外部メディアに掲載された記事の一覧です。

慢性的貧困の撲滅には何が必要か?-2030年へ向けて実務の観点から

30年まで15年もある。いや、「15年しかない」という方が正しい。2030年までに貧困を撲滅することを目指すのであれば、今すぐに慢性的貧困の問題に取り組まなければならない。どのような課題があり、開発途上国や援助機関はどのように克服できるのだろうか。過去数十年にわたる議論の焦点は、「経済成長を通じていかに貧困を削減できるか」だった。一方、新しい開発目標の下では、議論の焦点は貧困の「削減」から「撲滅」へと転換しつつある。

削減から撲滅への転換によって、誰の貧困問題の解決を目的とする政策なのか、という問いが重要となる。たしかに、高い経済成長は消費水準を上昇させることで多くの貧困層にとって有益かもしれないが、貧困層の中でも最下層に位置する慢性的貧困層は裨益することができるのだろうか。言うまでもなく、慢性的貧困層が長期間貧困状態にある原因は、過去の経済成長から利益を享受できなかったためだ。彼らを貧困状態に留めておく構造的な問題を取り除かない限り、貧困はゼロにはならない。直近の慢性的貧困報告書(Chronic Poverty Report)によれば、慢性的に貧困状態にある人々とショックによって一時的に貧困状態にある人々を分けて考え、異なる政策を立案すべきだとしている。

その答えは現実的かつ実用的でなければ意味がない。私たちには残された時間は少ないから。2030年に貧困撲滅を達成するためには、今すぐ取り組みを開始する必要がある。つまり、長期的な貧困に苦しむ全ての子供たちへ教育や保健サービスを受ける機会を与えること。そうすることで、15年後、彼らが大人になった時には収入を得て家族を養えるようになる。15年という限られた時間を考えれば、世代間の貧困の連鎖を断ち切ることができるのは今しかない。では、慢性的貧困の解決へ向け何が重要なのだろうか。私は「実施」が重要な要素だと感じている。実務的な案件実施方法と言ってもよいかもしれない。案件を実施するためにはまず、当該国にどれくらい慢性的貧困層が居住しているのかを知る必要がある。そして、彼らの住環境、家族構成、収入減を調べ、どのようなクライテリアを用いれば彼らを案件対象家庭として選定(ターゲティング)できるかを考える。これらの分析は実践可能だろうか。

案件実施のためには、データがもう一つの重要要素である。一般的に慢性的貧困の測定にはパネルデータが用いられる。同じ家庭のデータを複数年にわたって収集し、貧困状態が継続したかどうかを測定する手法だ。この手法の最大の欠陥は実用性に乏しいことにある。実際に、全国規模の貧困分析を可能にするパネルデータを保有している開発途上国はほとんどない。研究費用を確保できた研究機関が、彼らの関心に基づき局地的に収集したパネルデータはあるだろう。しかし、政策立案・モニタリングを行うに足るデータは、定期的かつ全国規模で収集される必要がある。したがって、開発途上国は慢性的貧困の問題にパネルデータなしで立ち向かわねばならないことになる。繰り返しになるが、今からデータを集めるのでは手遅れだ。今あるデータを使って慢性的貧困層をターゲティングする手法を考え出すしか道は残されていない。

一例として、最近出版した論文でカンボジアの農村部での慢性的貧困の分析をパネルデータなしで行った。ポイントは定性データと定量データの融合にある。定性データは、参加型貧困アセスメントの結果。定量データは一般的に政府が行っている家計調査データ。どちらも全国規模で行われたものであり、全国規模の推計を行うには不足ない。定性データを用い、貧困層自らが考える慢性的貧困の定義を採用し、定量データで対象家庭を推計する手法だ。

詳細は論文を参照いただきたいが、驚くべき結果が得られた。カンボジアでは2004年から2010年のわずかな期間に貧困率が60%から40%まで改善したにもかかわらず、ここで推計した慢性的貧困率は11%からほとんど改善が見られなかった。この結果は、高度経済成長が慢性的貧困家庭の消費水準を上昇させた一方、生産用資産(Productive Asset)と人的資本(Human Capital)の拡充といった構造的な貧困要因を改善するに至らなかったことを示している。

更に、政策的観点から重要なことは、カンボジアの国家貧困線による消費ベースの測定方法では、ここで推計された慢性的貧困層のほとんどをとらえることができないということだ。これらの慢性的貧困層は消費水準こそわずかに高いものの、人間開発の水準は極めて低い水準に停滞しているため、単に計測方法の違いによるものとして片づけることができない問題といえる。これが示す政策的意味は、慢性的貧困の計測は、消費だけでは不十分であり、多元的な要素を考慮すべきということ。クライテリアの選定に当たっては本論文で示された慢性的貧困層の特性が参考となるだろう。特に、貧困層にとって最後の頼みの綱である国家社会保護戦略(NSPS)、セーフティネットの実施に際しては留意する点だろう。

論文中で示された手法はほんの一例に過ぎない。ただ、いずれにせよ現在利用可能なデータを用い、実務家・政策立案者がデスクサーベイですぐに実施可能な分析手法が望ましい。慢性的貧困層を見つけ出すにはパネルデータがベストかもしれない。しかし、データがなく、残された時間もない以上、ベストではなくともベターな手法を用い、すぐに案件実施へつなぐことが重要だろう。2030年を見据えレ場、私たちに残された時間は限りなく少ない。

ソマリアが中国を歓迎する理由とは?

