でもあります。ただ、別の記事で解説しているとおり、組織間では協調していく方向で話し合いができています。あとは実務面でどこまで協力していくことができるかがカギとなりそうです。それでは、アプローチを順に説明していきます。

ソーシャル・セーフティ・ネット(Social Safety Net)

主に世界銀行の社会保障プログラムでは、ソーシャル・セーフティ・ネット(Social Safety Net: SSN)という用語が用いられます。以下で少し説明しますが、イメージとしては社会扶助の一環(ほぼ同義)と捉えてよいと思います。

SSNのコンセプトは、文字通り「安全網(Safety Net)」を「税財源(Social)」で張り巡らしておき、不測の事態(災害等)が起きたときに貧困へ陥らないようにすることです。そのため、多くの場合、最低限の生活を営むために必要な所得レベルを貧困ラインで定義することが一般的となっています。

ただ、世界銀行やUNICEFが開発途上国で実施している多くのプログラムを見れば、SSNは災害時のみ発動されるのではなく、貧困層に対して定期的に所得移転(Income Transfers)を行うことで貧困層を貧困ラインより上へ押し上げる役割を担っているのが現在のトレンドです。SSNの代表的なプログラムは、条件付現金給付(CCT)です。なお、貧困層のターゲティングは、「ミーンズ・テスト(Means Test)」や「Proxy Means Test」と呼ばれる資力調査(家計調査データを使用)によって決められることが一般的となっています。

社会的保護の床(Social Protection Floor)

ILOは社会的保護の床(Social Protection Floor)というコンセプトを打ち出し、最低限の所得と保健サービスへのアクセスの保障をすべての人へ届けることを社会保障の一つの軸としています。下図で説明します。

横軸が社会保障のカバレッジ、縦軸が社会保障制度による保障額と考えます。右へ行けば行くほどカバレッジは上がり、右端まで行くことをユニバーサル・カバレッジ(Universal Social Protection)と表現します。基本的な考え方は、保健セクターのユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)と同じコンセプトです。

「床(Floor Level)」というのは最低限の生活を営む上で必要な所得(Income Security)と保健サービスへのアクセス(Health Care)のことです。つまり、「最低限の生活水準を社会保障制度を通じて保障しよう」というのが、「社会的保護の床」です。具体的スキームとしては、税財源を使って貧困層を救済するプログラムが該当します。社会扶助やSSNのことを言っているとイメージして問題ないと思います。

また、垂直方向へ社会保障を拡充していくことも重要です。社会的保護の床はあくまで、最低限の生活しか保障しないわけですから、これに頼りきりではいつまでたっても貧困状態を行ったり来たりすることになります。そこで、お金に多少余裕がある人に対しては、保険料を自己負担してもらうことで高いレベルの保障を提供するプログラムが必要になります。社会保険がこれに該当します。

社会保障と持続可能な開発目標(SDGs)

開発途上国で社会保障が注目を集めているのは、SDGsが要因の一つかもしれません。SDGsには社会保障に関する目標やターゲットが多く含まれています。ここでは、社会保障が直接関係する目標やターゲットを抜粋してご紹介します。ただ、社会保障の間接的な役割も考慮すれば、「日々の生活に潜むリスクやショック(災害・病気・怪我等)」、「インクルーシブ」、「レジリエンス」、「貧困削減」、「不平等是正」といったキーワード全てに、社会保障が関係してくるとイメージしていただければよいと思います。

 

社会保障との関連性が強い目標とターゲット 

目標1 貧困撲滅 (関連性:社会保険、社会扶助)

  • ターゲット1.3 社会保障制度を通じ、貧困層・脆弱層を保護。
  • ターゲット1.5 貧困層・脆弱層の強靭性(レジリエンス)を構築し、気候変動・経済・社会・環境変化などに起因するショック(災害など)に対する脆弱性を軽減。

目標2 食糧安全保障 (関連性:社会扶助)

