携わっている仕事について書きます。

タグ アーカイブ: 業務日誌

ケニアがドローンの商用利用を認可

ケニア政府が無人航空機(Aerial Unmanned Vehicles: AUVs)の商用利用を認可した[1]。これによって、法規制のグレーゾーンに怯えることなく、堂々とドローンを輸入し、商用利用を行うことができるようになる。アフリカではルワンダに続く二例目。

広大な大地を抱えるアフリカでは、交通・物流インフラの需要に供給が追い付いていない問題がある。ドローンが全てを解決するわけではないが、僻地への医薬品の運搬など、ドローンが従来の物流網を補完する役割を担うことが期待されている。

また、美しい草原や自然豊かな大地を抱えるケニアにおいては、ドローンからの空撮の需要も高いとされる。物流だけでなく、低コストで高品質の映像を作成することが可能になれば、観光産業にもプラスに働くと思われる。新技術に対する規制のハードルが緩いアフリカ。今後も様々な形で新しい技術の導入が進んでいくだろう。


[1] Daily Nation. 2017. Soon drones will be buzzing in Kenyan airspace.

JICAからILOへ転職して、最初の1年で得たもの

JICAからILOへ転職して、そろそろ1年が経ちます。新しい組織で働き始めるのは、いつになっても慣れません。事実、7年前にJICAへ入構した5日目にして、「何か違う」と思ったものです。この「何か違う」というのは、振り返るとネガティブなものではなく、新しい環境に飛び込んだ時に誰しも感じるものだと思います。プロフェッショナルとして大切なのは、その違和感を如何に自分のものにしていくかだと思っています。 さらに読む

ザンビア最大の社会保障、現金給付プログラムを新たに27県で展開!年内には全国展開へ!

ザンビア政府は現金給付プログラム(Social Cash Transfer: SCT)を新たに27県で展開する。これによって、2017年末までにSCTは全国展開され、50万世帯に現金給付が実施されることとなる。

ミャンマーの貧困率と貧困線

問題:以下の文章に誤りがあります。該当部分に下線を引きなさい。

タイトル「貧困削減地方開発事業(フェーズ2)(借款金額:239億7,900万円)」

ミャンマーにおける貧困率(注1)は、過去数年で若干の改善傾向は見られるものの、2010年時点では25.6%とメコン諸国(注2)の中ではラオスに次いで2番目に高い数値となっており、社会経済状況は未だ発展途上にあります。特に道路・橋梁、電力、給水分野の基礎インフラ整備はメコン諸国の中でも特に遅れており、こういった基礎インフラ整備の遅れは、住民の経済活動を制限し、主な貧困要因の一つとなっています。また、ミャンマーの経済発展・貧困削減を促進させるためには、ヤンゴンやマンダレー等の大都市のみならず、貧困層の割合が多い地方部を支援することが不可欠です。

(注1) 大人1人あたりの年間消費額が約3万円(376,151チャット)以下の人口の割合

(注2) カンボジア、タイ、ベトナム、ミャンマー、ラオス

出典:ミャンマー向け円借款貸付契約の調印:基礎インフラの整備及び地方部の貧困削減に貢献(国際協力機構(JICA)プレスリリース:2017年3月1日)

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国際協力、復興の狼煙をあげるのは一人のコトバから

国際協力が落ちぶれないために

実務に携わっている人が自分の言葉で発信しなければ、日本の国際協力業界は落ちぶれていく一方だ。最前線で活躍する個人が発信するようになれば、国際協力への理解は深まり、盛り上がる。

ことあるごとに、そんな趣旨のことを書き連ねて久しい。実務に携わっている人の多くは、私的な場で話すとネタが尽きることが無い。留まることを知らないマシンガントークを披露する人がとても多い。それだけ情熱を傾けて仕事をしている。しかし、それが公的な場、とりわけ出版物やインターネット上での発言・発信となると、一気にトーンダウンしてしまう。理由は明確で、公に発信することが追加業務であって、発信しなくてもよいからだ。一方、税金や寄付で成り立っている事業が多い分、公の場で個人が下手な発言をすると組織が叩かれるリスクが極めて高い。そのため、広報・発信に関するガイドラインが団体ごとに整備され、事実上の情報統制が敷かれている状況が国際協力業界全体に蔓延しているのが実態だ。