タクシー運転手の途上国開発談話。今回はソマリア系移民の運転手が熱く語ってくれた。西欧経済圏で暮らしながら母国へ馳せる思い。台頭する中国。祖国へ残してきた実家。家族経営の農場。アフリカの仕事をしていた、ソマリア難民支援をしていたと伝えると、運転手の話が一気に熱を帯びた。

― 出身地

ソマリア

― 年齢

1967年生まれ。47歳。

― 職業

タクシー運転手。

― タクシーの運転手をする前はどのような暮らしを?

ソマリアでの暮らしはとても豊かなものだった。弟と両親の5人家族で、小さな家族だったが、父は大農園の経営者だった。牧場には常に200頭の家畜がいて、果物畑にはマンゴー、バナナ、オレンジの木。季節に応じて色を変える、色彩豊かな自然環境で育った。

― ソマリアへの想いは?

私たちの豊かな国はクーデターでバラバラになった。西欧の侵略はひどいものだった。ソマリアの国土は分断され、フランス(ジブチ)、イギリス(ソマリランド)、イタリア(ソマリア)に同時に支配された。今でも多くのソマリ人がそれぞれの『国』にいる。

クーデターの後、経済的な支配が継続された。最近では、イギリス、カナダ、アメリカが石油の掘削を開始した。ソマリア沖の油田から石油をとっていく。西洋人のやり方は好きではない。ソマリアの資源をとっていき、最後は武器を売りつける。そして、疲弊した国土と人々に対して人道支援を行う。人道支援で潤うのは、西洋の企業であり、ソマリ人ではない。経済的支配、武器の提供、人道支援。「合法的なやり方」でソマリアをどん底に陥れたのは誰だろうか。

私は中国を歓迎している。全てのソマリ人も同意するだろう。最近、中国も石油の掘削を開始した。彼らが西洋人と異なるのは、ソマリ人へ利益の半分を分けてくれるところ。ソマリアには石油を掘削する技術がない。中国は技術を提供し、利益を配分してくれる。これ以上良いことはない。

西洋人は中国のやり方を悪く言う。「金の亡者だ」と。それでもソマリ人は中国員の手にキスをして歓迎するだろう。ソマリ人はアメリカ人が来た時も歓迎した。でもアメリカ人は食糧と同時に武器もばらまいた。中国人は少なくとも利益の半分をくれる。中国のほうがましだ。

― ソマリアへ帰りたい?

もちろん。でもソマリアへは住まない。過激派は自分を諜報機関のエージェントとみなすだろう。家族が保有している土地を売りたい。かつて保有していた農場は、推定4億円と言われている。ただ、国が安定するまでは売らないつもりだ。土地の権利書は今でもアメリカの銀行へ大切に保管している。ソマリアに戻れば裁判所がこれを正当な権利書として認めるだろう。

※談話はあくまで個人の意見であり、客観的な見解ではありません。

路地裏の美術館-プノンペンの街角から

東洋のパリ。プノンペンにはその名のとおり、路地裏にひっそりたたずむ美術館がいくつもある。1975年4月17日、プノンペン陥落。クメール・ルージュが入城してくる姿をアル・ロックオフが伝えた外国人記者クラブ(FCC)から172番通りを西へ行く。メコン川とトンレサップ川から吹き付ける心地よい風は、東洋のセーヌ川と形容されたとか。

クメール文化を現代に伝えるプノンペン王立芸術大学もこの通りにある。カンボジア屈指の芸術家がここで絵をかき、芸術家の卵を育てている。大学のアトリエから運び出されたたくさんの絵は、172番通りに店を構える路地裏の商人に託される。歩道にせり出す油絵の数々は、何の変哲もない路地を華やかに彩る。通り全体が美術館のようだ。

店先で何かを削る若い店番は芸術家の卵かもしれない。段ボール箱をサンダル代わりに遊ぶ遊び盛りの男の子も美術商の息子。クメール芸術の巨匠はここから生まれるのかもしれない。

店先に並んでいる絵画に目をやる。カンボジアの農村部を描く絵は、夕日を背に農作業をする農夫と水牛を浮かびあがせる。伝統舞踊アプサラを踊る女性も美しい。

お気に入りの絵を見つけると、値段交渉が始まる。昔は値切り交渉に応じる店も多かったが、今ではあまり派手に値切ることはできない。良い絵には敬意を払えということなのかもしれない。値段はどこも10ドル程度から。良い絵には高い値がつく。

その中でも王立芸術大学で教えるラタナという先生は名高い。彼の描くカンボジアの農村部の情景は、目をつむっても鮮明に浮かんでくる。

お気に入りの絵を言うと、奥のほうからお父さんが出てくる。英語など解さない生粋のクメールっ子だ。それでいて笑顔は絶やさない。商売人の真髄ここにあり、といったところか。購入した絵は運びやすいように丸めてくれる。そのまま持って帰りたい場合は、木枠ののまま持ち帰ることができる。

プノンペンを訪れる際には、路地裏の美術館へ足を運んでみてはどうだろうか。

日本はなぜ呟かないのか?コンプライアンスと広報の狭間

「日本は何をしているのかわからない」

開発業界で仕事をしていると耳にタコができるほど耳にする言葉だ。日本の援助は見えない。これが定説となって久しい。関係者はもちろん、広報活動に力を入れて、この汚名を返上したいと努力している。しかし、努力と結果は必ずしもすぐに結びつくものではないのだろう。

開発業界では、ソーシャルネットワークの活用が一大ブームとなりつつある。研究者、実務家が、ツイッターやフェイスブックの公開アカウントから生の声を届けるのが広報活動の主流となりつつある。日本はどうだろうか。残念ながらヨーロッパやほかの主要援助国の後手をいく。組織の公式アカウント以外に、実名でSNS等で情報発信している関係者はどれだけいるだろうか。諸外国の同業他社に比べるとアリとゾウほどの差がある気がする。