  • ターゲット2.1 飢餓撲滅と栄養状態の改善。

目標3 保健 (関連性:社会保険、社会扶助)

  • ターゲット3.8 ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)、保健サービスへのアクセス向上。

目標4 教育 (関連性:社会扶助)

  • ターゲット4.1 初等・中等教育の無償化、教育サービスへのアクセス向上。

目標8 ディーセント・ワーク (関連性:労働条件・環境)

目標10 不平等是正 (関連性:社会扶助)

  • ターゲット10.4 税制、賃金、社会保障政策を導入し、不平等を是正。

参考資料

フィジー観光都市ナンディが洪水対策に頭を抱える理由

フィジー・ビティレブ島西部の都市ナンディ。ここは約4万人が暮らすフィジー第三の都市。国際空港もあり、年間数十万人が訪れる観光都市として知られ、南太平洋諸島への玄関口となっている。

この太平洋の楽園が今、洪水対策に頭を抱えている。現地報道によると、フィジー政府は河川を複数の支流へ分岐するアプローチが、もはや洪水対策とならないことを示唆している。担当大臣が国際協力機構(JICA)の行った最近の調査結果を引用してこう説明した。

JICAが1990年に行った調査では、複数の支流へ分岐させることで洪水の被害を低減させることが可能だった。しかし、状況が変わったことを示唆する調査結果が得られ、川幅の拡張などが新たな政策オプションとして示されたようだ。

近年、本当に多くの国や地域で、気候変動の影響が生活を脅かす状況が報告されている。

 

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River diversion not viable

アジア開発銀行がアゼルバイジャンの雇用政策アセスメントを開始

アジア開発銀行(ADB)がアゼルバイジャンの雇用政策アセスメントを開始した。今回のアセスメントの目的は、同国の雇用政策がインクルーシブ開発に貢献しているかを分析するもの。

政府関係者によれば、2003-15年の間、140万人の雇用創出が確認され、2016年第一四半期だけでも3.7万人の雇用創出が確認されたとのこと。

 

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ADB starts assessing employment policy in Azerbaijan

コスタリカの社会保障制度と貧困削減政策

大学院の同窓生とばったり会った話

国際労働機関(ILO)ジュネーブ本部では、国際労働会議(総会)が開催されている。ILOがホストし、全世界の労働・社会保障分野のリーダーが集う会議だ。世界中から政府代表(大臣・高官)、使用者代表、労働者代表(組合)が集い、雇用政策や社会政策について議論する。そのため、ここ数日間、ILO本部は多くの人でごった返している。

売店でコーヒーを買っていると、どこかで見覚えのある顔を見かけた。声をかけそびれたのでメールを送ると、ビンゴ。こんなところで、大学院の同級生に「ばったり」というわけだ。彼は三十台半ばながら、中南米のコスタリカで大臣を歴任している出世頭。今回の会合にも労働・社会保障大臣として参加したようだ。

こうして活躍する知人と会うたびに、「まだまだ頑張らねば」、とエンジンを掛け直す日々である。

 

多次元貧困指数と所得・消費の貧困の合わせ技

今回は、彼との話で面白いトピックがあったので紹介したい。コスタリカでは、貧困を2つの方法で計測していて、社会保障プログラムのターゲティングにも使っているようだ。

1つ目の計測方法は、所得・消費で計測する通常の貧困指標。貧困ライン以下の人々を貧困層と定義して、貧困率貧困ギャップ二乗貧困ギャップを計算する、というおなじみの貧困指標だ。

2つ目は、当サイトでもたびたび紹介している多次元貧困指標(Multidimensional Poverty Index: MPI)。消費だけでなく、教育や保健など数十個の指標を統合して貧困を計測する手法だ。オックスフォード大学貧困・人間開発イニシアティブ(OPHI)が開発し、国連開発計画(UNDP)が人間開発指数(HDI)などに採用していることで有名だ。