こうした状況下、個人名で発信することは百害あって一利なし。国際協力業界で働く実務家にとってリスクはあれど、メリットは無いわけである。しかし、大本営発表が面白くないのはいつの時代も変わらぬこと。綺麗に整えられた当たり障りの無い文章の羅列が関心を集めることは少ない。日本の国際協力業界の発信力は、このまま地に落ちてしまうのか。

そんな危機感を持った私は、JICA職員だった頃にThe Povertistを始めることを思いついた。個人名で発信することのリスクは果てしなく大きく、批判も覚悟の上だった。冷たい視線を感じたことも、ネット上で叩かれたことも、数えきれないほど多い。それでも、少しずつ、少しずつではあるが、実務や研究の第一線で活躍する人が自分の言葉で語り始めるプラットフォームが出来上がりつつある。

The Povertistは今、そんな過渡期にある気がする。

復興の狼煙

先日、JICAのホームページを眺めていて、あるページにたどり着いた。第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)のページである。偶然見つけたそのページには、「JICAスタッフディスカッションペーパーシリーズ on アフリカ」という記載。書いているのは吉澤さんというJICA職員だ。アフリカ援助のベテランで、私もご縁があって、アフリカ関係の研究・発信では足掛け4年間くらい一緒に仕事をさせていただいたことがある。

このディスカッションペーパーシリーズを偶然見つけ、本当に感慨深かった。アフリカ援助の第一線で働いているJICA職員が、自らの分析に基づいて自分の言葉で発信する。しかも、研究者ではなく、実務家が発信する。そこに意義がある。

ページを開いてみると、注意書きがある。「本ペーパーで表明された見解は著者のものであり、公式見解を代表するものではない」。個人の見解を組織のホームページで公表する。風向きが変わってきた。

日本の国際協力の復興元年。狼煙が上がるのを遠くから眺めている感覚を覚えた。

クラウドファンディングが結ぶ点と点

ここ数年で日本の国際協力に大きな変化が現れた。クラウドファンディングである。日本全国に散らばっていた国際協力へ貢献したい人と援助団体がオンライン上でマッチングされ始めた。点と点が結ばれていく。特に、Readyfor(レディーフォー)が展開する事業は破竹の勢いで広がりを見せ、広く日本中で受け入れられている。

Readyforが実施する「VOYAGE」という国際協力活動応援プログラムがある。これまでに18団体、合計7,600万円以上の寄付を日本全国から集めた。VOYAGEプログラムは、2017年2月19日に第3期目の募集を終え、国際協力という大海原へ船出のときを待っている。

VOYAGEプログラムのオフィシャルサポーター

VOYAGEプログラムの田才さんとご縁があって、The PovertistがVOYAGE 3のオフィシャルサポーターに加わることとなった。二つ返事で頷いてみたものの、具体的な協力内容は考えていなかった。

The Povertistにできることは何か。クラウドファンディングに挑戦する団体の事業に携わる実務家が、開発課題やアプローチを発信する場が日常的にあれば面白い。実務家が発信するプラットフォームを提供できれば、日本の国際協力へ新しい風を吹き込むことができる。それなら、協力できるかもしれない。

国際協力に携わる団体は寄付が必要なときだけ発信するのではなく、日常的に発信し続けることが大切なのだと思う。クラウドファンディングが成功するかどうかは、一瞬のプレゼンの上手さではなく、日々の発信の成果である。そして、日々の発信の積み重ねが、国際協力に対する理解を生む。

