キャリアのハイライト

バンコクへ来て一週間が終わろうとしています。ワシントンDC駐在時代に会食・外交の練習のつもりで始めた晩酌もここ一週間は影を潜め、七時には出社する日々です。

人生とは不思議なもので、泥の中を這いつくばって生きているつもりでも、遠くから見ると見事な匍匐前進に見えるようです。

日の出とともにパリッとしたオックスフォードスタイルのスリーピースのジャケットで戦場へ出かけ、夕暮れ後にくたびれたダブルカフスに一人ビールをこぼす。

私もそうでしたが、私の背中を見て歩いてくる人もいます。夢は壊すまいと、美しい音色を奏でるギタリストになろうとした時期もありました。

下積みの弾き語りが酔っ払いの声に掻き消されています。木曜の夜。誰も反応しないMC。シンハーに氷を入れる店員に100バーツを託し店を後にする私。

これでいいんだ、と。マラソン選手はゴールシーンだけがハイライトされます。レースの殆どは影の中。

私たちも同じですが、誰も拍手をしないMCを続け、キャリアのどこかで不意に光が当たる。その瞬間を待つ蝉のような気持ちなのだけれど、「あいつはスターだ」と言われ続けるギタリスト。

意外かもしれませんが、私たちの仕事はそんな感じだと思いますよ。