蝉の抜け殻とリセットボタン
僕らのような仕事をしていると、見ず知らずの土地で暮らし、2年に一度は全く違う土地へ引っ越しをする。
こういう人生を送っていると、心の支えとなるのは家族や友人ではなく、一人で生きる力と生きがいだと感じる。
交友関係は2年でリセットされ、家族や恋人と一緒に暮らし続けることも難しい。
一人で生きる時間が必然的に多くなる。
たしかに、家族や友人はそばにいれば心の支えになったり、仕事や人生に思い悩んだ時も気を紛らわしてくれるかもしれない。
しかし、それは根本的な解決にはなっていない。
家族や知人がいなくなれば、また一人となってしまう。
自分一人では何もできないのか。
自分一人では何もすることがないのか。
全く知らない土地に一人ぼっちでいても、「何かこれをやりたいんだ」というものが現在・未来にあれば、それが生きる力となり日々の原動力となる。
交友関係は定期的にリセットされる。
世界中を転々としながら2年くらいで移動していると、交友関係も2年おきにリセットされることとなる。
もちろん、SNSなどでつながりを保ち、表向きの交友関係を維持することはできるだろう。
しかし、辛いとき、苦しい時に精神的な支えとなるかといえば、そうではない。
次にいつ会えるかもわからないし、何より生きている場所が違う。
移り住んだ土地でまた新しい出会いを見つけて、2年後にはまたリセットする。
その繰り返しで僕らは生きている。
家族関係も頻繁にリセットされる。
女性が仕事を辞めて男性についていくパターンは時代遅れとなった。
特に国際協力業界では共働きが普通となりつつあり、女性もキャリア志向の人が多い。
こういう環境になると単身赴任は当たり前で、家族が一緒に暮らすのは年に2回ある夏休みと冬休みの期間だけ。
これが現実である。
当然、家族と会えない期間の方が長いわけで、自分一人で生きていく力と生きる目標がなければ精神的に持たない。
国際協力業界で仕事をしていると、こういう家族関係が一般的になっているため、離婚再婚も極めて多い。
交友関係も家族関係もあてにならない環境にいれば、自分一人で生きる時間が必然的に長くなる。
生きる力と生きがいは、何年後かに達成したい目標、ビジョンを持っているかどうかである。
それが仕事でも趣味でもよい。
数年先、数十年先に目指すものがあれば、それまでにすべきことが今日の自分を奮い立たせる。
精神的な行き詰まりを紛らわすために、余暇の時間を無理やり埋めることは根本的な解決にならない。
家族や知人と用事もないのに遊んでみても根本的な解決にはならない。
休日に遊んでガス抜きをしているに過ぎない。
これから自分は何がやりたいのか。今何をすべきか。
ビジョンなき人間は脱け殻であって、魅力的ではない。
社交的であれば人間味はあるだろうが、ビジョンがなければ魅力的ではない。
これは異性に魅力を感じるポイントでもあって、将来達成したい仕事や趣味へ向かって今頑張ってる人は魅力的である。
脱け殻と言えば、蝉。
蝉の抜け殻には魅力を感じる。
蝉は7日後に自分の人生がリセットされるとわかっているから、自分のビジョンに向かって精いっぱい生きる。
木漏れ日のベランダを眺めながら、ティーカップの湯気を追う日曜の午後である。