外部メディアに掲載された記事の一覧です。

Govt Reduces Allocation to Social Protection Pogrammes

ガーナ政府が社会的保護に関する予算(貧困層向けの社会保障予算)を2016年度に大幅削減することが報じられた。約40%の大幅削減が見込まれ、公共支出の削減を求めるIMFの影響を受けたとされる。

政府は社会セクターへの支出を増額させることを示唆してきたが、これまでの説明と異なる予算計画となりそうだ。教育・水セクターも例外ではなく、予算削減の影響を受けそうだ。

有識者は、「今回の予算削減は国内格差を広げ、公的サービスに頼って生活せざるを得ない貧困層をさらに脆弱な環境に追いやることとなる」と懸念している。

マクロ経済の安定化は持続可能な経済成長を達成するうえで不可欠な要素だが、貧困層への配慮なくして中長期的な経済成長を担う人的資本の形成は見込めないだろう。

今回は貧困層に最も近い予算がターゲットとされることとなりそうだが、ガーナ政府が対策を貧困層へ用意しているか、今後の動向に注目が集まる。

参考資料

Govt Reduces Allocation to Social Protection Pogrammes

こちら

ケニアで大規模に実施されている孤児や脆弱な子供たちに対する現金給付プログラム(CT-OVC)のインパクトを世代やジェンダーの観点から分析した論文が発表された。

社会保障の給付方法の好みはジェンダーと世代で異なるかもしれない。現金給付プログラム(Cash Transfer)は開発途上国の貧困と不平等の是正に効果があるとされ、様々な角度から実証研究がされている。現金給付プログラムは、貧困層に対して現金を給付することで所得の向上をはかる社会政策の一つとして広く認識されている。現金の使途は限定されないことが多く、受給家庭はそれぞれの事情に応じて貯蓄、投資、嗜好品、教育などへ自由に使うことができる(※現金給付プログラムについてはこちらも参照頂きたい)。

英国サセックス大学開発学研究所(IDS)の研究チームが先日成果発表した研究は、「貧困層がどのようなタイミングで現金給付を受け取りたいと思っているか(受給者の時間選好)」を検証したもので、特に世代の違いや男女差に注目している点で興味深い。たとえば、平均年齢30歳の若い家庭と60歳の老夫婦では給付金の使い道が異なるだろうし、男女差もあると考えるのは自然なことだ。直観的に理解できるこうした憶測を実証的に検証した論文である。

孤児や脆弱な子供たちに対する現金給付プログラム

研究の対象は、ケニアで大規模に実施されている孤児や脆弱な子供たちに対する現金給付プログラム(Cash Transfer for Orphans and Vulnerable Children: CT-OVC)。世界銀行によれば、2011年3月時点で、孤児や弱い立場にある子供約25万人(最も貧しいOVCの約40%、約8万世帯)が受給し、貧困削減、就学率、ID登録の改善に寄与していると評価されている。

運営費(給付総額を除く経費)は40%から25%へ減少傾向にあり、実施機関の能力強化とともに費用効率も改善傾向にある。今後、約10万世帯をカバーすることを想定した場合でも名目GDPの0.07%の予算規模で賄えるとみられ、低コストのプログラムであると世界銀行は評価している。

若者は今を生き、中年はのんびり、老人は再び今を生きる

サンプル調査の対象者は、「もし宝くじがあたるとすればいくら欲しいか」を尋ねられた。今すぐ1,500シリングを受け取るか、今はじっと耐えて将来9,000シリングを受け取ることを選ぶか。待てば待つほど賞金は高くなる仕組みの中、世代間、男女間でどのような思考パターンの違いがみられるかがテストされた。

研究手法こそ学術的に洗練された方法(ランダム化比較試験(RCT))をとっているが、結論はとてもシンプルだ。中年世代は若者世代や高齢者層よりも長い視点で物事を考える。また、若い女性は男性に比べて短期的に物事を考え、高齢者層では男性の方が女性より短期的に物事を考えるようになる。

現金給付プログラムの制度改革へヒント

行動経済学の分野で学術的に意味のある論文だと感じる一方、具体的な政策提言がなされていない印象を受ける。私なりに解釈すれば、政策的付加価値は次の2点に集約されると思う。

