携わっている仕事について書きます。

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人道支援における現金給付と長期的なセーフティーネット

5月12日、人道支援とセーフティネットに関するオンラインセミナーが開催される。

緊急人道支援の一環で、現金給付(Cash Transfers)が実施されることが一般的となりつつあるが、中長期的なソーシャル・セーフティー・ネットとして現金給付をツールとした制度整備する動きも活発化している。

日本国内ではまだ積極的に取り組まれていない分野だが、ホットな分野の一つ。

無料で参加できるので、是非登録して第一線の議論に参加してみてはどうだろうか。

 

実施機関

 

実施日時

2016年5月12日

  • 9:00 – 10:30 (UTC-4, Washington DC)
  • 10:00 – 11:30 (UTC-3, Brasilia/Brazil)
  • 14:00 – 15:30 (UTC+1, London/United Kingdom)
  • 15:00 – 16:30 (UTC+2, Paris/France)
  • 20:00 – 21:30 (UTC+7, Bangkok/Thailand)

 

参加登録

下記外部リンクより。

 

参照:A Framework and Practical Guidance on Linking Humanitarian Cash Transfers with Long-Term Social Safety Nets

カンボジアで数十年に一度の旱魃発生

カンボジア政府のスポークスマンが大旱魃に見舞われるリスクを発表した。例年より雨季の到来が数ヶ月遅れる見込みであることが原因だ。

「過去にも局地的な干ばつに見舞われたことがあるが、今回は全国規模の大旱魃。コレラの蔓延など、感染症拡大の恐れもある。」

UNICEFによれば、カンボジア北東部のラタナキリ州では、小学校203校中136校で水が不足しているとともに、生徒や教師の欠席・欠勤率が高まっている。

シェムリアップ州、バッタンバン州、ストゥントレン州では、動物の大量死も確認されており、予断を許さない状況。

不衛生な水へのアクセスによって人体へ直接的な被害が懸念されるほか、中期的には稲作、畜産、水産業で生計を立てている貧困世帯への影響が懸念される。

また、全国規模の自然災害と見込まれることから、マイノリティへの支援がどの程度優先的に実施されるかが焦点かもしれない。特に、北東部の山岳地域に居住する少数民族は、高い貧困率と大都市へのアクセスが悪いことから、支援の優先順位をどこまで上げることができるかが課題となりそうだ。

 

参照:Animals die as Cambodia is gripped by worst drought in decades

ミャンマーがユニバーサル・ヘルス・カバレッジへ取り組み

ミャンマーは2030年のユニバーサル・ヘルス・カバレッジ達成を目標としているが、医療スタッフの不足が課題となっている。

シリアの貧困率が80%へ悪化、5年で3倍に

国連西アジア経済社会委員会(ESCWA)が発表した報告書によれば、直近のシリアの貧困率は83.4%と見込まれ、2010年の28%から急速に悪化した。

人道支援を必要としている人はシリア国内に1,350万人おり、この内400万人が首都ダマスカスとアレッポにいる。

平均寿命は2010年に70歳だったが、2014年には55.4歳まで悪化。

また、1,210万人がきれいな水へのアクセスが無いとされる。

 

参考:More than 80% of Syrians live below the poverty line

貧困とジェンダー、ネパール母子家庭の貧困率は男性世帯よりも低い

2011年に実施された家計調査(NLSS-III)によれば、ネパールの貧困率は25.16%。男女別にみてみると、女性が長の世帯(Female-headed households)の方が、男性が長の世帯よりも貧困率は低い。

記事下部に記載した参照記事は、残念ながら理由について言及しておらず、論理的な構成になっていないため読みにくい。しかし、著者が紹介している地元の人の声や実情は興味深い。

「男性は女性の25%しか働いていない。女性が農地を耕し、野菜を育て、収穫する。女性は抱えられるだけ野菜を抱え、市場へ売りに行くが、男性はより多くの野菜を自転車や牛車で売りに行く。」

ここで言わんとしていることは明確にはわからないが、文脈からすると、「女性の方が真面目に体を動かして働き、男性は楽して金を稼ぐ」ということを批判的に書いているようだ。

開発経済学の教科書で勉強するセオリーでは、「女性が長の世帯は男性労働力が不足するため、生産性が低い。したがって、貧困率は高くなる。」と勉強した記憶がある。

しかし、ネパールしかり、東南アジア諸国では、女性が長の世帯の貧困率が相対的に低い現象がみられる。

今回のネパールのケースから考えられることとしては、「女性は一人でも高い生産性を持つが、男性の生産性は女性よりも低い」ということだろうか。

これについて長年詳細に検証してみたいと思っているが、まだ手を付けられていない。

南アフリカの貧困率の減少は2018年まで見込めず

南アフリカ共和国の一人当たりGDPは2014年以降減少を続けており、直近の旱魃が貧困率をさらに悪化させたようだ。

世界銀行が公表した推計によれば、経済成長は人口増加を2018年まで超えることができそうに無い。コモディティ価格が低水準にあることが為替やインフレを悪化させている。