ではなぜ日本の開発業界ではSNSが広報の主流となっていないのだろうか。

この質問に対して私の考えを書く前に、紹介したい記事がある。5月18日に英国開発学研究所(IDS)のホームページに投稿された記事だ。IDSは世界の援助関係機関の中で、SNSを活用した広報活動で最も成功している機関の一つだ。研究成果や開発業界をけん引する議論の発信にSNSを積極的に使い、約140,000のFacebookフォロワーがいる。

広報部長のジェームス・ジョージャラーキスは、IDSの成功を次のように説明している。

IDSのニュースや活動内容に限定して広報活動を行ったことは一度もない。むしろ、他の団体が発信する記事や活動を定期的に紹介している。IDSの成功の秘訣は以下の6つ。

1. 全てのSNSチャネルを活用し、ニュースや記事を迅速に発信すること。BufferAppのような便利なツールも活用する。
2. 自らの記事だけでなく、パートナー団体の記事も発信する。
3. 同様の関心を持つ人々を見つけ、フォローする。
4. フォロワーからのメッセージへは迅速に回答する。
5. 特定の人々にターゲットを絞る(卒業生や同僚を通じてその友人等への波及効果)。
6. メディアポリシーを作成し、SNSで積極的に発信する職員を支援・保護する。

The Povertist立ち上げから運営を振り返ると、これらの考えに実感を持って同意できる。では、これらの成功要因を日本が真似できないのはなぜだろうか。経験則から言えば、コンプライアンスと広報活動の利害が対立しているためかもしれない。

つまり、日本の組織は次の壁に直面している。

  1. 新しいサービスの使用:組織が大きくなればなるほど、新しい試みへの対応は遅くなる。コンプライアンスと責任問題が常に大きな壁として立ちはだかる。もし新しいサービスを使うことで何か問題が起こった場合、誰が責任をとるのか。長い長い議論の始まりで、気の遠くなるほどの事務手続きを経て、こうしたサービスの使用許可が下りる。ツイッターアカウント一つ作成するのにも多大な労力を費やしている組織は多いのではないだろうか。
  2. インターアクションのリスク:SNSの最たる魅力はユーザーとの交流にある。日本の組織はこうした交流を通じて何か悪いことが起きることを恐れる傾向にある。悪意のあるユーザーがコメント欄を荒らした場合、誰の責任となり、どう対処すべきなのか。ここでも責任問題が大きな壁となる。どんなにSNSのメリットがあっても、こうした小さなデメリットのほうが大きく目に映る。そういった企業文化が根付いている組織は多いのではないだろうか。

これらのリスクによって、日本はSNSのメリットを十分生かしきれていないような気がする。組織のニュースや活動に関するプレスリリースを共有するにとどまり、他団体のニュースへのコメントやそれらの共有を行っている組織はどれほどあるだろうか。責任問題からの脱却がない限り、IDSのようなSNSの活用は難しい。ではどうすべきか。

解決法はすでに示されている。日本の開発業界は、ジェームス・ジョージャラーキスの6番目の秘訣から学ぶことができるはずだ。メディアポリシーでSNSを活用した職員個人レベルの発信を推進し、擁護する。日本の援助をもっと可視化するためには、これが一番早い方法である気がする。

世界一の機関がいうのだからやってみて損はないはずだ。

卒業プログラムは途上国の子供の貧困を改善できるか?

社会保護は貧困層を救うことができるのだろうか。ここで重要なことは、一時的な貧困状態の改善ではなく、貧困から抜け出した世帯が二度と貧困状態へ舞い戻ってこないことだ。社会保護(Social Protection)は一般的に貧困の悪循環を断ち切ることを目的としている。言い換えれば、貧困が長期的に継続することを防ぎ、世代間の貧困の連鎖(親から子供への貧困の連鎖)を食い止める役割を担う。それにもかかわらず、社会保護の実務では、短中期的な効果を狙った案件が多い。どうすれば社会保護は本当の意味で、貧困の根を断つことができるのだろうか。

子供の貧困が一つのアプローチだろう。最近では、貧困からの卒業プログラム(Graduation Programme)が貧困と社会政策の議論の中心になりつつある。つまり、社会保護の受給世帯をいかに自立させ、自らの足で生計を立てる手助けを意図するプログラムだ。5月13日、英国開発学研究所(IDS)は「社会保護からの卒業(Graduating from Social Protection?)」と題する論文集を発表した。そこに、まさに子供の貧困と社会保護の役割の概念整理を行った論文が含まれている。

論文の中でIDS研究員キーティ・ローレンは、「卒業プログラムは2つの投資の罠を考慮すべき」としている。そうすることで、貧困の世代間連鎖を断つことができるという。

卒業プログラムが貧困の世代間連鎖の時間軸を見過ごす「失敗」を犯すことで、子供を要する受給世帯は、本質とは異なる部分で無駄な配慮を要求されることとなる。つまり、卒業プログラムが短期的な効果を求める仕組みとなっていることによって、受給世帯は中長期的な貧困の世代間連鎖を断つことではなく、短期的な成果を出すことを心がけなければならない事態が起こりうる。

同研究員の概念整理によれば、このような状況下にある受給世帯は2つの選択に迫られる。

1. 子供への資源配分

  • 経済的な配分(投資)先の選択:受給世帯は現金給付を受けた時、現金を世帯内でどのように割り振るか選択する必要に迫られる。これに関しては、現金給付プログラムが子供に良い影響を与えるといった研究が多く存在する。
  • 時間の使い方に関する選択:生産性の高い活動へ時間を割くか、利益は生まれないものの子供の世話に時間を割くか、世帯は選択を迫られる。

