プロセスは自らの方針の理由付けのため
誤解を恐れずに言えば、ILOはフランス系の組織文化である。ジュネーブに本部があり、仏語圏の影響を受ける職員が多い。職員数もフランス人の数は拠出金に比べて多く、毎年Over Representativeとなっている(宗主国として仏語圏アフリカ各国の二重国籍保有者を含めればさらに多い)。
仕事の進め方も特徴的で、ルールや決まり事を作り、誰もそれを必要と思っていなくとも自ら提案した「合意形成プロセス」に基づいて会議を一方的に招集し、いる人だけで合意形成を行う。日本やアジア諸国の人々の仕事の進め方は、各部門の代表が出席できる日時を事前に確認して招集し、部門の代表によって採決を行う。しかし、私の経験するフランス系の人々の仕事の進め方は往々にして、この調整プロセスを経ずに会議招集を行う。つまり、会議招集を事前の調整なしに行い、いる人だけで合意形成し、いない人はいなかったものとして合意形成の事実のみ次のプロセスへ引き継がれる。こうして出来上がったルールは、合意されたルールとして扱われ、その過程で振り回された人々は無駄骨と感じながらもルールに従うことが多い。これが国際基準レベルになると、ルール形成後にルールに従うかどうかの批准プロセスがあるが、個人レベルの仕事にそれはない。
国際社会で影響力を持とうとすれば、こういう仕事の仕方を私たちアジア人は学ばなければならない。しかし、日本人は特に顕著だが、この手の仕事(の仕方)に自分の人生の貴重な時間を割く意味を見いだせず、関わらない人が多い。
グローバル・アクセレレーター関連では毎週水曜日の夜19時に会議招集がされ、全世界の関係者をつないで本部からアップデートがなされる。これに加えて、意思決定の委員会(Steering Committee)を関係国政府の関係者と国連関係者で作り、そのための会議アジェンダや趣意書の作成に会議が追加召集される。世界中の時差を合わせるとなると、アジア諸国は毎週何時間も業務時間外に会議招集をされる上、実質的にはメールで済むような話であることが多い。アジアの政府関係者(少なくともインドネシア政府)の中には、薄々何のための会議であり、何のためのイニシアティブなのか、問い始める人もいる。本部からの情報を横流しするだけでは私の現地政府関係者に対する信用問題にもかかわってくる。
こうして作りだされたプロセスが、ルールやイニシアチブを作っていく。
ILOは雇用・社会保障政策に関して国際的な地位を取り戻すことを目指している。どの組織でもありうるが、本部と現場の差はどこまで行っても埋まることはない。それ自体が悪いことではなく、双方が戦っている舞台は異なっていて、別々のゴールを目指している。しかし、多くの組織の場合、本部が力を持っていて、下の部門に支持を出す構造となる。目的が異なるもの同士が互いを理解せずに同じゴールを目指そうとしても、なかなかうまくいかない。どの国でも、どの組織でも、どの時代でも、同じことが起こるのだろう。
話を雇用・社会保障政策に戻す。ILOが政策分野で地位を取り戻すには、国際的に著名な研究を発表し続けることが必要であり、現場では顔を見せてWhatsAppの連絡先を取得し、たびたび連絡をすることでプレゼンの機会を得て、打ち込みを続けることが必要。私の考えでは、本部は研究と国際基準の設定に特化し、現場は国際基準に基づいていかに法や制度を改定していくべきなのか、具体的に各国で打ち込んでいくことが必要。