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Building Social Protection Floors for All: Global Flagship Programme Strategy

国際労働機関(ILO)が開発途上国の社会保障制度拡充へ向け、社会的保護の床拡充へ向けたフラッグシッププログラムを開始する(Building Social Protection Floors for All: Global Flagship Programme Strategy)。

世界の人口の73%が社会保障へアクセスできていないことを受け、持続可能な開発目標(SDGs)では社会保障に関するターゲットが設定された。また、SDGsが掲げる「2030年までの貧困撲滅」を達成するためには、貧困から抜け出した人々が再び貧困状態へ陥るリスクを軽減するセーフティネットの重要性が指摘されており、開発途上国における社会保障の役割はますます大きくなってきている。

ILOのフラッグシッププログラムは3つの構成で包括的に社会保障へのアクセスを改善することを目指す。

1. 国家社会保障戦略(National Social Protection Strategy)の策定支援

省庁・開発パートナー・市民団体・民間セクターなどあらゆる関係者からの意見を集約し(国民対話:National Dialogue)、一つの戦略を策定するプロセス。

2. 社会保障プログラムの改革

様々なアクターが大中小のパイロット事業を展開していることが多く、それらをどう効果的に組み合わせていくのが全体最適となるかがポイントとなる。案件効果だけでなく、スケールアップした際の財務持続性についても検証する必要があり、費用対効果などのエビデンスが求められる。

3. 実施機関の能力強化

戦略と個別プログラムの制度設計が固まれば、オペレーションをいかに効率化するかが残された課題となる。実施機関の能力強化を通じて、プログラムの狙いやデザインが確実に実施されることを目指す。また、最新技術(ITなど)の有効活用も検討される。

さらに、特定の脆弱層をターゲットとした社会政策もテストされる。子供、気候変動、家政婦、母子保健、移民、老齢、障害、失業など、幅広いセクターの開発課題に対して社会保障がどのような役割を果たせるか、パイロット事業を通じた分析が行われる予定だ。

すべての人々へ最低限の社会保障を提供すること(社会的保護の床)を目指し、途上国政府・国際機関・ドナー諸国・民間セクターの力を一つにまとめることができるかがカギとなりそうだ。

 

※フラッグシッププログラムの対象国

  • アジア

カンボジア、インド、インドネシア、ラオス、ミャンマー、パキスタン、東ティモール、ベトナム

  • アフリカ

カーボベルデ、カメルーン、レソト、モザンビーク、ニジェール、セネガル、トーゴ、ザンビア

  • ヨーロッパ・中央アジア

キルギス

  • 中東・北アフリカ

パレスチナ

  • ラテンアメリカ

エルサルバドル、ホンジュラス、パラグアイ

IDSホームページ

英国サセックス大学開発学研究所(IDS)が開発途上国の社会的保護(Social Protection)に関する短期コースを開講する。社会政策に携わる政策決定者、実務家、研究者を対象として開講されるこの集中講義は今回で4回目の開催となる。

講義内容

プログラム構成は次の通り、概念から案件デザイン・モニタリング・評価まですべて網羅されており、短期集中コースならではの構成となっている。また、講義はアフリカの社会的保護セクターの重鎮スティーブン・デブラ(Stephen Devereux)と子供の貧困に関する将来有望な研究者キーティ・ローレン(Keetie Roelen)が担当する。

第一回 社会的保護概論

  • 社会的保護モデル
  • 社会的保護ツール
  • 社会的保護の地域別・実施機関別のアプローチ

第二回 社会的保護プログラムの案件デザインと実施方法

  • ターゲティング手法
  • 給付方法
  • 社会的保護システム全般

第三回 社会的保護に関する研究成果とエビデンス

  • 最新の研究成果の紹介
  • 社会的保護のモニタリング手法
  • 評価と政策分析

 

講義日程・受講料・応募方法

講義日程は2016年6月27日(月)から30日(木)の4日間。応募締め切りは2月12日(金)。2月末日頃に合格者へ通知と請求書が届く。受講料は1,450ポンド。同様のプログラムがIDSの修士コース(MA Poverty and Development)に含まれている。修士コースの年間授業料が14,800ポンドであることを考えれば、社会的保護だけを集中的に学びたい方にとっては破格の受講料といえるだろう。