実務に携わる私たちは、「恵まれない子供たち」の写真を見せてお金を集めるのではなく、専門性の高い複雑な内容であっても、開発援助の現場をしっかり伝えることに重きを置くべきだ。感情に訴えるだけの国際協力ではなく、もう一歩進んだ国際協力を目指したい。納税や寄付をする全ての人々が国際協力に携わっている。私たち実務家の仕事は、わかりやすく伝えるだけではなく、開発途上国の複雑な課題を正確に、かつ、タイムリーに自分の分析と見解を添えて伝えること。そうすることで、国際協力に対する全ての日本人の理解が深まる好循環が生まれる。これが新しい国際協力の時代に求められていることだろう。

貧しい別世界に住む誰かへ寄付するのではない。今この瞬間、私たちと同じ空気を吸って、同じ時間を過ごしている誰かと繋がる。国境を越えて、その国の社会や人々と繋がる。そのきっかけが、クラウドファンディングを通じて得られる体験であってほしい。

国際協力事業に携わる皆さんへ

ODA事業で建設されたインフラには、必ずステッカーが貼られます。

「From The People of Japan」

この言葉の本当の意味を実現するためには、税金や寄付金を出す側の全ての人が国際協力をより深く知ることが大切だと思います。そのためには、私たち実務家が個人の言葉で発信し続けることがなにより大切です。事業に携わる中で触れる、開発課題をどう分析し、どう解決していくのか。実務の現場で起きている日常を伝えることで、少しずつ国際協力が盛り上がっていく感覚を共有できればと思います。

The Povertistはそうした個人の発信のプラットフォームとしてお手伝いしたいと考えています。ご賛同頂ける情熱にあふれた実務家の皆様からのご連絡をお待ちしております。

執筆をご希望の場合は、お問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。

南スーダンで国連が飢饉を宣言!食糧不足の原因は、自然災害ではなく人為的要因か!?

2017年2月20日、国連食糧農業機関(FAO)は南スーダンで飢饉(Famine)が発生したことを宣言した。既に10万人が飢餓状態にあり、さらに100万人が飢餓に陥る危機的状況下にある。FAOのスポークスマンは今回の飢饉が人為的要因(Man-made)によるものであることを強調する。

ミャンマーの社会保障-制度改革の現状と今後の展望

ミャンマーは民政移管後、国際社会の支援を受けて社会保障制度改革を開始した。ここでは、ミャンマーの社会保障制度改革のプロセスを振り返り、政府による取り組みの現状と今後についてまとめてみたい。なお、個別の社会保障プログラムについては深入りせず、あくまで社会保障制度改革の大きな流れを把握することを目的としたい。

国家社会保障会合(National Social Protection Conference)

ミャンマーにおける社会保障改革の議論は、2012年に開催された政府会合で幕を開けた。社会福祉・救済再復興省(MSWRR)と労働・雇用・社会保障省が主催した「社会保障に関する会合(Conference on Social Protection: A Call to Action)」である。テイン・セイン大統領が開会宣言を行った同会合は、ミャンマー政府が社会保障改革に取り組むターニングポイントとなった。

同会合では貧困削減に取り組む上で社会保障が果たす役割は極めて重要であることと、「社会保障に関するハイレベル委員会(High Level Committee on Social Protection)」の設立を通じ、技術的な議論を深めることの必要性が確認された。

社会保障に関する国民対話(ABND)

Photograph: Ippei Tsuruga

社会保障改革に関するより具体的な議論がされ始めたのは2013年である。2013~2015年にかけて実施された「社会保障に関する国民対話(Assessment Based national Dialogue: ABND)」は、国際労働機関(ILO)の支援を受けて始まった制度改革プロセス。ミャンマー政府関連省庁を筆頭に、社会保障関連事業に関係する全ての団体・機関が集まり、どのように制度改革すべきか参加型の議論が行われた。

政府側は、MSWRR、労働・雇用・社会保障省、保健省、財務省、国家計画・経済開発省、畜水産地方開発省。労働者側と使用者側の代表。開発援助機関からは、ILO、IOM、UNAIDS、UNFPA、UNDP、UNICEF、UNOPS、WHO、WFP、JICA、World Bank。これに加え、複数のNGOや研究機関もプロセスに参加した。

