携わっている仕事について書きます。

タグ アーカイブ: 業務日誌

開発途上国の社会保障と国際協力の潮流をわかりやすく解説

開発援助の実務をイメージで理解する - 第二回「社会保障の用語と援助潮流」

不定期連載コラム「開発援助の実務をイメージで理解する」。第二回は、「社会保障の用語と潮流」。持続可能な開発目標(SDGs)が採択され、今もっとも注目されているセクターがあります。『Social Protection』というセクターです。

ここで敢えてアルファベットで表現したのには理由があります。実はまだ、日本語でしっくりくる翻訳がありません。今もっとも「アツイ」分野として注目されているにもかかわらず、日本で認知度が低いのが原因です。実際、国際的な注目度が高いにもかかわらず、日本では知名度が低いために、「Social Protectionって何?」と聞かれることが最近多くなってきました。今回は、Social Protectionをわかりやすく解説したいと思います。

このコラムでは、開発途上国の実務の現場で使われる専門用語や援助潮流をわかりやすく、イメージで理解していただくことを目指しています。

Social Protectionとは?

Social Protectionと英和辞典を引くと、「社会保障」「社会保護」「社会的保護」と出てくると思います。このうち、社会保障はSocial Securityが語源です。あとの2つはSocial Protectionの直訳です。

社会保障、社会保護、社会的保護の違い

では、社会保障(Social Security)と社会保護・社会的保護(Social Protection)の違いはどこにあるのでしょうか。結論から言います。違いはありません。研究論文や実務的な報告書でSocial Security/Protectionを目にした場合、同じ意味ととらえていただいて問題ありません。「Social Securityの方が大昔から使われている呼び名で、最近はSocial Protectionという用語が流行っている」くらいのイメージです。

開発途上国の「社会保障」は日本人のイメージよりもずっと大きな分野

ただ、現在では、Social SecurityよりSocial Protectionの方が広く使われており、日本人が感覚的に持っている「社会保障」のイメージよりもずっと広い分野を指すことに留意する必要があります。

社会保障と聞いたときに、何を思い浮かべるでしょうか。医療保険、国民年金、失業保険などを思い浮かべる方が多いと思います。では、学校教育の無償化、学校給食、ワクチンの無料接種、無料検診、雇用創出のための公共事業はどうでしょうか。実は、これらも社会保障の議論の一環で扱われることが多いです。

イメージとしては、①お金やモノ(食糧・ワクチン等)の提供を通じて、②貧困削減に寄与する全ての社会政策、のことを「社会保障」と呼ぶようになっています。

医療保険や年金などの伝統的な社会保障のことをSocial Securityと狭義の意味で使い、最近出てきたSocial Protectionをより広義の意味で使う人もいます。このあたりは「趣味」の問題で、基本的には両方とも同じ意味で使われることが多いと考えて問題ないかと思います。

社会保障は財源によってカテゴリ(呼び名)が変わる

社会保障には2つの財源があります。加入者からの保険料(Contribution)と税金(Tax)です。保険料を徴収するスキームのことを、一般的に社会保険(Social Insurance)と言います。一方、税財源を使った社会保障スキームのことを社会扶助(Social Assistance)と言います。また、開発途上国では公共工事を通じた雇用創出を行うことで貧困削減を狙う政策もあります。これをPublic Workと呼び、同じく税財源で賄われるスキームとなります。他にも分け方はあるかもしれませんが、大分類するとこのような理解で問題ないでしょう。

 

社会保険(Social Insurance)

社会保険の基本的な考え方は、事前に保険料を支払っておいて、不測の事態に備えるということです。つまり、何かあったときのためにあらかじめリスク軽減策を講じておき、何かあったらお金(保険金)が支払われるという仕組みです。

社会保険制度(プログラム)の具体例をあげましょう。老齢年金(Old-age Pension)、医療保険(Health Insurance)、失業保険(Unemployment Benefit)などが一般的な例です。

社会扶助(Social Assistance)

社会扶助の基本的な考え方は、貧困層に最低限の生活を保障するということです。開発途上国では、貧困の定義拡大に伴い、所得だけでなく教育・保健サービスへのアクセスを保障することも、社会扶助の役割と認識されています。つまり、税財源で貧困層の最低限の所得と社会サービスへのアクセスを保障するスキームのことを社会扶助と言います。

