インドネシア大統領選から考える国民性
開票速報が流れている。インドネシア国民が選んだのは、かつて軍の秘密部隊を率いて暗躍した結果国外追放された候補者と現大統領の息子。過半数を確保したようで、勝利宣言も行っている。
メディアの情報を総合すると、政治的背景はこうだ。前回の選挙でジョコウィ現大統領とプラボウォ氏が激戦を繰り広げ、ジョコウィ大統領が勝利。その後、政治取引により、ジョコウィ政権の国防大臣としてラボウォ氏を任命。今回の選挙ではプラボウォ氏の応援にジョコウィ大統領が回ったことが大きな勝因とメディアは報道している。インドネシアの選挙では副大統領と大統領がセットで戦う。プラボウォ氏はジョコウィ大統領の息子を副大統領候補に任命。制度上、ジョコウィ大統領の息子は副大統領候補になることができないとみられていたが、憲法裁判所がこれを認めた。判事がジョコウィ大統領の身内という報道もあり、選挙前にはメディアの格好のネタとなった。
東ティモールへの武力弾圧、中華系住民の迫害、独裁政権時代の拉致監禁暗殺など、他国の民主的な選挙では到底当選しないであろう経歴だが、インドネシア国民はこの候補者を選んだ。それも圧倒的な支持率で。
インドネシア国民は今日を生きる性格で、昨日のことも明日のことも気にしないといわれる。国民はこれらの歴史も忘れたのだろうか。あるいは、水に流したのだろうか。「この時代のことを知らない世代が投票者のマジョリティだから、黒い歴史は選挙に影響しない(忘れられた)」というメディアもいる。
あるいは、メディアが強調するように、多くの国民は「ジョコウィ政権の政策を継続する」という口約束を信じて投票したのか(就任後に約束を果たさなくとも四年後には忘れられていると思うが)。あるいは、ジョコウィ大統領に対する人気投票なのか。
私が普段の仕事で労働者のリーダーと話していても、今日を生きる国民性は理解できる。少子高齢化を迎える国にあって、年金制度が充実していない。その中で、国民年金を作る話しを私がするわけだ。20年後の話を私がするわけだが、「私たちは今日楽しければいいんだよ」と、真面目に皆言う。その時の世代が、先祖と次の世代を面倒見ればよい。すべてが他人事のように聞こえるが、真面目に公にこうしたことが語られるゆえ、国民性を反映していると思う。
選挙結果然り、この国の人々の価値判断を理解するのは難しい。
それにしても、投票日の数日前にきれいさっぱり選挙広告が町中から消えたのは素晴らしい。そして、普段は組織的な対応が苦手な社会に会って、投票は全国で迅速に行われた実務も素晴らしい。
これを私は人口多い国の利点だと考える。エリート主義で優秀な1%のエリートが、行政と経済を牽引している。選挙は99%の大衆が勝つわけだが、この国はエリートによって牽引されていくのだろう。