さらに詳細な情報はIDSホームページをご覧いただきたい。

開発途上国の安全な水へのアクセス-現状とJICAの取り組み

水資源の適切な管理は、持続可能な開発目標(SDGs)が扱う多くのセクターへ影響するトピックかもしれない。12月14日のワシントンDC開発フォーラムの勉強会のテーマは、「開発途上国の安全な水へのアクセス-現状とJICAの取り組み」だった。ここでは議論のまとめを簡単に紹介したい。

SDGsの水分野へ、JICAの挑戦

SDGsが採択され、かなり網羅的なゴールやターゲットが定められた。一方、各ターゲットに関するモニタリングや指標をどうするかは合意されておらず、順次決まっていくこととなる。

指標に関する大きな課題は、データ収集にある。特に多くのアフリカ地域では、安全な水へのアクセスに関する既存のデータが少ない。SDGsの達成状況をモニタリングするために膨大な予算をデータ収集に割くことは本末転倒だ。こうした状況を鑑みれば、現状では全ての指標をモニタリングすることは難しいのかもしれない。

国際協力機構(JICA)は次の四本柱に取り組んでいる。水業界で今もっともホットなのが統合的水資源管理である。これまでは、水セクターは「水屋さん」の領域だったが、水に携わる関係者はかなり多い。上下水道はもちろんのこと、農業、防災、保健など、省庁・機関横断的な課題であることは想像しやすい。既存の縦割り行政へ挑戦状をたたきつけるのが統合的水資源管理であり、より効果的な水資源管理を実現するための試みとして注目を集めている。

  1. 安全で安定した水の供給
  2. 生命・財産を守るための治水向上
  3. 水環境の保全
  4. 統合的水資源管理の推進(1~3を包括的に実施)

水資源管理をビジネスとして成立させる秘訣

無収水(Non Revenue Water)の割合を減らすことが、持続可能な水資源管理の成功のカギとなる。つまり、供給コストを下げ、売上をあげることがビジネスとして水供給を成り立たせる秘訣というわけだ。開発途上国における無収水の原因は、主に漏水、盗水、料金徴収、量水器管理の不備などであることが多い。

日本は無収水が極めて少なく、世界トップクラスの効率性を維持している。イギリスやアメリカなどの先進国でさえ開発途上国並みに無収水が多く、日本が世界に誇れる技術とサービスを兼ね備えていると言える。日本のパフォーマンスが高い理由は、メンテナンスへの意識の高さ、品質管理のきめ細かさなどにある。

また、日本の水分野の大きな特徴は地方自治体の専門家が活躍していることだ。地方自治体が開発途上国へ技術協力している例は世界中を探しても珍しい。たとえば、東京都、横浜市、北九州市は、水分野の専門家を派遣し、開発途上国の実施機関の技術向上に貢献している。こうした流れは、地方活性化やオールジャパンとしての国際協力といった観点からも良い事例と言えそうだ。

水道料金を払えない貧困層への配慮

水セクターでは、貧困層への配慮も欠かせない。毎年180万人の子供が下痢で亡くなっており、きれいな水へのアクセスがあれば助かる命が日々失われている。

水セクターを取り巻く課題は深刻だが、同時にジレンマもある。水資源管理を持続可能なシステムとして成立させるためには、ビジネスとして成功させる必要がある。一方で、料金を払えない人々に対して水を供給することも大切だ。ビジネスとして持続させなければ、開発パートナーや地元の有力な政治家の「一声」がなくなれば、水の供給がなくなってしまう。それでも、一時的な対応で終わってしまっては意味がないので、事業として成り立つかを第一に考える必要がある。

開発途上国でよく見られるのは、政府の政策で貧困層向けに無償で水を供給したり、補助金を出している例がある。水供給を持続可能なものとするための努力をする一方、貧困層への配慮を含めた包括的な取り組みを実施していくことが最も現実的な解決策なのだろう。

こうした取り組みを実現するための後押し(資金提供・計画策定)をすることが開発パートナーの役割なのだろう。民間セクターも交えてビジネスとして成功させる方策を練ると同時に、省庁横断的な議論の中で貧困層への配慮をどう盛り込むか考えることが大切かもしれない。