第一に、現金給付プログラムの給付額の決定にヒントを与えるだろう。今回の研究で、現金給付プログラムの受給家庭は世代やジェンダーによって、短期的に少ない金額を好む人々と長期的な計画を立ててより大きな額を手にしたいと考える人々がいることが分かった。従来の現金給付プログラムでは、世代やジェンダーによって給付額や給付期間を変えるような運用をした事例は私が知る限りない。受給者の時間選好(将来/現在に消費することを好むこと)にあった給付方法をとることで、より消費者目線に立った制度設計が可能となるかもしれない。

第二に、ケニアでの研究成果は、他のアフリカ諸国へも応用可能なヒントかもしれない。研究対象のCT-OVCは元々、条件付き現金給付プログラム(CCT)の元祖、メキシコのプログレッサ・オポチュニダやブラジルのボルサ・ファミリアを手本としている。多くのサブサハラアフリカ諸国がこれらのプログラムを手本としていることから、ケニアでの研究成果はこれらの国の社会政策へ大きなヒントとなりえるかもしれない。

参考資料

Martorano et al (2015) Age and Gender Effects on Time Discounting in a Large Scale Cash Transfer Programme.

新ODA戦略

開発援助業界の大御所、イギリスはどこへ向かう?

イギリスの政府開発援助(ODA)を担う国際開発省(DFID)が新ODA戦略を発表した。多くのメディアが「英国の援助方針が変わった」と報道している。何が変わったのだろうか。

まず目を引くのがタイトルだろう。表紙を開くと「UK aid: tackling global challenges in the national interest」の文字。国益(National Interest)がタイトルとなっているとおり、報告書の随所に「国益のための開発援助」が登場する。

ODAがイギリスの国益に叶っているのか。今回の方針転換の背景には、そういった国内世論があったと明記されている。ジョージ・オズボーン財務大臣とジャスティン・グリーニング国際開発大臣は共同声明の中で国益を強調している。

「この抜本的な方針転換は、貧困削減、国際的な課題、イギリスの国益のあいだに区別がないことを意味しています。これら全てが密接に関連しています。どんなに小さな支出であっても、必ずイギリスの納税者のためになる使途であることを約束します。もし、納税者にとって意味のないプロジェクトがあれば、案件の中止も辞さないつもりです。」

国民への説明責任を果たす姿勢を示した上で、対GNI比0.7%のODA予算を死守したい意義込みの表れかもしれない。

軍事支援と開発援助の境界線があいまいとの懸念も

Photograph: The U.S. Army

改革の目玉は、省庁横断的アプローチ(Cross-government approach)にある。つまり、ODA予算の27%はDFID以外から支出されることとなる。開発援助の担い手に国防省なども含まれるようになるため、政治や国家安全保障のロジックによって開発援助の優先課題が骨抜きになる懸念もある。

ガーディアン紙への寄稿記事はより鮮明に懸念を表明している。

「1997年のDFID創設以来、これ程まで明らかに国防と外交政策と密接にODAが関係づけられたことはなかった。『国際開発を国家安全保障と外交政策の中心に据える』とはっきりと書かれている。しかし、現実的なリスクは、その逆のケースが起こりうるということ。国家安全保障と外交政策の関心が、援助政策の決定における最優先事項となりうるということだ。」

また、支援対象地域を脆弱国(Fragile States)へ集中させることも明記された。ODA予算の50%が脆弱国支援に向けられることとなる。ここ数年は特に、好調な世界経済を背景に多くの開発途上国で貧困状態の改善が見られてきた。一方で、貧困指標の改善が見られなかった地域は脆弱国に集中しており、貧困削減を主軸に据えるイギリスにとっては、当然の予算配分なのかもしれない。

これについても賛否両論あり、紛争影響下の脆弱国において軍事と援助の境界がますます曖昧になることに懸念を持っている有識者も多そうだ。

開発援助資金の使途を明確にすることに重き

Photograph: DFID

イギリスの開発援助で代表的な手法は一般財政支援(General Budget Support: GBS)だろう。開発途上国政府の国家予算として援助資金を投入し、どの政策へ予算配賦するかは開発途上国政府の判断に委ねられる。「オーナーシップ」や「参加型開発」を重視するイギリスの開発理念が背景にある代表的な手法だった。

GBSも今後は下火となっていきそうだ。今回の改定の原点は、国民の税金の使途を明確にすることにあった。GBSで資金拠出したアフリカの国々で多額の使途不明金が発生したことが背景にあるのだろう。

今後は、イギリスの援助スキームも、プロジェクト・プログラム型の支援が増え、案件の予算・使途をモニタリングしていくことが増えるのではないだろうか。

国益重視が開発援助のトレンドに?