開発途上国の社会扶助プログラムを支援している機関は主に、世界銀行、UNICEF、ILO、WHO、GIZ、DFIDです。これらの援助機関は、社会扶助のことを別々の用語やコンセプトで説明しているので、以下で少し捕捉します。ただ、結論から言えば、「すべて同じことを別の表現で言っているに過ぎない」と考え、「社会扶助のこと」を言っているとイメージすればよいでしょう。

※さらに細かく言えば、たとえ社会保険であっても、所得水準によって政府が掛け金を肩代わり(Subsidy)することもあります。特に、掛け金ゼロで65歳以上の老人全員へ定額給付する年金制度の場合、税源からの支出となるために社会扶助の一環とみなすこともあります。

現物支給(In-kind Transfers)

現金ではなく、現物を支給するプログラムの総称です。紛争や災害時の対応として食糧や生活必需品を給付するプログラムがあります。

現金給付(Cash Transfers)

現金支給プログラム(Cash Transfer)は、貧困層のターゲティング(Targeting)をミーンズ・テスト(Means Test)で行い、現金給付するプログラムです。簡単に言えば、家計調査データなどをもとに最も支援を必要としている人を対象に現金を支給するプログラムです。日本で言う生活保護などは、このカテゴリに近いのではないでしょうか。

一般的に、現金給付プログラムは貧困層にターゲットを絞って直接現金を給付するため、貧困削減に対する効果があるとされています。一方、精緻なターゲティングを実施することは、多額の行政コストを伴うことを意味します。特に、開発途上国の行政機関の実施能力では、適切にターゲティングを行うことが難しいのが現状です。実際に、開発途上国で実施されている現金給付プログラムのほとんどが、多くの貧困層をターゲティングできていないことも明らかとなってきています。つまり、高い行政コストと、受給者となるべき人々が実際には受給できていないこと(Exclusion Error)が、現金給付プログラムの最大の課題と言えそうです。

条件付き現金給付(Conditional Cash Transfers: CCT)

現金給付プログラムの中でも、給付にあたって受給者に義務を課すプログラムがあります。多くの場合、受給者は数ヶ月に一度のペースでモニタリングされることとなり、給付条件を満たしていない場合には給付が停止される仕組みです。条件によく用いられるのは、教育や保健の指標です。たとえば、現金給付を行う代わりに、子供に学校に行かせるように促したり(出席率)、妊産婦の定期健診や乳幼児のワクチン接種などを条件とすることが一般的です。CCTについては別の記事でも詳しくまとめていますのでご覧ください。

無条件現金給付(Unconditional Cash Transfers: UCT)

条件付き現金給付とは別に、条件を課さない現金給付プログラムもあります。ミーンズ・テスト(Means Test)を通じて貧困層をターゲティング(Targeting)し、現金支給をするところまではCCTと同じですが、給付に対してクリアしなければならない条件は課されません。

ベーシックインカム(Basic Income)

ターゲティング(Targeting)を行わず、全ての人々に現金を給付するプログラムをベーシックインカムと呼びます。ミーンズ・テスト(Means Test)をはじめ、ターゲティングに伴う行政コストが発生しないことが最大のメリットです。

社会保障の援助潮流の2つのアプローチとSDGs

開発途上国における社会保障分野をイメージでとらえるとき、2つのアプローチを考えれば良いと思います。世界銀行が掲げる「ソーシャル・セーフティ・ネット」と、ILOが掲げる「社会的保護の床」です。この2つのアプローチは似て非なるもので、経済合理性を追求する世界銀行と、社会保障は基本的人権と主張するILOのイデオロギーが真っ向からぶつかる部分でもあります。ただ、別の記事で解説しているとおり、組織間では協調していく方向で話し合いができています。あとは実務面でどこまで協力していくことができるかがカギとなりそうです。それでは、アプローチを順に説明していきます。

ソーシャル・セーフティ・ネット(Social Safety Net)

主に世界銀行の社会保障プログラムでは、ソーシャル・セーフティ・ネット(Social Safety Net: SSN)という用語が用いられます。以下で少し説明しますが、イメージとしては社会扶助の一環(ほぼ同義)と捉えてよいと思います。

