携わっている仕事について書きます。

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どのセクターの成長が貧困削減を牽引するか?

ペーパードリップ(Paper Drip)は「3分で学術論文の要点を読む・読ませる」を実現する企画です。研究者は端的に要点をまとめ、実務家は短時間でエビデンスを把握し、実務へ活用する。エビデンスを政策の現場へ届けたい研究者と、時間に追われる実務家の橋渡しを目指しています。

著者名
Ivanic M. and Martin W.

論文の題名
Sectoral productivity growth and poverty reduction: National and global impacts

論文が答えようとしている問い
どのセクターの成長が貧困削減を牽引するか?

政策メッセージ
工業・サービス産業よりも、農業の生産性向上が貧困削減を牽引する。

分析手法
複数のデータソースを使用。世界貿易分析プロジェクトのデータベース(GTAP)から140か国、57の貿易セクターの経済データを取得。一般均衡モデルを用い、生産性が増減することによって国民所得、製品、価格が長期的にどのような影響を受けるのかを分析。生産性と価格の変動を31か国、315,000世帯のデータに適用し、貧困への影響を分析。

分析結果
低所得国では一般的に、農業の生産性向上は工業・サービス産業よりも高い貧困削減効果を持つ。

URL
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0305750X17302383

政府支出は所得貧困を改善するか?

ペーパードリップ(Paper Drip)は「3分で学術論文の要点を読む・読ませる」を実現する企画です。研究者は端的に要点をまとめ、実務家は短時間でエビデンスを把握し、実務へ活用する。エビデンスを政策の現場へ届けたい研究者と、時間に追われる実務家の橋渡しを目指しています。

著者名
Anderson E. et al

論文の題名
Does government spending affect income poverty? A meta-regression analysis

論文が答えようとしている問い
政府支出は所得貧困を改善するか?

政策メッセージ
政府支出を拡大すれば所得貧困が改善するという明確な根拠はない。

分析手法
問いに関する19ヶ国169の分析結果を用いてメタ回帰分析を実施。

分析結果
低中所得国において、政府支出を拡大することで所得貧困が改善するという明確な傾向は確認できない。ただ、地域によって程度の差はある。

URL
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0305750X17303200

インドネシアの中小企業にとって社会保障は負担か?

ペーパードリップ(Paper Drip)は「3分で学術論文の要点を読む・読ませる」を実現する企画です。研究者は端的に要点をまとめ、実務家は短時間でエビデンスを把握し、実務へ活用する。エビデンスを政策の現場へ届けたい研究者と、時間に追われる実務家の橋渡しを目指しています。

著者名
Nina Torm

論文の題名
To what extent is social protection associated with better firm level performance?: A case study of SMEs in Indonesia

論文が答えようとしている問い
インドネシアの中小企業にとって社会保障は負担か?

政策メッセージ
インドネシアの中小企業経営者が従業員に社会保険を適用することは、売上への先行投資となる。

分析手法
中小企業の社会保険支出が与える売上・利益への影響を計量分析したもの。インドネシア工業調査(Indonesia Manufacturing Survey)の2010年から2014年のデータを分析に使用した。6,092社(各年1,523社)のパネルデータ。

分析結果
中小企業による社会保険支出の10%の増加は、売上を2%押し上げた。一方、社会保険支出の増加に起因する利益の減少は確認されなかった。

URL
https://www.ilo.org/wcmsp5/groups/public/—asia/—ro-bangkok/—ilo-jakarta/documents/publication/wcms_714115.pdf

経済成長はカンボジアの慢性的貧困を改善したか?

ペーパードリップ(Paper Drip)は「3分で学術論文の要点を読む・読ませる」を実現する企画です。研究者は端的に要点をまとめ、実務家は短時間でエビデンスを把握し、実務へ活用する。エビデンスを政策の現場へ届けたい研究者と、時間に追われる実務家の橋渡しを目指しています。

著者名
Ippei Tsuruga

論文の題名
Chronic poverty in rural Cambodia: Quality of growth for whom?

論文が答えようとしている問い
経済成長はカンボジアの慢性的貧困を改善したか?