国際開発業界で大きな影響力を持つイギリス。そのイギリスによる今回の大転換は、開発援助のトレンドが大きく変わることを意味しているのかもしれない。今年2月に改定された日本の開発協力大綱も、同じような背景の下で国益を重視し、自国民に対する説明責任を果たしていく方針を鮮明に打ち出していた。

イギリスの開発援助といえば、「貧しい人のために」をモットーに、貧困削減を最優先課題としてきた印象を持っている方も多いだろう。その点については変わりないが、説明責任の観点から大きく方針を転換したのがポイントだろう。

開発援助が「内向き」となった揶揄されるか。あるいは、国益を重視することで国民が「開発援助予算確保への理解」を示すきっかけになるか。前者の印象を後者へ転換できるかは、今後の実績に掛かっているのかもしれない。

開発援助機関が本来の目的を見失わず、貧困削減にひた向きに取り組む姿勢と実績を示していくことが、これまで以上に必要となってくるだろう。

英国サセックス大学社会保障センター

は、開発途上国の社会保障(Social Protection)に関するイベントや刊行物の情報を毎月配信しています。今回はニュースレター11月号の中から気になる文献をまとめました。ヘッドラインと抜粋のみ掲載していますので、詳しくは外部リンク先をご確認ください。

 

社会保障と農業-農村の貧困サイクルを断ち切る(FAO

The State of Food and Agriculture 2015 report finds that social protection schemes – such as cash transfers, school feeding and public works – offer an economical way to provide vulnerable people with opportunities to move out of extreme poverty and hunger and to improve their children’s health, education and life chances. It especially makes the case that social protection measures will help break the cycle of rural poverty and vulnerability, when combined with broader agricultural and rural development measures. The report uses results from the research carried out by the From Protection to Production (PtoP) project and The Transfer Project.

 

社会保障制度の分析・計画へ税制の議論を取り入れる(ODI)

Social protection and tax policy are commonly examined separately, yet they are strongly linked. This paper contributes to efforts to include tax considerations in social protection analysis and design by discussing the key methodological issues in carrying out joint distributional analysis, reviewing the evidence on the incidence and distributional impact of taxes and transfers and discussing alternative tax revenue sources and their implications for social protection financing and sustainability.

 

ネパールの現金給付事業は社会的包摂へ貢献しているか(Oxford Development Studies

It is often assumed that social protection leads to social inclusion and other well-being indicators. Yet evidence of this impact is weak. Cash transfers are a social protection tool designed to reduce poverty which can also have an impact on human development indicators such as health and education. In the district of Sarlahi, Nepal, cash transfer amounts are too low to improve health and education opportunities or productive pursuits and thus to break the intergenerational cycle of poverty. However, the transfer allows beneficiaries to participate more in community activities, increases their access to information and social networks, and enhances the social contract and people’s relationship with the state. This breaks down some of the invisible barriers that perpetuate exclusion. Cash transfers can facilitate social inclusion but are not enough alone to achieve substantive inclusion.

 

ネパールの子供給付は不可触民(社会的弱者)の役に立っているか(ODI

The Child Grant cash transfer in Nepal is targeted at all households with children aged up to five years in the Karnali zone and at poor Dalit households in the rest of the country. Its objective is to improve children’s nutrition. The focus of this study is specifically on how the Grant works for Dalit households. It examines the current issues with the Child Grant programme and identifies six key policy recommendations to improve its effectiveness. A Briefing paper is also available.

 

栄養と社会保障(FAO

This document analyses linkages and complementarities between social protection and nutrition, laying out the common ground between the two.

 

女性の経済的エンパワーメントと社会保障に関する質的研究(FAO

This Research Guide describes in detail the sequencing, timing and methodology of the research process to be implemented in each country of study: training; fieldwork preparation; a simple and clear fieldwork roadmap; the theory of change hypotheses for the studies; guiding questions and research tools. The Guide will be used for conducting qualitative research as part of this programme and will also serve as a basis for future FAO research in social protection and decent rural employment.

