家政婦には労働基準法が適用されない問題

先日話題にした「家政婦には労働基準法が適用されない」ことが多い件で、日本でも改善要請の動きがあるようです。昭和36年以来家政婦を対象とした労働条件調査が行われていないとのこと。

どの国でも、個人事業主の家政婦は労働法や社会保障法の適用外で、派遣会社を通じて家事労働に従事している家政婦は会社を通じて法適用されることが多いです。家業をタダ働きで手伝っている労働者(contributing family member)も適用除外であることが多い。

なぜ変わらないのか。対象者がマイノリティで優先度が低いことが最大の理由。インドネシアの政労使関係者と話していても、みんな問題意識を説明すると納得するが、他のことに割く時間を使ってまで対応しようとしない。

もう一つの理由は、富裕層の負担に繋がるため。インドネシアでは、家政婦を雇用する家庭は非常に多い。労働法の適用除外なので給与水準すら把握されていないが、聞いて回ると最低賃金の十分の一程度という声も聞こえてくる。つまり、家政婦に労働法が適用され、最低賃金や社会保険料の支払い義務が課せられると、多くの富裕層・中間層は家政婦を雇用できなくなる。

最近、家政婦の問題についてインドネシアでも意見を求められるたびに言っていることは、「みんな不平等の甘い蜜を吸って良い生活をしている自覚すらない」ということ。

家政婦への社会保障拡充を勧めたい関係者は一定数いるが、「今の10倍の給与を払う」社会になったとき、多くの富裕層・中間層が家政婦を雇用できなくなり、家政婦も仕事を失う。中間層は家政婦に頼らずにある程度家事をやる心積もりをしなければならないし、保育所の整備や他社会インフラに置き換えていく準備も必要となる。家政婦も仕事を失うので、別の産業への転職支援・職業訓練体制などの整備も必要となる。

結局、労働省の一部局の仕事でどうにかなる問題ではなく、政府ですら手に負えず、政労使、国民的な議論が必要となる。そう考えると、受益者が多く労力の少ない他の政策に優先順位が与えられる。

日々の政策対話で感じることは以上です。

“家政婦に労基法適用されない規定廃止を” 遺族が署名提出 | NHK

家政婦だった女性が長時間勤務のあと死亡したとして労災認定を求めている遺族が、家政婦には労働基準法が適用されないという規定を廃止すべきだとする3万人分以上の署名を集め、厚生労働省に提出しました。家政婦を巡っては厚生労働省が働き方の実態調査を行う準備を進めています。 …