こうした厳しいマクロ経済状況が続けば、貧困率は現在の水準である15%前後に留まる見込み。

 

参照:Macro poverty outlook for South Africa

開発途上国の貧困の定義と計測方法のまとめ

開発援助の実務をイメージで理解する - 第一回「貧困の定義と計測方法」

不定期連載コラム「開発援助の実務をイメージで理解する」。第一回は、「貧困の定義と計測方法」。日々のニュースで「貧困率」「子供の貧困」「女性の貧困」など、貧困について耳にすることが増えてきた。しかし、実際にどのように貧困が定義され、貧困率が計算されているかご存知だろうか?

このコラムでは、開発途上国の実務の現場で使われる専門用語や分析手法をわかりやすく、イメージで理解していただくことを目指している。

貧困の定義

貧困層とは何か。哲学的な議論は多々あるだろうが、ここでは実際に広く使われている定義をご紹介する。貧困の定義は、まず大きく2つに分かれる。開発途上国で一般的に使われる絶対的貧困と、先進国で使われる相対的貧困。それに加え、最近脚光を浴びている多元的貧困。この3つが実務の現場で使われている一般的な貧困の定義だ。

絶対的貧困とは?

絶対的貧困(Absolute Poverty)は、開発途上国における貧困の定義。ある一定の所得・消費水準(これを貧困線と呼ぶ)に満たない人々を貧困と定義する。絶対的貧困は開発途上国の貧困を計測する際に用いられる定義だ。詳しくは、後述の「貧困指標」を参照いただきたい。

相対的貧困とは?

相対的貧困(Relative Poverty)は先進国における貧困の定義。「所得(等価可処分所得)の中央値の半分に満たない人々」を貧困と定義する。たとえば、国民全体の所得の真ん中が200万円だとすれば、100万円未満の人々を貧困とみなす。絶対的貧困と異なり、貧困の定義が中央値に左右されることから、「相対的」貧困と呼ばれている。

多元的貧困とは?

多元的貧困(Multidimensional Poverty)は、所得だけでなく、他の要因も加味した貧困の定義。絶対的貧困や相対的貧困が所得の多少によって貧困層を定義しているのに対し、教育や保健へのアクセスなどお金に換算できない指標も考慮して貧困を定義する。最も有名な例だと、国連開発計画(UNDP)の人間開発報告書において、多次元貧困指数(Multidimensional Poverty Index: MPI)が採用されている。

貧困指標

開発途上国で使われる貧困の定義は、絶対的貧困と多元的貧困の2つだ。では、具体的にどのように使われるのだろうか。大まかに言えば、貧困指標は主に貧困率、貧困ギャップ、二乗貧困ギャップに分類される。また、最近では、多元的貧困指標も脚光を浴びている。ここでは、これらの貧困指標の算出方法について順番に解説していく。

データ

貧困指標を計算するには、データが不可欠だ。一般的に、家計調査・世帯調査を通じて、所得・消費、家族構成、就学状況、保健サービスの利用状況などの世帯情報をまとめて調査することが多い。

家計調査で世帯情報を集める

分析を開始するにはデータが必要だ。こうしたデータ収集のことを、一般的に家計調査・世帯調査(Household Survey)と呼ぶ。一番正確なデータを集めるには、国民全員に調査票を配布してデータを集める国勢調査(Census)がベスト。

しかし、数千万人~数億人を対象に調査することなど、予算的にも開発途上国において実施することは不可能だ。そのため、数千~数万件の世帯を調査することで代替することが一般的となっている。統計学の複雑な話はここでは省くが、統計の専門家が上手く調査方法をデザインすることで、小規模のデータ収集で、全国の貧困率を推計することができるというわけだ。

家計調査のデータの入手方法

自分で実施することも可能だが、実務家の場合、既存のデータで事足りることも多い。例えば、世界銀行が広く実施している世帯調査(The Living Standards Measurement Study: LSMS)は代表的な調査事例だ。また、最近はオープンデータ化が世界的に進んでおり、世界銀行や各国統計局のウェブサイトからも簡単に入手できるようになっている。

データ分析に使うソフトウェア

データ分析を行うには、STATAが一般的に使われるソフトウェアだ。日本の大学では、SPSSがよく使われるようだが、開発業界ではSTATAが一般的となっている。もちろん、貧困指標を計算するだけであればExcelでも十分だが、既存のデータのほとんどはSTATAかSPSSで作成されているため、Excelでは開くことができないだろう。

貧困線(貧困ライン)とは?

