ブルンジの貧困層へ社会保障、アフリカで続く世界銀行の現金給付
世界銀行がブルンジの貧困削減戦略を支援
アフリカの小国ブルンジの貧困削減へ世界銀行が40百万ドル(約45億円)を追加投入する[1]。この事業は、最貧困層にターゲットを絞って現金給付を実施する社会扶助(Social Assistance)[2]。世界銀行が推進するソーシャル・セーフティ・ネット(Social Safety Nets: SSN)の枠組みで実施される社会保障スキームの一つ[3]。
パイロット地区に居住する4.8万世帯が毎月20,000ブルンジフラン(約1,300円)を受給する[4]。対象世帯の女性が実際の受給者となり、給付期間は30ヶ月。
事業の目的は、絶対的貧困状態にある世帯のうち、子育てを実施している世帯へ定期的に現金給付を実施すること。また、今回のパイロット事業を通じて社会保障給付メカニズムの強化も目指す。
事業のコンポーネントは主に3つある。
- メランカバンディ(Merankabandi)現金給付プログラムの設計と実施。現金給付の実施と、人的資本への行動変容を促すことが主目的。
- 給付メカニズムの構築。登録データベースおよび受益者情報の管理情報システム(MIS)の試行。モニタリング評価の実施。国家社会保障戦略(NSPS)の実施へ向けた能力強化と分析。
- 人権社会問題ジェンダー省(MDPHASG)傘下の実施機関に対する案件管理支援。
限定的な社会保障カバレッジとアプローチの非効率性
受益者選定(ターゲティング)について触れておきたい。世界銀行が実施する他の現金給付プログラムと同様に、この事業でも受益者選定には複数のターゲティング手法を併用される見込み[5]。具体的には地域を選定する手法(Geographical Targeting)、コミュニティが受益者選定する手法(Community-based Targeting)、年齢等のカテゴリーで選定する手法(Categorical Targeting)、プロキシ・ミーンズ・テスト(Proxy-Means Test: PMT)。
これらのターゲティング手法の中で世界銀行が推進しているのがPMTである。しかし、最近ではPMTの非効率性についてはエビデンスが少しずつ揃いつつある。PMTは経済水準が低い貧困層をターゲティングするための手法。理論的には、貧しい人へターゲットを絞ることで限られた予算で貧困削減効果を最大化することができる。しかし、過去に行われたPMTを用いた現金給付プログラムをレビューしたいくつかの論文では、貧しいにもかかわらず受益していない人々の割合が極めて高いことが指摘されている(Exclusion Error)。また、貧困世帯か否かは机上の計算で行われるため、住民にとっては受益者選定プロセスがわかりにくく、「クジ引きと同じ感覚」と揶揄されることもある[6]。
このような論調でPMTの非効率性[7]を指摘しているのは、全ての人が受益する社会保障システムの構築を推進する国際労働機関(ILO)だけでなく、世界銀行自らの研究成果でも指摘され始めている[8]。それにもかかわらずPMTが採用されている点は疑問が残る。世界銀行の内部で実務と研究が直結していないことの表れなのかもしれない。
社会保障システムの基礎造り
今回のパイロット事業で注目したいのは、社会保障システムへの登録や情報管理システムの構築が支援されることである。現金給付の短期的な貧困削減インパクトよりも、中長期的な社会保障システム構築へ向けた政府機関の実施能力強化が最大の利益だろう。
アフリカで社会保障システム構築に巨額の支援を実施している世界銀行。これらの投資が中長期的なシステム構築にどのように活用されていくのか。今後の展開に注目したい。
[1] World Bank. 2016. Burundi – Social safety nets project (Merankabandi).
[2] 敦賀一平. 2016. 社会扶助(Social Assistance).
[3] 敦賀一平. 2016. ソーシャル・セーフティ・ネット(Social Safety Net).
[4] East African Monitor. 2017. Burundi: IDA provides USD40 million for poorest households.
[5] 敦賀一平. 2016. 現金給付(Cash Transfers).
[6] Stephen Kidd et al. 2017. Exclusion by design: An assessment of the effectiveness of the proxy means test poverty targeting mechanism.
[7] 行政能力不足で計画通りにターゲティングできないことが多く、それにもかかわらず高い行政コストが発生すること。また、多額の予算を投じるにもかかわらず、PMTは少人数のみをターゲットとすることを目的としており、カバレッジが極めて限定的であることも批判される点。
[8] Caitlin Brown et al. 2016. A poor means test?: Econometric targeting in Africa.