ABNDプロセスの主な目的は3つあった。まず、社会保障システム構築に関するマスタープランである国家社会保障戦略計画(National Social Protection Strategic Plan: NSPSP)、農村開発戦略枠組み(Rural Development Strategic Framework)、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)に対するインプット。次に、国民全員が最低限の社会保障でカバーされるシステム(社会保障の床(Social Protection Floor: SPF))を維持するための費用計算。そして、社会保障プログラムの運営に携わっている省庁および援助機関の対話と調整。

国家社会保障戦略計画(NSPSP)の策定

Photograph: Ippei Tsuruga

ABNDプロセスを通じて、ミャンマーの社会保障政策を担う関係者が対話する機械が得られた。その最終成果は国家社会保障戦略計画(NSPSP)策定という形で表れることとなる。

第一回会合(2014年3月23~25日)

現存する社会保障プログラム、カバレッジギャップ(現行制度でカバーされていない人々)、プログラム実施に係る課題などの洗い出しを行った。

第二回会合(2014年6月18~20日)

カバレッジギャップを埋めるための現実的な政策オプションとそのために必要なコスト計算が議論された。当時の見積もりによれば、SPFを実現するためのコストは対GDP比で2.2~7.2%。これは、2024年までに想定される社会保障プログラムが施行されることを前提としている。これが実現すれば13%の貧困削減が期待できるという試算だ。

ミャンマー政府がNSPSPを承認(2014年12月)

2014年9月、ABNDの最終報告書がミャンマー政府に提出され、NSPSPへのインプットと位置付けられた。その結果、ABNDプロセスで提言された8つのフラッグシッププログラムがNSPSPに含まれることとなった。同年12月、報告書は社会福祉・救済再復興省が中心となってミャンマー政府に承認され、2015年5月に公開された。

社会保障の4つの機能

Photograph: Ippei Tsuruga

2014年12月に承認されたNSPSPには4つの柱がある。これらは開発途上国で策定される国家社会保障戦略(政策)と類似しており、オーソドックスなものとなっている。英国開発学研究所(IDS)が提唱した「変革的社会保障(Transformative Social Protection)」という概念枠組みに強い影響を受けたためと考えられる。

保護(Protective)

既に貧困状態にある世帯(貧困層)、貧困に陥るリスクに直面している世帯(脆弱層)の保護。つまり、社会保障給付を通じて、既に経済的・社会的に厳しい状況にある人々を保護することを念頭に置いた柱である。このカテゴリに含まれる社会保障政策としては、社会サービス、社会扶助、社会保険、公共事業による雇用創出プログラムなどが想定される。

予防(Preventive)

災害時などの外的ショックによって貧困に陥るリスクを低減(Prevention)し、被害規模を緩和(Mitigation)すること。所得補償、収入源の多様化、雇用機会、健康増進などがこのカテゴリに含まれる。

促進(Promotive)

人的資本・適応能力の強化が含まれる。世帯が教育や保健などの人的資本へ投資することを促進し、結果として、世帯の生産性向上に資するプログラムがこのカテゴリで想定されている。

転換(Transformative)

これら3つの柱を合わせて実施することによって生まれる好循環が、社会・経済全体を良い方向へ転換する。つまり、貧困層は社会保障の保護を受けて人的資本に投資できるようになり、いずれは自立して生産活動へ貢献できるようになる。また、不測の事態が生じた場合でも、社会保障によって家計への被害は最小限に食い止められることから、貧困状態へ再び舞い戻ることはない。

脆弱層の定義(Vulnerable Groups)

NSPSPは5つのグループを特に貧困リスクに脆弱な人々と定義し、社会保障を最も必要としている人々と認識している。したがって、ミャンマーの社会保障システムが優先的にカバレッジを拡大していく人々は以下の5つのグループと考えられる。

