携わっている仕事について書きます。

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トルコのシリア難民へ条件付現金給付、EU/UNICEFが支援

EUとUNICEFが約40億円(34百万ユーロ)を投じて、条件付現金給付プログラム(Conditional Cash Transfer for Education: CCTE)を実施する[1]。トルコ国内に居住するシリア難民の子供の就学率向上が目的。

トルコ国内には300万人のシリア難民が暮らし、その内の130万人が子供。就学適齢期の子供50万人がトルコ国内の正規の教育課程で就学し、37万人が学校へ通うことができていない状況がある。

同プログラムでは、特に支援が必要とみなされる子供23万人を対象に現金給付[2]を行うことで、世帯が子供を学校へ通わせるインセンティブを与え、就学率の向上を目指す。

2017年5月以降、対象世帯は2か月に一度のペースで現金給付を受けることとなり、子供を就学させることが給付条件となる。


[1] UNICEF. 2017. EU and UNICEF to reach thousands of refugee children in Turkey with Conditional Cash Transfer for Education.
[2] Ippei Tsuruga. 2016. 現金付き給付(Cash Transfers)とは?.

アフリカの飢餓対応、世界銀行が社会保障拡充を支援

サブサハラアフリカで深刻な飢饉が発生している。6年ぶりに「飢饉宣言」が発せられた南スーダン[1]だけでなく、エチオピア、ケニア、ナイジェリア、ソマリアも飢餓発生のリスクに晒されている。

こうした状況に対して世界銀行は、約1,600億円を投じて社会保障システム整備を行う[2]。社会保障システムがあれば、災害時の緊急対応として即座に現金給付を行うことができる。社会保障のセーフティネットとしての役割を支援し続ける世界銀行ならではのアプローチだ。

世界銀行がサブサハラアフリカで実施する社会保障案件は現状で870億円規模に上り、さらに770億円相当の新規事業を準備中と発表されている。


[1] Ippei Tsuruga. 2017. 南スーダンで国連が飢饉を宣言、食糧不足の原因は人為的要因.
[2] World Bank. 2017. World Bank Group President Calls for Urgent Action on Hunger Crisis.

モロッコが社会保障制度を強化、世界銀行がID登録システムを整備

モロッコでは農村部で生活する人の3分の2が、一時的貧困のリスクと隣り合わせの生活を送っている。これに都市部の人口を含めれば、全国で530万人にも上る[1]

2030年の貧困撲滅を目指す中、貧困削減だけでは十分ではなく、貧困に再び舞い戻ってしまう状況を打開する政策が必要とされている。

こうした状況を踏まえ、世界銀行は貧困層と脆弱層(貧困に陥るリスクがある人々)の保護を目的に社会保障制度整備を実施する(Identity and Targeting for Social Protection Project)[2]。セーフティーネットを整備することによって、貧困の撲滅に寄与する考えだ。融資額は100百万ドル(約100億円)。貸付期間は25年で、据置期間は5年の大型案件だ。

具体的な使途は、国民登録システム(National Population Register: NPR)の開発とシステム運用の能力強化である。このシステムを通じて、全国民がID番号(Unique Identifying Number: UIN)を付与され、社会保障プログラムの受益者選定(ターゲティング)等に活用されることが見込まれる。

世界銀行はこのプロジェクトによって、既存の貧困削減プログラムの効果が倍増することを見込んでいる。


[1] Eurasia Review. 2017. Morocco To Receive $150 Million From World Bank.
[2] World Bank. 2017. Morocco – Identity and Targeting for Social Protection Project.