SSNのコンセプトは、文字通り「安全網(Safety Net)」を「税財源(Social)」で張り巡らしておき、不測の事態(災害等)が起きたときに貧困へ陥らないようにすることです。そのため、多くの場合、最低限の生活を営むために必要な所得レベルを貧困ラインで定義することが一般的となっています。

ただ、世界銀行やUNICEFが開発途上国で実施している多くのプログラムを見れば、SSNは災害時のみ発動されるのではなく、貧困層に対して定期的に所得移転(Income Transfers)を行うことで貧困層を貧困ラインより上へ押し上げる役割を担っているのが現在のトレンドです。SSNの代表的なプログラムは、条件付現金給付(CCT)です。なお、貧困層のターゲティングは、「ミーンズ・テスト(Means Test)」や「Proxy Means Test」と呼ばれる資力調査(家計調査データを使用)によって決められることが一般的となっています。

社会的保護の床(Social Protection Floor)

ILOは社会的保護の床(Social Protection Floor)というコンセプトを打ち出し、最低限の所得と保健サービスへのアクセスの保障をすべての人へ届けることを社会保障の一つの軸としています。下図で説明します。

横軸が社会保障のカバレッジ、縦軸が社会保障制度による保障額と考えます。右へ行けば行くほどカバレッジは上がり、右端まで行くことをユニバーサル・カバレッジ(Universal Social Protection)と表現します。基本的な考え方は、保健セクターのユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)と同じコンセプトです。

「床(Floor Level)」というのは最低限の生活を営む上で必要な所得(Income Security)と保健サービスへのアクセス(Health Care)のことです。つまり、「最低限の生活水準を社会保障制度を通じて保障しよう」というのが、「社会的保護の床」です。具体的スキームとしては、税財源を使って貧困層を救済するプログラムが該当します。社会扶助やSSNのことを言っているとイメージして問題ないと思います。

また、垂直方向へ社会保障を拡充していくことも重要です。社会的保護の床はあくまで、最低限の生活しか保障しないわけですから、これに頼りきりではいつまでたっても貧困状態を行ったり来たりすることになります。そこで、お金に多少余裕がある人に対しては、保険料を自己負担してもらうことで高いレベルの保障を提供するプログラムが必要になります。社会保険がこれに該当します。

社会保障と持続可能な開発目標(SDGs)

開発途上国で社会保障が注目を集めているのは、SDGsが要因の一つかもしれません。SDGsには社会保障に関する目標やターゲットが多く含まれています。ここでは、社会保障が直接関係する目標やターゲットを抜粋してご紹介します。ただ、社会保障の間接的な役割も考慮すれば、「日々の生活に潜むリスクやショック(災害・病気・怪我等)」、「インクルーシブ」、「レジリエンス」、「貧困削減」、「不平等是正」といったキーワード全てに、社会保障が関係してくるとイメージしていただければよいと思います。

 

社会保障との関連性が強い目標とターゲット 

目標1 貧困撲滅 (関連性:社会保険、社会扶助)

  • ターゲット1.3 社会保障制度を通じ、貧困層・脆弱層を保護。
  • ターゲット1.5 貧困層・脆弱層の強靭性(レジリエンス)を構築し、気候変動・経済・社会・環境変化などに起因するショック(災害など)に対する脆弱性を軽減。

目標2 食糧安全保障 (関連性:社会扶助)

  • ターゲット2.1 飢餓撲滅と栄養状態の改善。

目標3 保健 (関連性:社会保険、社会扶助)

  • ターゲット3.8 ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)、保健サービスへのアクセス向上。

目標4 教育 (関連性:社会扶助)

  • ターゲット4.1 初等・中等教育の無償化、教育サービスへのアクセス向上。

目標8 ディーセント・ワーク (関連性:労働条件・環境)

目標10 不平等是正 (関連性:社会扶助)

  • ターゲット10.4 税制、賃金、社会保障政策を導入し、不平等を是正。

参考資料

フィジー観光都市ナンディが洪水対策に頭を抱える理由

フィジー・ビティレブ島西部の都市ナンディ。ここは約4万人が暮らすフィジー第三の都市。国際空港もあり、年間数十万人が訪れる観光都市として知られ、南太平洋諸島への玄関口となっている。