貧困線(Poverty Line)は、貧困を定義するためのボーダーラインのこと。「1日1.25ドル以下で生活する人を貧困層としよう」といった風に線引きを行うことで、貧困層とそうでない人を分ける目安だ。基本的には、1日当たりの必要最低限の生活水準をお金に換算して定義される(必要最低限のカロリー・栄養のある食事+生活必需品の金額)。

ところが、注意しなければならないのは、貧困線は普遍的ではないということ。「貧困線は必ずXXXドルにしよう」といった国際的な合意がない。それではどのように貧困線は決められているのだろうか。大きく分けて2パターンある。

国際貧困線(国際貧困ライン:International Poverty Line)

国際貧困ラインは、世界銀行や国連機関が基準として採用しているもの。国際的に影響ある機関が採用しているため、実質的にこれらの基準値が一般的になっているのが実情だ。世界銀行はこれまで、1日1.25ドル未満で生活を営む人々を貧困層と定義してきたが、2015年末に1.90ドルへ改訂することを発表した。国際貧困ラインを使うのは、国家間の貧困率を比較するときだ。全ての国を一つの基準で比較することで、貧困指標の国家間比較が可能となる。今後、国際貧困ラインを使って貧困率を比較したいときには、1.90ドルを基準に考えれば良いだろう。

国家貧困線(国家貧困ライン:National Poverty Line)

国家貧困ラインは、開発途上国自らが定めているもの。貧困層と最貧層を分けるため、貧困ラインを2段階定めている国が多い。当該国の通貨単位で定められることが一般的。

貧困プロファイルや経済レポートで、単に”Poverty Line”と記載されている場合、どちらの貧困ラインのことを言っているのか注意する必要がある。また、首都、都市部、農村部など、地域別に別々の貧困ラインを設けていることもあるため、注意が必要だ。

また、貧困指標の国際比較を行う際、国家貧困ラインで定義された貧困率を比べて議論している人を時折目にするが、これは間違い。国家貧困ラインは国ごとによって異なるため、国際比較をしたいのであれば国際貧困ラインを用いるべきだろう。

貧困率の計算方法

貧困率(Poverty Headcount Ratio)は、全人口に占める貧困層の割合のこと。英語の文献などでは、貧困率のことを「P0」と表現することもあるが同じ意味だ。

計算方法は、貧困ラインに満たない人々の数を総人口で割ればよい。計算式は、「貧困率=貧者の数/総人口」となる。計算式にご関心がある場合は、こちらに掲載したので参照してほしい。

貧困ギャップ率の計算方法

貧困ギャップ率(Poverty Gap Ratio)とは、貧困層の所得・消費水準がどの程度貧困線から乖離しているか(下回っているか)を示す貧困指標。そのため、貧困ギャップは「貧困の深度(Depth of Poverty)」と表現されることもあり、貧困の深刻さを計測する目安となる。

貧困率は、貧困層の人口に占める割合を計測する指標であり、貧困層が「どの程度貧しいのか」を表すことはできない。一方、貧困ギャップは、貧困線と貧困層の所得・消費水準の差がどれほどあるかに注目し、貧困の程度を表す指標だ。

これを応用すれば、貧困削減を完遂するために、最低でどの程度の所得上昇が必要なのかを見積 もることができる。特に、貧困層向けの社会保障制度給付金額の決定に際し、参考指標として使われることが多い。

計算方法を簡単に説明すると、「貧困ギャップ率=貧困線以下にいる人々の貧困ラインまでの不足額の平均」となる。計算式にご関心がある場合は、こちらに掲載したので参照してほしい。

二乗貧困ギャップ率の計算方法

二乗貧困ギャップ率(Squared Poverty Gap Ratio)は、貧困層間における格差に着目した指標である。貧困層と一括りに言っても、貧困ラインに近い人々もいれば、遠いところにいる人もいる。当然、貧困ラインから遠いところにいる人々が多い方が、貧困問題は重度ということになる。このように、貧困問題がどの程度ひどいのかを表す指標として二乗貧困ギャップが考案された。「貧困の重度(Severity of Poverty)」と表現されることもある。

文字通り、貧困ギャップから派生した指標。つまり、貧困層の所得・消費水準 の不足分(貧困ギャップ)を二乗することで、より貧しい人の状況を指標により大きく影響させようとしたのが、二乗貧困ギャップ率だ。

「貧困線直下に貧困層が密集している地域」と「貧困線よりもずっと下の方に貧困層が集中している地域」とを区別するためにこの二乗貧困ギャップ率が用いられるのである。計算式にご関心がある場合は、こちらに掲載したので参照してほしい。