 

ネパールにおける社会保障と家計のレジリエンス(UNDP

Following the recent earthquakes in Nepal this article examines the contribution and potential of Nepal’s emergent social protection system towards supporting the resilience of poor households to shocks and stresses.

カメルーン駐在員に聞いた地元の生活と産業

カラフルな布屋街と聞くと、どういう景色を想像するだろうか。南国の島とビーチ、あるいは、抜けるような青空と地中海の古都だろうか。10月からお送りしている特集「カメルーンの色彩」では、アフリカンプリントを切り口にカメルーンの日常を紹介している。アフリカでよく見かけるカラフルな衣服の裏側にはどのようなストーリーがあるのだろうか。連載中でカメルーンに駐在する伊藤早紀さんに話を伺った。

プロフィール|伊藤早紀

国際協力機構(JICA)カメルーン事務所駐在員。2010年、JICA入構以来、日本の開発援助業務に従事。タンザニア事務所駐在、開発パートナーとの援助協調、ガーナ国担当を経て、2014年10月より現職。英国ウォーリック大学政治学士、グローバリゼーションと開発修士。

「匠のワザは弟子入り修行で習得する」

— 前回の記事で驚いたのですが、仕立て屋がカメルーンでは男性なのですね。

たしかに、カメルーンの仕立て屋さんは女性ももちろんいますが、男性の方が明らかに多いですね。

— 縫製は日本であれば女性の仕事というイメージが強い気がしますが、奥さんは何を?

私の行きつけの仕立て屋さんは、奥さんが小物作成係をやっていて旦那さんが服を仕立てているみたいです。

— どこで技術を磨くのでしょうか。カメルーンのインフォーマルセクターで手に職を身に着けるのか気になります。

彼のほかに見習いかアシスタントのような男性がときどきいます。おそらく、技術は弟子入りして見て覚えるのかもしれないですね。

— 目で盗め!日本の寿司職人みたいですね。

そうですね。

— もしかして、「女性は家を守る」、「男が外で稼ぐ」という文化があるのでしょうか。

道端を見ていると、ごはん屋さん(バケツに入ってるごはんや街角で魚を焼いてるお店)や小さなテーブルを出しての小売り(ピーナッツ、アメ、ビスケット、バナナなど)は圧倒的に女性が多いですね。

— インフォーマルセクターと一括りに言っても技術のあり・なしで生活は違いそうですね。

たしかに技術系は男性が多い印象です。そういえば小さい子供を横で遊ばせている小売りの女性が多い。やはり子供がいる女性は子供から目を離して集中する必要がある技術系の仕事で修行するのは難しいのかもしれませんね。

— カメルーンの産業も切り口としては興味深いです。縫製産業があるということだけでも驚き。

商業の話は、担当してるカイゼンプロジェクトがまとまったら書こうかと思います。先日、従業員22人のオーガニックジュース工場を訪問したりもしたけれど、中小企業で頑張る起業家の世界も色々なストーリーがあっておもしろい。「インフォーマルセクターを卒業して登記したものの、税金を取られるようになって大変なだ」とか。

— 次の記事楽しみです。

次は言語について書いてみようかと思います。

— 言語・・・?公用語はフランス語ですよね。

あまり知られてないけれど、実は英語も公用語です。英仏両方公用語のユニークな世界をご紹介します。

— 楽しみにしています!

Euronews

EU加盟後、ルーマニアで子供の貧困が悪化。ベトナムが多元的貧困指標(MPI)の採用を決定。ネパールの貧困率は悪化する見込み、地震の影響。

開発途上国の貧困と開発に関する記事を切り抜いてまとめました。ヘッドラインのみ掲載していますので、詳しくはニュースソースをご確認ください。

 

EU加盟後、ルーマニアで子供の貧困が悪化(Euronews

Just over one-in-two (51 percent) children were at risk of poverty last year, compared with 50.5 percent when Bucharest joined the bloc in 2007. Romania has the highest percentage of under-18s at risk of poverty in the EU and has fared far worse than its neighbour Bulgaria, which has seen a drop from 61 percent to 45.2 percent over the same period.