2. 子供の世帯に対する貢献

  • 生産性の高い活動:世帯の幸せと子供の幸せは両立しない。世帯がより多くの時間を生産活動に費やせば、子供の世話をする時間が必然的に減少する。
  • 家事や子供の世話:世帯の生産性を向上させるために、子供自らが世帯の活動へ貢献することも考えられる。

私見では、これらの考えに賛同する部分が大きい。社会保護は本来の目的である中長期的な貧困の世代間連鎖をいかに断ち切ることができるか、改めて考慮する必要があるだろう。ポスト2015アジェンダの中で、開発援助業界は絶対的貧困を向こう数十年でゼロにすることを目指している。そして社会保護は貧困と脆弱性の削減の主柱に据えられた政策である。これらの開発課題と解決策を結ぶために、子供の貧困に関する「2つの投資の罠」に着目したアプローチは有効な考え方の一つと言えるだろう。

次のステップは、このアプローチをいかに実践に応用することができるかにある。研究者と実務家に課せられた喫緊の課題と言えるだろう。

参考文献

Keetie Roelen (2015) The ‘Twofold Investment Trap’: Children and their Role in Sustainable Graduation.

ネパールが直面する次の課題とは?災害時の公共調達

大地震から半月以上が経過したネパール。依然として続く余震の中で復興支援が始まっている。ネパールはどのような課題に直面するのだろうか。5月13日、世界銀行の公共調達専門家フェリペ・ゴヤは次のコメントを投稿した。

「ネパール政府は2つの要求によって板挟みになるだろう。まず、国民の復興支援の要求に一刻も早く応え、迅速に物資やサービスを届けることを求められる。同時に、税金の無駄遣いをしないことだ。」

公共調達の大変さは、携わる者には共有できる感覚だと思う。基本は単純で「見積もりを取って安いほうに決める」ということ。ただし、誰が見ても安いことを証明する必要がある。その点がとても難しい。

何社見積もりを取るべきなのか。広く公示すべきではないか。「安い」の定義・基準は何か。そもそもどういったスペックの物資を調達すべきか。その理由は客観的に説明できるか。

こうした気の遠くなる自問自答を繰り返し、すべて書面に残し、組織決定していく。情報公開を求められた際、誰が見ても客観的な調達であるかどうかが重要となる。どこの国の政府機関も行っている調達プロセスだろう。全ては国民への説明責任のため。

今回のネパール政府が直面する課題の難しさは、調達の妥当性を説明する相手が国民であり、物資を要求している相手も同じ国民であることだ。早さとプロセスの緻密さは、両立しない。時間と労働力が無限でない限り、迅速さを求めれば、調達準備にさく時間が少なくなり、客観性に乏しいプロセスにもなる。しかし、対応が遅ければ国民からは批判が出るだろうし、迅速に対応したとしても、事後的に調達プロセスの透明性を示せなければ、組織だけでなく、個人にも責任が及ぶ。

「大至急必要な物資だから、どこからでも良いので買ってくる」ということにはならないのが公共調達の難しさなのかもしれない。

こうした状況を踏まえて前出の専門家は、事前の枠組み合意(Framework Agreement)が重要だと指摘する。つまり、サプライヤー、調達物資リスト、価格、スペック、配送など包括的な合意を事前に決めておくことで、災害時にはそれに沿った意思決定が簡素化できるというもの。イメージとしては、「業者の選定には数週間から数か月を要するが、すでに契約があれば、それに基づいて実施するだけ」というものだろう。

日本では東北大震災以降、防災の重要性が認知されつつあるが、災害時の公共調達においても、事前の準備が重要ということなのだろう。

今回の記事では、途上国の公共調達の現場で考えられる課題について考えてみた。

参照記事
Felipe Goya. Shaping a procurement plan for emergencies.

ネパール地震-人道援助から復興支援へ

4月25日の地震発生から一週間以上が経過し、人道支援から復興支援へと入りつつあるようです。残念ながら多くの犠牲が出ており、行方不明者の生存確率がゼロに近づきつつあります。これを受けてネパール政府は各国の緊急援助チームへ帰国するよう要請を始めているようです。

今回の災害援助では、ネパールという立地がスムーズな展開を阻んだという報告があがっています。山間に位置する首都カトマンズにあって、緊急支援物資・チームが到着するはずの空港は滑走路が少なく、物資を満載した大型機が着陸することは困難を極めたとのこと。それ故、日本の緊急援助隊をはじめ、各国の大規模な捜索隊チームの現地入りが遅れたことが、非常に悔やまれます。

The Povertistでは、地震発生当日から以下の4本の記事を掲載しています。Facebookが実施した安否確認サービスのは、Facebookの公式ページを通じて12,000人のネパール在住の方々へ届けることができました。一人でも多くの家族や友人の安否確認の手助けをできていれば幸いです。

また、現地で活動する日本のNGOの募金先一覧をまとめた記事は、SNSを通じてシェアがシェアを呼び、約3,500件のアクセスがありました。この記事を通じてどれ程の方が募金をされたのかは分かりません。ただ、これ程多くの方が「募金を通じて国際協力に参加しよう」と考えていることに驚き、嬉しく感じています。