開発途上国や援助業界で活躍する方から「記事のネタが無い」と言われます

オンラインマガジン-The Povertist-を通じて開発途上国のネタや開発援助業界の話を紹介しています。

日本の開発業界を盛り上げるには、実務に携わっている人が自分の言葉でもっともっと発信していかないといけない。 さらに読む

過去数回

ラストマイル、開発途上国の貧困撲滅までの道のり。過去数回にわたって紹介してきた書籍「The Last Mile」だが、プロモーションビデオが公開された。とてもわかりやすくポイントがまとまっているので、通勤電車の中の3分間をこれに割く価値はある。

20世紀半ばから、世界の貧困率は毎年約1%ずつ減ってきた。これがこのまま続けば、貧困率がゼロとなる日も近いのだろうか。

そうは問屋が卸さない。これから開発途上国が経験する貧困撲滅への旅路は、世界がこれまで歩んできた道のりとは全く異なるものとなるだろう。

The Last Mileは3つの課題を浮き彫りにし、それらへの包括的な取り組みが2030年までに世界がとるべきアプローチと主張している。

1. 脆弱国の貧困削減

これまでの貧困削減は主に安定した国や地域で達成されてきた。紛争の影響を受けている脆弱国(Fragile States)に関しては、貧困率がほぼ変化していない事実がある。

2. 生産性の高い職が少ない

貧しい家庭が最も頼りにしている収入源は、労働だ。労働力を提供することで生計を立てている家庭が多い。しかし、低所得国には生産性の高い雇用機会を創出することができないでいる。必然的に低収入の単純労働しか、貧困家庭は受けることができない。

3. 貧困リスク

貧困ラインを越えることが、貧困の卒業ではない。貧困ラインの2倍の所得を得るまでは、再び貧困ラインを越えて貧困状態へ戻ってしまうリスクが極めて高い。

余談となるが、フラッグシップレポートの類はプロモーションビデオを作ることがトレンドとなっている。開発業界のレポートや書籍は分厚いことが多く、政策決定者や実務家は読む時間がないことが多い。読まれずにインターネットのどこかへ埋もれてしまうレポートの数々を効果的に宣伝する素晴らしい手法だ。日本の開発援助業界ではまだ導入されていないが、研究成果のの広報で大きな可能性を秘めているかもしれない。

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指摘

フィンランド政府が月800ユーロ(非課税)のベーシックインカムを全国民へ給付するようだ。国民の約7割が賛成し、2017年に試行が開始される新制度は、複雑化した社会保障・福祉政策をやめることで管理費・運営費を削減する狙いがある。

乱立した社会保障制度とその実施機関を廃止することで、各制度・組織運営費の類を節約できる。たとえば、オフィスビル、職員、振込手数料などは、制度を一本化することで不要となることは想像しやすい。こうして生まれた税の余剰は、ほかの有益な公共事業へ回すことができる。ベーシックインカムのメリットはそうしたところにある。

逆に国民にとっての課題は、生活資金を自己管理することが求められることだろう。これまで無償・低料金で政府が提供してきた社会保険や公的サービスが有料となる。何も気にしなくても受けられたサービスも、お金がないと受けられないこととなる。

また、一定の所得が保障されることから人々の労働意欲を下げる懸念もある。対策として、毎月出勤していることをチェックするプログラムデザインも用意されているようだ。そもそも低く設定された給付額を鑑みれば、今より楽な生活を求めてフルタイムからパートタイムの仕事へつくと、福祉水準を維持できず、多くの国民は今よりも厳しい生活となるという指摘もある。

政治経済の観点からも、重い税金を負担してきた高所得者層へも多少の利益はあるため政治的にも理解を得られやすい政策なのかもしれない。一方、貧困層のターゲティングを行う生活保護などとは異なり、所得再配分による不平等の是正は望めないかもしれない。

どのようなインパクトと課題が浮き彫りとなるか。国家を挙げた世界初の社会実験が幕を開ける。

Govt Reduces Allocation to Social Protection Pogrammes

ガーナ政府が社会的保護に関する予算(貧困層向けの社会保障予算)を2016年度に大幅削減することが報じられた。約40%の大幅削減が見込まれ、公共支出の削減を求めるIMFの影響を受けたとされる。

