政治サイクルとインパクト評価のタイミング
ベトナムでは国会に法案を提出する際に、その法案を実施した際にどのような社会経済的な影響があるか説明する報告書の提出が不可欠となっている。これを当該国の実務家はインパクト評価と言っている。もちろん、学術界でいうところのインパクト評価とは手法の厳密さなどに差異はあるが、求めているアウトプットは似ている気がする。いずれにせよ、どこの国の法案審議でも同じような要件があると思う。 さらに読む
携わっている仕事について書きます。
ベトナムでは国会に法案を提出する際に、その法案を実施した際にどのような社会経済的な影響があるか説明する報告書の提出が不可欠となっている。これを当該国の実務家はインパクト評価と言っている。もちろん、学術界でいうところのインパクト評価とは手法の厳密さなどに差異はあるが、求めているアウトプットは似ている気がする。いずれにせよ、どこの国の法案審議でも同じような要件があると思う。 さらに読む
著者名
Behrendt C. and Nguyen Q.A.
論文の題名
Ensuring universal social protection for the future of work
論文が答えようとしている問い
仕事の未来に社会保障を適用させる方策とは?
政策メッセージ
社会保険・社会福祉の両輪をうまく組み合わせることが重要。
分析手法
文献レビュー。
分析結果
保険料および税収を財源とした社会保障制度を効果的に組み合わせ、様々な雇用形態で働く労働者を保護する必要がある。政府はこうした流動的な労働市場のあり方に社会保障制度を適応させていかなければならない。
URL
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/1024258919857031
著者名
Behrendt C. et al
論文の題名
Social protection systems and the future of work ensuring social security for digital platform workers
論文が答えようとしている問い
労働形態の変化に社会保障はどう対応すべきか?
政策メッセージ
新しい労働形態へ法的・事務的な適応が必要。
分析手法
文献レビュー。各国の具体的な政策を引用することで、政策の方向性を体系化。
分析結果
オンデマンドワーカーの登場など、雇用形態が複雑化している現状を踏まえ、次のような政策対応が必要。
URL
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/issr.12212
著者名
Ivanic M. and Martin W.
論文の題名
Sectoral productivity growth and poverty reduction: National and global impacts
論文が答えようとしている問い
どのセクターの成長が貧困削減を牽引するか?
政策メッセージ
工業・サービス産業よりも、農業の生産性向上が貧困削減を牽引する。
分析手法
複数のデータソースを使用。世界貿易分析プロジェクトのデータベース(GTAP)から140か国、57の貿易セクターの経済データを取得。一般均衡モデルを用い、生産性が増減することによって国民所得、製品、価格が長期的にどのような影響を受けるのかを分析。生産性と価格の変動を31か国、315,000世帯のデータに適用し、貧困への影響を分析。
分析結果
低所得国では一般的に、農業の生産性向上は工業・サービス産業よりも高い貧困削減効果を持つ。
URL
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0305750X17302383
著者名
Anderson E. et al
論文の題名
Does government spending affect income poverty? A meta-regression analysis
論文が答えようとしている問い
政府支出は所得貧困を改善するか?
政策メッセージ
政府支出を拡大すれば所得貧困が改善するという明確な根拠はない。
分析手法
問いに関する19ヶ国169の分析結果を用いてメタ回帰分析を実施。
分析結果
低中所得国において、政府支出を拡大することで所得貧困が改善するという明確な傾向は確認できない。ただ、地域によって程度の差はある。
URL
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0305750X17303200
著者名
Nina Torm
論文の題名
To what extent is social protection associated with better firm level performance?: A case study of SMEs in Indonesia
論文が答えようとしている問い
インドネシアの中小企業にとって社会保障は負担か?
政策メッセージ
インドネシアの中小企業経営者が従業員に社会保険を適用することは、売上への先行投資となる。
分析手法
中小企業の社会保険支出が与える売上・利益への影響を計量分析したもの。インドネシア工業調査(Indonesia Manufacturing Survey)の2010年から2014年のデータを分析に使用した。6,092社(各年1,523社)のパネルデータ。
分析結果
中小企業による社会保険支出の10%の増加は、売上を2%押し上げた。一方、社会保険支出の増加に起因する利益の減少は確認されなかった。
著者名
Ippei Tsuruga
論文の題名
Chronic poverty in rural Cambodia: Quality of growth for whom?
論文が答えようとしている問い
経済成長はカンボジアの慢性的貧困を改善したか?
