エビデンス人材のジレンマ

エビデンスベースの政策の重要性を語るのは研究に従事する方が多い一方、公的機関の面倒な調整業務に日々の殆どの時間を費やしている将来のリーダーたちには少ない。そしてエビデンスに目覚めた瞬間、研究側へ渡る。中に残ってエビデンスを推し進めることができるのは一部の人ということか。

政策立案に携わる人は、エビデンスを作るのではなく、研究者によって作られたエビデンスを理解する能力が求められている。これがよくある建前。しかし、現実問題として、エビデンスを作るチカラがなければ業務発注指示書は書けないし、監督することはできない。

逆に、エビデンスが作れるようになると、内部の面倒な調整業務から離れ、エビデンスを作る作業に注力し、外から助言する立場へキャリア転換する人が多い。エビデンスを作れる人材は内部に残らない。故に、業務発注も出てこない。無限ループである。

例えば今日からベトナムで実施する社会保険の研修。私はエビデンスベースに外部から助言する立場。年金を今一時金で受け取るより、退職まで待って年金として毎年受け取った方が得である。たったこれだけのメッセージを理解してもらうのも難しい。

エビデンスに基づいてシミュレーションすればこうなる。年率5%の投資リターン、インフレ率2%、年金上昇率は年数✕1.5ヶ月、賃金上昇率2%を前提として… この前提条件を説明する時点で受講生の関心はゼロとなる。

前提条件を飛ばして簡単な事例にすると、今度はエビデンスに基づいた説明が難しくなる。無限ループである。