ベトナムの最低賃金と税制改革、巨大なインフォーマル経済の影

外資誘致に配慮し、最低賃金は小幅な上昇

ベトナム政府は2017年の最低賃金を7.3%引き上げることを発表した。これによって最低賃金は月375万ドン(約1.65万円)となる。労働者側の11%と企業側の5%の賃上げ要望に対し、妥協点がその中間に落ち着いた形だ。

日経新聞によれば、「安い労働力を期待する外資の進出を妨げない程度の上昇率にする」といった判断があったようだ。ベトナムと同様に縫製産業の誘致を進めるカンボジアやバングラデシュに比べ、ベトナム(ハノイ)の一般工員の月給は1.7倍。競争力を失わない程度の賃金上昇に抑えるインセンティブが働くのも当然だろう。

 

中小企業に対する減税でガス抜き?

最低賃金の上昇とほぼ同時に報道されたのが、中小企業(SMEs)に対する減税措置だ。年商200億ドン(USD896,000)に満たない中小企業には、従来より3%低い17%の税率が適用されることとなる(2017年から2020年までの暫定措置)。

この減税措置に関しては、有識者から疑問の声が上がっている。「3%の減税は中途半端で効果が期待できない。10%にすべき。減税は企業規模のみ考慮すべきではない。スタートアップ、科学技術分野など、成長産業への投資を促す政策であるべき。」

また、同記事中の有識者も指摘するように、外資を誘致することは地元中小企業の育成を阻害する要因にもなりうる懸念もある。

中小企業からの批判を避ける目的で、最低賃金の上昇と減税措置がほぼ同時に報道されたわけではないだろうが、低賃金によるメリットと地場産業の育成のバランスをいかに維持するか。ベトナム政府が難しい舵取りに苦労している姿が見え隠れする。

 

巨大なインフォーマル経済への対処

国際労働機関(ILO)の報告によれば、ベトナムの労働者の約8割が非正規雇用者である。もちろん、上記のような最低賃金や課税措置はインフォーマル経済で暮らす雇用者や中小企業には適用されない。政府が捕捉しきれずに非正規に留まっている個人・法人もいれば、課税や煩雑な事務手続きから逃れるために非正規を選択している場合もある。いずれにせよ、この巨大なインフォーマル経済をいかに正規化するかが、国の発展段階で不可欠なプロセスとなる。

経済成長が持続し、最低賃金が継続的に上昇している現状は歓迎されるべきことだろう。そして、経済成長が雇用を創出し、多くの若い労働者へ活躍の場を与えている現状もすばらしい。ただ、中長期的にこのような好循環を継続していくためには、インフォーマル経済で生計を立てる非正規雇用者をいかに「正規化」することができるかが重要な要素となる。