この太平洋の楽園が今、洪水対策に頭を抱えている。現地報道によると、フィジー政府は河川を複数の支流へ分岐するアプローチが、もはや洪水対策とならないことを示唆している。担当大臣が国際協力機構(JICA)の行った最近の調査結果を引用してこう説明した。

JICAが1990年に行った調査では、複数の支流へ分岐させることで洪水の被害を低減させることが可能だった。しかし、状況が変わったことを示唆する調査結果が得られ、川幅の拡張などが新たな政策オプションとして示されたようだ。

近年、本当に多くの国や地域で、気候変動の影響が生活を脅かす状況が報告されている。

 

外部リンク 

River diversion not viable

アジア開発銀行がアゼルバイジャンの雇用政策アセスメントを開始

アジア開発銀行(ADB)がアゼルバイジャンの雇用政策アセスメントを開始した。今回のアセスメントの目的は、同国の雇用政策がインクルーシブ開発に貢献しているかを分析するもの。

政府関係者によれば、2003-15年の間、140万人の雇用創出が確認され、2016年第一四半期だけでも3.7万人の雇用創出が確認されたとのこと。

 

外部リンク 

ADB starts assessing employment policy in Azerbaijan

コスタリカの社会保障制度と貧困削減政策

大学院の同窓生とばったり会った話

国際労働機関(ILO)ジュネーブ本部では、国際労働会議(総会)が開催されている。ILOがホストし、全世界の労働・社会保障分野のリーダーが集う会議だ。世界中から政府代表(大臣・高官)、使用者代表、労働者代表(組合)が集い、雇用政策や社会政策について議論する。そのため、ここ数日間、ILO本部は多くの人でごった返している。

売店でコーヒーを買っていると、どこかで見覚えのある顔を見かけた。声をかけそびれたのでメールを送ると、ビンゴ。こんなところで、大学院の同級生に「ばったり」というわけだ。彼は三十台半ばながら、中南米のコスタリカで大臣を歴任している出世頭。今回の会合にも労働・社会保障大臣として参加したようだ。

こうして活躍する知人と会うたびに、「まだまだ頑張らねば」、とエンジンを掛け直す日々である。

 

多次元貧困指数と所得・消費の貧困の合わせ技

今回は、彼との話で面白いトピックがあったので紹介したい。コスタリカでは、貧困を2つの方法で計測していて、社会保障プログラムのターゲティングにも使っているようだ。

1つ目の計測方法は、所得・消費で計測する通常の貧困指標。貧困ライン以下の人々を貧困層と定義して、貧困率貧困ギャップ二乗貧困ギャップを計算する、というおなじみの貧困指標だ。

2つ目は、当サイトでもたびたび紹介している多次元貧困指標(Multidimensional Poverty Index: MPI)。消費だけでなく、教育や保健など数十個の指標を統合して貧困を計測する手法だ。オックスフォード大学貧困・人間開発イニシアティブ(OPHI)が開発し、国連開発計画(UNDP)が人間開発指数(HDI)などに採用していることで有名だ。

興味深いのはここからだ。まず、MPIには所得や消費といった経済指標を一切入れていないということ。つまり、通常の貧困指標とMPIの両方を別々に計測しているという。その上で、両方の指標で貧困層と定義された人々を最貧層と認定しているようだ。UNDPのHDIは所得とそのほかの指標を合わせてインデックスを作っているが、コスタリカのMPIは別々に計測している点で興味深い。合わせて計測すると、インデックス作成時のウェイト(どの指数を重視するか)を決める際に恣意的に操作されうる。これを回避するためだろうか。MPIを別々に計測することになった背景はわからない。

このアプローチは貧困分析だけに留まらない。社会保障プログラムにおける貧困層のターゲティングも、この2つの指標を使って行っているそうだ。つまり、所得や消費水準が低いだけでは貧困層と認められない人々がいたり、教育・保健アクセスの悪い人が救われたり、どちらの指標を重視するかでターゲット層が変わってくる。ここからは私の想像だが、いくつもある社会保障プログラムで、別々の貧困指標を重視し、プログラムごとにターゲティングの重複や欠陥(Inclusion/Exclusion Error)を最小化しているのではないだろうか。

