実務家向けのオンラインジャーナルを創刊した裏話
アカデミックジャーナルはあるのに、なぜ、実務家向けのオンラインジャーナルは無いのだろうか?
査読を経て5年前のドラフトが出版されても、実務に何の意味もないのでは?
実務家のニーズにあったスピード感とわかりやすさを兼ね備えたジャーナル。しかも、それでいて業務文書に引用もできる程度の精度があるジャーナル。
ありそうでなかった実務家向けのジャーナルがあっても良いのでは?
そんな疑問から、実務家向けのオンラインジャーナルを本日、創刊しました。
これが裸の王様の戯言で終わるか。はたまた、国際開発のジャーナル業界に新しい風を吹き込むか。
私にもわかりませんが、生暖かく見守ってください。
裏話
The Povertistをご覧になられている方は、既にご存知かもしれませんが、オンラインジャーナル「Povertist Bulletin(ポバティストブリテン)」を創刊しました。開発途上国における開発と貧困に関する最新の議論や解説をタイムリーに発信することを目的としています。
伝統的なアカデミックジャーナルは出版までに査読を重ねるため、学術的には極めて洗練された論文を集めたものとなります。しかし、ドラフトから出版までに2~5年の歳月が経過することも多く、今まさに起こっている現在進行形の事象に対して即座にインプットするスピード感はありません。
開発途上国の開発課題や貧困問題は、日々刻々と状況が変わり、その影響が即座に住民へ転嫁されます。こうした状況を踏まえれば、開発途上国における実務や政策へ、研究者や実務家がタイムリーにインプットする新しい媒体が必要なのではなないか?そう思ったわけです。
インターネットの強みを最大限に生かすため、Povertist Bulletinは「オープンアクセス(無料)」「査読なし」を推進していきます。
アカデミックジャーナルの価値と欠点
査読というシステムは、学術界の優れた学者が出版前にコメントをやり取りすることで、洗練された論文を世の中に送り出すシステムです。これ自体は素晴らしいと思いますし、学術界における役割は大いにあると思います。
私は、アカデミックな議論に理解がある方だと思います。実際、事業成果を発信したり、国際的なドナーコミュニティで発信する際には、アカデミックな議論が不可欠です。そのような場では、アカデミックジャーナルの価値が最大化されるのだと思います。
しかし、国際開発の多くの分野は、現実にインパクトを与えて「なんぼ」の世界です。5年前の話を論文にして、超一流のジャーナルに掲載されたところで、どれくらい開発途上国のためになるのでしょうか?実務家や政策決定に携わる人たちが、どれくらいアカデミックジャーナルを読んでいるでしょうか?
ほとんどいませんよ。私はJICAとILOでの業務を通じて、アカデミックな環境で仕事をしてきた方だと思います。実務家がアカデミックな議論に入っていくためにはどうすべきか?そんなことを考える日々でした。
でも、気付いたのです。実務家にジャーナルを読ませようとするから両者は歩み寄らないということに。
難解な言葉で書かれ、極めて長い論文を実務家は読みません。読む時間がありません。実務家が作成する文書は、要点のみを抑えた1~2頁が限度です。その為に、アカデミックジャーナルなど手に取るはずもありません。手に取ってみたところで、読むのは要約文くらいです。
実務家向けのジャーナルの意義と必要性
では、実務家が必要とする情報を届けるジャーナルがあれば良いのでは?と思ったわけです。
スピード感。わかりやすさ。この二点を実務家は求めています。学術的に価値のある「変わった視点」や「95%以上正しい情報だが、5年前の情報です」ということを実務家は求めていません。多少大雑把でも、大局を把握でき、直感的にわかりやすい解説をするタイプの文章を求めています。
情報が正しいかどうかは誰が判断するのか?
インターネット全盛期の今、情報の発信元が有益性を判断するのではなく、情報の受け取り手が有益性を見極める時代となりました。公開された情報に疑問があれば、別の研究者や実務家が別の見解を投稿する。そのような議論をリアルタイムで届けていく。そこに価値観を見出したいと思っています。
早速、一本公開しましたので関心があれば開いてみてください。
http://www.povertist.com/wp-content/uploads/2017/04/PB6-Informal-Economy.pdf
Povertist Bulletinの詳細については以下に掲載しています。
概要:http://www.povertist.com/ja/bulletin/
編集方針:http://www.povertist.com/ja/bulletin/editorial-policies/