開発途上国の経済成長の影、伝統と発展のジレンマ
カンダール市場移転計画?カンボジアの首都プノンペンで騒動
カンボジアの首都プノンペンで、経済発展の歪みが生まれている。市内を流れるトンレサップ川にほど近いカンダール市場。ここはプノンペンの地元民の台所だ。王宮にも近く、クメール絵画の画廊、フランス植民地時代の建築物、プノンペン陥落を伝えた外国人記者クラブ跡など、伝統・歴史・文化が数多く残る場所でもある。斯く言う私にとっても、2009~10年にプノンペンに滞在していたときに毎週通っていた思い出の場所でもある。
そんな伝統ある場所が、経済発展の影に隠れようとしている。カンダール市場の周辺では、ここ数年、マンションの建設が着々と進んでおり、カンダール市場のの所在地にも高層ビルの建設計画が噂されているようだ。
行政側は、再開発計画の検討段階にあることは認めたものの、カンダール市場の撤去や移転については具体化していないと否定した。
- プノンペンの街角に咲くパラソルの花(2016年3月3日)
- 路地裏の美術館-プノンペンの街角から(2015年5月19日)
- プノンペンの朝はカンダル市場から始まる(2015年4月8日)
開発途上国の経済成長と景観や文化の保存
開発援助に携わる者が常に抱えるジレンマがある。開発と景観の両立だ。仕事上は多くの場合、経済合理性を追求することを求められることが多い。一方、開発途上国を訪れて「いいな」と思い、写真を撮るのはローカルの暮らしだったり、伝統だったりする。
例えば、カンボジアの国担当は、仕事上は都市のマスタープラン(開発計画)を作成し、経済発展や貧困削減に寄与する最も合理的な開発計画をカンボジア政府に示す必要がある。それに基づいて、JICAなどの開発援助機関が、道路・交通インフラの整備を支援することとなる。
その過程では住民移転も当然行われるため、アクティビストによる批判に晒されることも多い。当然、開発援助機関は環境社会配慮(セーフガードポリシー)に基づいて、開発途上国政府とともに費用弁済を行い、住民との立ち退き交渉をまとめていくこととなる。
- プノンペンのビアガーデンと日本企業の進出-経済成長の表舞台(2015年4月12日)
バンコクから物価の安さを奪ったら、東京と同じでは?
このように、すべてが経済的合理性に基づいて進められていくのが、多くの開発事業だ。しかし、その国の個性が失われることに、開発援助従事者としてはジレンマを感じざるを得ない。独自の景観や文化を失った街は、本当に魅力的なのだろうか。
例えば、タイの首都バンコク。多くの日本人観光客がいたり、開発援助やビジネスを展開する会社や国際機関の職員の拠点となっている。私も数回バンコクを訪れたことがある。そこで感じたことは、東京となんら変わりない景観ということだった。空港、地下鉄、市内の道路、建築物。すべてが日本の大都市、東京に酷似していて、面白みを感じなかった。そのためバンコクにはほとんど滞在せず、タイを「感じる」ために地方都市へ行くことが多かった。
物価が安いことから、マッサージやグルメを目的に訪れる観光客が後を絶たないバンコク。しかし、物価が東京都同じくらい高くなったとしたら、タダのありきたりの街になってしまうのではないだろうか。
開発途上国の経済発展と「ローカルっぽさ」の両立。経済的な尺度だけで開発を進めてよいのか。私たちはもっと真面目に考えなければならないのかもしれない。
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