マレーシアが社会保障をインフォーマルセクターへ拡大

マレーシア政府がインフォーマルセクターへ社会保障カバレッジの拡大を推進する[1]。2017年6月1日以降、全てのタクシードライバーは社会保障機構 (Social Security Organisation: SOCSO)が運用する労災補償制度(Employment Injury Scheme: EIS)でカバーされることとなる。掛金は月収の1.25%。

これまで自営のタクシードライバーは労災補償制度の適用対象外(任意加入)だったが、今後は加入が義務付けられる。正規のタクシードライバー(7.3万人)だけでなく、GRABやUBERといった他国では「白タク」とみなされるドライバー(3.5万人)も対象となることも、今回のスキームの特徴と言えそうだ。

EISの法的な枠組みとしては、「自営業者のための社会保障法(Self Employment Social Security Bill 2017)」が近日中に施行される見込み。これは国際労働機関(ILO)の「社会保障条約(第102号)」および「社会的な保護の土台勧告(第202号)」に基づく法改正の一環。タクシードライバーは新法施行から2か月間の猶予期間として与えられ、その間に手続きを済ませることが求められる。

企業勤めの労働者向けの労災スキームでは、保険料1.25%を雇用者が負担することとなっているが、今回のスキームにおいては全額自己負担することとなる[2]。収入が低いタクシードライバーをどの程度カバーできるかが焦点となりそうだ。保険料の減免措置の導入など、今後の動向を見守りたい。


[1] The Sun. 2017. Insurance scheme for self-employed taxi drivers.
[2] Ippei Tsuruga. 2017. マレーシアの社会保障-雇用傷害保険・疾病年金制度.

人工衛星を使った天候保険、東南アジアで導入

東南アジアのコメ農家は、人工衛星を使った天候保険の恩恵を受けることになるかもしれない。これはドイツ(GIZ)を中心としたイニシアティブで、支援対象国は東南アジアのカンボジア、タイ、ベトナム、フィリピンにインドを加えた5か国[1]

洪水や干ばつなど、天候に起因する不作がトリガーとなって保険金が支払われる仕組みだ。従来の保険の仕組みでは、保険会社が被害状況を調査し、保険金の支払い可否を審査することが一般的だった。しかし、このスキームでは、人工衛星から被害状況を確認することで、実地調査のプロセスを省いている。

被保険者にとっては、保険金の支払いまでの期間が大幅に短縮されるメリットがあり、保険会社にとっては審査に係る調査コストが削減できるメリットがある。

アジアは世界のコメ生産の90%を占めるだけでなく、多くの低所得者層の生活の糧となっている。しかし、近年では気候変動の影響が顕在化しており、干ばつや天候不順による不作に見舞われることもたびたび報告されており、農業保険の重要性が認識されつつある。

天候保険の課題としては、支払い基準が不明確な点にありそうだ。保険金の支払いが人工衛星からのモニタリング結果に基づくため、被保険者からは審査基準が目に見えない。加入者を増やすためには、天候保険に加入することによるメリットがクチコミで広がることが不可欠となりそうだ。

なお、人工衛星を使った天候保険に関しては、国際協力機構(JICA)がエチオピアで実施した例がある[2]


[1] GIZ. 2017. Satellite data secure rice farmers’ income in Southeast Asia.
[2] JICA. 2013. 天候インデックス保険を通じた干ばつ対策への取り組み.

ケニアがドローンの商用利用を認可

ケニア政府が無人航空機(Aerial Unmanned Vehicles: AUVs)の商用利用を認可した[1]。これによって、法規制のグレーゾーンに怯えることなく、堂々とドローンを輸入し、商用利用を行うことができるようになる。アフリカではルワンダに続く二例目。

広大な大地を抱えるアフリカでは、交通・物流インフラの需要に供給が追い付いていない問題がある。ドローンが全てを解決するわけではないが、僻地への医薬品の運搬など、ドローンが従来の物流網を補完する役割を担うことが期待されている。

また、美しい草原や自然豊かな大地を抱えるケニアにおいては、ドローンからの空撮の需要も高いとされる。物流だけでなく、低コストで高品質の映像を作成することが可能になれば、観光産業にもプラスに働くと思われる。新技術に対する規制のハードルが緩いアフリカ。今後も様々な形で新しい技術の導入が進んでいくだろう。


[1] Daily Nation. 2017. Soon drones will be buzzing in Kenyan airspace.