中南米・コスタリカの社会保障の専門家ではないため、実際にどういった運用をしているかわからないが、興味深い事例だった。

かなりマニアックな内容となってしまったが、興味深い事例だったのでご紹介させていただいた。

アジアインフラ投資銀行(AIIB)が第一回年次総会、協調融資など着々

意外にも準備着々、第一回年次総会を6月末開催へ

日本国内では、不評を極めているアジアインフラ投資銀行(AIIB)。しかし、意外にも準備は着々と進んでいるように見える。

6月25-26日には、第一回年次総会を北京で開催する。57加盟国から、中央銀行総裁や財務大臣が出席することが見込まれている。また、IMF・世界銀行年次総会でも恒例の公式セミナー(Program of Seminars: POS)の開催も予定されている。

 

世界銀行、アジア開発銀行、欧州投資銀行と協調融資で合意

AIIBは既に多くの国際開発金融機関と協調融資を検討している。

4月13日、世界銀行と協調融資の方向で合意した。中央アジア、南アジア、東アジアのエネルギー、水資源、運輸交通分野で10件程度。2016年12月末までに12億ドル(約1,300億円)の融資を計画している。インドネシアのスラム開発案件で協調融資が発表されている。

5月2日、アジア開発銀行(ADB)との間で覚書(MOU)を締結し、持続可能な成長へ向けて協力していくことを表明した。AIIBとADBは既に検討を始めており、道路と水資源分野へ協調融資を行う予定。最初の協調融資案件は、パキスタンのM4ハイウェイプロジェクト。パンジャブ州Shorkot-Khanewa間の高速道路を64キロ延長する事業だ。この他にも、エネルギー、運輸交通、通信、農村・農業開発、水資源、都市開発、環境保全分野でさらなる協力を模索していくようだ。

5月30日、欧州投資銀行(EIB)と連携、協調融資で合意。EIBの得意分野である気候変動、運輸交通、水資源などの分野で協力が予想される。タジキスタンの道路案件で協調融資が発表されている。

 

アジアインフラ投資銀行(AIIB)が協調融資で合意した主要機関と協力分野

 

世界銀行 アジア開発銀行 欧州投資銀行
水資源 

運輸交通

エネルギー

水資源 

運輸交通

通信

農村・農業開発

都市開発

環境保全

水資源 

運輸交通

気候変動

中央アジア 

南アジア

東アジア

 

日本はアメリカとともに蚊帳の外だが

日本はアメリカとともにAIIB不参加を表明している。一方、主要な国際開発金融やヨーロッパの多くの先進国が参加し、具体的な協調融資案件も着々と準備が整っている。協調融資の話が具体化していけば、人的・知的交流も進み、AIIBの組織体制の強化が進むことになるだろう。

政治・外交的な判断は多々あるだろうが、AIIBの影響力は着々と強まってきていることに変わりはなさそうだ。

 

ベトナム、ホーチミン市が無料WI-FIを提供、インターネット接続が市内全域で

インターネット接続が市内全域で無料に、公共無線LAN

ホーチミン市が無線LAN(WI-FI)を観光客向けに無料で開放するようだ。この計画が文字通り実現すれば、観光客と地元民は、数ヶ月以内に市内どこからでもインターネットへ無料接続できるようになる。

現地紙の報道によれば、シンガポール企業が市内全域で無料提供を行うという。

ベトナムでは公共無線LANがどこでも接続可能な環境が整いつつある。国内のインターネットユーザーは3,300万人、人口の約4割と見込まれている。また、ベトナムは、電話・インターネット通信料が最も低い国の一つとされている。

 

地場産業育成の観点からは良いことばかりではない?