少し違う視点ですが、様々な機関が行う募金・支援活動を日々モニタリングしたことで感じたことがあります。

民間企業がそれぞれの強みを生かし、寄付金を集めていく姿に、民間の強みを感じました。また、小規模でかつ地方に本部を構えるNGOの奮闘も目を見張るものがありました。どこよりも早く、自らができることを実施する姿勢に、日本国内のNGOのたくましさを感じます。

個人的な思いから、こうした国内の小さなNGOへの直接的な寄付金が増えるとよいと思ってきました。一方で、民間企業やクラウドファンディングなど新しいアクターの登場によって、援助資金の流れが少し変化していることも垣間見れました。ジャパンプラットフォームやJANICが民間企業や個人の資金の受け皿となり、活動しているNGOへ配分する形も良い試みなのかもしれません。

誰もができることから国際協力を始められる環境。日本にもそうした土壌ができつつあるような気がします。

ネパール地震被災地支援-日本のNGOの募金先一覧

ネパールの被災地支援をオールジャパンで支援しませんか?多くの実績あるNGOが今、寄付の窓口を設けています。

ネパールを大地震が襲ってからたった半日で、日本は支援を開始しました。政府だけではありません。日本国内の市民団体も続々と支援を表明しています。人道支援を得意とする、いわゆる「業界大手」はヨーロッパ、アメリカに多く存在します。そんな中、事業規模は小さくとも、地に足のついた地道な支援を展開する日本のNGOがあります。

それぞれの団体の活動内容、具体性をじっくり読み、募金先を考えてみませんか?「開発途上国の支援活動へ募金・寄付する際の心構え」も、支援先を決める際の参考として頂ければと思います。

(2015年5月5日11時00分更新)

※以下のリストと活動状況は各団体の公式ページの情報をもとに随時追記・更新しています。括弧内の日にちは個別の更新日です。

複数の団体へまとめて募金したい場合

募金したいものの、どこへ募金すべきか決められない。そうしたニーズに対応した募金先です。募金をいったん集めて、各団体へ配分となります。配分先や配分方法は各団体のページを参照ください。

国際協力NGOセンター(JANIC)

  • 日本最大級の国際協力NGOネットワーク。寄付金は緊急支援活動を実施している加盟団体へ均等配分。
  • 対象団体は、以下のリスト中の(※)の団体(5月3日)。

ジャパン・プラットフォーム

日本国内の特定のNGOの活動を支援したい場合

日本国内に本部を構え、活動している団体です。国際NGOに比べて資金・人員の両面で比較的小規模な団体が多いのですが、地域に根差した活動に定評のある団体も多く存在します。日本と現地の人々と密接な関係を築きながら展開する支援活動を応援しませんか?

AMDA(岡山県)

  • 支援対象:バグマティ県、ガンダギ県、ルンビニ県
  • 支援内容:医療支援
  • 活動状況:第一陣、本部職員(調整員1名、看護師1名)現地到着。4月27日、仮設診療所を開設し、医療支援を実施。第二陣、医療従事者(医師1名、看護師1名)が29日出発予定。この他、AMDAネパール事務所医療従事者5名がガンダギ県で医療支援を展開(4月29日)。ネパール支部の医師4名と調整員2名、第1次隊、第2次隊が医療活動実施中。第3次隊が日本から物資とともに近日中に合流予定(5月3日)。

ピースウィンズ・ジャパン(広島県) ※

  • 支援対象:ネパール中部の被災者
  • 支援内容:捜索・救助活動、生活物資を配布(水、食料、毛布等)
  • 活動状況:災害救助犬(2頭)、緊急支援チーム(6名)を派遣。4月28日、カトマンズで捜索活動を4月28日から実施中(5月3日)。

チャイルド・ファンド・ジャパン(東京都) ※

  • 支援対象:シンドゥパルチョーク郡の子ども、保護者、学校、住民組織
  • 支援内容:緊急支援(食料、水、医薬品、一時避難施設等)の提供
  • 活動状況:現地職員を通じて被害状況調査中。従来からの支援地域を最優先に支援。5月2日、800世帯に、米12kg、豆1.5kg、塩500グラムを配布(5月3日)。

シャプラニール(東京都) ※

  • 支援対象:震源地周辺(中山間部、チトワン郡、カトマンズ盆地)の被災者
  • 支援内容:テント、飲料水、医薬品、その他必要な物資
  • 活動状況:隣国駐在員の現地派遣準備中。4月26日、現地NGOと協働調整開始。5月2日、200世帯へ、5日分の食糧(米10kg、豆1.5kg、油1リットル、塩1kg、ビスケット3袋、干し飯1kg、砂糖0.5kg、乾麺3袋)、石けん1つ、経口補水塩3つを配布(5月3日)。

アジア協会アジア友の会(大阪府) ※

  • 支援対象:バグマティ県の貧困層の被災者
  • 支援内容:緊急支援物資(食料、生活物資)の配布、復興支援(水・衛生インフラ、仮設住居)
  • 活動状況:4月26日、職員2名が現地入りし、現地調査中(支援体制整備、ニーズ調査、支援対象者の選定等)。4月30日までに、支援物資調達・配布開始(米1740kg、塩200kg、石鹸100個、高カロリーチョコレート150個、グルコース24kg、タオル50枚、ファーストエイド等)(5月3日)。

難民を助ける会(東京都) ※#

  • 支援対象:カトマンズ近郊の被災者全般、障害者
  • 支援内容:緊急支援物資(食糧、毛布、衛生用品等)の提供、障害者支援
  • 活動状況:4月29日、緊急支援チーム到着・支援開始、被災状況・ニーズ調査を実施。5月3日、追加、2名が先遣隊2名に合流予定(5月3日)。

CODE海外災害援助市民センター(兵庫県)

