日本で働くインドネシア人労働者の社会保障

日本で働くインドネシア人労働者の数は2022年時点で7万人でした。直近の数字は12万人くらいに増えていて、今後も増加する計画です。

www.mhlw.go.jp/content/11601000/001079172.pdf

インドネシアの省庁と話していると、移民労働者を日本を含む外国へ派遣することが最優先事項となっています。

背景を探ると、国内の失業率が高いことが理由の一つだと思います。失業率は毎年5%前後で推移し、実数では500-700万人規模となります。失業者の内訳を見ると、大雑把に半数が一度も就職したことのない失業者です。つまり、最初の仕事に就くことがとても難しいのが課題です。若年失業率も当然高く、20代前半の失業率は20%前後です。

そういうわけで、日本へ多くの若い労働者を送ることがインドネシア政府にとって労働問題の解決策の一つとなっているのだと思います。

社会保障担当の行政官から高頻度で相談を受けているのは、日本へ派遣されるインドネシア人労働者の社会保障適用をどのように制度設計したらよいかということ。今日も相談を受けました。

一般的に、「社会保障協定」という二国間条約を締結することが解決策となります。つまり、日本で働くインドネシア人は日本の社会保険料を支払うことで、「インドネシアで社会保険料を支払っているとみなす」という協定です。しかし、インドネシアと日本のように、社会保障制度があまりにかけ離れた水準にある国の間では、こうした協定を締結することができません。

この場合どうなるかと言うと、インドネシア人労働者は日本へ派遣される前に、社会保険料(労働災害保険・生命保険)を二年分前払いしなければならないこととなっています。当然、日本では使用者負担で労働災害保険に加入することとなります。つまり、日本で働くインドネシア人労働者は労働災害保険制度に二重加入した状況となります。

また、国外に滞在するインドネシア人にはインドネシアの年金制度に加入する権利がありません。日本で働くインドネシア人は日本の厚生年金と国民年金に加入することとなりますが、多くの場合、帰国時に一時金を受領することとなります。つまり、日本の制度で来日して日本で働いている期間中は、無年金にならざるを得ない状況です。

だらだらと専門的なことを書いてしまいました。こういう問題と言うのは、私が偶然日本人でインドネシアの社会保障政策へ助言しているから見えてくる問題なので、ざっと書いてみました。

色々な国を相手にしている日本の政治・行政・学術界の方々は、ここまで面倒で複雑な課題に対応する時間も義理もないのが正直なところかと思います。

ただ、最近インドネシア政府から問い合わせが多い事項の一つなので、日本の政治・行政に従事する方が関心あればと思い、書きました。