低料金でインターネットへアクセスできる環境は、若者のITリテラシー向上に向上すると見込まれる。こうした低コストのIT環境は、先進国よりも開発途上国のほうがアドバンテージがある。途上国初のイノベーションが生まれやすい分野として情報通信技術(ICT)が注目されているゆえんである。また、短期間であっても、こうした試みが民間企業によって行われることは歓迎されるべき事案ではないだろうか。

一方、あえて留意したい点もある。

今回のホーチミン市の件については、シンガポール企業がサービス無料化の重要な役割を果たしている。民間企業が今回の政策に不可欠な役割を担っており、企業としての旨味がなくなった時点でサービスが終了されることだろう。政策の持続性に不安が残る。

また、サービスプロバイダーが外国企業という点も、国内産業育成の観点からは疑問符がつきそうだ。市内全域で無料インターネットが使えるようになれば、地元のインターネットプロバイダーは育たなくなるだろう。技術者は養成されるので悪いことばかりでもないが。

 

マラウイのトイレを綺麗にする方法、コミュニティ主導型総合衛生管理(CLTS)という改善策

この週末、マラウイのトイレについて思いを巡らせていた。正確に言うと、「トイレ」ではなく公衆衛生を改善する方法だ。6月4日の掲載記事「マラウイ農村の公衆衛生の問題点は?-サニタリーモニタリングを実施して分かったこと」は、現役の青年海外協力隊員による調査結果で、とても興味深い。

県の行政官が一軒一軒訪問して、トイレの衛生状況を指導して回ることは日本では考えられないことだろう。著者も言うように、こうした地道な指導が公衆衛生を改善していくのだろう。

 

コミュニティ主導型総合衛生管理(CLTS)

開発途上国、衛生改善、トイレのキーワードを聞いて思い出したのが、コミュニティ主導型総合衛生管理(Community-led Total Sanitation: CLTS)という手法だ。文化人類学のアプローチで、ファシリテーションを通じてコミュニティ自らが公衆衛生の重要性を見出すことを促す手法だ。少し調べてみたところ、国際協力機構(JICA)もタンザニアでCLTSを使った協力を行っていたようだ。CLTSの説明についてはJICAのホームページから引用したい。

自分たちの居住地のどこで野外排泄が行われ、それが結局のところハエなどの媒介で自分の口にする食物に戻ってくることを知り、自分たちの行為に「恥ずかしさ」や「嫌悪感」を強く感じさせ、野外排泄を止めさせることを狙った研修。

国際協力機構(JICA)

私自身も一度、CLTSの旗振り役となっているロバート・チェンバースのワークショップに出たことがある。今でも覚えているのはこの言葉だ。

「公衆衛生の大切さを住民に周知するにはどうすべきでしょうか?それは、牛のウンチの横にご飯茶碗を置き、そこで住民にご飯を食べてもらうことです。」

かなり過激に見える手法だが、8年たった今も強烈に覚えている。人はなかなか口頭で指導されても心に響かないが、CLTSの参加型ワークショップを通じて得られる「羞恥心」や「嫌悪感」といった感情はなかなか忘れないものだ。

上記のマラウイの事例だと、オフィサーが一軒一軒訪問して指導している。CLTSの手法を応用して、効果を試してみるのも面白いかもしれない。南アジアで広く展開されているCLTSはアフリカでも効果的なのだろうか。

私はこの分野の専門ではないが、直感的にマラウイでの活動に生かせる可能性があるかもしれない。

 

 

創刊以来、最も充実した時期 - 事業報告(2016年1-3月期)

創刊以来、最も充実した時期

2016年1-3月期は、The Povertistにとって大きく一歩前進するターニングポイントとなりました。その要因の一つは、多くの実務家から記事を投稿いただけたことです。国連開発計画(UNDP)の二瓶さん、国連食糧農業機関(UNFAO)の國武さん、国連女性機関(UNWOMEN)の高橋さん、国際協力機構(JICA)の室谷さん竹内さん狩野さん伊藤さん、青年海外協力隊(JOCV)の中田さん、ロンドン大学教育研究所(IOE)の貝瀬さんが執筆しています。

こうしたことから、現場のリアリティや最先端の情報を伝える質の高い記事を掲載することができました。記事の本数を見ても、過去最多の52本。質と量ともに、The Povertist創刊以来、最も充実した期間だったと思います。

 

事業報告

別の記事でご説明の通り、The Povertistでは閲覧数(PV)よりも誰に読んでいただいたかを重視しています。PVは一つの指標にしかすぎませんが、今回から参考までにご報告したいと思います。