政策メッセージ
経済成長によって消費は改善したが、慢性的貧困の根本的な原因の解決には至らなかった。世帯消費のみに基づき貧困削減政策の対象選定を行うと、支援を最も必要とする慢性的貧困世帯を対象外とするリスクがある。

分析手法
全国規模で実施された2つの調査から得られた定性的データ(参加型貧困アセスメント)と定量的データ(家計調査)を組み合わせることで、2004年と2010年の多次元慢性的貧困率を推計・比較。

分析結果
世帯消費を基準とする従来の方法で推計された貧困率は大きく改善したが、多次元慢性的貧困率は11%のまま変化がなかった。経済成長は確かに慢性的貧困層の消費水準も底上げしたが、貧困の悪循環を根源から断ち切るために必要な生産的資本や人的資本の拡充を促すには至らなかった。また、慢性的貧困世帯は、労働力人口の割合が低く、子供の割合が高く、母子家庭や少人数世帯である傾向があった。

URL
https://www.jica.go.jp/jica-ri/publication/workingpaper/jrft3q00000026r7-att/JICA-RI_WP_No.104.pdf

あなたの論文が読まれない理由

私たちは読むことに疲れてしまった。1970年から2017年までの一流学術誌を分析した研究がある[1]。この約50年間で、論文の平均的な長さは16ページから50ページとなった。論文の審査に当たる査読者は、駄作の可能性がある40-60ページの論文を読まなければならない。コンピュータの普及によって人が書くスピードは飛躍的に向上した一方、読むスピードというのは然程変わるものではない。査読者の苦労を経て出版された論文でさえ、読むのに3倍の時間を要するようになった。

この結果、読まれない論文が日々大量生産されている。たとえば、世界銀行が出版した政策文書の13%は250回しかダウンロードされず、31%は一度もダウンロードされず、87%は一度も引用されていなかった[2]。多額の費用と時間をかけて世に送り出された研究結果の多くは、誰の目にも触れず、研究者の履歴書の一行を飾るだけの自己満足の産物となっている。

また、国際機関が出版する政策文書の発行プロセスはどうだろう。学術誌のような厳しい査読や剽窃の審査プロセスはなく、コピー・アンド・ペーストによる使いまわしが横行してはいないか。たとえば、長い報告書を作成した場合、読みやすさに配慮した要点のみの文書を作成することがある。文書の本質に変更はないので大部分は同じ内容だが、別の文書番号で出版される。こうして同じような文書が世の中に氾濫する。

ここで言いたいのは、剽窃が良いとか悪いとかではない。同じような文書が世の中に溢れ、疲れ切った私たちはどうすべきか。そこに光を当てたい。

専業の研究者でさえ論文を読むことに疲れてしまった今、実務家がエビデンスを集めるにはどうすべきか。国際機関で政策の仕事をしていると、若手コンサルタントを雇い、文献調査を行ってもらうことが多い。つまり、短時間で要点のみを凝縮してもらう作業だ。

これが実務家側ができる最大限の努力。一方、研究者から実務家へエビデンスを届ける動きがあっても良いのではないだろうか。このような問題意識から、3分で学術論文の要点を読む・読ませる試みを考えた。大量の情報処理に追われる実務家には、ドリップコーヒーができるまでの数分しか残されていないのかもしれない。

ペーパードリップ(Paper Drip)とは?
 

「3分で学術論文の要点を読む・読ませる」を実現する企画です。エビデンスを政策の現場へ届けたい研究者と、時間に追われる実務家の橋渡しを目指しています。学術誌に掲載された論文はもちろん、ワーキングペーパー(未発表の論文)、大学院のタームペーパーや修士・博士論文など、開発政策に役立つと思われる論文を紹介してください。

ペーパードリップへ投稿する方法

ペーパードリップは文字通り、ろ紙でコーヒーを抽出する簡易な方法として広く愛されています。論文の美味しい部分を抽出(ドリップ)して、実務家へ届けてみませんか?

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[1] Leubsdorf. 2018. Economists can’t write economically, driving demand for brevity. Note: Standardised mean length of articles in American Economic Review, Econometrica, Journal of Political Economy, Quarterly Journal of Economics, Review of Economic Studies.
[2] Doemeland and Trevino. 2014. Which World Bank reports are widely read?

