エビデンスはなぜ政治に響かないのか

政策に携わる国際機関の会合へ行くと、分析結果などを聞いてフムフムと思うが、同時にふわふわとした議論と感じることがほとんど。これはモノを目に見える形で示す日本の援助関係者はみんな感じていることだろう。

アカデミックに耐えうる手法と結果をワークショップで示すことはもちろん意味のあること。しかし、それを政策を実行する官僚、政治家、一般国民に受け入れられる形で説明し、実現までの筋道を細かくフォローすることの方が大切だったりする。

国際会議での政策の議論を日本の援助関係者は実現しない机上の空論と切り捨て、国際機関は日本は政策の議論ができないと切り捨てる。両者は相容れない。

その点、ILOは面白い立ち位置にいる。数多ある援助機関の中で唯一、政府と労働組合と経済界と平等に付き合う。多くの援助機関が政府にしか政策を売り込めないのに対し、ILOは労組の会合や経済界の会合にも顔を出し、間に入って政策の落としどころを探る。その国の国内政治の内部に片足を置く。

開発途上国の政策に本当にインパクトを与えたいのであれば、国内政治と付き合わなければならない。国内問題の一部に身を置かなければ、援助機関はいつまで立っても外部機関である。

どれほど素晴らしい分析もプレゼンも、国内の議論にタイムリーかつ伝わる言葉で入り込まなければ、何もしなかったことと変わらない程度のインパクトとなる。

政策分析を立派な書籍で発信することが出来たとして、それがどの程度意義があることなのか。書籍出版の9割は自己満足で、残りの1割は実際のインパクトへの僅かな望み。しかし、その望みも机を突き合わせて面白くない国内調整に足を突っ込まない限り、実現は程遠い。

統計や計量経済の手法を使ってエビデンスベースの政策提言をすることが主流になりつつある。

統計的な分析の課題。分析の結果、その先にある大きな課題は、政策に携わる役人や政治家がそれを理解し、政策に反映できるかということ。

途上国政府の高官はPhDホルダーが多いから大丈夫、という人もいる。しかし、政府の一部の人が理解しても、政策を実施するためには国民や利害関係者の理解を得る必要があり、十分ではない。

政策提言の裏側にある極めて複雑なモデルやアプローチを、100人中99人が理解できる平易な言葉と説明で理解を得ることが大切。

ここで必要なスキルは、分析をする能力ではなく、分析を理解する能力と非専門家の視点に立ったコミュニケーション能力である。

敦賀一平 on Twitter

そのとおりですね。私たちの仕事では、意思決定の多くが経済的合理性よりも政治的・社会的合理性によるところが多いのが実態。エビデンスが受け入れられる空間を読んでタイミングを逃さない経営力が大切なのだと思います。 https://t.co/hp8ruzWccv