上記のような好条件が重なったことから、創刊3年目を迎える今期は好調な滑り出しとなりました。PVは5.3万件で前期比+22%となっております。PVが集まる傾向としてはやはり、一般向けの解説記事でアクセスが伸びています。たとえば、3月14日掲載「UNDPとJICAの予算と職員数の比較が面白い」は最もPVが伸びた記事の一つです。一方、より踏み込んだオピニオン記事も注目を集めました。たとえば、3月17日掲載「海外ドナーによる開発援助と被援助国の自助努力は両立し得るのか?」は、ソマリランドとバングラデシュを比較し援助の在り方を議論し、注目を集めた記事の一つです。

このほか、年齢、ジェンダー、SNSフォロワー数などのデータをまとめています。事業報告の詳細については、媒体資料 (2016年1-3月期)をご参照ください。

途上国・国際協力ブログを盛り上げるための運営方針、アクセス数(PV)を公表するが重視しない理由

アクセス数(PV)を公表する理由、今後の運営方針

2013年の創刊からもうすぐ3年です。多くの方に支えられ、お蔭様で認知度も少しずつ上がってきました。ありがたいことに、最近では多くの個人・法人の方々から執筆希望や提携の打診を頂く機会が増えてきました。同時に、アクセス数についても質問を受けることが多くなりました。

基本的には、情報は公開して損はないと考えているので、今後はページビュー(PV)などを極力公開していこうと思います。メディアとして胸を張るには、アクセス数はまだまだ少ないと思います。ただ、情報を大っぴらに公開すること公開で、新しいパートナーシップが生まれることを祈っています。

PVの公開に先立って、当面の運営方針をまとめておきたいと思います。

 

PVは重視しない、大衆紙ではなく専門誌として

結論から言えば、The Povertistの運営に関してはPVをあまり意識していません。もちろん、たくさんの方へ読んで頂くことはありがたいことです。しかし、アクセス数よりも、「誰に読んでもらっているか」のほうが大切だと考えています。

広告料を得ることが最終目的なのであれば、大衆ウケのよい「面白ネタ」を幅広く扱うのが良いでしょう。しかし、The Povertistが目指しているのは大衆ウケすることではありません。開発途上国で実務に携わる人へ有益な情報を提供し、情報を発信してもらう。開発途上国の援助やビジネスに携わる人が情報提供の受け手となり、発信の担い手となる。そのような場を提供することがThe Povertistの目指すメディア像です。

開発途上国における活動という閉じられた世界に新しい情報の流れを作ることで、開発途上国の実務へ良い影響を与えることを追求していきたいと思います。実際、掲載記事からお問い合わせ頂き、調査・報告書・論文作成の参考、案件立案の参考にしていただいている例もあります。

PVは一つの指標として参考としつつも、あくまで大衆紙ではなく専門誌として今後も運営を強化していきたい次第です(※PVを否定しているわけではありません)。

 

非営利目的か営利目的か?マネタイズはしないのか?

メディアによって非営利か営利に分かれると思います。The Povertistの目的はご説明の通り、非営利です。専門誌として果たすべき役割を達成することを第一に考えています。関心はあくまでもPVに連動する広告料の獲得ではなく、誰に読んでもらい、どう情報を使ってもらうかです。

一方、「収益を上げることを考えているか」という点については、どこかのタイミングでマネタイズしていくのが現実的な路線だと思います。理由は2つあります。

1つ目は、運営・維持です。現在に至るまで、The Povertistではウェブサイトを積極的にマネタイズしておらず、運営にかかるほぼ全ての費用は編集部が負担しています。もちろん将来的には、より有益なコンテンツ作成へ投資したり、持続的に運営していくための維持費を確保する必要があるでしょう。本来果たすべき目的を貫いた上で、収益が上がるのであれば、その収益を社会へ還元する方法を考えればよいと思います。専門誌としての形を維持したまま広告料で運転資金を賄うことができるのであれば、それを否定する理由はないと思います。

2つ目は、開発援助の新しいビジネスモデルです。個人的にはそもそも、「非営利か営利かという問い」がもはや現在のビジネスモデルに合わない「時代遅れの問い」だと思っています。世界の開発援助資金の分布を考えると、民間資金の比率が公的資金よりも大きくなってきています。たとえば、マイクロソフトのビル・ゲイツさんが設立したゲイツ財団は日本の政府開発援助(ODA)と協力してパキスタンやナイジェリアへポリオ撲滅支援を行っています。フェイスブックのマーク・ザッカーバーグさんが財団を設立したことも記憶に新しいと思います。つまり、営利目的の経済活動で得た資金を開発援助へ活用する流れが、開発援助の主流となりつつあります。何が言いたいかというと、収益を上げること自体を否定する必要はないということです。稼げるのであれば稼げばよいし、稼いだら社会に還元すればよいと思います。

