国際協力業界で技術協力プロジェクトを企画するときのコツ
セオリーオブチェンジ、プロジェクトデザインマトリックス、プロジェクトサイクルマネジメント。国際協力業界で当たり前のように使われている事業計画のテンプレートであるが、みんなおかしいと思わないか。これに毒されている人が犯す共通した過ちは、企画段階でコンセプトや理論から考え始めることだ。
プロジェクトを実施するために雇われたマネージャーであれば、指示書にプロジェクトデザインが書いてあり、それを実行することが義務になっているから、指示書に従うことは仕方がない。しかし、プロジェクトを作る側の人間がこれらの枠組みにとらわれて、コンセプトや理論から企画を作り始めることが散見されるため、私は非常に危機感を覚えている。
これらに基づいたプロジェクトのデザインといえば、オブジェクティブ(大目標)を作り、その下にアウトカム(中目標)を置き、アウトプット(小目標)を置き、インプット(活動)を決める。実際の現場感覚から言えば、どのような活動をするかが最も重要であり、それの積み重ねがアウトプット、アウトカム、オブジェクトの達成につながっていく。
つまり、企画をする側がプロジェクトチームを縛ろうとすれば、上から下に決めていけば良いが、企画をする側が責任を持って実施する立場にあるとすれば、下から上に決めていくのが最も筋が通る。なぜなら、企画者自らが実施を担うからだ。
つまり、これらのフレームワークというのは、実施部分を外注することを想定して、最終的に企画したものが実施まで責任を負えないという前提で考えられたものだ。それゆえ、大きな組織になればなるほど、企画部隊と現場部隊の軋轢が生じる。
これらのフレームワークに基づいてコンセプトから考えられたプロジェクトは良い事業にはならない。日々刻々と変わる現場のニーズに対応することができない硬直的なトップダウン型のプロジェクトが出来上がる。
私が管理するプログラムは、自分で企画書を書いて自分で実施も担っているプロジェクトの集合体である。当然、企画段階で活動から積み上げ、アウトプット、アウトカム、オブジェクティブを何でも読み込めるように可能な限りあやふやに作っている。それは、毎週のようにインドネシア政府の優先度が変わることを知っていて、それに対応するためだ。企画者が実施の責任を持つことができる場合、これがプロジェクト形成において最適解だと思う。
JICAに新卒で入り、ILOに転職して足掛け15年。1年目からこの業界で企画立案をやっているので、もう何十本企画書を書いたのかわからない。最近、自問することがある。資金調達や企画書を作成する側の「勝利の条件」は何か。
自分なりの結論としては、「中身が空っぽの企画書で資金調達の交渉を成立させ、内部審査を通過させ、現場に自由度を与える」こと。資金調達や内部審査の過程で、コンセプトが悪いとか、厳しい指標の設定を求められたりとか、色々なコメントがつく。上手くプレゼンし、説得し、極力難易度を下げる。私は企画段階で常にこれを意識している。
当然、自分が責任を持って実施するので、設定された成果指標は悠々とクリアする。企画段階で確実にクリアできる指標を見定め、それよりも低い達成目標で合意できれば、企画する側としては大勝利である。実施の結果、設定された目標よりも圧倒的に良い成果が出るように企画段階から設計されているわけで、私が管理するプロジェクトは例外なく、第三者評価で良いコメントを得ている。
素晴らしい企画書を書くのが目的ではなく、素晴らしい成果を現場であげることが目的なのである。そこを忘れてはならない。