  • 孤児
  • 特別な支援を必要とする女性
  • 子供、障害者、老人
  • 被災地に居住する人
  • 慢性疾患を抱える人

社会保障システムの実施体制の強化

Photograph: Ippei Tsuruga

NSPSPに従えば、MSWRRの傘下で社会保障システムが統合的に運用されることとなる。具体的には、MSWRRの傘下に「統合社会保障サービス(Integrated Social Protection Services: ISPS)」システムが創設される。

ISPSの実施体制として、拠点整備とソーシャルワーカーの配置が今後行われることとなる。2015年から5年間で毎年20%ずつ拡大することとなっており、年平均で66タウンシップ、1,200人のソーシャルワーカーが新たに雇用されることとなる。最終的にはタウンシップレベルに330の社会保障センター(Social Protection Centre)を開所し、ソーシャル・ワーカーを6,000人以上雇用・訓練し、村、コミュニティレベルに配置する計画。

ISPSの役割は、支援を必要とする人々を見つけること、利用可能な社会(保障)サービスに関する情報提供、相談窓口(カウンセリング)、サービスの提供状況のモニタリングと報告など。拠点とフォーカルポイントをコミュニティレベルまで張り巡らすことで、社会保障システムへのアクセスを高める狙いがある。

8つの社会保障フラッグシッププログラム

ミャンマーのNSPSPでは、8つの社会保障プログラムがフラッグシッププログラムとして明記されている。以下の数字は2024年にフルスケールで施行されることを想定したもの。

出産・育児給付(Allowance for Pregnant Women and Children to Age 2)

受益者:225万人(2024年)

コスト:0.32%(対GDP比、2024年)

障害者給付(Allowance for Those with Disabilities)

受益者:26.6万人(子供)、73.3万人(大人)(2024年)

コスト:対GDP比0.35%(対GDP比、2024年)

児童給付・子ども手当(Gradual Extension of Child Allowance by Age)

受益者:1,000万人(子供)(2024年)

コスト:対GDP比0.98%(対GDP比、2024年)

学校給食(School Feeding Programme)

1,100万人(子供)(2024年)

コスト:0.55%(対GDP比、2024年)

雇用創出事業(Public Employment Programmes, VET)

詳細記載なし

公的年金(Social Pensions)

受益者:380万人(2024年)

コスト:1.16%(対GDP比、2024年)

高齢者自助グループ(Older Person Self-Help Groups)

受益者:500万人(2024年)

コスト:0%(対GDP比、2024年)

統合社会保障サービス(Integrated Social Protection Services)

6,000ソーシャルワーカー(2020年)

コスト:0%(対GDP比、2020年)

参考資料

マレーシアの社会保障-雇用傷害保険・疾病年金制度(Employment Injury Insurance and Invalidity Pension Scheme)

マレーシアの労災保険制度と疾病・障害年金

マレーシアの社会保障システムの一部、労災保険制度を紹介します。雇用傷害保険・疾病年金制度は1969年の被用者社会保障法 (Employees Social Security Act 1969)によって始まった社会保険制度で、労働者と雇用者の保護を目的としているものです。文字通り、出勤時、出張時、業務従事中に起きた疾病や傷害について、同制度が補償するプログラムです。これによって、労働者は怪我などによる収入の減少が抑えられ、雇用者にとっても個別の予期せぬ労災事案に補償しなくてよいメリットがあります。

受給資格は、マレーシア国籍の労働者および低所得者層は強制加入となり、それ以外の労働者については雇用者との合意に基づく任意加入制度が用意されています。

雇用傷害保険の保険料は、雇用者が基準報酬の1.25%を負担することとなり、労働者の負担はありません。一方、疾病年金の保険料は雇用者と労働者がそれぞれ基準報酬の1%を負担することとなっています。

したがって、財源は保険料ということになります。なお、実施機関は、社会保障機構 (Social Security Organisation: SOCSO)が同制度を運用しています。

 

ファクトシート(FACT SHEET):マレーシアの社会保障プログラム 

 

プログラム名(Programme Name)