とはいえ、The Povertistの目的はあくまで非営利であり、本格的にマネタイズを検討するとしても、まだまだ先のことだと思います。

 

ストック型とフロー型、記事のタイプに関する考え方

The Povertistで掲載している記事には大きく2つのタイプがあります。ストック型とフロー型の記事です。ストック型は、長く読まれる作りこまれた記事のことで、オピニオン解説記事などが含まれます。一方、フロー型は速報性の高い記事で、ニュース記事などがこれにあたります。

今後の方針としては中長期的には、ストック型の記事を増やしていくことを目標としています。例えるならば、新聞ではなく週刊誌です。これは、The Povertistの目指すメディア像が、「実務家が情報や意見(オピニオン)を共有し合う場」にあるからです。

一方、現在、フロー型のニュース記事(海外メディアの要約・キュレーション)も発信しています。本来であれば、速報性の高いニュースについては、大手の新聞社などが強みを持つ分野であり、私たちのような小規模メディアには活躍の場がありません。しかし、現状では開発途上国のニュースをカバーするメディアは日本にはほとんどありません。他のメディアがカバレッジを拡大するまでは、The Povertistで速報性の高いニュース記事を掲載していくことも一定の価値があると感じています。ただ、独自の取材能力は有していないため、現地メディアが報じたニュースの要約となることがほとんどです。記事の正確性などについては、ソース元でご確認いただく必要があります。

 

国際協力ブログ界を盛り上げるために

開発途上国へ関心を持つきっかけとなるブログやオンラインマガジン・メディアは随分増えてきました。しかし、そこから一歩踏み込んだ情報に触れるメディアは多くありません。開発途上国で開発援助やビジネスを生業とする実務家や研究者にとって有益なメディアを目指すことで、日本の国際協力ブログ界を一層盛り上げていければと思います。国際協力・開発援助に関して、「もっと踏み込んで考えたい」、「議論したい」と思う方の受け皿となるべく、今後も続けていきたいと思います。

 

以上、今後の方針、PVを公開する理由、PVを重視しない理由を説明させていただきました。

面白いコラボを心待ちにしています!是非、こちらからご連絡ください。

フィリピン貧困率が改善、主観的貧困の社会調査結果

フィリピンで主観的貧困率が改善

フィリピンで実施された社会調査(Social Weather Stations Survey: SWS)によれば、主観的貧困率と食糧貧困率の両方で改善が見られるようだ。

3月30日から4月2日にかけて実施されたこの調査は、対象世帯に「貧困と感じているか」回答してもらうアプローチをとっている。サンプル数は1,500世帯。

その結果、主観的貧困率は46%(1,150万世帯)だった。昨年12月の50%(1,120万世帯)と比べると改善傾向にある。70万人が貧困から脱出した計算だ。

 

主観的貧困率と貧困率の両方が改善

5月19日に掲載した記事で、フィリピン統計機構(PSA)が実施した2015年の世帯調査結果を報告した。PSAの調査によれば、貧困率の全国平均は27.9%から26.3%へ改善というものだった。

一般的に、政策判断を行う際には、貧困の計測方法は複数採用すべきとされている。これは、貧困が経済だけでなく、複合的な原因から定義されるとの理解に基づくもの。

したがって、客観的に消費・所得で計測するPSA調査のパターンと、SWSの主観的貧困(貧困層の自覚を聞く)の両方をあわせて貧困分析することは非常に良い事案といえる。

今回の場合、経済的尺度で計測した貧困率と、貧困層の感覚的な貧困率(主観的貧困率)の両方が改善傾向にあるという結果だ。調査期間が若干異なるため、一概には言えないが、フィリピンの貧困削減は順調に進んでいると見ることができるだろう。

ただし、地域間格差が広がっているとの数値が出ているため、全国平均だけで社会経済状況を把握することはできないことに留意したい。