ILO職員の業務日誌

ジャカルタの空は早朝6時を過ぎるとオレンジ色に変わる。ビル群の向こうから部屋に光が差し込む。朝日を背に、アプリでブルーバードタクシーを拾い、渋滞が始まる前の中央通りを15分かけて出社する。スマートフォンの電子マネーから250円が引き落とされ、眠そうなセキュリティー担当に挨拶をし、誰もいないオフィスに向かう。

今日は朝から、韓国版雇用調整助成金制度について法制度を読み込みながら、英語と日本語の翻訳を見比べていた。すでに3年ほど放置していたこのペーパーを、韓国人の同僚と協力して編集し、出版に向けて最終調整を行おうとしている。

このペーパーは、もともとコロナ禍の期間中に、インドネシア政府から賃金補填の助成金制度の制度設計支援を求められたことをきっかけに執筆した。2021年当時、私たちは日本や韓国、ドイツの制度を研究し、プレゼン資料のバックグラウンドペーパーとして、日本の雇用調整助成金制度に関するペーパーを一本書き上げた。そのペーパーはすでに出版されており、韓国の制度に関しても同様にドラフトまで作成していた。

日本の雇用調整助成金制度は、もともとドイツの賃金補填制度(Kurzarbeit)を参考に作られたと理解しているが、韓国は日本の制度を見習って設計した。日本では、労働基準法に基づき、休業時には雇用主が60%の賃金を支払うことが義務付けられており、雇用調整助成金制度では、雇用主が支払った賃金の一部を助成する仕組みになっている。一方、韓国では雇用主の支払い義務が日本より若干高い70%に設定されており、助成制度の詳細も若干異なる。

他国の法律を読み込み、細かい制度設計を理解し、それを自分の言葉で書くというのは、なかなか骨の折れる作業だ。しかし、深く理解しなければ書けないため、書き終わった頃には、まるで自分のことのように語れるようになっている。私たちの仕事は、様々な国の社会保障制度を深く理解し、その制度設計の比較を示し、当該国へ細かく助言することである。日本や韓国などの先進国の制度は、すでに複雑化しており、その裏側には細かい意図や議論の歴史が隠されている。どのような意図でそのような設計になったのかを理解することは、開発途上国の制度設計を行う上で非常に有益である。

午後、先週末に本部から依頼のあったプラットフォームワーカーの各国事例研究に関するペーパーにコメントするように、自分が金曜日に設定したリマインドが目に入った。主に、日本のプラットフォームワーカーに関する最新の法令についてコメントを行った。

細かく議論を追っていたわけではないので付け焼刃ではあるが、大きく二つの制度改正があったと理解している。2023年9月、労働災害保険施行規則の改正により、日本では自動車での旅客送迎・配達や原付・自転車での配達に従事するプラットフォームワーカーが、労災保険に任意加入できるようになった。これは、従来の一人親方の加入制度の拡充と理解している。

また、フリーランス保護法も2022年に交付され、今年の秋には施行されると理解している。一言でまとめるなら、日本のプラットフォームワーカー対応は、プラットフォーム運用会社とユーザー間で雇用関係を成立させるのではなく、あくまで個人事業主としてプラットフォームで受注する人々を保護する方向に制度設計が進んでいるように見える。もし理解に誤りがあれば、ぜひ教えてほしい。

夕方になって帰宅の準備をしていると、労働省からWhatsAppが入り、今週金曜日に年金制度改革について話し合いたいとの連絡があった。

インドネシアでは現在、年金制度改革の議論が進んでおり、政府は近いうちに政府規則を発行しなければならない。労働省としては、日本の制度のように国民皆保険を達成する方策を練っている。この国の巨大なインフォーマル経済で生計を営む人たちが年金に加入できなければ、2045年には7000万人の高齢者が生まれ、そのほとんどが無年金で退職することになってしまう。その状況を回避するためには、今から年金制度を整備し、国の隅々まで全ての国民が制度に加入できる仕組みを作らなければならない。

私の祖父はもうすぐ100歳になるが、北海道の開拓民で、30歳の時に国民年金制度ができた。現在は満額受給することができている。それは当時の日本が自営農家に対しても国民年金制度を適用したためだ。そのおかげで、私たちの世代は祖父母や親世代に仕送りをすることなく生活することができている。

窓の外が真っ暗になり、帰宅の準備を始めた頃、2ヶ月ほど怠っていた仕事を思い出した。同僚から労働省の担当課長の連絡先をもらっていたが、3月下旬から連絡を怠っていた。その課長にWhatsAppを1本入れて、連絡を取ることにした。

この労働省の課長と話したいのは、現在国会で審議されている家事労働者の権利に関する法案についてだ。インドネシアの労働法では、労働者は賃金労働者とそれ以外の労働者という2つのカテゴリーにしか分類されていない。家事労働者の権利や使用者の義務は、一部労働省令で定められてはいるが、それを法律に格上げし、より包括的な内容にしようというのが、今回の国会での議論の目的だ。

草案では社会保障に関する言及もなされているが、かなり限定的な社会保障の適用しか書かれていない。私としては、もう少し社会保障の拡充を後押しする内容にできないかと思案している。そのような議論をするために、打ち合わせの設定の連絡を入れたのだ。

帰り際に、事務スタッフに2つの仕事を依頼した。まず、背もたれのスプリングが壊れてしまった椅子の調達だ。次に、今後予定されている2つのミーティングに出席してもらう同時通訳者との契約に関する事務手続きだ。依頼を済ませ、会社を後にした。