日系職業専門高校に学ぶインドネシア人の教育方法

ジャカルタ郊外ブカシには日系企業が投資する工業団地がある。現在、工業団地には370社あり、210社(57%)が日系企業。130,000 従業員が働いている。インドネシア人を教育し、卒業後は工業団地内の日系企業で活躍してもらう。そう考えた経営者たちが長年かけて作り上げた職業専門高校がある。今回、職業専門高校「ミトラ・インダストリMM2100(SMK Mitra Industri MM2100)」を訪問させていただく機会を得て、設立経緯や優秀な人材を育てるために心がけていることなどを教えていただいたので、感謝も込めて書き留めておきたい。

業界も規模も違えど、2018年以来、私もインドネシア人を雇用し、事業を運営してきた。常々難しいと感じることは、優秀な人材を採用すること。もちろん、私が運営する事業は短期で成果を出さなければならないため、雇用を通じて人材育成を行うことは難しい。しかし、インドネシア人に共通した弱みをいかに改善し、生産性の高い人材を輩出するか、ということは、私も常に向き合っている課題である。今回、職業専門高校の教育方針を聞く中で、何度も頷くことができた。それでは、私のメモを紹介したい。

出来事
1990 丸紅とインドネシア企業が合弁企業「メガロポリス・マヌンガル・インダストリアル・デベロップメント(MMID)」を創業。
1997 日系企業が投資を開始。
2000 雇用を求めるデモが頻発するようになる。しかし、時間を守る、挨拶をすることができない住民が多かったため、日系企業は雇用することができなかった。
2003 地元との共生を目指して活動を開始。地元の小中学校の先生や村長などにしつけ教育の大切さをセミナー形式で教えはじめた。日系企業で働くためにはこうしたしつけ教育が大切だと教え始めた。
2010 周辺の若者が働けることを目指して、職業専門高校「ミトラ・インダストリMM2100(SMK Mitra Industri MM2100)」を設立。4名(小尾吉弘含む)の創業者がボランティアベースで活動を開始。
2011 2月16日に職業専門高校が開校。Yayasan SMK Mitra Industri(財団)が運営母体となる。

職業専門高校の創立までには、産業界で求められている人材と教育界で育成さる人材のギャップが大きいという課題があった。このギャップを解消するため、同高校では5つの工業系学科に加え、会計学科と観光学科を加えた計7つの学科を開講した。現在、学生数は2,579名(男性1,982、女性597)、教員数は92名。

卒業生に求められる能力は、知識(I know)20%、技能(I can)30%、態度(I do)50%と定義されています。これは、日系企業で働く上で特に重要な態度の改善に重点を置いている。

インドネシアで人を使って仕事をしていて常々感じるのは、I knowとI canは頻繁に聞くことができるが、実際に時間通りに約束を守って仕事を実行する人はほぼいないに等しい。こうした態度の改善に最も大きな重きを置いているのが、同高校の非常に優れた点であり、事業を運営している私にとって納得感のあった部分だった。

この3つの能力を育むために、5つの本質的価値「正直、責任感、規律、協調、思いやり」を、同高校では徹底的に叩き込む。毎日、朝礼時、授業時、終業時に復唱する。5つの本質的価値に基づく行動指針を、生徒たちは入学時に全員で議論し合意して決定する。それに基づいて、校則を自分たちで決めて自分たちが守る。これは、自分たちで決めたことを自分たちで実行すること(コミットメント)の実践であり、態度(I do)の実行に最も必要なことである。

こうして巣立った卒業生の進路は極めて明るい。職業専門高校の卒業生の進路に関する統計は次の通り。就職に成功した卒業生は3,299人で、これは全体の72%に相当する。進学を選んだ卒業生は819人(18%)であり、その大部分がポリテクニックへの進学である。自ら企業を経営している卒業生は17人、日本へ技能実習生として渡った卒業生は440人(10%)、ドイツへ技能実習生として渡った卒業生は25人で、卒業生の合計数は4,600人に上る。また、就職した卒業生の内訳を見ると、日系企業に就職した者が2,598人(79%)と最も多く、インドネシア企業に就職した者は275人(8%)、その他の就職先に就職した者は426人である。