政策メッセージ
経済成長によって消費は改善したが、慢性的貧困の根本的な原因の解決には至らなかった。世帯消費のみに基づき貧困削減政策の対象選定を行うと、支援を最も必要とする慢性的貧困世帯を対象外とするリスクがある。
分析手法
全国規模で実施された2つの調査から得られた定性的データ(参加型貧困アセスメント)と定量的データ(家計調査)を組み合わせることで、2004年と2010年の多次元慢性的貧困率を推計・比較。
分析結果
世帯消費を基準とする従来の方法で推計された貧困率は大きく改善したが、多次元慢性的貧困率は11%のまま変化がなかった。経済成長は確かに慢性的貧困層の消費水準も底上げしたが、貧困の悪循環を根源から断ち切るために必要な生産的資本や人的資本の拡充を促すには至らなかった。また、慢性的貧困世帯は、労働力人口の割合が低く、子供の割合が高く、母子家庭や少人数世帯である傾向があった。
URL
https://www.jica.go.jp/jica-ri/publication/workingpaper/jrft3q00000026r7-att/JICA-RI_WP_No.104.pdf
私たちは読むことに疲れてしまった。1970年から2017年までの一流学術誌を分析した研究がある[1]。この約50年間で、論文の平均的な長さは16ページから50ページとなった。論文の審査に当たる査読者は、駄作の可能性がある40-60ページの論文を読まなければならない。コンピュータの普及によって人が書くスピードは飛躍的に向上した一方、読むスピードというのは然程変わるものではない。査読者の苦労を経て出版された論文でさえ、読むのに3倍の時間を要するようになった。
この結果、読まれない論文が日々大量生産されている。たとえば、世界銀行が出版した政策文書の13%は250回しかダウンロードされず、31%は一度もダウンロードされず、87%は一度も引用されていなかった[2]。多額の費用と時間をかけて世に送り出された研究結果の多くは、誰の目にも触れず、研究者の履歴書の一行を飾るだけの自己満足の産物となっている。
また、国際機関が出版する政策文書の発行プロセスはどうだろう。学術誌のような厳しい査読や剽窃の審査プロセスはなく、コピー・アンド・ペーストによる使いまわしが横行してはいないか。たとえば、長い報告書を作成した場合、読みやすさに配慮した要点のみの文書を作成することがある。文書の本質に変更はないので大部分は同じ内容だが、別の文書番号で出版される。こうして同じような文書が世の中に氾濫する。
ここで言いたいのは、剽窃が良いとか悪いとかではない。同じような文書が世の中に溢れ、疲れ切った私たちはどうすべきか。そこに光を当てたい。
専業の研究者でさえ論文を読むことに疲れてしまった今、実務家がエビデンスを集めるにはどうすべきか。国際機関で政策の仕事をしていると、若手コンサルタントを雇い、文献調査を行ってもらうことが多い。つまり、短時間で要点のみを凝縮してもらう作業だ。
これが実務家側ができる最大限の努力。一方、研究者から実務家へエビデンスを届ける動きがあっても良いのではないだろうか。このような問題意識から、3分で学術論文の要点を読む・読ませる試みを考えた。大量の情報処理に追われる実務家には、ドリップコーヒーができるまでの数分しか残されていないのかもしれない。
「3分で学術論文の要点を読む・読ませる」を実現する企画です。エビデンスを政策の現場へ届けたい研究者と、時間に追われる実務家の橋渡しを目指しています。学術誌に掲載された論文はもちろん、ワーキングペーパー(未発表の論文)、大学院のタームペーパーや修士・博士論文など、開発政策に役立つと思われる論文を紹介してください。
ペーパードリップへ投稿する方法
ペーパードリップは文字通り、ろ紙でコーヒーを抽出する簡易な方法として広く愛されています。論文の美味しい部分を抽出(ドリップ)して、実務家へ届けてみませんか?
[1] Leubsdorf. 2018. Economists can’t write economically, driving demand for brevity. Note: Standardised mean length of articles in American Economic Review, Econometrica, Journal of Political Economy, Quarterly Journal of Economics, Review of Economic Studies.
[2] Doemeland and Trevino. 2014. Which World Bank reports are widely read?
障害と社会保障に関する共同声明。ジュネーブ勤務時に関わっていたものがようやく公開。国際機関やNGOのほか、日本からはJICAのロゴも入っています。 さらに読む
バンコクで開催された第15回ASEAN労働高級事務者会合(Senior Labour Officials’ Meeting: SLOM)にあわせ、ILOは「社会保障の未来」を議論する政労使会合をASEANと共催しました(日本政府からの任意拠出金によって運営)。
7月4日にパネルディスカッション形式で行われたハイレベル会合では、東南アジア諸国が今後直面する課題、必要となる施策、社会保障のあり方、政労使の役割について議論しました。7月5日の専門家会合では、インフォーマル経済への社会保障の適用拡充と少子高齢化社会へ向けた社会保障の対応について議論しました。
ILOは「仕事の未来イニシアチブ(Future of Work)」を立ち上げ、政府、労働者、使用者の各国代表と議論を進めてきました。先月開催された第108回ILO総会では、「仕事の未来を人間中心の視点で見る」宣言が採択されています。社会保障分野については、「全ての人に開かれた包括的で持続可能な社会保障の機会」が必要な政策措置として宣言文に盛り込まれています。
上記の会合は東南アジアに焦点を絞った議論を行うきっかけを作ることを目的としており、今後、ASEAN諸国の取り組みや議論をILOは引き続き支援していくこととなります。
なお、今回の会合で使用したすべての資料はこちらで公開しています。