JICAからILOへ転職して、最初の1年で得たもの

JICAからILOへ転職して、そろそろ1年が経ちます。新しい組織で働き始めるのは、いつになっても慣れません。事実、7年前にJICAへ入構した5日目にして、「何か違う」と思ったものです。この「何か違う」というのは、振り返るとネガティブなものではなく、新しい環境に飛び込んだ時に誰しも感じるものだと思います。プロフェッショナルとして大切なのは、その違和感を如何に自分のものにしていくかだと思っています。 さらに読む

ザンビア最大の社会保障、現金給付プログラムを新たに27県で展開!年内には全国展開へ!

ザンビア政府は現金給付プログラム(Social Cash Transfer: SCT)を新たに27県で展開する。これによって、2017年末までにSCTは全国展開され、50万世帯に現金給付が実施されることとなる。

ミャンマーの貧困率と貧困線

問題:以下の文章に誤りがあります。該当部分に下線を引きなさい。

タイトル「貧困削減地方開発事業(フェーズ2)(借款金額:239億7,900万円)」

ミャンマーにおける貧困率(注1)は、過去数年で若干の改善傾向は見られるものの、2010年時点では25.6%とメコン諸国(注2)の中ではラオスに次いで2番目に高い数値となっており、社会経済状況は未だ発展途上にあります。特に道路・橋梁、電力、給水分野の基礎インフラ整備はメコン諸国の中でも特に遅れており、こういった基礎インフラ整備の遅れは、住民の経済活動を制限し、主な貧困要因の一つとなっています。また、ミャンマーの経済発展・貧困削減を促進させるためには、ヤンゴンやマンダレー等の大都市のみならず、貧困層の割合が多い地方部を支援することが不可欠です。

(注1) 大人1人あたりの年間消費額が約3万円(376,151チャット)以下の人口の割合

(注2) カンボジア、タイ、ベトナム、ミャンマー、ラオス

出典:ミャンマー向け円借款貸付契約の調印:基礎インフラの整備及び地方部の貧困削減に貢献(国際協力機構(JICA)プレスリリース:2017年3月1日)

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国際協力、復興の狼煙をあげるのは一人のコトバから

国際協力が落ちぶれないために

実務に携わっている人が自分の言葉で発信しなければ、日本の国際協力業界は落ちぶれていく一方だ。最前線で活躍する個人が発信するようになれば、国際協力への理解は深まり、盛り上がる。

ことあるごとに、そんな趣旨のことを書き連ねて久しい。実務に携わっている人の多くは、私的な場で話すとネタが尽きることが無い。留まることを知らないマシンガントークを披露する人がとても多い。それだけ情熱を傾けて仕事をしている。しかし、それが公的な場、とりわけ出版物やインターネット上での発言・発信となると、一気にトーンダウンしてしまう。理由は明確で、公に発信することが追加業務であって、発信しなくてもよいからだ。一方、税金や寄付で成り立っている事業が多い分、公の場で個人が下手な発言をすると組織が叩かれるリスクが極めて高い。そのため、広報・発信に関するガイドラインが団体ごとに整備され、事実上の情報統制が敷かれている状況が国際協力業界全体に蔓延しているのが実態だ。

こうした状況下、個人名で発信することは百害あって一利なし。国際協力業界で働く実務家にとってリスクはあれど、メリットは無いわけである。しかし、大本営発表が面白くないのはいつの時代も変わらぬこと。綺麗に整えられた当たり障りの無い文章の羅列が関心を集めることは少ない。日本の国際協力業界の発信力は、このまま地に落ちてしまうのか。

そんな危機感を持った私は、JICA職員だった頃にThe Povertistを始めることを思いついた。個人名で発信することのリスクは果てしなく大きく、批判も覚悟の上だった。冷たい視線を感じたことも、ネット上で叩かれたことも、数えきれないほど多い。それでも、少しずつ、少しずつではあるが、実務や研究の第一線で活躍する人が自分の言葉で語り始めるプラットフォームが出来上がりつつある。

The Povertistは今、そんな過渡期にある気がする。

復興の狼煙

先日、JICAのホームページを眺めていて、あるページにたどり着いた。第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)のページである。偶然見つけたそのページには、「JICAスタッフディスカッションペーパーシリーズ on アフリカ」という記載。書いているのは吉澤さんというJICA職員だ。アフリカ援助のベテランで、私もご縁があって、アフリカ関係の研究・発信では足掛け4年間くらい一緒に仕事をさせていただいたことがある。

