私たちは読むことに疲れてしまった。1970年から2017年までの一流学術誌を分析した研究がある[1]。この約50年間で、論文の平均的な長さは16ページから50ページとなった。論文の審査に当たる査読者は、駄作の可能性がある40-60ページの論文を読まなければならない。コンピュータの普及によって人が書くスピードは飛躍的に向上した一方、読むスピードというのは然程変わるものではない。査読者の苦労を経て出版された論文でさえ、読むのに3倍の時間を要するようになった。
この結果、読まれない論文が日々大量生産されている。たとえば、世界銀行が出版した政策文書の13%は250回しかダウンロードされず、31%は一度もダウンロードされず、87%は一度も引用されていなかった[2]。多額の費用と時間をかけて世に送り出された研究結果の多くは、誰の目にも触れず、研究者の履歴書の一行を飾るだけの自己満足の産物となっている。
また、国際機関が出版する政策文書の発行プロセスはどうだろう。学術誌のような厳しい査読や剽窃の審査プロセスはなく、コピー・アンド・ペーストによる使いまわしが横行してはいないか。たとえば、長い報告書を作成した場合、読みやすさに配慮した要点のみの文書を作成することがある。文書の本質に変更はないので大部分は同じ内容だが、別の文書番号で出版される。こうして同じような文書が世の中に氾濫する。
ここで言いたいのは、剽窃が良いとか悪いとかではない。同じような文書が世の中に溢れ、疲れ切った私たちはどうすべきか。そこに光を当てたい。
専業の研究者でさえ論文を読むことに疲れてしまった今、実務家がエビデンスを集めるにはどうすべきか。国際機関で政策の仕事をしていると、若手コンサルタントを雇い、文献調査を行ってもらうことが多い。つまり、短時間で要点のみを凝縮してもらう作業だ。
これが実務家側ができる最大限の努力。一方、研究者から実務家へエビデンスを届ける動きがあっても良いのではないだろうか。このような問題意識から、3分で学術論文の要点を読む・読ませる試みを考えた。大量の情報処理に追われる実務家には、ドリップコーヒーができるまでの数分しか残されていないのかもしれない。
ペーパードリップ(Paper Drip)とは?
「3分で学術論文の要点を読む・読ませる」を実現する企画です。エビデンスを政策の現場へ届けたい研究者と、時間に追われる実務家の橋渡しを目指しています。学術誌に掲載された論文はもちろん、ワーキングペーパー(未発表の論文)、大学院のタームペーパーや修士・博士論文など、開発政策に役立つと思われる論文を紹介してください。
ペーパードリップは文字通り、ろ紙でコーヒーを抽出する簡易な方法として広く愛されています。論文の美味しい部分を抽出(ドリップ)して、実務家へ届けてみませんか?
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[1] Leubsdorf. 2018. Economists can’t write economically, driving demand for brevity. Note: Standardised mean length of articles in American Economic Review, Econometrica, Journal of Political Economy, Quarterly Journal of Economics, Review of Economic Studies.
[2] Doemeland and Trevino. 2014. Which World Bank reports are widely read?