ジャカルタ駐在員の日常とプラットフォームワーカー
プラットフォームワーカーの労働者としての権利の確立が世界的に大きな議論となっています。こうした議論は日本でも最近行われるようになっていますが、国際的な議論が先行している印象があります。ILO の加盟国は毎年6月に国際労働会議(International Labour Conference: ILC)で労働者の保護や使用者の役割などを話し合います。プラットフォームワーカーの労働者としての権利に関する議題は、2025年の議論に組み込まれることになっています。
ILO本部では議論の下地を作るための調査研究が行われています。この調査研究には私も少し噛んでいて、本部に協力しています。調査研究には厚生労働省の拠出金事業も一部関係しているため、日本も貢献しています。
例えば、私は日常的にグラブタクシーを使って出社するわけですが、インドネシアの現在の国内法ではクラブタクシーのドライバーは個人事業主として扱われています。
また、ジャカルタ駐在員はハッピーフレッシュというサービスを利用している人も多いかと思います。これは生鮮食品を新鮮な状態で自宅まで宅配してくれるサービスで利用者はプラットフォーム上で10店舗ぐらいの中から好きな店舗を選び、好きなだけ生鮮食品をワンクリックで注文することができる優れものです。注文を確定すれば、数時間後に玄関先までバイクタクシーが届けてくれるサービスです。配達料金は250円程度です。 グラブタクシーと同様にハッピーフレッシュの配達員もプラットフォーム上の個人事業主として国内法では扱われています。
労働者の保護や社会保障の観点から言えば、従業員として扱われるか、個人事業主として扱われるかは大きな違いを生みます。例えば、クラブタクシーやハッピーフレッシュのドライバーには最低賃金は適用されないわけで、使用者に対して労働安全衛生の管理義務も課されないわけです。
インドネシアの社会保障制度との関連で言えば、(日本とは異なり)個人事業主であっても労働者は全て労働災害保険への加入義務があります。保険料は年間の所得に応じて月額2,000円前後を上限として納めなければなりません。ジャカルタの平均賃金が約5万円ですから、保険料自体はさほど高くは設定されていません。
しかし、ここでのポイントはグラブタクシーやハッピーフレッシュのドライバーが個人事業主とみなされていることです。これによって、プラットフォーム運営会社であるグラブは使用者としての労働者の保護義務がないという点です。つまり、雇用関係が法的に成立しているのであれば運営会社はプラットフォームを利用して仕事をする労働者であるドライバーに対して、労働災害保険料を支払う義務が生じます。同様に年金保険料や健康保険料の折半義務はプラットフォームには現状ありません。
インフォーマル経済が大きい開発途上国や新興国においては、デジタルテクノロジーによる新しい仕事の形態が容易に導入できるという経済的なメリットがあります。一方、労働者の保護や社会保障の拡充といった観点からは、労使関係を法的にどのタイミングでどこまで整備しなければならないかということが、リーダーのさじ加減に委ねられているような現状があります。
新興国における社会保障制度の適用拡充を議論するとき、政府のキャパシティの問題に対する批判が議論の中心になる傾向があります。しかし、実は、「インフォーマル」の定義を法的に明確にすることが、最もインパクトのある政策です。
こうした社会保障の議論も含め、全世界レベルの国際労働基準として定める動きが、2025年のILO の年次総会で行われることになります。
硬い話になりましたが、この季節の真っ赤なドラゴンフルーツは美味しいです。ジャカルタを訪れる方は是非ドラゴンフルーツを半分に割ってスプーンです。くって食べてみてください。注意点はトイレに行った時に全てが赤くなっていることです。内臓の病気ではないので、慌てて救急車を呼ばないでください。
また、新興国駐在員は辛ラーメン好きが多いと思いますが、付属の粉を少々入れ、味噌を咥えることによって北海道の味噌ラーメンのような味になります。もやしと豆腐があれば最高です。