スウェットショップが開発途上国の貧困削減に寄与?
労働者を搾取して生産された衣類を買うことで貧困削減に貢献する?
大手アパレル企業が開発途上国のスウェットショップ(Sweatshop)を通じて利益を上げていると批判される一方、スウェットショップを擁護する人々も多い。スウェットショップとは、劣悪な環境・条件で労働者を働かせ、貧困層を搾取する工場のこと。
2月24日、英国のシンクタンクであるアダム・スミス研究所(The Adam Smith Institute)がスウェットショップを正当化するビデオを公開し、大きな波紋を呼んでいる。ジョアン・ノーバーグ(Johan Norberg)は、「私たちがスウェットショップで作られた衣類を買うことで、開発途上国の貧困削減に寄与することができる」と主張する。
アパレル産業の集積地として注目を集めているバングラデシュやカンボジアで劇的な貧困削減が進んだことを引き合いに、同氏はこの主張を正当化している。一方、投稿された記事のコメント欄には多くの批判が寄せられている。
ディーセント・ワークの推進と取り組みが開発途上国の課題
ジョアン・バーグ氏の主張は、ある意味で正しいが、いくつかの欠陥がある。
たしかに、発展段階を考えたとき、経済の発展を通じて賃金上昇が起こるものであり、開発途上国において低賃金であることは当然のことだ。だからこそ、「現時点で低賃金であることのみを取り上げてスウェットショップを批判するのは妥当ではなく、不買運動をすることで低所得者層を対象とした雇用創出を阻害することになる」という主張はある意味で合理的な回答かもしれない。
しかし、「スウェットショップがカンボジアの貧困削減に貢献した」とする主張にエビデンスはない。コメント欄でThe Povertistの記事も引用されているが、カンボジアの貧困削減に最も寄与したのは、農村部における所得改善であり、アパレル産業が貧困の半減に寄与したとする主張は説得力に欠ける。
何が貧困を半減させたのか?
世界銀行の推計によると、米の価格上昇(24%)、米の生産性上昇(23%)、農村部の賃金上昇(16%)、農業以外の収入(19%)、都市部の賃金上昇(4%)が影響しているとのこと。米の価格は37.1%上昇し、これが農民の収入を向上させ、生産を増加させるモチベーションにつながったとの分析だ。
また、そもそも劣悪な労働環境と契約条件で大きな利益を上げる外国企業を肯定している点にも批判が集まっている。国際労働機関(ILO)が提唱する働きがいのある人間らしい仕事(Decent Work)や持続可能な開発目標(SDGs)の目標8にあるとおり、労働環境の改善はすべての国における喫緊の課題として国際的に合意されている。
貧困層を対象とした雇用の創出だけでなく、労働環境や労働条件の改善も同時に推進することが、開発途上国に課せられた課題であることに疑いの余地はない。
参考記事
- A Defence of Sweatshops(外部リンク:The Adam Smith Institute)
- カンボジアの貧困削減は持続可能か?(2014年6月5日付)
- 持続可能な開発目標(SDGs)とICT(2016年2月21日付)
- ディーセント・ワーク(外部リンク:国際労働機関)