インドネシア出張報告(8~9月)

ジャカルタの夜明け。雇用保険など誰も聞いたことのない国で、雇用保険の導入が議論されていて、国内政治のど真ん中に立っています。

労働組合と午前、経済界と午後、雇用保険あり方についてみっちり議論。関係者の意見聴取。国内政治のど真ん中に入って中立に話聞くのは勉強になります。聞いているだけなら良いが、質問攻めになるので毎回が戦場です。

資料無しで四時間くらい質疑応答。半ばクイズ大会のような感じになります。日本の雇用保険料率は?失業給付は労使折半で0.3%:0.3%、ハローワーク含むニ事業は使用者負担で0.3%、政府も税財源拠出です。では、タイは?ベトナムは?と続きます。

三日目。開発計画を担う省庁とインドネシアの社会保険実施機関と半日ずつ意見交換。JICAで勤務していたときには考えられないくらい長時間の議論です。色々なステークホルダーが各人の思惑で動いているところで妥協点を探しています。

ベトナムとインドネシアで同時に仕事していると仕事の仕方に大きなギャップを感じる。ベトナムでは会議がすべて記録されていて次の会議にも議論が引き継がれている。インドネシアでは10回同じことを話しても引き継ぎどころか記録も記憶もないことが多い。

五日目。インドネシアには失業時の給付として、退職金制度が法律で定められている。これは企業積立なので、倒産時やブラック企業が雇用主の場合は支給されないことが多く問題となっている。

その他に、JHTという公的な積立年金があり、法律上は10年間保険料を納めなければ引き出せないが、法令で失業後一ヶ月経過したときに引き出すことができるとなっている。そのため、労働者がすぐに再就職しなかったり、一時金欲しさに自主退職することが問題となっている。

インドネシアの社会保険は付帯サービスをつけることでより多くの加入促進しようとしている。たとえば、社会保険に加入すると各種割引券、学資ローン、住宅ローンなどのサービスが使えるようになる。社会保険の魅力を高めることで加入促進するのが筋。これらのサービスはどの程度効果的なのだろうか。

定宿に泊まっていると、朝食で同僚に遭遇することがある。今朝も賃金スペシャリストの同僚と遭遇。清々しい休日の朝食で退職金制度について意見交換というシュールな絵。ILO職員は個人商店なので、一つの政策についてYes/Noが別れることが多い。

ILO職員は個人商店という話をもう少し掘り下げる。日本の会社では個人は会社の代弁者。ILOでは個人がILO。私が考えることがILOの考えとなる。前任からの引き継ぎはないので前例を踏襲することもなく、対処方針を社内で議論することもない。間違ったことを言えば自分の責任。逆に対処方針も自分で決める

出張8日目。明日から2週目が始まる。国内政治の主要プレーヤーの意見聴取。労組、経済界、政府と別々に会合を行い率直な意見を聞く。社会保障政策は税財源と保険料で成り立つため、三者が納得しない限り実現しない。

ILO以外の国際機関は政府としか仕事をしないのでトップダウンの政策提言となり、国内調整は政府の仕事と切り捨てる。政府はこうすべきだと言ったところで、何も変わらない。労働者と雇用主がポケットマネーを出して良いと思える妥協点を探り、間に立って意見を調整する。ILOの真骨頂がここにある。

敦賀一平◆国連職員◆元JICA職員 on Twitter

用件に応じてタッチパネルを押すと番号札が出てくる。呼ばれたら受け付けに行く。日本とほぼ同じ。

敦賀一平◆国連職員◆元JICA職員 on Twitter

モバイルアプリからも社会保険の登録ができる。日本より進んでいるかもしれない。

インドネシアは退職金が法で義務化されていて、世界指折りの退職金水準の高い国。歴史的に労組は退職金の水準向上に尽力してきていて、容易には改正できない部分。しかし、退職金を貰うことができる終身雇用職員は少ない。一部の職員に高い利益を約束するための制度を労組は支援し続けて良いのか。こんな感じで労働者の代表40名と丸一日議論してきた。道のりは長いが残された時間は短い。

出張11日目。経済界の皆さんと丸一日意見交換。失業給付の導入についてどう考えているか。

出張13日目、最終日。ホテル周辺10メートルで暮らす生活も今日で終わり。インドネシアの社会保障をとりまく議論は、ステークホルダー間に囚人のジレンマがある。皆の利益のために改革へ向かえば良い方向へ向かうが、その過程で小さな利益を各人が守ろうとすることでみんなが不利益を被っている。

出張日記はここで終わり。流石に二週間くらい出張してると、自宅がアパートの何階にあったか忘れる。