政府は社会セクターへの支出を増額させることを示唆してきたが、これまでの説明と異なる予算計画となりそうだ。教育・水セクターも例外ではなく、予算削減の影響を受けそうだ。

有識者は、「今回の予算削減は国内格差を広げ、公的サービスに頼って生活せざるを得ない貧困層をさらに脆弱な環境に追いやることとなる」と懸念している。

マクロ経済の安定化は持続可能な経済成長を達成するうえで不可欠な要素だが、貧困層への配慮なくして中長期的な経済成長を担う人的資本の形成は見込めないだろう。

今回は貧困層に最も近い予算がターゲットとされることとなりそうだが、ガーナ政府が対策を貧困層へ用意しているか、今後の動向に注目が集まる。

参考資料

Govt Reduces Allocation to Social Protection Pogrammes

こちら

ケニアで大規模に実施されている孤児や脆弱な子供たちに対する現金給付プログラム(CT-OVC)のインパクトを世代やジェンダーの観点から分析した論文が発表された。

社会保障の給付方法の好みはジェンダーと世代で異なるかもしれない。現金給付プログラム(Cash Transfer)は開発途上国の貧困と不平等の是正に効果があるとされ、様々な角度から実証研究がされている。現金給付プログラムは、貧困層に対して現金を給付することで所得の向上をはかる社会政策の一つとして広く認識されている。現金の使途は限定されないことが多く、受給家庭はそれぞれの事情に応じて貯蓄、投資、嗜好品、教育などへ自由に使うことができる(※現金給付プログラムについてはこちらも参照頂きたい)。

英国サセックス大学開発学研究所(IDS)の研究チームが先日成果発表した研究は、「貧困層がどのようなタイミングで現金給付を受け取りたいと思っているか(受給者の時間選好)」を検証したもので、特に世代の違いや男女差に注目している点で興味深い。たとえば、平均年齢30歳の若い家庭と60歳の老夫婦では給付金の使い道が異なるだろうし、男女差もあると考えるのは自然なことだ。直観的に理解できるこうした憶測を実証的に検証した論文である。

孤児や脆弱な子供たちに対する現金給付プログラム

研究の対象は、ケニアで大規模に実施されている孤児や脆弱な子供たちに対する現金給付プログラム(Cash Transfer for Orphans and Vulnerable Children: CT-OVC)。世界銀行によれば、2011年3月時点で、孤児や弱い立場にある子供約25万人(最も貧しいOVCの約40%、約8万世帯)が受給し、貧困削減、就学率、ID登録の改善に寄与していると評価されている。

運営費(給付総額を除く経費)は40%から25%へ減少傾向にあり、実施機関の能力強化とともに費用効率も改善傾向にある。今後、約10万世帯をカバーすることを想定した場合でも名目GDPの0.07%の予算規模で賄えるとみられ、低コストのプログラムであると世界銀行は評価している。

若者は今を生き、中年はのんびり、老人は再び今を生きる

サンプル調査の対象者は、「もし宝くじがあたるとすればいくら欲しいか」を尋ねられた。今すぐ1,500シリングを受け取るか、今はじっと耐えて将来9,000シリングを受け取ることを選ぶか。待てば待つほど賞金は高くなる仕組みの中、世代間、男女間でどのような思考パターンの違いがみられるかがテストされた。

研究手法こそ学術的に洗練された方法(ランダム化比較試験(RCT))をとっているが、結論はとてもシンプルだ。中年世代は若者世代や高齢者層よりも長い視点で物事を考える。また、若い女性は男性に比べて短期的に物事を考え、高齢者層では男性の方が女性より短期的に物事を考えるようになる。

現金給付プログラムの制度改革へヒント

行動経済学の分野で学術的に意味のある論文だと感じる一方、具体的な政策提言がなされていない印象を受ける。私なりに解釈すれば、政策的付加価値は次の2点に集約されると思う。

第一に、現金給付プログラムの給付額の決定にヒントを与えるだろう。今回の研究で、現金給付プログラムの受給家庭は世代やジェンダーによって、短期的に少ない金額を好む人々と長期的な計画を立ててより大きな額を手にしたいと考える人々がいることが分かった。従来の現金給付プログラムでは、世代やジェンダーによって給付額や給付期間を変えるような運用をした事例は私が知る限りない。受給者の時間選好(将来/現在に消費することを好むこと)にあった給付方法をとることで、より消費者目線に立った制度設計が可能となるかもしれない。