  • 支援対象:被災者全般
  • 支援内容:救援活動
  • 活動状況:現地協力者を通じた情報収集中(4月29日)。

日本レスキュー協会(兵庫県)

  • 支援対象:被災者全般
  • 支援内容:捜索活動
  • 活動状況:専門家(4名)、災害救助犬(2頭)を派遣。4月28日、捜索活動中。活動状況は毎日ブログで公開。8現場より、5名の行方不明者を発見。5月1日から復興フェーズ入りとなることを受け、創作活動終了。5月2日帰国(5月3日)。

シャンティ国際ボランティア会(東京都) ※#

  • 支援対象:カトマンズ、カトマンズ北西部の被災者
  • 支援内容:緊急支援物資
  • 活動状況:職員を派遣(3名)し、物資配布実施予定。カトマンズ北西部で初動調査実施。ニーズに応じて緊急物資配布・復興支援を検討(4月27日)。

国際開発救援財団(東京都) ※

  • 支援対象:バグマティ県41,000人(7,500世帯)
  • 支援内容:シェルター用ビニールシート、生活必需物資
  • 活動状況:2011年から支援している地域の被災者支援を実施予定(5月3日)。

ジョイセフ(東京都) ※#

  • 支援対象:女性、妊産婦、乳幼児
  • 支援内容:保健医療、家族計画
  • 活動状況:ネパール家族計画協会を通じ、災害時に最も支援が届きにくい女性、妊産婦、乳幼児を支援。4月29日、巡回医療チームによる診療活動実施(5月3日)。

ジーエルエム・インスティチュート(東京都) ※

  • 支援対象:ネパール中部の被災者
  • 支援内容:保健分野
  • 活動状況:現地大学・NGOとニーズ調査を実施し、インフラ修復等の支援を予定(4月27日)。

地球の木(神奈川) ※

  • 支援対象:カトマンズ南東カブレ郡ママンガルタール村
  • 支援内容:検討中
  • 活動状況:情報収集中。現地協力者を通じて現地視察・調査を実施予定。情報取得次第、具体的支援内容を決定(5月3日)。

ラブグリーンジャパン(神奈川)

  • 支援対象:カブレ郡、マクワンプル郡、シンドゥパルチョク郡
  • 支援内容:物資供与(防水シート等)、建物・インフラ修復
  • 活動状況:現地で活動実施中。活動状況はFacebook公式ページで毎日公開中(5月5日)。

世界で活躍する国際NGOを支援したい場合

世界中にある事務所との国際的なネットワークを活用し、迅速かつ比較的大規模な支援が強みです。寄付金を親団体が集約して支援展開する団体もありますが、日本事務所が独自でプロジェクト展開する団体もあります。

アドラ・ジャパン ※#

  • 支援対象:バグマディ県
  • 支援内容:緊急支援全般
  • 活動状況:現地職員が調査中。第一段として緊急支援物資250万円相当(寝具、テント等)を、弱者(女性・老人)優先に100世帯に配布。第二弾として医療支援を実施予定。アドラ・インターナショナルは、1,000世帯へビニールシート、工具、ポリタンクを供与する方向で国外調達予定。WFPと調整し、空輸する予定(4月28日)。4月29日、ビニールシート提供(5月3日)。

ワールド・ビジョン・ジャパン ※#

  • 支援対象:被災者全般(10万人、2万世帯)
  • 支援内容:食料、緊急支援物資(蚊帳、寝袋・マット、バケツ、浄水剤、台所用品、衛生キット)、仮設シェルター、子供の保護
  • 活動状況:現地スタッフ、災害対応専門スタッフを隣国から派遣準備中。5月1日までに、仮設テント1,600張、毛布600枚提供(5月3日)。

グッドネーバーズ・ジャパン ※#

  • 支援対象:ゴルカ郡
  • 支援内容:緊急支援物資、被災者サポート
  • 活動状況:4月27日、職員を派遣(3名)し、物資調達(食料、毛布500世帯分)。4月29日までに、500世帯を対象に非常食キット、毛布等を配布完了(5月3日)。

国連WFP協会

  • 支援内容:食糧支援、支援物資輸送
  • 活動状況:4月29日にゴルカ郡で食糧(米)の配布を開始予定。救援物資・支援要員の輸送を目的にヘリコプター2機の運用開始予定。不足物資を隣国の貯蔵庫より輸送予定(4月29日)。

日本赤十字社 #

  • 支援内容:救援活動
  • 活動状況:先遣隊5名派遣(医師、看護師、調整員)。ネパール赤十字社、国際赤十字社の救援活動支援へ1,000万円提供。4月30日、追加で医療従事者(12名)出発予定(4月28日)。

セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン #

  • 支援対象:ネパール全土
  • 支援内容:物資供与
  • 調整状況:基金を通じ、国際ネットワークをいかした支援実施。75郡中63郡で400名の職員が活動中。4月27日、カトマンズ近隣で防水シート、子供服、毛布、石鹸を配布(4月28日)。

プラン・ジャパン ※#

  • 支援対象:7200世帯
  • 支援内容:仮説住居(200世帯)、シェルターキット(防水シート、マットレス、蚊帳、毛布等)(7,000世帯)
  • 活動状況:支援チームを派遣し、調査・支援準備中。毛布500枚、蚊帳300張、学習キット600人分等を積載したトラックが出発(4月28日)。

ケア・インターナショナル・ジャパン #

  • 支援対象:被災者10万人
  • 支援内容:物資供与(毛布、衛生用品、防水シート、給水用ポリタンク等)
  • 活動状況:4月27日、現地政府・協力団体と連携し、ニーズ調査実施。4月29日、2,500世帯へ緊急シェルター、衛生キット配布(5月3日)。

