ベーシックインカムの国内と海外の議論と噛み合わない
ターゲティングvsユニバーサルというのは、開発途上国の貧困削減・社会保障の議論で2000年代初頭から議論され、実験されてきたものです。
本件はとても少数のグループへの介入実験のようですが、ケニアでは10年前から英国国際開発省(DFID)や世界銀行が同様の実験を大規模に実施してきました。検索すればたくさん出てくると思いますが、条件付現金給付(CCT)とかSocial Cash TransfersとかCT-OVCというのがそれに当たります。
一般的にターゲティングよりユニバーサルの方が行政コストが安くなるとされます。開発途上国の文脈では、たとえば貧困率が80%の国であればわざわざターゲティングする合理性はないのでユニバーサルが良いのではないか、という議論は長らくあります。
ユニバーサルの欠点はカバレッジを広げる代わりに給付額を抑えなければならないこと。そのため他の社会保障支出を削減して給付増額することが求められるわけですが、経済的合理性だけで動かない政治要素が加わるため、利害関係者の調整が極めて難しいことが昨今のUBIの議論をみればわかるところです。
また、合理性に関しても一定の疑問があります。ユニバーサルベーシックインカムの本質が他の社会保障支出の削減にある一方、社会保障制度がユニバーサルベーシックインカムのみになった場合に果たして人々は自分のリスクを自己責任で全てヘッジできるのかという課題が残ります。
平等に給付されているのだから「あとは自己責任で」というのがユニバーサルベーシックインカムですが、年金・失業・疾病等の社会保険が国レベルでリスクヘッジしている部分を、どれほどの人々が個人で積み立てリスクヘッジしていけるのか。議論の本質はそこにあると思います。
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