雇用傷害保険・疾病年金制度(Employment Injury Insurance and Invalidity Pension Scheme)

実施期間(Implementation Period)

1969年から現在

カテゴリ(Category)

社会保険(Social Insurance)

サブカテゴリ(Sub Category)

労働者災害補償保険(Workers’ Compensation)

受給資格(Eligibility Criteria)

マレーシア国籍の労働者、月収MYR 4,000未満の労働者、過去に保険料を納めていた月収MYR 4,000以上の労働者は強制加入。加入について雇用者との合意がある労働者は任意加入。ただし、外国人は除く。

加入方法(Enrolment)

保険料の支払い

支給金額(Benefit Level)

雇用傷害保険:医療補償(通院・入院・治療費)、障害給付(一時・永久)、葬儀給付、養育費、介護給付

疾病年金:障害給付、葬祭給付、遺族年金、葬儀給付、リハビリ給付

カバレッジ(Coverage)

雇用者:948,219人(2014年末時点)

労働者:1,525万人(この内、保険料を支払っている者は620万人)(同上)

受給者:570,625人(同上)

※2015年時点では、インフォーマル経済で生計を立てる労働者(自営、企業家等)も加入できる。

支給方法(Delivery Mechanism)

n.a.

財源(Financial Source)

保険料

保険料率(Contribution)

雇用傷害保険:雇用者が基準報酬の1.25%を負担

疾病年金:雇用者と労働者がそれぞれ基準報酬の1%を負担

インパクト評価(Impact Evaluation)

n.a.

備考(Remarks)

n.a.

参考資料(References)

モンゴルの社会保障-子供基金プログラム(Child Money Programme)

モンゴルの貧困削減を牽引した児童手当

モンゴルの社会保障システムの根幹を担っているプログラムを紹介します。子供基金プログラム(Child Money Programme: CMP)はモンゴルの社会保障プログラムの中でも最大規模で、18歳未満の全ての子供に受給資格を付与し、毎月MNT 20,000(USD 8)を振り込む制度です。受給者は振込先の銀行口座をどの民間銀行で開設しても良く、振込手数料は企業のCSRの一環で企業が負担する点に特徴があります。受給に関する受給者の負担を減らす配慮がなされています。

出生登録時に自動的に加入手続きがなされるため、受給対象者が追加手続きを行う必要はありません。受給資格が年齢のみで決まること、加入方法が極めてシンプルなことから、広く国民に認知されるプログラムとなりました。その結果、2015年末時点でユニバーサルカバレッジを達成。約103万人の児童全員がCMPでカバーされることとなりました。

財源は鉱物資源税を原資とする人間開発基金(Human Development Fund)。税金を原資とする社会扶助(Social Assistance)の一種と捉えることができます。

CMPは元々、2005年から条件付き現金給付プログラム(CCT)として始まりました。そのため、当初は貧困層に対象を限定(ターゲティング)した上で、児童の登校や定期健診を条件に給付するプログラムだったわけです。しかし、2007年に実施された国連児童基金(UNICEF)の調査の結果、CMPの貧困削減効果に疑問が呈されました。具体的には、ターゲティングに係るミーンズ・テスト(Means-Test)によって、運営コストが高止まりしているだけでなく、ターゲットとされるべき貧困層が正しく選定されていないこと(Exclusion Error)が指摘されました。結果的にモンゴル政府は、ターゲティングの廃止、給付条件の撤廃を決定し、2012年より現在のプログラムとなりました。

その後、資源価格下落の煽りを受け、モンゴルのマクロ経済環境が悪化。2016年6月にCMPの給付が一時停止され、ターゲティングを復活させる政府方針が示されました。これによって2019年までは、所得水準の低い世帯に暮らす児童60%へ給付が行われることとなっています。

ファクトシート(FACT SHEET):モンゴルの社会保障プログラム 

 

プログラム名(Programme Name)

子供基金プログラム(Child Money Programme: CMP)

実施期間(Implementation Period)

2012年から現在

カテゴリ(Category)

社会扶助(Social Assistance)