日本ユニセフ協会 #

  • 支援対象:被災児童
  • 支援内容:物資供与(医薬品や医療備品、テント、毛布等、合計120トン)
  • 活動状況:国連児童基金(ユニセフ)を通じた支援。水と衛生、栄養、教育、保護の分野で支援活動を開始。ネパール国内の備蓄物資を仮設避難所の被災者へ提供(給水タンク、経口補水塩、亜鉛の錠剤、救護施設用テント等)(4月27日)。

国連UNHCR協会

  • 支援対象:カトマンズ周辺
  • 支援内容:物資供与(ビニールシート 19,000枚、ソーラーランタン8,000個、)
  • 活動状況:UNHCR現地事務所を通じ救援物資を輸送。約半数の供与物資は国内倉庫から輸送。ドバイ倉庫から残り半分を輸送予定(4月27日)。

世界の医療団 ※

  • 支援対象:ネパール中部の被災者
  • 支援内容:母子保健医療
  • 活動状況:緊急医療支援チーム(12名)、緊急医療支援キット(約20トン、外科手術用キット、自然災害用キット)を輸送し、活動中(5月1日)。

ハビタット・フォー・ヒューマニティ・ジャパン ※

  • 支援対象:カトマンズ近郊
  • 支援内容:住環境整備
  • 活動状況:避難民を対象に、住宅を補修するための工具の提供、トイレの設置、住宅の被害状況調査を検討中。中長期的には耐震建築支援も視野(5月3日)。

民間企業が募集している義援金に協力したい場合

多くの民間企業が義援金を募集しています。中には買い物時に付与されるポイントを使って寄付することができるプログラムもあり、民間企業ならではの新しい試みもあります。義援金の使途を明確にしていないものもありますが、多くの企業が上記のNGOへ寄付することを表明しています。

Yahoo! JAPAN

  • 寄付金と同額をYahoo! JAPANが寄付する仕組み。Yahoo! JAPANによる寄付金上限2,000万円到達(4月27日)。クレジットカード、Tポイントで募金が可能。
  • 寄付先:被災地域の支援活動を行う団体へ送金予定。配分比率・支援団体は未公表。

KDDI、沖縄セルラー

  • 寄付先:ジャパン・プラットフォーム、日本赤十字

楽天グループ

  • 楽天スーパーポイント、楽天カード、電子マネーEdy、楽天銀行からの振り込みで支払いが可能。
  • 寄付先:在日ネパール大使館

LINE

  • ドネーションスタンプ「Pray for Nepal」の売上全額を寄付。
  • 寄付先:日本赤十字社

アップル

  • iTunesから募金可能。
  • 寄付先:国際赤十字赤新月社連盟

NTTドコモ

  • ドコモポイント、ドコモ口座から募金可能。
  • 寄付先:日本赤十字社、ジャパン・プラットフォーム

ローソン

  • 全国の店舗で、Loppi端末から募金が可能。
  • 日本赤十字社

テレビ朝日

  • 募金電話番号へダイアルすると1回の電話で108円を寄付できるシステム。通称ドラえもん募金。
  • 寄付先:未公表

セブン&アイ

  • 全国の店舗(セブンイレブン、イトーヨーカドー、そごう等)で店頭募金実施。
  • 寄付先:未公表

コープこうべ

  • 寄付先:日本ユニセフ協会、CODE海外災害支援救助市民センター、PHD協会

日本経済新聞社

  • 寄付先:日本赤十字社

参照元

各団体の公式ホームページ、SNS、国際協力NGOセンター(JANIC)などから、信頼できると判断した団体と情報を掲載しています。随時更新するように努めていますが、募金に際しては、最新かつ詳細な情報を各団体のホームページで確認してください。

Author: The Povertistの編集長。アジアやアフリカでの開発援助業務に従事する貧困問題のスペシャリスト。貧困分析や社会政策を専門とし、書籍・論文も執筆。

開発途上国の支援活動へ募金・寄付する際の心構え

募金にはいくつかの心構えがあるような気がします。それは単純なことで、お互いを知ったうえで募金を集め、募金をすることです。募金をすることで満足していませんか?寄付した団体に過度な期待をしていませんか?募金をする側とされる側がお互いに一歩ずつ歩み寄ることで、より良い国際協力の循環が生まれるような気がします。

国際協力と募金

私が初めて開発途上国の支援活動に関わったのは2006年。香川県の小さなNGO団体でのボランティア活動がきっかけでした。それから約10年が経過し、日本国内でも開発途上国への関心が高まりつつあると感じます。ただ、「関心はあってもなかなか行動を起こせない」そういった声を、私の身の回りでもしばしば耳にします。

私は幸いなことに開発援助を仕事としています。しかし、ほとんどの方々は普段は別の仕事をしていたり、家庭の日常的な忙しさから、国際協力へ足を踏み出せないというのが現状だと思います。そういった意味で、募金は気軽に国際協力へ参加できる第一歩なのかもしれません。

寄付する側とされる側のミスマッチ

昨今のクラウドファンディングの発達もあり、日本にも寄付文化が広まりつつあるような気がします。こうした新しい動きがどんどん広まっていることはとても喜ばしいことです。

一方、寄付する側の期待と、実態の間にミスマッチが起こることも時折見られます。せっかく開発途上国の支援活動へ貢献しようとした方も、寄付した後に「期待していた活動ではなかった」となってしまっては残念です。また、寄付を受け取って活動を行う団体としても、「活動を計画していないことまで期待ても・・・」となってしまっては、お互い不幸です。