 

ネパールの貧困率は悪化する見込み、地震の影響(The Kathmandu Post

The Post-Disaster Needs Assessment (PDNA) has estimated that the quake pushed 700,000 people into extreme poverty. http://bit.ly/1NdK1I8

 

ベトナムが貧困線を1.30ドルへ引き上げ(Thanh Nien Daily

In terms of income, the poverty line will be set at VND700,000 (US$30.6) a person a month in the countryside, and VND900,000 ($39.3) in urban areas, he said. In 2011-15, the benchmark has been VND400,000 ($17.5) and VND500,000 ($21.8) respectively… It is estimated that around 12 percent of Vietnamese households will be regarded as living in poverty and 6 percent near poverty when the new line is applied.

 

ベトナムが多元的貧困指標(MPI)の採用を決定(Viet NamNet

The MPI measures people’s income, as well as their lack of access to basic public services such as healthcare, education, housing, clean water, sanitation and information.

 

ベトナムが中期計画を策定、農村開発と貧困削減へ取り組む(Viet Nam News

Regarding sustainable poverty reduction for 2016 to 2020, the resolution sets a target of an average drop of 1.0 per cent to 1.5 per cent in the household poverty rate and 4 per cent annually in impoverished localities.

 

衛星通信を世界の貧困のモニタリングに活用(City Lab

Citizen surveys are the most comprehensive means available to track poverty, but they aren’t perfect. They cost money, take time, and can’t guarantee accurate responses. Surveys might also not be feasible in many of the poorest pockets of the world where they’re most needed, if these areas are too remote or dangerous; a recent World Bank analysis found that 29 countries had no poverty data at all from 2002 to 2011.

 

気候変動が都市の貧困を悪化させる、フィリピン(Business Mirror

In its latest report titled Shock Waves: Managing the Impacts of Climate Change on Poverty, the World Bank said higher food prices would increase the ranks of the urban poor by 32 percent.

 

貧困削減から不平等の是正へ、カンボジア(The Phnom Penh Post

The World Bank Group is committed to supporting Cambodia in addressing these challenges. Our mission is to end extreme poverty by 2030 and boost prosperity among the poorest 40 per cent in low- and middle-income countries.

報告書(Fiscal Space for Social Protection in the Poorest Countries)

後発発展途上国(LDC)でさえ社会的保護(社会保障)制度の財源を捻出することができるかもしれない。先月出版された報告書の中で 、ILOは8つの方法を示している。

後発発展途上国(LDC)でさえ社会的保護(社会保障)制度の財源を捻出することができるかもしれない。先月出版された報告書(Fiscal Space for Social Protection in the Poorest Countries)の中で 、国際労働機関(ILO)のイサベル・オルティス社会的保護局長は8つの方法を示している。その概要をコメントを付けてまとめた。

公共支出の再配分(Re-allocation)

コストが高く成果の上がっていない投資を費用対効果のより高い案件に再配分すること。どの案件へ投資するのがよいのか判断するためには、既存のパイロット案件が計量分析を行うことができるような精緻なデータを収集していることが不可欠となる。案件実施の過程で精緻なインパクト評価を想定しているかが大きな課題となる。社会的保護関連のパイロット案件はしばしば、異なる開発パートナーやドナーの意向で実施される。それらの組織や案件担当は必ずしもインパクト評価に精通していなかったり、重視していない場合も多く、データの欠如を理由に費用対効果分析を行うことができないことが多い。

税収の増加(Tax revenues)

財政余地を拡大させるためには、税収を増やす必要がある。累進課税(Progressive Tax)と逆進税(Regressive Tax)をうまく使い分け、低所得者層の負担にならない形で課税を検討する必要がある。

社会保障カバレッジの拡大と保険料の徴収(Coverage and contributory revenues)

税収で賄う生活保護などの社会扶助(Social Assistance)の対象者を減らし、保険料の徴収が見込める社会保険プログラムへ移行させていくことが財政余地の拡大につながる。本人負担のあるプログラム(Contributory)と税収で賄うプログラム(Non-contributory)をバランスよく運用することは、特に中所得国で重要となってくるだろう。中所得国ではより多くの人々が最貧層から抜け出し、企業勤めのサラリーマンが増加する。公式経済(Formal Economy)の拡大に伴い、保険料の定期的な徴収によって社会保障を運用していく体制を作ることが、税を財源とする財政余地の縮小を緩和するだろう。国の発展段階のどの時点から税収によらない社会保障制度の運営を拡大させるかが、議論のポイントとなる。