第二に、ケニアでの研究成果は、他のアフリカ諸国へも応用可能なヒントかもしれない。研究対象のCT-OVCは元々、条件付き現金給付プログラム(CCT)の元祖、メキシコのプログレッサ・オポチュニダやブラジルのボルサ・ファミリアを手本としている。多くのサブサハラアフリカ諸国がこれらのプログラムを手本としていることから、ケニアでの研究成果はこれらの国の社会政策へ大きなヒントとなりえるかもしれない。

参考資料

Martorano et al (2015) Age and Gender Effects on Time Discounting in a Large Scale Cash Transfer Programme.

新ODA戦略

開発援助業界の大御所、イギリスはどこへ向かう?

イギリスの政府開発援助(ODA)を担う国際開発省(DFID)が新ODA戦略を発表した。多くのメディアが「英国の援助方針が変わった」と報道している。何が変わったのだろうか。

まず目を引くのがタイトルだろう。表紙を開くと「UK aid: tackling global challenges in the national interest」の文字。国益(National Interest)がタイトルとなっているとおり、報告書の随所に「国益のための開発援助」が登場する。

ODAがイギリスの国益に叶っているのか。今回の方針転換の背景には、そういった国内世論があったと明記されている。ジョージ・オズボーン財務大臣とジャスティン・グリーニング国際開発大臣は共同声明の中で国益を強調している。

「この抜本的な方針転換は、貧困削減、国際的な課題、イギリスの国益のあいだに区別がないことを意味しています。これら全てが密接に関連しています。どんなに小さな支出であっても、必ずイギリスの納税者のためになる使途であることを約束します。もし、納税者にとって意味のないプロジェクトがあれば、案件の中止も辞さないつもりです。」

国民への説明責任を果たす姿勢を示した上で、対GNI比0.7%のODA予算を死守したい意義込みの表れかもしれない。

軍事支援と開発援助の境界線があいまいとの懸念も

Photograph: The U.S. Army

改革の目玉は、省庁横断的アプローチ(Cross-government approach)にある。つまり、ODA予算の27%はDFID以外から支出されることとなる。開発援助の担い手に国防省なども含まれるようになるため、政治や国家安全保障のロジックによって開発援助の優先課題が骨抜きになる懸念もある。

ガーディアン紙への寄稿記事はより鮮明に懸念を表明している。

「1997年のDFID創設以来、これ程まで明らかに国防と外交政策と密接にODAが関係づけられたことはなかった。『国際開発を国家安全保障と外交政策の中心に据える』とはっきりと書かれている。しかし、現実的なリスクは、その逆のケースが起こりうるということ。国家安全保障と外交政策の関心が、援助政策の決定における最優先事項となりうるということだ。」

また、支援対象地域を脆弱国(Fragile States)へ集中させることも明記された。ODA予算の50%が脆弱国支援に向けられることとなる。ここ数年は特に、好調な世界経済を背景に多くの開発途上国で貧困状態の改善が見られてきた。一方で、貧困指標の改善が見られなかった地域は脆弱国に集中しており、貧困削減を主軸に据えるイギリスにとっては、当然の予算配分なのかもしれない。

これについても賛否両論あり、紛争影響下の脆弱国において軍事と援助の境界がますます曖昧になることに懸念を持っている有識者も多そうだ。

開発援助資金の使途を明確にすることに重き

Photograph: DFID

イギリスの開発援助で代表的な手法は一般財政支援(General Budget Support: GBS)だろう。開発途上国政府の国家予算として援助資金を投入し、どの政策へ予算配賦するかは開発途上国政府の判断に委ねられる。「オーナーシップ」や「参加型開発」を重視するイギリスの開発理念が背景にある代表的な手法だった。

GBSも今後は下火となっていきそうだ。今回の改定の原点は、国民の税金の使途を明確にすることにあった。GBSで資金拠出したアフリカの国々で多額の使途不明金が発生したことが背景にあるのだろう。

今後は、イギリスの援助スキームも、プロジェクト・プログラム型の支援が増え、案件の予算・使途をモニタリングしていくことが増えるのではないだろうか。

国益重視が開発援助のトレンドに?