サブカテゴリ(Sub Category)

児童手当(Child Benefit)

受給資格(Eligibility Criteria)

0~17歳までの全ての子供(国外在住者含む、移民は除く)

加入方法(Enrolment)

出生登録時に自動的に加入(追加手続きは不要)

支給金額(Benefit Level)

MNT 20,000(USD 8)

カバレッジ(Coverage)

100%(2015年末時点で、受給資格者103万人全員をカバー)

支給方法(Delivery Mechanism)

全ての民間銀行口座で受給可能で、手数料は銀行側のCSRで負担(毎月自動入金)

財源(Financial Source)

鉱物資源税を原資とする人間開発基金(Human Development Fund)

プログラムコスト(Programme Cost)

CMP単独のプログラムコストは公表されていないが、社会保障費全体では対GDP比3.4%(2014年)。国民の49%が何らかの社会保障プログラムの対象となっており、CMPを除けば19%。これを踏まえれば、CMPは最大規模の社会保障プログラムと考えられる。

インパクト評価(Impact Evaluation)

貧困削減に効果があったとされるが、精緻な手法を用いたインパクト評価は実施されていない。

備考(Remarks)

2016年6月に給付が一時停止。ターゲティングを復活させ、2019年までは所得水準の低い世帯に暮らす児童60%へ給付。

参考資料(References)

南スーダンで国連が飢饉を宣言、食糧不足の原因は人為的要因

国連が飢饉宣言、人為的要因

2017年2月20日、国連食糧農業機関(FAO)は南スーダンで飢饉(Famine)が発生したことを宣言した。既に10万人が飢餓状態にあり、さらに100万人が飢餓に陥る危機的状況下にある。FAOのスポークスマンは今回の飢饉が人為的要因(Man-made)によるものであることを強調する。

「戦争、国内経済の崩壊、人道援助へのアクセスが確保できないことが主な要因であり、国際社会からの迅速な支援が実現しなければ、多くの死者が出ることは避けられない。」

かつては自然災害に起因して発生すると考えられていた食糧不足だが、現代では人為的要因によるところが大きい。今回の南スーダンは内戦状態にあり、人為的要因によって飢饉が発生する顕著な例と考えられる。国内紛争の勃発によって国内経済は崩壊し、開発援助機関も撤退せざるを得なくなったことからも明らかだろう。

なお、飢饉が確認されたのは、2011年にソマリアで発生した旱魃以来初めてのことで6年ぶり。

JICAのビジョン「人間の安全保障の実現」の真価が問われる

日本国内では南スーダンで戦闘があったのかどうか、自衛隊のPKO撤退の是非などが日々議論されている。その矢先に南スーダンでは飢饉が発生し、国際社会からは先進国の役割が期待されているのが現状だ。

6年前のソマリアにおける飢饉の際、私はJICAの支援方針を考える立場にあった。その時の経験を踏まえれば、今後、西側諸国を中心に人道支援へのコミットメントが始まり、日本だけが沈黙を貫くことは難しくなる。

一方、内戦下で支援活動を行うには危険が伴うため、邦人職員を派遣して調査・事業を実施することは極めて困難となることが想定される。そのため、既に現地で活動を行っている国際機関やNGOとの連携が有効な選択肢となる。例えば、2011年のソマリアにおけるJICAの活動に関しては、国際移住機関(IOM)と連携し、首都モガディシュの国内避難民を対象とした給水・衛生分野の調査実施を行った。

ただ、前回のソマリア支援の状況と比較すると、今回は大きく状況が異なることも指摘しておきたい。現時点での日本の南スーダンにおけるプレゼンスだけを考えれば、少なくとも自衛隊および国際協力機構(JICA)(現地スタッフのみ)が現地で活動しており、活動実績や支援体制もある。

実務的には多くの困難が想定されるが、国際社会から日本が重要な役割を求められていることは間違いないだろう。そして、人間の安全保障をビジョン(社命)として掲げるJICAに託された期待は大きい。


参考資料