このディスカッションペーパーシリーズを偶然見つけ、本当に感慨深かった。アフリカ援助の第一線で働いているJICA職員が、自らの分析に基づいて自分の言葉で発信する。しかも、研究者ではなく、実務家が発信する。そこに意義がある。

ページを開いてみると、注意書きがある。「本ペーパーで表明された見解は著者のものであり、公式見解を代表するものではない」。個人の見解を組織のホームページで公表する。風向きが変わってきた。

日本の国際協力の復興元年。狼煙が上がるのを遠くから眺めている感覚を覚えた。

クラウドファンディングが結ぶ点と点

ここ数年で日本の国際協力に大きな変化が現れた。クラウドファンディングである。日本全国に散らばっていた国際協力へ貢献したい人と援助団体がオンライン上でマッチングされ始めた。点と点が結ばれていく。特に、Readyfor(レディーフォー)が展開する事業は破竹の勢いで広がりを見せ、広く日本中で受け入れられている。

Readyforが実施する「VOYAGE」という国際協力活動応援プログラムがある。これまでに18団体、合計7,600万円以上の寄付を日本全国から集めた。VOYAGEプログラムは、2017年2月19日に第3期目の募集を終え、国際協力という大海原へ船出のときを待っている。

VOYAGEプログラムのオフィシャルサポーター

VOYAGEプログラムの田才さんとご縁があって、The PovertistがVOYAGE 3のオフィシャルサポーターに加わることとなった。二つ返事で頷いてみたものの、具体的な協力内容は考えていなかった。

The Povertistにできることは何か。クラウドファンディングに挑戦する団体の事業に携わる実務家が、開発課題やアプローチを発信する場が日常的にあれば面白い。実務家が発信するプラットフォームを提供できれば、日本の国際協力へ新しい風を吹き込むことができる。それなら、協力できるかもしれない。

国際協力に携わる団体は寄付が必要なときだけ発信するのではなく、日常的に発信し続けることが大切なのだと思う。クラウドファンディングが成功するかどうかは、一瞬のプレゼンの上手さではなく、日々の発信の成果である。そして、日々の発信の積み重ねが、国際協力に対する理解を生む。

実務に携わる私たちは、「恵まれない子供たち」の写真を見せてお金を集めるのではなく、専門性の高い複雑な内容であっても、開発援助の現場をしっかり伝えることに重きを置くべきだ。感情に訴えるだけの国際協力ではなく、もう一歩進んだ国際協力を目指したい。納税や寄付をする全ての人々が国際協力に携わっている。私たち実務家の仕事は、わかりやすく伝えるだけではなく、開発途上国の複雑な課題を正確に、かつ、タイムリーに自分の分析と見解を添えて伝えること。そうすることで、国際協力に対する全ての日本人の理解が深まる好循環が生まれる。これが新しい国際協力の時代に求められていることだろう。

貧しい別世界に住む誰かへ寄付するのではない。今この瞬間、私たちと同じ空気を吸って、同じ時間を過ごしている誰かと繋がる。国境を越えて、その国の社会や人々と繋がる。そのきっかけが、クラウドファンディングを通じて得られる体験であってほしい。

国際協力事業に携わる皆さんへ

ODA事業で建設されたインフラには、必ずステッカーが貼られます。

「From The People of Japan」

この言葉の本当の意味を実現するためには、税金や寄付金を出す側の全ての人が国際協力をより深く知ることが大切だと思います。そのためには、私たち実務家が個人の言葉で発信し続けることがなにより大切です。事業に携わる中で触れる、開発課題をどう分析し、どう解決していくのか。実務の現場で起きている日常を伝えることで、少しずつ国際協力が盛り上がっていく感覚を共有できればと思います。

The Povertistはそうした個人の発信のプラットフォームとしてお手伝いしたいと考えています。ご賛同頂ける情熱にあふれた実務家の皆様からのご連絡をお待ちしております。

執筆をご希望の場合は、お問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。