国際開発業界で大きな影響力を持つイギリス。そのイギリスによる今回の大転換は、開発援助のトレンドが大きく変わることを意味しているのかもしれない。今年2月に改定された日本の開発協力大綱も、同じような背景の下で国益を重視し、自国民に対する説明責任を果たしていく方針を鮮明に打ち出していた。

イギリスの開発援助といえば、「貧しい人のために」をモットーに、貧困削減を最優先課題としてきた印象を持っている方も多いだろう。その点については変わりないが、説明責任の観点から大きく方針を転換したのがポイントだろう。

開発援助が「内向き」となった揶揄されるか。あるいは、国益を重視することで国民が「開発援助予算確保への理解」を示すきっかけになるか。前者の印象を後者へ転換できるかは、今後の実績に掛かっているのかもしれない。

開発援助機関が本来の目的を見失わず、貧困削減にひた向きに取り組む姿勢と実績を示していくことが、これまで以上に必要となってくるだろう。

英国サセックス大学社会保障センター

は、開発途上国の社会保障(Social Protection)に関するイベントや刊行物の情報を毎月配信しています。今回はニュースレター11月号の中から気になる文献をまとめました。ヘッドラインと抜粋のみ掲載していますので、詳しくは外部リンク先をご確認ください。

 

社会保障と農業-農村の貧困サイクルを断ち切る(FAO

The State of Food and Agriculture 2015 report finds that social protection schemes – such as cash transfers, school feeding and public works – offer an economical way to provide vulnerable people with opportunities to move out of extreme poverty and hunger and to improve their children’s health, education and life chances. It especially makes the case that social protection measures will help break the cycle of rural poverty and vulnerability, when combined with broader agricultural and rural development measures. The report uses results from the research carried out by the From Protection to Production (PtoP) project and The Transfer Project.

 

社会保障制度の分析・計画へ税制の議論を取り入れる(ODI)

Social protection and tax policy are commonly examined separately, yet they are strongly linked. This paper contributes to efforts to include tax considerations in social protection analysis and design by discussing the key methodological issues in carrying out joint distributional analysis, reviewing the evidence on the incidence and distributional impact of taxes and transfers and discussing alternative tax revenue sources and their implications for social protection financing and sustainability.

 

ネパールの現金給付事業は社会的包摂へ貢献しているか(Oxford Development Studies

It is often assumed that social protection leads to social inclusion and other well-being indicators. Yet evidence of this impact is weak. Cash transfers are a social protection tool designed to reduce poverty which can also have an impact on human development indicators such as health and education. In the district of Sarlahi, Nepal, cash transfer amounts are too low to improve health and education opportunities or productive pursuits and thus to break the intergenerational cycle of poverty. However, the transfer allows beneficiaries to participate more in community activities, increases their access to information and social networks, and enhances the social contract and people’s relationship with the state. This breaks down some of the invisible barriers that perpetuate exclusion. Cash transfers can facilitate social inclusion but are not enough alone to achieve substantive inclusion.

 

ネパールの子供給付は不可触民(社会的弱者)の役に立っているか(ODI

The Child Grant cash transfer in Nepal is targeted at all households with children aged up to five years in the Karnali zone and at poor Dalit households in the rest of the country. Its objective is to improve children’s nutrition. The focus of this study is specifically on how the Grant works for Dalit households. It examines the current issues with the Child Grant programme and identifies six key policy recommendations to improve its effectiveness. A Briefing paper is also available.

 

栄養と社会保障(FAO

This document analyses linkages and complementarities between social protection and nutrition, laying out the common ground between the two.

 

女性の経済的エンパワーメントと社会保障に関する質的研究(FAO

This Research Guide describes in detail the sequencing, timing and methodology of the research process to be implemented in each country of study: training; fieldwork preparation; a simple and clear fieldwork roadmap; the theory of change hypotheses for the studies; guiding questions and research tools. The Guide will be used for conducting qualitative research as part of this programme and will also serve as a basis for future FAO research in social protection and decent rural employment.

 

ネパールにおける社会保障と家計のレジリエンス(UNDP

Following the recent earthquakes in Nepal this article examines the contribution and potential of Nepal’s emergent social protection system towards supporting the resilience of poor households to shocks and stresses.