障害と社会保障に関する共同声明

障害と社会保障に関する共同声明。ジュネーブ勤務時に関わっていたものがようやく公開。国際機関やNGOのほか、日本からはJICAのロゴも入っています。 さらに読む

社会保障の未来を議論する政労使会合、ASEAN諸国

バンコクで開催された第15回ASEAN労働高級事務者会合(Senior Labour Officials’ Meeting: SLOM)にあわせ、ILOは「社会保障の未来」を議論する政労使会合をASEANと共催しました(日本政府からの任意拠出金によって運営)。

7月4日にパネルディスカッション形式で行われたハイレベル会合では、東南アジア諸国が今後直面する課題、必要となる施策、社会保障のあり方、政労使の役割について議論しました。7月5日の専門家会合では、インフォーマル経済への社会保障の適用拡充と少子高齢化社会へ向けた社会保障の対応について議論しました。

ILOは「仕事の未来イニシアチブ(Future of Work)」を立ち上げ、政府、労働者、使用者の各国代表と議論を進めてきました。先月開催された第108回ILO総会では、「仕事の未来を人間中心の視点で見る」宣言が採択されています。社会保障分野については、「全ての人に開かれた包括的で持続可能な社会保障の機会」が必要な政策措置として宣言文に盛り込まれています。

上記の会合は東南アジアに焦点を絞った議論を行うきっかけを作ることを目的としており、今後、ASEAN諸国の取り組みや議論をILOは引き続き支援していくこととなります。

なお、今回の会合で使用したすべての資料はこちらで公開しています。

社会的保護の未来ILO/ASEANセミナーの報告

7月に開催したセミナー報告に代えて、ILO東京事務所のツイッターを貼っておきます。セミナーで使われた資料等はすべてウェブサイトへアップしていますのでご覧ください。 さらに読む

東南アジアの社会保障の未来を考える

私が所属する国際労働機関(ILO)は、創設100周年の節目の年を迎えています。現在の国際連合(United Nations)が成立したのは第二次世界大戦後の1945年。ILOの歴史は古く、第一次世界大戦後の1919年です。

この100年を振り返ると、数えきれないほどの戦争と経済危機が世界で起きました。東南アジアに目を向けてみても、独立戦争、インドシナ戦争、多くの内戦、アジア経済危機など、数えきれないほどの歴史的事象が思い浮かびます。

では、次の100年はどのような世紀になるのでしょうか。ILOは「仕事の未来イニシアチブ(Future of Work)」を立ち上げ、政府、労働者、使用者の各国代表と議論を進めてきました。先月開催された第108回ILO総会では、「仕事の未来を人間中心の視点で見る」宣言が採択されています。

仕事の未来は、悲観的なものでしょうか。技術革新や働き方の多様化によって失われる仕事はあるでしょう。しかし、同時に新たな仕事も生み出されることとなります。これまでがそうだったように、これからの労働市場も変化に富む100年を迎えることとなります。

私が携わる社会保障分野については、「全ての人に開かれた包括的で持続可能な社会保障の機会」が必要な政策措置として宣言文に盛り込まれています。

労働市場の変化への対応が個人に求められる一方、個人で対応しきれないリスクを社会全体で分散する仕組みを政策に携わる者は考えていかねばなりません。

7月4日、東南アジアの政府、労働者、使用者の代表がバンコクに集います。仕事の未来を更に掘り下げ、「社会保障の未来」を議論する機会を設けました。ILOとASEANの共催会合となります。この会合は、日本政府(厚生労働省)からの任意拠出金によって運営されています。

東南アジアの社会保障が直面する課題は何か。どのような対応が必要となるか。政府の役割は何か。ぜひ、セミナーハッシュタグ(#SPASEAN)を付けてSNSで意見を発信してみてください。

オープンデータは進まない

オープンデータの議論が沸いている。役所にとってのメリットは、研究者が勝手に分析してくれることらしいが、役所側のデータ公開にかかる手間は尋常ではないので、役所にとって割に合わない気がして、日本では進まないと思う。 さらに読む