興味深いのはここからだ。まず、MPIには所得や消費といった経済指標を一切入れていないということ。つまり、通常の貧困指標とMPIの両方を別々に計測しているという。その上で、両方の指標で貧困層と定義された人々を最貧層と認定しているようだ。UNDPのHDIは所得とそのほかの指標を合わせてインデックスを作っているが、コスタリカのMPIは別々に計測している点で興味深い。合わせて計測すると、インデックス作成時のウェイト(どの指数を重視するか)を決める際に恣意的に操作されうる。これを回避するためだろうか。MPIを別々に計測することになった背景はわからない。

このアプローチは貧困分析だけに留まらない。社会保障プログラムにおける貧困層のターゲティングも、この2つの指標を使って行っているそうだ。つまり、所得や消費水準が低いだけでは貧困層と認められない人々がいたり、教育・保健アクセスの悪い人が救われたり、どちらの指標を重視するかでターゲット層が変わってくる。ここからは私の想像だが、いくつもある社会保障プログラムで、別々の貧困指標を重視し、プログラムごとにターゲティングの重複や欠陥(Inclusion/Exclusion Error)を最小化しているのではないだろうか。

中南米・コスタリカの社会保障の専門家ではないため、実際にどういった運用をしているかわからないが、興味深い事例だった。

かなりマニアックな内容となってしまったが、興味深い事例だったのでご紹介させていただいた。

アジアインフラ投資銀行(AIIB)が第一回年次総会、協調融資など着々

意外にも準備着々、第一回年次総会を6月末開催へ

日本国内では、不評を極めているアジアインフラ投資銀行(AIIB)。しかし、意外にも準備は着々と進んでいるように見える。

6月25-26日には、第一回年次総会を北京で開催する。57加盟国から、中央銀行総裁や財務大臣が出席することが見込まれている。また、IMF・世界銀行年次総会でも恒例の公式セミナー(Program of Seminars: POS)の開催も予定されている。

 

世界銀行、アジア開発銀行、欧州投資銀行と協調融資で合意

AIIBは既に多くの国際開発金融機関と協調融資を検討している。

4月13日、世界銀行と協調融資の方向で合意した。中央アジア、南アジア、東アジアのエネルギー、水資源、運輸交通分野で10件程度。2016年12月末までに12億ドル(約1,300億円)の融資を計画している。インドネシアのスラム開発案件で協調融資が発表されている。

5月2日、アジア開発銀行(ADB)との間で覚書(MOU)を締結し、持続可能な成長へ向けて協力していくことを表明した。AIIBとADBは既に検討を始めており、道路と水資源分野へ協調融資を行う予定。最初の協調融資案件は、パキスタンのM4ハイウェイプロジェクト。パンジャブ州Shorkot-Khanewa間の高速道路を64キロ延長する事業だ。この他にも、エネルギー、運輸交通、通信、農村・農業開発、水資源、都市開発、環境保全分野でさらなる協力を模索していくようだ。

5月30日、欧州投資銀行(EIB)と連携、協調融資で合意。EIBの得意分野である気候変動、運輸交通、水資源などの分野で協力が予想される。タジキスタンの道路案件で協調融資が発表されている。

 

アジアインフラ投資銀行(AIIB)が協調融資で合意した主要機関と協力分野

 

世界銀行 アジア開発銀行 欧州投資銀行
水資源 

運輸交通

エネルギー

水資源 

運輸交通

通信

農村・農業開発

都市開発

環境保全

水資源 

運輸交通

気候変動

中央アジア 

南アジア

東アジア

 

日本はアメリカとともに蚊帳の外だが

日本はアメリカとともにAIIB不参加を表明している。一方、主要な国際開発金融やヨーロッパの多くの先進国が参加し、具体的な協調融資案件も着々と準備が整っている。協調融資の話が具体化していけば、人的・知的交流も進み、AIIBの組織体制の強化が進むことになるだろう。

政治・外交的な判断は多々あるだろうが、AIIBの影響力は着々と強まってきていることに変わりはなさそうだ。