多次元貧困指標の計測方法

最も有名な事例では、人間開発報告書で採用された多次元貧困指数(Multidimensional Poverty Index: MPI)が記憶に新しい。貧困を所得・消費水準だけでなく、教育・保健サービスへのアクセスも数値化して組み込む指標だ。どのような指標を組み込むかは、統一見解はないが、MPIの構成指標はUNDPのホームページで確認することができる。

多次元貧困指標を開発した研究チームは、オックスフォード大学貧困・人間開発イニシアティブ(OPHI)のアルカイア教授。実務家向けの参考文献や講義ビデオを無料で公開しているので、関心のある方はこちらを参照してほしい。

※記述に間違いがある場合、ご要望がある場合は、コメント欄かメールでお知らせください。PDFはこちら。WORDはこちら

参考文献

実務家向け入門編

  • World Bank. 2010. Handbook on Poverty and Inequality (PDF) (BOOK)
  • Reading List of University of Sussex (PDF)

学問的に学びたい方向け学術書

  • Ray. 1998. Development Economics (BOOK)
  • Todaro. 2015. Economic Development. (BOOK)
  • 戸堂. 2015. 開発経済学入門 (BOOK)
  • ジェトロ. 2015. 開発経済学 (BOOK)
  • 渡辺. 2010. 開発経済学入門 (BOOK)

子供給付が南アフリカの貧困削減を牽引

南アフリカでは、子供の人口が2,300万人に対し、その約60%が貧困世帯で生活している。こうした課題に対処するために、子供給付(Child Support Grant: CSG)は過去10年間でカバレッジを拡大してきた同国最大の社会保障プログラムの一つ。

カバレッジは、1998年に子供の貧困の10%に留まっていたが、2015年には85%まで拡大した。南アフリカの貧困世帯に暮らす子供たち1,170万人がCSGの恩恵に預かっている計算だ。

CSGは、18歳以下の貧しい家庭に暮らす子供たちに毎月330ランド(約3,000円)を給付する制度。社会政策(授業料免除、学校給食、保健サービスへの補助金)とともに貧困削減に寄与していると考えられている。

失業率がと貧困率が高い南アフリカでは、子供給付のほとんどが食費に使われる。結果的に、子供の健康や栄養状態の改善に寄与しているというわけだ。

国際労働機関(ILO)が発表した報告書によれば、子供給付の効果は数字に表れているという。受給世帯の子供は、他の子供に比べて身長が平均3.5センチメートル高いという推計が出ているようだ。

 

参照:South Africa’s Child Support Grant: A booster for poverty reduction

ルワンダが長期の産休を認める法案を可決

ルワンダの妊産婦は、12週間の産休を有給で取得することが認められることとなった。これは今年2月に議会が可決した法案で、12週間の産休期間中に給料を100%受け取ることを保障するもの。

これまでも12週間の産休は認められていたが、産後の早期復職を促すために最初の6週間に限って給料の100%を認めるものだった。残りの6週間は、給料の20%しか受け取ることができなかった。

今回の法案可決を受け、社会保障事務局は過去数ヶ月の平均給与から給付額を算出し、給料相当額を月額給付していく。

保険料は被保険者の給与の0.6%となる見込みで、雇用者と労働者が0.3%ずつ負担することとなる。

 

参照:Rwanda: Mothers to Get Full Salary Under New Maternity Leave Law-All Africa

イラク・シリア難民へWFPがデジタルカードで現金給付

WFPがイラク・シリア難民に対してデジタルカードの配布を実施する。これは通称SCOPEと呼ばれるカード。これによって、受給者は食糧配給の受給方法を選択できるようになる。

つまり、カードに組み込まれた受給者情報によって、食糧配給「相当額」を現金かバウチャーで受け取ることができる仕組みと思われる。

従来の物理的な食糧配給に加え、家庭や地域の状況に応じて、受給者に選択肢が与えられることとなるメリットがある。また、WFPにとっても、オペレーションコストの削減(食糧輸送・貯蔵費)に貢献することが期待される。

地域経済の観点からすれば、メリットもデメリットもある。外部からやってきて食糧配給を行うと、食糧生産・輸送に携わる地場産業が衰退するデメリットがあり、食糧の市場価格が下がることも予想される。一方、現金給付の場合、食糧価格の上昇リスクがある。もちろん、現金給付を行う場合は市場で食糧調達が可能であることが前提だ。

「食糧 vs 現金」は、緊急支援および社会保障(ソーシャル・セーフティネット)分野の古典的な問いであるが、デジタルカードという技術革新によって選択肢が広がったことは歓迎するに値する。

なお、WFPは欧州委員会人道援助・市民保護総局(ECHO)から約35億円(3,200万ドル)の拠出金を得て、同地域での人道支援に当たっている。

 

参照:Digital cards improve food assistance to displaced families and Syrian refugees in Iraq – UN agency