援助業界に対するロビーイング(Lobbying for aid)

開発パートナー やドナーへ財源の提供を求めること。事実、開発途上国における社会的保護プログラムの多くは途上国の自己財源では賄われていない。しかし、中長期的にプログラムをスケールアップし、持続的に運営していくためには、開発途上国政府のオーナーシップが不可欠となる。いかに早い段階でドナーから自立できるかが課題となるだろう。

不正な資金の流出を食い止めること(Eliminating illicit financial flows)

全てのセクターに共通の課題であるが、開発途上国では不正な資金の流出を食い止めることが財政余地の拡大に直結する。

財政・金融政策の活用(Fiscal policy/Central bank foreign exchange)

ソブリン・ウェルス・ファンド(天然資源による収入や外貨準備高を原資とした政府出資ファンド)などを活用し、低所得者層へ還元する仕組みをファイナンスすることも一つの方法である。既得権益や政治思想に依拠するところが大きく、強力な政治的意思(Political Will)とリーダーシップが必要となることは想像に容易い。

借入と債務整理(Borrowing / Restructuring existing debt)

比較的有利な条件であれば国内外からの借り入れも有効であり、債務整理も有効な手段である。実際に、60ヶ国以上が債務整理に成功し、それによって生まれた資金を社会保障へ振り分けることができている。貸し手が社会保障に理解を示すかどうかが課題だろう。インフラ投資と違い、社会セクターへの投資は短期的な収益にはつながらない。債務整理の結果、短期的なリターンが見込めないセクターへ投資することについて、貸し手側がどう判断するかがポイントとなるだろう。

景気刺激型のマクロ経済政策(Accommodating macroeconomic framework)

財政赤字と高いインフレ水準にあってもマクロ経済が不安定にならない経済構造。世界同時不況のとき、多くの開発途上国が財政緩和政策をとり、赤字支出と景気刺激型のマクロ経済政策を展開した。

 

参考資料

JICA研究所の有識者インタビューがおもしろい

開発援助業界で活躍する有識者のインタビューが89本
「休日は何をしていますか?」と聞かれ、「You Tubeを見ています」と答えると冷ややかな目で見られるこの頃。今日は、「動画鑑賞も悪くない」と思ってもらえるように、最近はまっている動画をご紹介したい。

開発援助業界で活躍している方、これから開発途上国の発展に尽力したいと思っている方に必見なのが、JICA研究所のインタビュー特集だ。現時点で89本のインタビュー動画が投稿されている。JICA研究所でイベントを行う際などに撮影され、比較的高頻度でアップされている。

世界中の研究者や実務家から国際機関のトップまで
有名どころで言えば、前ASEAN事務局長、国連大学総長、日本・イギリス・アメリカの世界屈指の研究機関、世界銀行・アジア開発銀行などの実施機関も網羅しており、バラエティーに富んだ話が聞ける。

私の個人的な好みで言えば、The Povertistへ寄稿して頂いているローレンス・ハダッド(IFPRI)のインタビュー。栄養分野の世界的権威であるだけでなく、オピニオンリーダーとして援助潮流にも影響を与え続けている。トピックから選ぶとすれば、条件付き現金給付(CCT)のインパクトについて語ったマリト・ガルシア(世界銀行)がおすすめだ。

偉い人に人生を語らせる他では見れないインタビュー
冒頭、「はまっている」と書いたのには別の理由がある。しばらく見ているとあることに気づくだろう。インタビューの質問が一風変わっていて面白い。JICA研究所のインタビューでは、一番最初にほぼ必ず聞く質問がある。

「あなたのバックグラウンドを教えてください」

開発業界のトップを極めた人たちが生い立ちを語る姿を見たことがあるだろうか。聞かれた方も意外なトピックを振られて一瞬キョトンとする人もいれば、大学生時代からの昔話を喜んで話し続ける人もいる。

例えば、直近のインタビューでは、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのマネジメント学部のトップが、かなりの時間を割いてバックグラウンドを語っている。

偉い人がどうやってそこまでたどり着いたのか、ニコニコしながら話す姿は実に面白い。開発援助業界でキャリアを歩むプロフェッショナルにとっては、とても興味深いインタビュー集ではないだろうか。

