携わっている仕事について書きます。

タグ アーカイブ: 業務日誌

インドネシアの社会保障制度と再分配の構造的課題

インドネシアの社会保障制度において、生活保護制度は極めて大きな割合を占めている。この生活保護制度は2000年代から始まり、現在では年間約1000万世帯が受益している。平均的な家族構成を5人と仮定すると、約5000万人が生活保護を受けていることになる。これは世界最大規模の生活保護制度といえ、社会保障財源の税財源の約20〜25%が当てられている規模の大きな国家プロジェクトである。 さらに読む

インドネシアの政策対話と社会構造の課題

インドネシアは2023年に65歳以上の人口が全人口の7%を超え、国際連合人口基金(United Nations Population Fund: UNFPA)の定義による「高齢化社会」に突入した。多くのインドネシア人やメディアは依然として「人口ボーナス」を語り続けているが、財務省や人口動態を研究する専門家の間では危機感が広がっている。推計によれば、インドネシアは2045年頃に高齢者人口が14%を超える「高齢社会」へと移行する見込みである。 さらに読む

インドネシアの政策形成における独自路線志向と国際基準との乖離

インドネシアにおける政策形成過程では、国際基準や他国の事例よりも国内情勢が優先される傾向が強い。数百回に及ぶ政策対話の経験から見えてきたのは、人口大国としてのインドネシアが国際情勢の論理をよりも、自国の国内事情を最優先させる姿勢である。 さらに読む

インドネシア版ハローワークと朝のコーヒーを飲みながら、課題と解決方法を話し合う

インドネシアのジャカルタ南部にある労働市場センターを訪問した。この施設は日本のハローワークをモデルに構築されたもので、失業給付の支給、職業紹介、技能訓練が必要な求職者を適切な訓練機会へ繋ぐという、いわゆるワンストップサービスの役割を担っている。 さらに読む

メーデーでインドネシア大統領が約束した3つのこと、アウトソースの禁止など

2025年5月1日、インドネシアのプラボウォ大統領がスカルノ大統領以来初めて現職大統領としてメーデーの全国集会に参加し、注目を集めている。労働組合の幹部やメンバーが集まる場で行われたスピーチでは、労働政策に関する3つの重要な約束が表明された。


第一に、政府内に出稼ぎ対策のタスクフォースを設置することが改めて確認された。これは以前からコミットされていた政策であるが、実行力については未知数である。インドネシアの政策は表向きの発表にとどまることも多く、過度な期待は禁物だろう。しかし、出稼ぎ対策に取り組むという政府の公式な姿勢が再確認されたことは意義がある。

第二に、全国労働者福祉審議会(National Workers Welfare Council)の新設が発表された。これは完全に新しい提案であり、政府内部でも大統領のスピーチで初めて知ったという状況のようだ。実際、労働省内では大統領発言を受けて急遽対応が始まったとされ、事前の積み上げがないままトップダウンで打ち出された政策という印象が強い。これはインドネシアでは珍しくない政策立案プロセスである。

第三に、最も注目を集めているのがアウトソーシングの禁止に言及したことだ。労働組合が長年要望してきたアウトソース禁止について、大統領が明確な態度を示したと大きく報じられている。メディアはすでに「政府がアウトソーシングを禁止する」と報道しており、労働組合側の期待値も高まっている。

しかし、この政策も事前準備なく突如表明されたものであり、今後どのように具体化されるかは不透明だ。アウトソーシングを行っている企業は多数存在し、全面的な即時禁止は現実的ではない。全従業員を直接雇用に切り替えるよう一律に要求することも困難であろう。

現在、インドネシア政府は雇用創出法(Cipta Kerja: Job Creation Law)の改正法案を2年以内に策定するよう求められており、2013年労働法第13号も抜本的に改正される見込みだ。このプロセスの中でアウトソーシングの扱いについても議論されることは確実である。ただし、全面禁止という文字通りの実施には至らない可能性が高い。

政府としては大統領の発言を形にするための何らかの対応は行うだろうが、どのような妥協点が見いだされるかが注目される。インドネシア経営者協会(APINDO)も今後の制度設計や労働法改正の議論に関わることになり、状況の進展に応じて情報発信を行う予定である。


※この記事は、AIが筆者の音声ファイルを文字起こし・執筆し、筆者が編集したものです。

なぜ縫製業はインドネシアからベトナムへ移転したのか?社会保障の観点から

インドネシアの現在の市場環境は、社会保障の観点から縫製セクターに重大な課題をもたらしています。特に労働集約型産業において、国際的な市場におけるインドネシアの競争力に対する懸念が高まっているようです。特に労働集約的な女性を雇用する縫製セクターは、2024年12月に実施された最低賃金の引き上げの影響を受け、これらの産業は人件費増加に直面しました。 さらに読む

近視眼的なインドネシアの世論を動かすには?

最近、経済界、労働組合、政府とやりとりした中で、いくつか印象的なやり取りがあった。健康保険、労災保険、雇用保険、失業対策、経済政策、関税、年金政策、介護保険など、ここ最近はあらゆるテーマで三者会合に出席している。ありがたい悲鳴である。 さらに読む

労災保険と健康保険の制度改正に関するBPJS-K理事会への招待

先週末に元国家社会保障審議会(DJSN)のインドラさんからWhatsAppで連絡があり、今週の水曜日に開催されるBPJS-K(国民健康保険実施機関)の理事会でILOの視点からコメントをしてほしいという依頼があった。2023年の政府規則の改定によって、労災保険と健康保険の棲み分けが行われた。その実施規則を労働省が労働省規則2025年第1号で規定し、いよいよ実施されることとなっている。 さらに読む

官僚への支払い

昨年あった出来事の話をしよう。政府からの要請で政策対話を支援することとなった。しかし、準備を進めるにつれ、ちゃぶ台返しのような話が出てきた。招待者への支払い問題である。 さらに読む

インドネシア社会保障審議会との対話

インドネシアには社会保障審議会(DJSN)という機関がある。日本の厚生労働省に設置されている社会保障審議会は社会保障政策に関する諮問機関だが、インドネシアの社会保障審議会は労働省ではなく、人間開発調整省に置かれている。そこには政府の代表として財務省、労働省、保健省、社会福祉省が参加するようになっていて、議長は調整省出身の方がなる慣習である。政労使の代表に加え、専門化枠も含めると、15人の委員から構成される。 さらに読む