学会や研究所をアップデートする
先週、「国際開発の研究チームを一緒に作りませんか?」と勢いに任せて書いたところ、コメント欄やSNSなどで多くの反響を頂いた。これはとてもありがたいことで、「『その手の問題意識』を持っていたのは私だけではなかった」というある種の安心感になった。この場を借りて、反響を頂いた皆様にお礼申し上げたい。それと同時に、「一歩踏み出さなければいけない」という気持ちも生まれてきた。
研究と実務の融合という永遠の課題
国際協力・開発の世界では、何十年も何百年も語られる永遠の命題である。では具体的にどうすべきなのか。
先人たちの答えを探ってみると、おそらく解決策はこれまで一通りしかなかった。それは、実務家が研究マインドを持つということ。つまり、実務家が学術界が生み出すエビデンスに価値を見出してはじめて、実務家から橋渡しが行われ、「研究」という宝の山からエビデンスという財宝が運び出され、政策や実務に活用される。これがこれまでの唯一の答えだった。
もちろん、学術界にも実務マインドを持った研究者は存在する。しかし、実務側に理解のある人がいなければ、政策や実務に研究が活用されることはない。
なぜ、実務家と研究者という伝統的な垣根があるのだろうか?
「同じコミュニティに所属していないこと」が私の現時点での答えである。学術界には研究者コミュニティがあり、実務家はどのコミュニティにも所属していないパターンが多い。
学術界のコミュニティを考えてみて欲しい。国際協力関連の学術コミュニティを例にとれば、日本では国際開発学会や開発経済学会があり、イギリスではDevelopment Studies Association (DSA)という学会がある。つまり、研究者が議論するコミュニティというのは「学会」という形で昔から存在していた。
ではなぜ、実務家の「学会」のようなコミュニティは生まれてこなかったのだろうか。理由は単純で、物理的な距離に問題があった。国際協力に携わる実務家は、私を含め、数年単位で世界中を転々とする。居住地区で関心の近い実務家がいれば幸運なことで、「有志勉強会」というものが各地で開催されている。しかし、その場合でも幸福は長続きせず、異動のタイミングで私たちはその小さなコミュニティから退会しなければならない。つまり、多くの実務家は、同じコミュニティに所属し続けるということが、極めて困難なキャリアを歩んでいる。その結果、知見やネットワークは個人に蓄積され、コミュニティは常に「新人」が在籍することによって存続する。
実務家がキャリアを通じて同じコミュニティに所属し続けること
頻繁な異動により、物理的にコミュニティに所属し続けることができない。それが実務家の最大の悩みだった。研究マインドを持った実務家も、世界各国に散在し、たとえば日本の国際開発学会に所属し続けることはできなかった。異動のたびに、関心分野が近い人を探し、勉強で分からないことがあれば、メンターを探すところから始めなければいけなかった。
21世紀の今、インターネットを使ったコミュニティが隆盛を極めている。オンライン上のコミュニティを活用すれば、物理的な異動にかかわらず、世界のどこからでも同じコミュニティに所属し、研究マインドを持った実務家同士が常に情報交換できるようになる。実務マインドを持った研究者もそこへ集まれば、実務と研究の垣根もなくなる。実務で技術的にわからないことがあれば、ログインして研究者の助言を仰ぐことができる。保健分野の実務家が、法律の専門家へ質問したり議論するということも可能になるだろう。先日の記事の通り、実務家と研究者の共著論文や記事のアウトプットも生まれてくるだろう。
学会や研究所をアップデートする
おそらく、実務に携わっている人と大学院生含む研究者向けのコミュニティのイメージだろうか。今話題となっている「オンラインサロン」というよりは、「オンライン学会」や「オンライン研究所」のような位置づけだろうか。
学術界でいうところの「学会」や「研究所」を手本に、より実務家のキャリアに寄り添った新しい形の「学会」や「研究所」を作れたら役立つのではないか。
この数週間、色々な可能性を模索しているところです。このようなコミュニティの需要はあるだろうか。アイデアお待ちしています。