英国マンチェスター大学世界開発研究所との連携について

ポバティストは、英国マンチェスター大学世界開発研究所(Global Development Institute: GDI)の情報発信に協力していくこととしましたのでお知らせします。

GDIは、マンチェスター大学にある国際開発に関する2つの研究機関(※)を統合して2016年初頭に発足する新しい研究機関です。統合後は、開発分野の研究・教育機関としてヨーロッパ最大規模となり、貧困、不平等、ガバナンス、政治経済、環境問題、都市問題等を扱う総合的な研究機関となる見込みです。

当面は、同研究所の情報サイト「Development@Manchester」で配信される貧困と開発に関するトピックを「オピニオン」ページへ掲載していきます。

 

※マンチェスター大学所属の国際開発研究機関

開発政策マネジメント研究所(Institute for Development Policy and Management: IDPM)
ブルックス世界貧困研究所(Brooks World Poverty Institute: BWPI)

開発援助プロフェッショナルの条件とは?-言葉のわからない親友

現地の生活へ足を踏み入れること

6年ぶりに降り立った東洋のパリ、プノンペン。開発援助業界へ足を踏み入れた場所へ帰ってきた。

王宮の裏に目立たない小道がある。月300ドルの下宿先が変わらずそこにはあった。大家さんを訪ねると、あの時と何も変わらない笑顔と人々と会うことができた。突然の訪問に躊躇することなくセットされた突然の歓迎会は、いつもお決まりの自宅前の路上。行き交う住民が、私の顔を覚えていて、声を掛けては帰って行く。言葉はわからないが、暖かい時間の流れが心地よい。

赤い手すり越しに、毎朝、私の出勤を待っていたバイクタクシーの溜まり場へ向かう。顔なじみのドライバーが目を丸くして大声で飛んでくる。

クメール語。何を言っているかわからない。再会。感動と込み上げてくる涙だけが共通の言葉だった。

思わぬ再開に気が動転する親友たち。ポケットからしわくちゃの紙切れを出した。いつかの飲み会の写真のカラープリント。嬉しかった。

英語を全く解さない親友たちに連れられ、タックマウ地区の自宅へ連れて行かれたことがあった。地方からの出稼ぎの若者たちが居住するエリア。真っ暗な夜道をどこへ連れて行かれるかもわからないまま、親友を信じてついて行ったのが懐かしい。

もてなされた料理もそれまで見たことがないものばかりだった。魚を発酵させて作るプラホック(独特の風味のタレ)に生野菜をつけて食べる。見たこともない赤貝は塩辛く、アンコールビールと絶妙のハーモニーを醸し出す。蚊取り線香も蚊帳も無い高床式の野外ステージで飲み会を見守っていたのはたくさんのヤモリたち。電灯に集まる虫をたらふく食べる姿が懐かしい。

言葉のわからない親友をたくさん持つこと
2009年9月からの半年間、私は国際労働機関(ILO)のカンボジア事務所で勤務した。初めて手にした給料は300ドルの小切手。プノンペン市民と同等の生活水準だった。だからこそ、カンボジアの人々と同じ空気を吸い、言葉のわからない親友と出会えたのかもしれない。

開発援助業界には、おかしな二項対立がある。ローカル v.s. インターナショナル。現地スタッフと国際機関の職員との間には超えられない壁があり、現地住民と外国人駐在員の間の垣根も高い。

現地の食事を口にせず、地元の青空市場へも行かない。外国人コミュニティで生活する西洋人や日本人コミュニティだけで生活する日本人。英語を話さない地元住民を怒鳴り散らす外国人。「郷に入っては郷に従え」とは真逆の、名ばかり「プロフェッショナル」がたくさんいる。

データやプレゼンが上手で、気弱な途上国の役人を説き伏せることがプロの仕事ではない。

言葉のわからない親友がどれだけいるか。通訳を連れて調査へ行っても出会えない、外国人には到底入り込めない場所に、地元の生活がある。

言葉のわからない親友を持つことができるか。それが、真のプロフェッショナルの条件。開発途上国で本当に良い仕事ができるかどうかは、言葉ではなく身をもって現地の生活や実情を伝えてくれる親友を持つことにかかっているのではないだろうか。