ミスマッチの解決方法はただ一つしかありません。お互いを事前によく知ることです。活動計画を十分に説明したうえで寄付を集めること。寄付する前に活動計画をよく理解すること。これが大切なことだと思います。

ここでは、募金・寄付を通じて開発途上国を支援する際に、誤解が生じやすい点を簡単にまとめてみました。開発途上国への支援を仕事としてきた経験から、少しでも役に立てればと思います。

緊急援助、復興支援の違い

緊急援助は、災害発生後の短期間(数日から数週間)で行われる救命活動と理解しています。例えば、日本政府が派遣する国際緊急援助隊(JDR)がよい例です。一般的に被災後72時間を経過すると被災者の生存率が著しく低下するとされます。そのため、日本政府とJICAは被災国政府からの要請(外交ルート)があれば、24時間~48時間で国際緊急援助隊を派遣できる体制を365日欠かさず整えています。

一方、復興支援は、中長期的(数週間から数年)に行われる活動をイメージするのがよいと思います。倒壊した学校・医療施設や道路などのインフラ整備から、保健や教育などの基礎的なサービスの立て直しまで、幅広い支援が長期にわたって続きます。

一般的に、災害などの緊急性の高い援助のほうが募金は集まりやすい傾向があると聞きます。しかし、一旦救命活動がひと段落つくと、今度は復興活動が始まります。復興活動は長期にわたって行われることが多い一方、緊急支援と比べると世間の関心も低く、資金も集まりにくいようです。

募金・寄付金の使われ方への期待

私の個人的な考えですが、まずは緊急援助へ募金するのか、復興支援に募金するのか、を決めた上で募金先を選ぶのがよい気がします。

「寄付金をすぐに被災者へ届けてほしい」

募金・寄付をする際に、私たちはこうした期待を持ってしまうことがあります。自分が募金した1,000円が、一刻も早く、家屋の倒壊した被災者の手へ渡ることが、自分の感情に近いからです。

もちろん、災害給付金として被災者へ直接分配されることや、食糧や生活必需品として分配されることもあるかもしれません。しかし、支援団体によっては、こうした緊急援助ではなく、中長期的な復興支援に力を入れている団体もあります。

個人的な印象ですが、ヨーロッパやアメリカの団体は、伝統的に人道支援に強く、こうした緊急援助を得意とする傾向にあります。その一方で、日本の団体は、腰を据えた支援活動に強い傾向があり、荒れ果てた生活環境をじっくり立て直すことに主眼を置いている団体も多いように思います。こうしたことから、日本の支援団体を通じて途上国支援を検討する場合、募金する側も腰を据えて、長い目で応援することが大切なのかもしれません。

また、寄付金全額が支援に回ることは、あまりありません。そのお金を使って支援する人の人件費、保険、交通費、物資調達、通信費、その他の事業運営費。一つのプロジェクトを実施するためには、様々な形で予算が配分されていきます。

冷静に考えれば当たり前かもしれませんが、国際協力=慈善事業というイメージが強いあまり、こうした事業運営にかかるコストが忘れられられてしまいがちな感じます。

国際協力を募金を通じて行うために

募金をする側は、募金先の支援団体の活動をよく理解することが大切だと思います。また、募金を集める側も、どういった活動を計画していて、どういった用途でお金を使うのかを明確にすることが大切だと思います。そうすることで、期待した通りの活動が生まれ、より良い国際協力の循環が生まれていくのだと思います。

Author: The Povertistの編集長。アジアやアフリカでの開発援助業務に従事する貧困問題のスペシャリスト。貧困分析や社会政策を専門とし、書籍・論文も執筆。

日本がたった半日でネパールへ緊急援助決定

ネパールの首都カトマンズを大地震が襲ったのは現地時間4月25日11時56分。日本はそれからたった半日で緊急支援に動き出した。

国際協力機構(JICA)は専門家70名による緊急援助隊を編成。4月26日(日)に成田空港から出発し、7日間現地で救援活動に従事する。国際協力機構によれば、チーム構成は、外務省、警察庁、JICA、救急救助要員、通信隊員、医療関係者、業務調整員等。

国際緊急援助隊救助チームの派遣
25日ネパール連邦民主共和国政府からの要請を受けて、日本政府は国際緊急援助隊救助チームの派遣を決定、JICAは同チームの派遣準備に着手しました。

参照:ネパールにおける地震被害に対する国際緊急援助隊救助チームの派遣について

非政府組織(NGO)の動きも目を見張るものがある。岡山に本部を構えて活動するAMDAシャプラニールもフェイスブックやツイッターを通じて支援活動へ向けた調整に入ったとしている。

政府による非常事態宣言および海外への支援要請も出されています。我々としても何らかの緊急救援活動が必要と考え、準備を進めているところです。

参照:シャプラニール on Saturday, 25 April 2015

ネパールの地震で、緊急救援を開始しました。緊急救援に向かうスタッフとミーティング中です。

参照:AMDA on Saturday, 25 April 2015

日本が2011年3月に経験した大震災。その経験を活かし、ネパールの人々へ支援を早急に届けることができるのは世界でも日本だけだ。日本の専門家は今何が必要なのかを知っている。そして、次に何が起こるのかも経験している。日本自身の経験を活かし、一刻を争うこの事態に迅速に対応できるのは日本しかいない。

Author: The Povertistの編集長。アジアやアフリカでの開発援助業務に従事する貧困問題のスペシャリスト。貧困分析や社会政策を専門とし、書籍・論文も執筆。