新ODA戦略

開発援助業界の大御所、イギリスはどこへ向かう?

イギリスの政府開発援助(ODA)を担う国際開発省(DFID)が新ODA戦略を発表した。多くのメディアが「英国の援助方針が変わった」と報道している。何が変わったのだろうか。

まず目を引くのがタイトルだろう。表紙を開くと「UK aid: tackling global challenges in the national interest」の文字。国益(National Interest)がタイトルとなっているとおり、報告書の随所に「国益のための開発援助」が登場する。

ODAがイギリスの国益に叶っているのか。今回の方針転換の背景には、そういった国内世論があったと明記されている。ジョージ・オズボーン財務大臣とジャスティン・グリーニング国際開発大臣は共同声明の中で国益を強調している。

「この抜本的な方針転換は、貧困削減、国際的な課題、イギリスの国益のあいだに区別がないことを意味しています。これら全てが密接に関連しています。どんなに小さな支出であっても、必ずイギリスの納税者のためになる使途であることを約束します。もし、納税者にとって意味のないプロジェクトがあれば、案件の中止も辞さないつもりです。」

国民への説明責任を果たす姿勢を示した上で、対GNI比0.7%のODA予算を死守したい意義込みの表れかもしれない。

軍事支援と開発援助の境界線があいまいとの懸念も

Photograph: The U.S. Army

改革の目玉は、省庁横断的アプローチ(Cross-government approach)にある。つまり、ODA予算の27%はDFID以外から支出されることとなる。開発援助の担い手に国防省なども含まれるようになるため、政治や国家安全保障のロジックによって開発援助の優先課題が骨抜きになる懸念もある。

ガーディアン紙への寄稿記事はより鮮明に懸念を表明している。

「1997年のDFID創設以来、これ程まで明らかに国防と外交政策と密接にODAが関係づけられたことはなかった。『国際開発を国家安全保障と外交政策の中心に据える』とはっきりと書かれている。しかし、現実的なリスクは、その逆のケースが起こりうるということ。国家安全保障と外交政策の関心が、援助政策の決定における最優先事項となりうるということだ。」

また、支援対象地域を脆弱国(Fragile States)へ集中させることも明記された。ODA予算の50%が脆弱国支援に向けられることとなる。ここ数年は特に、好調な世界経済を背景に多くの開発途上国で貧困状態の改善が見られてきた。一方で、貧困指標の改善が見られなかった地域は脆弱国に集中しており、貧困削減を主軸に据えるイギリスにとっては、当然の予算配分なのかもしれない。

これについても賛否両論あり、紛争影響下の脆弱国において軍事と援助の境界がますます曖昧になることに懸念を持っている有識者も多そうだ。

開発援助資金の使途を明確にすることに重き

Photograph: DFID

イギリスの開発援助で代表的な手法は一般財政支援(General Budget Support: GBS)だろう。開発途上国政府の国家予算として援助資金を投入し、どの政策へ予算配賦するかは開発途上国政府の判断に委ねられる。「オーナーシップ」や「参加型開発」を重視するイギリスの開発理念が背景にある代表的な手法だった。

GBSも今後は下火となっていきそうだ。今回の改定の原点は、国民の税金の使途を明確にすることにあった。GBSで資金拠出したアフリカの国々で多額の使途不明金が発生したことが背景にあるのだろう。

今後は、イギリスの援助スキームも、プロジェクト・プログラム型の支援が増え、案件の予算・使途をモニタリングしていくことが増えるのではないだろうか。

国益重視が開発援助のトレンドに?

国際開発業界で大きな影響力を持つイギリス。そのイギリスによる今回の大転換は、開発援助のトレンドが大きく変わることを意味しているのかもしれない。今年2月に改定された日本の開発協力大綱も、同じような背景の下で国益を重視し、自国民に対する説明責任を果たしていく方針を鮮明に打ち出していた。

イギリスの開発援助といえば、「貧しい人のために」をモットーに、貧困削減を最優先課題としてきた印象を持っている方も多いだろう。その点については変わりないが、説明責任の観点から大きく方針を転換したのがポイントだろう。

開発援助が「内向き」となった揶揄されるか。あるいは、国益を重視することで国民が「開発援助予算確保への理解」を示すきっかけになるか。前者の印象を後者へ転換できるかは、今後の実績に掛かっているのかもしれない。

開発援助機関が本来の目的を見失わず、貧困削減にひた向きに取り組む姿勢と実績を示していくことが、これまで以上に必要となってくるだろう。

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