プノンペンの街角に咲くパラソルの花
風の音。バイクの音。ハサミの音。
午前十時のプノンペン。
太陽がジリジリと照らす路地裏に、申し訳程度に咲くパラソルの花がある。
地元民の生活の源。カンダル市場にほど近いこの場所は、観光客の多い地区にもかかわらず、観光客の立ち寄らない時間と空間がある。
パラソルの花は、カンダル市場から少し離れたお寺の裏にチラホラと咲いている。
パラソルの下をのぞき込むと、笑顔で迎える若者2人。
座って行けと誘う言葉は、英語だった。
5年前にここへ通っていたときは、中年の油まみれのおじさんが1人。
常連と話すときも、外国人と話すときも、片言の英語すら話さない、生粋のプノンペンっ子だった。
あれから月日が流れ、洒落た装いの若者2人が切り盛りするパラソルの花。
時代が変わっても、そこには変わらぬ日影があり、ゆったり流れる時間がある。
先客のカンナム・スタイルのTシャツの男の子が、横のビール箱の上にちょこんと座らされる。
「ごめん」と一言、目で伝え、座席に座る。
注文は特にない。
「思うようにやってくれ」
一言だけ伝える。
バリカンは今も昔も手動で動かすタイプ。なんとも風情があって良い。
5年前のおじさんと違って、この若者2人は英語ができる。
プノンペンの大学で法律を勉強する熱心な学生だった。
授業料を払うために、床屋をやっているそうだ。
なぜ、床屋なのか聞いてみる。
答えは単純。手先が器用で、これなら稼げると思ったそうだ。
若い世代が、自分の手と足でこの国を支えようとしている。
値段を聞かずに1ドル札を渡すと、2,000リエル(0.5ドル)が戻ってきた。
誠実に、懸命に、前へ向かって歩いている。
風の音。バイクの音。ハサミの音。
パラソルの花を見つけたら、立ち寄ってみてはどうだろうか。
この国の明るい未来が、そこにはある気がする。
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